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陰謀②

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「お姉様が国民を欺き、悪事に手を染めているのを。……妹として。いえ、同じ聖女として許せなくて」
 伏し目がちのリナが、ハンカチで口元を隠す。

「ですからなんの話かしら? わたしくしは、何もしておりませんことよ」

「言い逃れは出来ませんわ。お姉様が故意に魔物を召喚した証拠はお姉様の部屋にありましたもの」

 にやりと笑うリナは、何やら見慣れない紙を持ち、ぴらぴらと揺らしながら見せている。

 その紙には得体の知れない魔法陣が書かれているようだが、わたしには身に覚えがないし、全く関係ない。

 知らないと、ふるふると首を横に振る。
 そうすれば、父が大きな身振りと共に大激怒した。

「ジュディット! お前はなんてことをしてくれたんだ! 我が家の恥さらしがあっ。三週間後には、王太子殿下との結婚式があるというのに、こんなことをしでかして。自分の力を見せつけたかったのか? 情けない」

「ですから、わたくしには身に覚えもないですし」

 まだ話を続けようとしたのだが、眼光鋭いフィリベールがわたしに、手のひらを向け、黙れと話を制した。

「いいや間違いない事実だ。王宮へ密告があり、私がお前の部屋を調べたんだからな。お前の机の上に、禁術である黒魔術を使った形跡があった。リナとドゥメリー公爵もその場を一緒に確認した。お前だって黒魔術の残滓の存在くらい知っているだろう」

「黒魔術な――」
 口を開きかけたわたしの言葉を遮るように、父が告げる。

「王太子殿下は、お前との婚約を解消し、既に公表している結婚式の日に、リナと結婚してくれることになったんだ。我が家の不祥事に目を瞑り、我が家に恩情を与えてくださった殿下に、これ以上見苦しい言い訳はするな!」

「そうよお姉様。リナがお姉様の代わりに、王太子妃と筆頭聖女を務めるから安心して」

 かわいらしい声で話すリナは、首を斜めに傾け、にっこりと笑った。
 リナは何を考えているの? 悠長に笑っている場合ではない。
 わたしがあなたに、それを任せれば。一大事になりかねない。

「あなたには無理よ」
 リナに筆頭聖女の仕事ができるわけがない。
 毎日わたしが捧げていた祈りによって、この国に結界が張られていたのだ。

 本来であれば。結界を張るのは現筆頭聖女の仕事である。
 けれど、年齢を重ねて光魔法の加護が減退した王妃様は、相当昔から、結界を張るのが難しくなっていた。

 この際だ、王妃様の庇い建てを止めて、はっきり事実を言うなら。光魔法の加護が枯れた王妃様は、結界を張れないのである。

 それを知られると筆頭聖女の立場がなくなるから、大司教と陛下夫妻とわたしの秘密にしているだけ。

 何も知らないリナは自分もできる気でいるが、無理だ。
 それこそ、この国全体に結界を張れば、リナの魔力が底をつくくらい消耗する。

 日ごろから、魔力の枯渇を嫌うリナにできるわけがない。

「無理ではない! 本来すべき義務を妹に押し付けるようなお前と違って、リナは優秀な聖女だからな!」

「リナは筆頭聖女の仕事を、何も分かっていないからですわ。これまでわたしが公式の場に出られなかったのは、理由があるんです」

 国が行う形式的な式典。
 具体的には、豊穣を願う式典や王族の誕生日を喜ぶ行事。その度に聖女が披露する祝福の旋回舞踊。
 それは、多忙なわたしに代わり、常に妹のリナが務めていた。次期筆頭聖女代行としてだ。

 国の公式行事の数々。
 出席するつもりで準備をしていても、式典の日は決まって瘴気から生まれる魔物騒動が各地で起きていた。

 そのせいで、わたしは王宮騎士団と討伐に向かうのを優先した。

 瘴気だまりを放っておけば人命にかかわる。
 そう考えれば、形式的な意味しか持たない、旋回舞踊どころではなかったから。

 式典をどうすべきかと困っているわたしを見ては、「リナに任せて」と妹が率先的に引き受けてくれた。
 もしかして、全部、意図的に仕組まれていたのかしら。
 誰が……。リナ? それとも継母?

 いや、そんな事を詮索するより、この現状。まずいわよ。
 逃げる準備をしなきゃ。と考え、ソファーに置いた外套を手に取る。そうすればポケットがやたらと重い。

 そうだった。わたしが作る、ビー玉のような魔力の結晶を入れっぱなしにしていた……。
 わたしが今の立場を退いたら、この先コレをどうすべきだろう。

 わたしの魔力は普通ではない。誰かが作る万人向けの魔力計測器では、もはや推し量れない。
 計測を試みても、計測器がまるで壊れたみたいに反応しない。それほど膨大な魔力を持つのだ。

 そんなわたしだけができる魔力の結晶化。今だって、作り終えたばかりのガラス玉が二十五個、ポケットに入っている。

 ――けれど。王妃殿下の手前、ガラス玉の製作者は大司教にしてもらっているのだ。

 国民を欺き。自分の作ったガラス玉を大司教に配ってもらっている身としては、人前に立つのが、少しばかり後ろめたいのも事実。

 だから、リナが国の式典を急遽代行してくれるのは、都合が良かったというのもある。
 リナにいつも助けられていると思っていたのだが……。間違っていたのか⁉
 
「何も分かっていないのはお前の方だろう。冷酷なお前の妹なのに、リナはとても愛らしくて可愛いからな。きっと将来いい国母になるだろう」

 嬉しそうに笑うフィリベールが、リナの肩を抱き寄せる。
 そうすると、リナが王太子を「フィリ」と呼んで、彼の肩にこてんと頭を寄せた。

「フィリ」。それは、陛下夫妻が彼を呼ぶ時の愛称である。彼の極々近しい者しか認めていないのに、リナが……。
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