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103・船、出港す
第314話 ダイフク氏、お別れの挨拶
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扉を叩く人がいるので、誰だろうと顔を出したら。
最近会っていない、カエルに似た人がいた。
「あっ、ダイフク氏!! 久々だなあ」
「お久しぶりですぞ、美食伯」
「ナザルでいいよ」
「ではナザルさん、お別れの挨拶にやってきましたぞ」
彼はいつもの表情が読めない顔でそんなことを言った。
「ふんふん、お別れね。お別れ……お別れ!?」
ギョッとした。
あまりに当然みたいに言うから、一瞬納得しかけたぞ。
「お別れってどういうことだ、ダイフク氏!」
「それはですな。今までわしらは長い間アーランに停泊していたのですが、またサウザンド大陸へ帰るのです」
サウザンド大陸とは、はるか南にあるという巨大な大陸だ。
そうか、ダイフク氏と船はそこからやって来たのだった。
長い時間を掛けて、危険をくぐり抜けながらノーザンス大陸のアーランへ来た。
ずっとここにいたし、大賢者カズテスの島にも一緒に行ったからなあ……。
いつまでもいるものだと思ってしまっていた。
そうだ、彼らは旅人なのだった。
アーランのたくさんの物品を積み込み、サウザンド大陸へと帰るのだ。
無事に到着すれば、船員たち全員が大金持ちになれる。
彼らはそういう夢を背負って、ここまでやって来たのだ。
そりゃあ、帰る時は来るかあ。
「寂しくなるなあ」
「わしもです。というか、予定よりもかなり長くおったんですよ。アーランでは凄まじい美食が流行り、ナザルさんが船員たちにも美味いものを広めたので」
「僕のせいだったかあ」
「ですぞですぞ」
話し込んでいたら、只今建築中のアゲパンハウスをポヤーっと眺めていたコゲタが、ハッとこちらに気付いた。
「おさかな! きたの!?」
「ノーノー、おさかなではないですぞ。久しぶりですなコゲタ。前よりも大きくなって、立派なレディになりましたな」
「えへへー」
僕の目には可愛いままサイズアップしたように見えるが、傍から見ると、コゲタは成人した美しいコボルドとして捉えられているようだ……!
なるほど、モテるはずである。
「おさかないっちゃうの?」
「そうですぞ。わしの故郷に帰ります。コゲタとは船で長い事一緒に旅をしましたからな。名残惜しいですぞ」
水かきのついた手で、コゲタのほっぺをペタペタするダイフク氏。
コゲタは耳をペショッと倒してしょんぼりしていた。
「さびしい~」
「うむうむ、わしも寂しいですぞ。だが、いつかは別れはやって来るのですぞ。さらばですぞコゲタ」
「うん、ばいばい」
コゲタが悲しそうな声を出している!
実際、コボルドの寿命を考えたら、ダイフク氏との別れは今生の別れと言っていいだろう。
人間に手厚く養われたコボルドは、三十年以上生きる場合があるとは言え……。
このような船が、あと十年や二十年でまた来るとも思えない。
それくらいには、この世界パルメディアは中世ファンタジーっぽい世界なのだ。
今のアーランは、美食だけが現代レベルまで発展しただけだからな。
そのうち魔法使いたちが、分子ガストロノミーとか作り出すぞ絶対。
「しかし、ナザルさんは立派な家を買われましたなあ! 最後に拝見できて良かったですぞ!」
「おう、せっかくなら中を見てく? 今日は出かけるところだったんだけど、ダイフク氏が尋ねてきたならキャンセルだ。一日君と過ごそう」
「そんなー、悪いですぞ」
「悪いもんか。友達との別れだぞ。ちょっとした用事なんか後回しにするくらいの重大事だ」
家の中に招き入れると、リップルがお茶を飲んでいるところだった。
最近のこの人は、お茶くらいなら自分で淹れて飲む。
お手伝いさんがいなくても、リラックスする必要があるので自らマスターしたのだそうだ。
「おや、ダイフクくんじゃないか。どうしたんだい?」
「彼の船がアーランを離れるんだそうだ」
「そうか、お別れか。で、次はいつ来るんだい? 三十年後かい? 四十年後かい?」
「流石にハーフエルフの方は時間感覚が違いますなあ。無事に向こうに戻れたら、また準備に十年は掛かるでしょう。ですが、わしがまたその船に乗れるかも分かりませんからな」
「そうか、本当の本当に別れかあ」
リップルもしみじみとした。
そして、手ずからダイフク氏にお茶を淹れてくれる。
これに魔法をかけて冷ました。
ダイフク氏が嬉しそうな雰囲気を漂わせる。
「分かってらっしゃる。わしは丸呑み派なので、熱いと火傷しますからな」
カップを手に取ったダイフク氏。
カパッと一口でお茶を全て流し込んだ。
そしてお茶の香気が鼻の穴からフシューっと抜けていく。
「おもしろーい」
コゲタが喜んだ。
カエルの人でもない限りマネはできないよな。
「おや、あそこに寝ているのはナザルさんとリップルさんの」
「そう、子どもだ」
「愛の結晶ですな」
「おいやめろ」
「一時の気の迷いの結晶だ。だが私たちはカルを愛しているのだ。そこのところは間違えるんじゃないよ」
「わかりましたぞ」
言っちゃいけない言葉だったなー、と理解したらしいダイフク氏なのだった。
分かれればいいのだ、分かれば。
最近会っていない、カエルに似た人がいた。
「あっ、ダイフク氏!! 久々だなあ」
「お久しぶりですぞ、美食伯」
「ナザルでいいよ」
「ではナザルさん、お別れの挨拶にやってきましたぞ」
彼はいつもの表情が読めない顔でそんなことを言った。
「ふんふん、お別れね。お別れ……お別れ!?」
ギョッとした。
あまりに当然みたいに言うから、一瞬納得しかけたぞ。
「お別れってどういうことだ、ダイフク氏!」
「それはですな。今までわしらは長い間アーランに停泊していたのですが、またサウザンド大陸へ帰るのです」
サウザンド大陸とは、はるか南にあるという巨大な大陸だ。
そうか、ダイフク氏と船はそこからやって来たのだった。
長い時間を掛けて、危険をくぐり抜けながらノーザンス大陸のアーランへ来た。
ずっとここにいたし、大賢者カズテスの島にも一緒に行ったからなあ……。
いつまでもいるものだと思ってしまっていた。
そうだ、彼らは旅人なのだった。
アーランのたくさんの物品を積み込み、サウザンド大陸へと帰るのだ。
無事に到着すれば、船員たち全員が大金持ちになれる。
彼らはそういう夢を背負って、ここまでやって来たのだ。
そりゃあ、帰る時は来るかあ。
「寂しくなるなあ」
「わしもです。というか、予定よりもかなり長くおったんですよ。アーランでは凄まじい美食が流行り、ナザルさんが船員たちにも美味いものを広めたので」
「僕のせいだったかあ」
「ですぞですぞ」
話し込んでいたら、只今建築中のアゲパンハウスをポヤーっと眺めていたコゲタが、ハッとこちらに気付いた。
「おさかな! きたの!?」
「ノーノー、おさかなではないですぞ。久しぶりですなコゲタ。前よりも大きくなって、立派なレディになりましたな」
「えへへー」
僕の目には可愛いままサイズアップしたように見えるが、傍から見ると、コゲタは成人した美しいコボルドとして捉えられているようだ……!
なるほど、モテるはずである。
「おさかないっちゃうの?」
「そうですぞ。わしの故郷に帰ります。コゲタとは船で長い事一緒に旅をしましたからな。名残惜しいですぞ」
水かきのついた手で、コゲタのほっぺをペタペタするダイフク氏。
コゲタは耳をペショッと倒してしょんぼりしていた。
「さびしい~」
「うむうむ、わしも寂しいですぞ。だが、いつかは別れはやって来るのですぞ。さらばですぞコゲタ」
「うん、ばいばい」
コゲタが悲しそうな声を出している!
実際、コボルドの寿命を考えたら、ダイフク氏との別れは今生の別れと言っていいだろう。
人間に手厚く養われたコボルドは、三十年以上生きる場合があるとは言え……。
このような船が、あと十年や二十年でまた来るとも思えない。
それくらいには、この世界パルメディアは中世ファンタジーっぽい世界なのだ。
今のアーランは、美食だけが現代レベルまで発展しただけだからな。
そのうち魔法使いたちが、分子ガストロノミーとか作り出すぞ絶対。
「しかし、ナザルさんは立派な家を買われましたなあ! 最後に拝見できて良かったですぞ!」
「おう、せっかくなら中を見てく? 今日は出かけるところだったんだけど、ダイフク氏が尋ねてきたならキャンセルだ。一日君と過ごそう」
「そんなー、悪いですぞ」
「悪いもんか。友達との別れだぞ。ちょっとした用事なんか後回しにするくらいの重大事だ」
家の中に招き入れると、リップルがお茶を飲んでいるところだった。
最近のこの人は、お茶くらいなら自分で淹れて飲む。
お手伝いさんがいなくても、リラックスする必要があるので自らマスターしたのだそうだ。
「おや、ダイフクくんじゃないか。どうしたんだい?」
「彼の船がアーランを離れるんだそうだ」
「そうか、お別れか。で、次はいつ来るんだい? 三十年後かい? 四十年後かい?」
「流石にハーフエルフの方は時間感覚が違いますなあ。無事に向こうに戻れたら、また準備に十年は掛かるでしょう。ですが、わしがまたその船に乗れるかも分かりませんからな」
「そうか、本当の本当に別れかあ」
リップルもしみじみとした。
そして、手ずからダイフク氏にお茶を淹れてくれる。
これに魔法をかけて冷ました。
ダイフク氏が嬉しそうな雰囲気を漂わせる。
「分かってらっしゃる。わしは丸呑み派なので、熱いと火傷しますからな」
カップを手に取ったダイフク氏。
カパッと一口でお茶を全て流し込んだ。
そしてお茶の香気が鼻の穴からフシューっと抜けていく。
「おもしろーい」
コゲタが喜んだ。
カエルの人でもない限りマネはできないよな。
「おや、あそこに寝ているのはナザルさんとリップルさんの」
「そう、子どもだ」
「愛の結晶ですな」
「おいやめろ」
「一時の気の迷いの結晶だ。だが私たちはカルを愛しているのだ。そこのところは間違えるんじゃないよ」
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