327 / 337
107・また過去の夢を見るなど
第327話 少年は雑用係である
しおりを挟む
ハッと我に返ると、僕の肉体が若い頃のそれになっている。
どれくらい若いかと言われると、ようやくローティーンになったくらいの頃合いであろう。
これは夢か!
明晰夢というやつだな。
昨夜、リップルを連れて帰ってきて、ぐうぐうと寝たのは覚えている。
ちなみに母乳を与える頃合いで母親が飲酒するのはいかんそうだが、リップルは魔法で母乳からアルコールを抜く技を編み出しているので問題ない。
なんだ、そのニッチな魔法は。
近所のお母さんたちも、お酒を飲みながら授乳ができるということで、リップルはかなりの人気らしい。
話が逸れた。
さて、ローティーンの僕がどこにいるのかと言うと、それはまだ発展しきってないアーランの、下町だ。
物陰に隠れて、夕闇の中で光を放つ、あばら家を見張っている。
これはあれだな。
リップルとともに、下町に根城を構えたという、盗賊ギルドに与さぬ連中……いわゆる半グレの調査任務を引き受けた時のことだ。
『聞こえるかい? 聞こえるかい、少年』
「聞こえるよ」
僕がまだ声変わりの終わってない声で応えた。
言葉を発そうともしてないのだが、勝手に動いたな。
これは……僕が傍観するタイプの夢だな?
まだ冒険者ギルドに入れる年齢ではなく、しかし遺跡の崩落事故で全てを失ってしまった身寄りのない僕は、どうにかして食べていかねばならなかった。
そこを、ギルドにいた物好きなお姉さん、安楽椅子冒険者のリップルに拾われたのだ。
関係としては、探偵と助手になるのだろう。
これは確か、その関係になってから一年が過ぎたころだ。
僕が冒険者になる十五歳までは続いたから、ここからさらに五年は一緒に仕事をしていたのだな。
いやー!
この頃は今みたいな関係になるとは夢にも思っていなかったな!
『君は油使いのギフトがある。だが、無理をしてはいけないよ。君はまだ子どもなんだ。無理だと思ったら全力で逃げること。いいね』
「分かってるよ。でも、僕だって子どものままじゃないんだ」
かーっ。
青い。
共感性羞恥を感じる青さ!
いや、自分なんだから共感もクソもない。
「行きます!」
『ああ、気をつけてね』
リップルからの言葉は、遠隔からの伝達魔法だ。
この頃は、無数の魔法を知る彼女を凄いと思っていた。
だがなんのことはない。
リップルは状況に応じて魔法を作り出していたのだ。
いや、もっと凄いんだが?
未熟なガキンチョである僕は、ちょろちょろ動いて半グレの潜むあばら家を覗き込む。
そうそう。
この頃は隠密行動というのをよく分かってなくて、自分なりにやっていたんだよな。
今の僕ならプロの盗賊顔負けの隠密ができるぞ。
なんなら油で寝転がったままどこまでも移動できる。
まあ、若い僕にそんな無茶を言う事などできまい。
がんばれがんばれ。
結末は分かっているがな。
半グレたちは、何やら良からぬ計画を立てているようだった。
ここは下町の外れ。
盗賊ギルドはこの時代、ツーテイカーからの侵略と戦うので忙しく、こういう半グレ連中まで手が回っていなかった。
だから、リップルへと依頼がやって来ていたのだ。
盗賊ギルドの使いで依頼に来ていた少年、今思えばあれ、アーガイルさんだったな……。
リップルと喋れて、頬を赤くしながら緊張していた。
あの頃から彼はリップルを尊敬していたのだ。
ということで。
もっと半グレどもの会話を聞こうと身を乗り出した僕は、パキリと音を立ててしまった。
お約束というやつだ。
あばら家なんかあちこちぶっ壊れているんだから、下手に体重なんか掛けたら壊れるに決まっている。
しかも、こういうヘマをする時に限って、連中の会話が一段落して一瞬静まり返ってたりするのだ。
今回はまさにそれだった。
ぱきっと音を立てたのは、窓枠。
腐っていたそこが、幼い僕の体重を掛けられて割れたのだ。
屋内にいた半グレが、一斉にこちらを向いた。
そのうちの一人と目が合ってしまう。
「しまっ……!」
しらばっくれればいいのに、わざわざそういうことを言ってしまう!
若さ~!!
「ガキ! 俺たちの事を調べてやがったな!」「追いかけろ! 盗賊ギルドのやつかも知れねえ!」「クソガキー!!」
「うわあああああー!!」
今思えば、油で全員一瞬で粉砕できるのだが……。
この頃の僕は十歳だからなあ。
そりゃあ怖い。
必死で逃げる僕なのだ。
だが子供の足だ。
大人が本気で追いかけてくると、すぐに間を詰められてしまう……のだが。
半グレたちが酒を飲みながら相談してたので、酔いが足に回っていて遅い。
結果的に、いい感じのチェイスになった。
お互い真剣なんだが、傍から見てると笑える。
さあ、幼い僕、頭を使え。
どういうことをしたらこのピンチを乗り越えられる?
下町は崩れた建物や、大人なら入り込めないような路地だってある。
小さな僕は、その目を横合いの狭い狭い通りに向けた。
悪くない。
そこなら、大人は並んでこれない。
一人ずつを相手にすることになるぞ。
「僕は……子どもじゃない! やってやる!!」
気を吐きながら、幼い頃の僕が路地に駆け込んでいった。
確かこの頃は、やたら背伸びしたかったんだよなあ。
子供時代はこの頃しか無いんだから、もっと堪能してりゃいいのに。
いやいや、一人で寄る辺もないと思ってたから、早く大人にならなくちゃいけなかったのだ。
しゃあないか。
……とここまで考えて、ふと傍観している僕は思い至る。
以前もこんな過去の夢を見ていた時があったな。
あれは……。
その場の勢いの夜だ!
ま、まさか……!
どれくらい若いかと言われると、ようやくローティーンになったくらいの頃合いであろう。
これは夢か!
明晰夢というやつだな。
昨夜、リップルを連れて帰ってきて、ぐうぐうと寝たのは覚えている。
ちなみに母乳を与える頃合いで母親が飲酒するのはいかんそうだが、リップルは魔法で母乳からアルコールを抜く技を編み出しているので問題ない。
なんだ、そのニッチな魔法は。
近所のお母さんたちも、お酒を飲みながら授乳ができるということで、リップルはかなりの人気らしい。
話が逸れた。
さて、ローティーンの僕がどこにいるのかと言うと、それはまだ発展しきってないアーランの、下町だ。
物陰に隠れて、夕闇の中で光を放つ、あばら家を見張っている。
これはあれだな。
リップルとともに、下町に根城を構えたという、盗賊ギルドに与さぬ連中……いわゆる半グレの調査任務を引き受けた時のことだ。
『聞こえるかい? 聞こえるかい、少年』
「聞こえるよ」
僕がまだ声変わりの終わってない声で応えた。
言葉を発そうともしてないのだが、勝手に動いたな。
これは……僕が傍観するタイプの夢だな?
まだ冒険者ギルドに入れる年齢ではなく、しかし遺跡の崩落事故で全てを失ってしまった身寄りのない僕は、どうにかして食べていかねばならなかった。
そこを、ギルドにいた物好きなお姉さん、安楽椅子冒険者のリップルに拾われたのだ。
関係としては、探偵と助手になるのだろう。
これは確か、その関係になってから一年が過ぎたころだ。
僕が冒険者になる十五歳までは続いたから、ここからさらに五年は一緒に仕事をしていたのだな。
いやー!
この頃は今みたいな関係になるとは夢にも思っていなかったな!
『君は油使いのギフトがある。だが、無理をしてはいけないよ。君はまだ子どもなんだ。無理だと思ったら全力で逃げること。いいね』
「分かってるよ。でも、僕だって子どものままじゃないんだ」
かーっ。
青い。
共感性羞恥を感じる青さ!
いや、自分なんだから共感もクソもない。
「行きます!」
『ああ、気をつけてね』
リップルからの言葉は、遠隔からの伝達魔法だ。
この頃は、無数の魔法を知る彼女を凄いと思っていた。
だがなんのことはない。
リップルは状況に応じて魔法を作り出していたのだ。
いや、もっと凄いんだが?
未熟なガキンチョである僕は、ちょろちょろ動いて半グレの潜むあばら家を覗き込む。
そうそう。
この頃は隠密行動というのをよく分かってなくて、自分なりにやっていたんだよな。
今の僕ならプロの盗賊顔負けの隠密ができるぞ。
なんなら油で寝転がったままどこまでも移動できる。
まあ、若い僕にそんな無茶を言う事などできまい。
がんばれがんばれ。
結末は分かっているがな。
半グレたちは、何やら良からぬ計画を立てているようだった。
ここは下町の外れ。
盗賊ギルドはこの時代、ツーテイカーからの侵略と戦うので忙しく、こういう半グレ連中まで手が回っていなかった。
だから、リップルへと依頼がやって来ていたのだ。
盗賊ギルドの使いで依頼に来ていた少年、今思えばあれ、アーガイルさんだったな……。
リップルと喋れて、頬を赤くしながら緊張していた。
あの頃から彼はリップルを尊敬していたのだ。
ということで。
もっと半グレどもの会話を聞こうと身を乗り出した僕は、パキリと音を立ててしまった。
お約束というやつだ。
あばら家なんかあちこちぶっ壊れているんだから、下手に体重なんか掛けたら壊れるに決まっている。
しかも、こういうヘマをする時に限って、連中の会話が一段落して一瞬静まり返ってたりするのだ。
今回はまさにそれだった。
ぱきっと音を立てたのは、窓枠。
腐っていたそこが、幼い僕の体重を掛けられて割れたのだ。
屋内にいた半グレが、一斉にこちらを向いた。
そのうちの一人と目が合ってしまう。
「しまっ……!」
しらばっくれればいいのに、わざわざそういうことを言ってしまう!
若さ~!!
「ガキ! 俺たちの事を調べてやがったな!」「追いかけろ! 盗賊ギルドのやつかも知れねえ!」「クソガキー!!」
「うわあああああー!!」
今思えば、油で全員一瞬で粉砕できるのだが……。
この頃の僕は十歳だからなあ。
そりゃあ怖い。
必死で逃げる僕なのだ。
だが子供の足だ。
大人が本気で追いかけてくると、すぐに間を詰められてしまう……のだが。
半グレたちが酒を飲みながら相談してたので、酔いが足に回っていて遅い。
結果的に、いい感じのチェイスになった。
お互い真剣なんだが、傍から見てると笑える。
さあ、幼い僕、頭を使え。
どういうことをしたらこのピンチを乗り越えられる?
下町は崩れた建物や、大人なら入り込めないような路地だってある。
小さな僕は、その目を横合いの狭い狭い通りに向けた。
悪くない。
そこなら、大人は並んでこれない。
一人ずつを相手にすることになるぞ。
「僕は……子どもじゃない! やってやる!!」
気を吐きながら、幼い頃の僕が路地に駆け込んでいった。
確かこの頃は、やたら背伸びしたかったんだよなあ。
子供時代はこの頃しか無いんだから、もっと堪能してりゃいいのに。
いやいや、一人で寄る辺もないと思ってたから、早く大人にならなくちゃいけなかったのだ。
しゃあないか。
……とここまで考えて、ふと傍観している僕は思い至る。
以前もこんな過去の夢を見ていた時があったな。
あれは……。
その場の勢いの夜だ!
ま、まさか……!
31
あなたにおすすめの小説
ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。
あけちともあき
ファンタジー
冴えない高校生女子、きら星はづき(配信ネーム)。
彼女は陰キャな自分を変えるため、今巷で話題のダンジョン配信をしようと思い立つ。
初配信の同接はわずか3人。
しかしその配信でゴボウを使ってゴブリンを撃退した切り抜き動画が作られ、はづきはSNSのトレンドに。
はづきのチャンネルの登録者数は増え、有名冒険配信会社の所属配信者と偶然コラボしたことで、さらにはづきの名前は知れ渡る。
ついには超有名配信者に言及されるほどにまで名前が広がるが、そこから逆恨みした超有名配信者のガチ恋勢により、あわやダンジョン内でアカウントBANに。
だが、そこから華麗に復活した姿が、今までで最高のバズりを引き起こす。
増え続ける登録者数と、留まる事を知らない同接の増加。
ついには、親しくなった有名会社の配信者の本格デビュー配信に呼ばれ、正式にコラボ。
トップ配信者への道をひた走ることになってしまったはづき。
そこへ、おバカな迷惑系アワチューバーが引き起こしたモンスタースタンピード、『ダンジョンハザード』がおそいかかり……。
これまで培ったコネと、大量の同接の力ではづきはこれを鎮圧することになる。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる