俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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96・油使い、伝説となる

第289話 役職ぅ!? いらんいらん!

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 国王陛下からの直々の依頼が来て、僕にこう告げた。

「油使いナザルを、国家公認美食アンバサダーに任命する!」

「アンバサダーだとお!? 僕を役職に縛り付けようというのか! というかなんで使いが来て僕に告げるんだ?」

 今日はオフと決めた日。
 自宅の庭で日向ぼっこをしていたらこれである。

 なお、コゲタは元気に仕事に行ったし、リップルも一緒にギルドへ向かった。
 つまり、この家には今僕しかいないのだ。

「陛下のお考えは分からぬ」

「大方、僕にリップルを取られたから顔を合わせると平常心ではいられないのではないか」

「なにっ、ナザルよ陛下を愚弄するのか! 陛下に限ってそんな色恋で我を失うことは……」

 ここで使者が何か考え込む動きをした。
 話を途中で止めて、

「まあ、お前が役職を引き受けぬなら陛下に連絡せねばならん。ではな」

 去って行ってしまった。
 明らかに、国王陛下はリップル絡みだと理性を吹っ飛ばすことに、心当たりがあったな?

 ではあまりあの話は明らかにせぬほうが良かろう。
 僕とリップルだが、結婚後に過去の思い出話なんかをしながら酒を飲んでたらついつい盛り上がってしまってな。

 盛り上がった結果にあの夢を見たあと、リップルの寝相に蹴り起こされるというな。
 つもる思い出話がとにかく多いので、その話をするたびに盛り上がってしまってな。
 もう夫婦だということでまあ仕方ないかと。

 で、今朝方、リップルが「ウーン」とか言っていたのだった。

「ナザル、子どもができたかも知れないぞ」

「なんだって!! リップル百歳なのに!」

「ハーフエルフは寿命こそあるが、肉体的には二百年間不老みたいなものだからなあ」

 二百年目になると寿命になり、体がマナになって消えるらしい。
 そして種みたいなのが残されると。

 だが、記録上、寿命になるまで生きられたハーフエルフがいないんだそうだ。

「まさかこの年で子どもができてしまうとは……」

「僕もまさか父親になるとは……」

 二人でウーンと唸ったあと、ま、いいかということになった。
 こうしてリップルは出かけていったのである。

 コゲタはお姉ちゃんになっちゃうなあ。

 そしてまた僕は日向ぼっこをし、昼頃にはパスタなどを炒めてケチャップ的なものを絡め、分厚いベーコンをじゅうじゅう焼いたのを乗せて食った。
 美味い。

「しかし、大きな状況の変化が起こったわけだが、この話を陛下に言ったら絶対に大事になるな。具体的には、陛下が代替わりしそうだ」

 国王陛下もいいお年である。
 なにせ、息子である第一王子が四十代前半、第二王子も四十路。
 父親である国王陛下は七十近いし、この世界の人間の寿命はよっぽど長生きして八十歳くらいだ。

 大体平均的には七十前くらいで死ぬ。
 今ショックを与えると、国王陛下が昇天してしまいそうだ……。

「だが、この真実をいつまでも隠してはおけまい。結婚してから三ヶ月……。ということはリップルはもういきなり命中してしまったということになる……!」

 恥ずかしながら、お互いいい年になるまで全く色恋をやってこなかった。
 リップルは英雄をやった後、戦いにくたびれて引退してしまったからな。
 近づいてくる連中も、英雄の肩書を持つリップルの前ではかしこまる。

 大真面目に求婚してきた陛下は、お后なんて立場的にあまりにも面倒過ぎるということで振られた。

 僕は僕で、アーランに来てから冒険者デビューするまで、ずっとリップルの助手をやっていた。
 で、その後はカッパー級になるために駆け回り、昇級した後はここを終の棲家にするつもりで便利屋を開業。
 まあまあ忙しい日々を送っていた。

 お互い枯れてたのでな……。
 なので色々大変だった。

 翌日にはリップルが魔法で教本めいたものを取り寄せ、二人で真剣な顔でこれを読んだものだ。
 うーむ……。

 実感が湧かない。
 そうこうしていたら、外で馬車のやって来る音がする。
 我が家の庭に入ってきたようだ。

「ナザルよ! やはり陛下はお前に地位を授ける仰っておられる!」

 使者の人が出てきて、朗々と告げた。

「えっ、王宮行って戻ってきたの!? お疲れ様……」

「私の仕事はこれだからな……。ナザルが素直に引き受けてくれたら、私もこの事を陛下に伝えて帰れるんだ……」

「大変だあ」

 同情してしまう。

「でもなんで陛下は、そこまで僕に役職をくださろうとするんだ?」

「それは決まっているだろう。いいか? 英雄であるリップル様の夫が、肩書こそ多いが公の地位を持たぬ油使いだと、色々外聞が悪いのだ!」

「ははあ、なるほどー。言われてみれば確かに」

「なので国王陛下はお前を公認美食アンバサダーにだな。なお、これは領土を持たぬ男爵とみなされる」

「アンバサダーって凄い地位だったんだな……!!」

 驚いたのは僕だった。

「きちんと俸給も出る。今まではデュオス殿下からの援助を賜っていたことと思うが、王家からの俸給も出るようになるのだ。いいか? 陛下は、まかり間違ってお前とリップル様の間にお子でもできたら、安定した生活ができぬのではないかと気が気ではないのだ」

「なるほど、ならばその任命をお受けするよ。僕は公認アンバサダーでいい。まあ、今度生まれる子どももその方が色々やりやすい……あっ」

「なんだと!? 今なんと!?」

「いや、なんでもない……」

「……ま、まさか、まさかまさか!! 陛下! 陛下ーっ!」

「あーッ! 待て待て! いかーん!」

 使者は猛烈な速度で走り去ってしまった。
 これは王宮に激震が走るぞー。
 倒れてくれるなよ陛下。


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