289 / 337
96・油使い、伝説となる
第289話 役職ぅ!? いらんいらん!
しおりを挟む
国王陛下からの直々の依頼が来て、僕にこう告げた。
「油使いナザルを、国家公認美食アンバサダーに任命する!」
「アンバサダーだとお!? 僕を役職に縛り付けようというのか! というかなんで使いが来て僕に告げるんだ?」
今日はオフと決めた日。
自宅の庭で日向ぼっこをしていたらこれである。
なお、コゲタは元気に仕事に行ったし、リップルも一緒にギルドへ向かった。
つまり、この家には今僕しかいないのだ。
「陛下のお考えは分からぬ」
「大方、僕にリップルを取られたから顔を合わせると平常心ではいられないのではないか」
「なにっ、ナザルよ陛下を愚弄するのか! 陛下に限ってそんな色恋で我を失うことは……」
ここで使者が何か考え込む動きをした。
話を途中で止めて、
「まあ、お前が役職を引き受けぬなら陛下に連絡せねばならん。ではな」
去って行ってしまった。
明らかに、国王陛下はリップル絡みだと理性を吹っ飛ばすことに、心当たりがあったな?
ではあまりあの話は明らかにせぬほうが良かろう。
僕とリップルだが、結婚後に過去の思い出話なんかをしながら酒を飲んでたらついつい盛り上がってしまってな。
盛り上がった結果にあの夢を見たあと、リップルの寝相に蹴り起こされるというな。
つもる思い出話がとにかく多いので、その話をするたびに盛り上がってしまってな。
もう夫婦だということでまあ仕方ないかと。
で、今朝方、リップルが「ウーン」とか言っていたのだった。
「ナザル、子どもができたかも知れないぞ」
「なんだって!! リップル百歳なのに!」
「ハーフエルフは寿命こそあるが、肉体的には二百年間不老みたいなものだからなあ」
二百年目になると寿命になり、体がマナになって消えるらしい。
そして種みたいなのが残されると。
だが、記録上、寿命になるまで生きられたハーフエルフがいないんだそうだ。
「まさかこの年で子どもができてしまうとは……」
「僕もまさか父親になるとは……」
二人でウーンと唸ったあと、ま、いいかということになった。
こうしてリップルは出かけていったのである。
コゲタはお姉ちゃんになっちゃうなあ。
そしてまた僕は日向ぼっこをし、昼頃にはパスタなどを炒めてケチャップ的なものを絡め、分厚いベーコンをじゅうじゅう焼いたのを乗せて食った。
美味い。
「しかし、大きな状況の変化が起こったわけだが、この話を陛下に言ったら絶対に大事になるな。具体的には、陛下が代替わりしそうだ」
国王陛下もいいお年である。
なにせ、息子である第一王子が四十代前半、第二王子も四十路。
父親である国王陛下は七十近いし、この世界の人間の寿命はよっぽど長生きして八十歳くらいだ。
大体平均的には七十前くらいで死ぬ。
今ショックを与えると、国王陛下が昇天してしまいそうだ……。
「だが、この真実をいつまでも隠してはおけまい。結婚してから三ヶ月……。ということはリップルはもういきなり命中してしまったということになる……!」
恥ずかしながら、お互いいい年になるまで全く色恋をやってこなかった。
リップルは英雄をやった後、戦いにくたびれて引退してしまったからな。
近づいてくる連中も、英雄の肩書を持つリップルの前ではかしこまる。
大真面目に求婚してきた陛下は、お后なんて立場的にあまりにも面倒過ぎるということで振られた。
僕は僕で、アーランに来てから冒険者デビューするまで、ずっとリップルの助手をやっていた。
で、その後はカッパー級になるために駆け回り、昇級した後はここを終の棲家にするつもりで便利屋を開業。
まあまあ忙しい日々を送っていた。
お互い枯れてたのでな……。
なので色々大変だった。
翌日にはリップルが魔法で教本めいたものを取り寄せ、二人で真剣な顔でこれを読んだものだ。
うーむ……。
実感が湧かない。
そうこうしていたら、外で馬車のやって来る音がする。
我が家の庭に入ってきたようだ。
「ナザルよ! やはり陛下はお前に地位を授ける仰っておられる!」
使者の人が出てきて、朗々と告げた。
「えっ、王宮行って戻ってきたの!? お疲れ様……」
「私の仕事はこれだからな……。ナザルが素直に引き受けてくれたら、私もこの事を陛下に伝えて帰れるんだ……」
「大変だあ」
同情してしまう。
「でもなんで陛下は、そこまで僕に役職をくださろうとするんだ?」
「それは決まっているだろう。いいか? 英雄であるリップル様の夫が、肩書こそ多いが公の地位を持たぬ油使いだと、色々外聞が悪いのだ!」
「ははあ、なるほどー。言われてみれば確かに」
「なので国王陛下はお前を公認美食アンバサダーにだな。なお、これは領土を持たぬ男爵とみなされる」
「アンバサダーって凄い地位だったんだな……!!」
驚いたのは僕だった。
「きちんと俸給も出る。今まではデュオス殿下からの援助を賜っていたことと思うが、王家からの俸給も出るようになるのだ。いいか? 陛下は、まかり間違ってお前とリップル様の間にお子でもできたら、安定した生活ができぬのではないかと気が気ではないのだ」
「なるほど、ならばその任命をお受けするよ。僕は公認アンバサダーでいい。まあ、今度生まれる子どももその方が色々やりやすい……あっ」
「なんだと!? 今なんと!?」
「いや、なんでもない……」
「……ま、まさか、まさかまさか!! 陛下! 陛下ーっ!」
「あーッ! 待て待て! いかーん!」
使者は猛烈な速度で走り去ってしまった。
これは王宮に激震が走るぞー。
倒れてくれるなよ陛下。
「油使いナザルを、国家公認美食アンバサダーに任命する!」
「アンバサダーだとお!? 僕を役職に縛り付けようというのか! というかなんで使いが来て僕に告げるんだ?」
今日はオフと決めた日。
自宅の庭で日向ぼっこをしていたらこれである。
なお、コゲタは元気に仕事に行ったし、リップルも一緒にギルドへ向かった。
つまり、この家には今僕しかいないのだ。
「陛下のお考えは分からぬ」
「大方、僕にリップルを取られたから顔を合わせると平常心ではいられないのではないか」
「なにっ、ナザルよ陛下を愚弄するのか! 陛下に限ってそんな色恋で我を失うことは……」
ここで使者が何か考え込む動きをした。
話を途中で止めて、
「まあ、お前が役職を引き受けぬなら陛下に連絡せねばならん。ではな」
去って行ってしまった。
明らかに、国王陛下はリップル絡みだと理性を吹っ飛ばすことに、心当たりがあったな?
ではあまりあの話は明らかにせぬほうが良かろう。
僕とリップルだが、結婚後に過去の思い出話なんかをしながら酒を飲んでたらついつい盛り上がってしまってな。
盛り上がった結果にあの夢を見たあと、リップルの寝相に蹴り起こされるというな。
つもる思い出話がとにかく多いので、その話をするたびに盛り上がってしまってな。
もう夫婦だということでまあ仕方ないかと。
で、今朝方、リップルが「ウーン」とか言っていたのだった。
「ナザル、子どもができたかも知れないぞ」
「なんだって!! リップル百歳なのに!」
「ハーフエルフは寿命こそあるが、肉体的には二百年間不老みたいなものだからなあ」
二百年目になると寿命になり、体がマナになって消えるらしい。
そして種みたいなのが残されると。
だが、記録上、寿命になるまで生きられたハーフエルフがいないんだそうだ。
「まさかこの年で子どもができてしまうとは……」
「僕もまさか父親になるとは……」
二人でウーンと唸ったあと、ま、いいかということになった。
こうしてリップルは出かけていったのである。
コゲタはお姉ちゃんになっちゃうなあ。
そしてまた僕は日向ぼっこをし、昼頃にはパスタなどを炒めてケチャップ的なものを絡め、分厚いベーコンをじゅうじゅう焼いたのを乗せて食った。
美味い。
「しかし、大きな状況の変化が起こったわけだが、この話を陛下に言ったら絶対に大事になるな。具体的には、陛下が代替わりしそうだ」
国王陛下もいいお年である。
なにせ、息子である第一王子が四十代前半、第二王子も四十路。
父親である国王陛下は七十近いし、この世界の人間の寿命はよっぽど長生きして八十歳くらいだ。
大体平均的には七十前くらいで死ぬ。
今ショックを与えると、国王陛下が昇天してしまいそうだ……。
「だが、この真実をいつまでも隠してはおけまい。結婚してから三ヶ月……。ということはリップルはもういきなり命中してしまったということになる……!」
恥ずかしながら、お互いいい年になるまで全く色恋をやってこなかった。
リップルは英雄をやった後、戦いにくたびれて引退してしまったからな。
近づいてくる連中も、英雄の肩書を持つリップルの前ではかしこまる。
大真面目に求婚してきた陛下は、お后なんて立場的にあまりにも面倒過ぎるということで振られた。
僕は僕で、アーランに来てから冒険者デビューするまで、ずっとリップルの助手をやっていた。
で、その後はカッパー級になるために駆け回り、昇級した後はここを終の棲家にするつもりで便利屋を開業。
まあまあ忙しい日々を送っていた。
お互い枯れてたのでな……。
なので色々大変だった。
翌日にはリップルが魔法で教本めいたものを取り寄せ、二人で真剣な顔でこれを読んだものだ。
うーむ……。
実感が湧かない。
そうこうしていたら、外で馬車のやって来る音がする。
我が家の庭に入ってきたようだ。
「ナザルよ! やはり陛下はお前に地位を授ける仰っておられる!」
使者の人が出てきて、朗々と告げた。
「えっ、王宮行って戻ってきたの!? お疲れ様……」
「私の仕事はこれだからな……。ナザルが素直に引き受けてくれたら、私もこの事を陛下に伝えて帰れるんだ……」
「大変だあ」
同情してしまう。
「でもなんで陛下は、そこまで僕に役職をくださろうとするんだ?」
「それは決まっているだろう。いいか? 英雄であるリップル様の夫が、肩書こそ多いが公の地位を持たぬ油使いだと、色々外聞が悪いのだ!」
「ははあ、なるほどー。言われてみれば確かに」
「なので国王陛下はお前を公認美食アンバサダーにだな。なお、これは領土を持たぬ男爵とみなされる」
「アンバサダーって凄い地位だったんだな……!!」
驚いたのは僕だった。
「きちんと俸給も出る。今まではデュオス殿下からの援助を賜っていたことと思うが、王家からの俸給も出るようになるのだ。いいか? 陛下は、まかり間違ってお前とリップル様の間にお子でもできたら、安定した生活ができぬのではないかと気が気ではないのだ」
「なるほど、ならばその任命をお受けするよ。僕は公認アンバサダーでいい。まあ、今度生まれる子どももその方が色々やりやすい……あっ」
「なんだと!? 今なんと!?」
「いや、なんでもない……」
「……ま、まさか、まさかまさか!! 陛下! 陛下ーっ!」
「あーッ! 待て待て! いかーん!」
使者は猛烈な速度で走り去ってしまった。
これは王宮に激震が走るぞー。
倒れてくれるなよ陛下。
22
あなたにおすすめの小説
ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。
あけちともあき
ファンタジー
冴えない高校生女子、きら星はづき(配信ネーム)。
彼女は陰キャな自分を変えるため、今巷で話題のダンジョン配信をしようと思い立つ。
初配信の同接はわずか3人。
しかしその配信でゴボウを使ってゴブリンを撃退した切り抜き動画が作られ、はづきはSNSのトレンドに。
はづきのチャンネルの登録者数は増え、有名冒険配信会社の所属配信者と偶然コラボしたことで、さらにはづきの名前は知れ渡る。
ついには超有名配信者に言及されるほどにまで名前が広がるが、そこから逆恨みした超有名配信者のガチ恋勢により、あわやダンジョン内でアカウントBANに。
だが、そこから華麗に復活した姿が、今までで最高のバズりを引き起こす。
増え続ける登録者数と、留まる事を知らない同接の増加。
ついには、親しくなった有名会社の配信者の本格デビュー配信に呼ばれ、正式にコラボ。
トップ配信者への道をひた走ることになってしまったはづき。
そこへ、おバカな迷惑系アワチューバーが引き起こしたモンスタースタンピード、『ダンジョンハザード』がおそいかかり……。
これまで培ったコネと、大量の同接の力ではづきはこれを鎮圧することになる。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる