記憶と魔力を婚約者に奪われた「ないない尽くしの聖女」は、ワケあり王子様のお気に入り~王族とは知らずにそばにいた彼から なぜか溺愛されています
瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
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第1章 あなたは誰
あなたは誰③
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巧みな風魔法を目の当たりにすれば、アンドレの魔力は、ただ単に大きいだけではない。そう理解した。
アンドレってば、魔法を使えないわたしには、魔法の難易度を見分けられないと思ったのかな。油断して、髪を乾かしてくれた気がする。
何故って、わたしが「懐かしい」と反応したせいで、青ざめていたもの。
だけど現実。雑役兵だと告げた彼は、火魔法と風魔法を掛け合わせる、高度な魔法をさらりと使いこなしている。
そんな彼の実力なら、上官でもおかしくないのに。不思議だ。
怒られるかもしれないが、やはりこれだけは聞いておきたい。
我慢できずに思いきって訊ねてみた。
「ねえ、アンドレは魔力量が多いのに、どうして雑役兵なの? 隊員じゃないのはもったいない気がするけど」
「それは……。初めに伝えたでしょう。僕は家族に捨てられたので、身分証がないんですよ。身元を証明できない人間は、正規の隊員になれませんから」
「えぇえ~そうなの? それじゃあ、わたしも駄目なのか。雑役から隊員への昇格を目論んでいたのに。どうしても無理かしら」
「無理ですね。カステン軍は、ここの領主に伴って国の外へ出る必要もありますから。場合によっては兵士だけで調査に赴くこともあります。身分証がなければ、国を抜ける関所を越えられないから仕事が務まらないので」
「そんなぁ」
「そもそもジュディの場合は、魔力がないから話になりませんけどね」
「あ、そっか。だけど、どうしてだろう。魔物の討伐が得意な気がするのよね。何かを殺める使命があった気がするんだけど」
「……。そんな使命、そのまま忘れていなさい。あなたのためにも」
「いいのかなぁ? そんな風に流しても。なんだか大事な任務だった気がするのよね」
「大事な任務ですか……。まあ、それは置いておくとしましょう。ですが一つ頼みがあります」
「なあに?」
アンドレが一段と真剣な顔をすると、わたしを見つめた。
「僕の魔力量が多いことは、他の人には言わないで欲しいんです。あの時は油断して、ジュディに知られてしまったけど、僕の魔力が二十級を越えているのは、周囲に知らせていないから」
「別にいいけど。その魔力、もったいないわね」
「まあ、いいんですよ――。……先ほどは、ジュディを心配するあまり、慌てて浴室に入って、申し訳ありませんでしたね」
「えぇ、あッ、あぁ。まあ、いいわよ」
彼は魔力の話題を続けたくなかったのか?
脈絡もなく、浴室の話にすり替えられた。
こちらとしても、遠ざけていた話題を振られたせいで、なんて答えるべきか分からず。思ってもいない「まあ、いいわよ」と、言ってしまった。
だけど。――よくないでしょう!
恥ずかしそうに視線を外した彼は、何かを見たに違いない。
やっぱり言い直そうとした矢先。「アンドレ!」と叫ぶ、男の人の声が聞こえた。
その声がする方向を見ると、エントランスに美しい身なりの貴公子が立っている。
「おお、出掛けるところだったのか?」
「ええ、まあ」
と、アンドレが平然と答える。
アンドレと見比べると、彼より十歳は年上だろうか?
セーターを着るアンドレと違い、黒いジャケットを纏う男は身分が高いようにも見える。
◇◇◇
「第一部隊長が『アンドレが彼女を軍の事務所に連れこんで、私的に利用している』と直訴してきたから、覗きに来たんだが……。自分の服を着せて、どういう趣向だ? ナグワに聞かせる面白いネタができたな」
「イヴァン卿。厄介なナグワ隊長の勘違いを更に増幅させる、どうしようもない思い込みはやめてください」
「ふっ。事実だろう」
「彼女は恋人ではありませんし、僕とはなんの関係もありませんから」
「ああ、そっちだけの関係な。まあアンドレだって女が欲しい時だってあるだろう。俺は理解があるから責めたりしないさ」
「は? そんな時は、ないですよ」
「そうか?」
「何ですか一体。僕は急いでいるんですけど」
「なあなあ。この美人。紹介してくれないか。ナグワがアンドレに彼女ができたと思い込んで、周囲のやつらに当たり散らして手に負えん。別にアンドレの彼女じゃないならいいだろう。あいつに紹介してやるよ」
「ええ、もちろん紹介しますよ。先ほどカステン軍の雑役兵として採用したんですから」
「雑役兵? な~んだそっちか。それでその格好な」
カステン辺境伯が、あからさまに肩を落とす。
わたしの話をしているようだし、ひとまず第一部隊ナグワ隊長は、警戒すべき人物としてインプットした。
「ええ。厨房のエレーナが人を欲しがっているのは、以前から報告していたでしょう。なかなか見つからなかったけど、やっと仕事を求める人材が手に入りましたからね。辺境伯領の軍には女性用の宿舎はありませんし。アパートが見つかるまで、ここで暮らすだけです」
アンドレがわたしをカステン辺境伯に紹介した。
となれば、挨拶しようと表情を作る。
「今日からお世話になります、ジュディです。よろしくお願いします」
堂々と名乗ったのだが、本当のところ「ジュディ」がわたしの名前か分からない。
けれど、それしか知らないから仕方ない。
とりあえず姿勢を正し、なるべく美しく見えるお辞儀をする。
その様子をカステン辺境伯から、まじまじと見られている。まるで品定めをするみたいに念入りに。
わたしとしては彼から挨拶を返されると思っていたのに、何やら様子がおかしい。
わたしが挨拶を終えた直後。楽し気に笑みを浮かべていたカステン辺境伯の空気が、緊張感に満ちた。
そして、そのまま怪訝な表情を浮かべている。
「随分と綺麗なカーテシーだが……。アンドレはどこかのご令嬢を攫ってきたのか?」
「さっきからイヴァン卿は、なんですか……人聞きが悪いですね」
「じゃあ、どういうことだ……今のカーテシーは? 説明をしろ! この女は家名を言わなかったが貴族だろう。それも相当に教育を受けた家柄のご令嬢にしか見えない。ここの軍に怪しい人物を近づけるな。大問題になるぞ! 早く追い出せ」
激怒するカステン辺境伯の一方。アンドレから、はぁ~と深い息を吐く音が聞こえる。
どうしよう。
わたしが無理やりここに居候させて欲しいとお願いしたせいで、揉め事になっているみたいだ。
アンドレってば、魔法を使えないわたしには、魔法の難易度を見分けられないと思ったのかな。油断して、髪を乾かしてくれた気がする。
何故って、わたしが「懐かしい」と反応したせいで、青ざめていたもの。
だけど現実。雑役兵だと告げた彼は、火魔法と風魔法を掛け合わせる、高度な魔法をさらりと使いこなしている。
そんな彼の実力なら、上官でもおかしくないのに。不思議だ。
怒られるかもしれないが、やはりこれだけは聞いておきたい。
我慢できずに思いきって訊ねてみた。
「ねえ、アンドレは魔力量が多いのに、どうして雑役兵なの? 隊員じゃないのはもったいない気がするけど」
「それは……。初めに伝えたでしょう。僕は家族に捨てられたので、身分証がないんですよ。身元を証明できない人間は、正規の隊員になれませんから」
「えぇえ~そうなの? それじゃあ、わたしも駄目なのか。雑役から隊員への昇格を目論んでいたのに。どうしても無理かしら」
「無理ですね。カステン軍は、ここの領主に伴って国の外へ出る必要もありますから。場合によっては兵士だけで調査に赴くこともあります。身分証がなければ、国を抜ける関所を越えられないから仕事が務まらないので」
「そんなぁ」
「そもそもジュディの場合は、魔力がないから話になりませんけどね」
「あ、そっか。だけど、どうしてだろう。魔物の討伐が得意な気がするのよね。何かを殺める使命があった気がするんだけど」
「……。そんな使命、そのまま忘れていなさい。あなたのためにも」
「いいのかなぁ? そんな風に流しても。なんだか大事な任務だった気がするのよね」
「大事な任務ですか……。まあ、それは置いておくとしましょう。ですが一つ頼みがあります」
「なあに?」
アンドレが一段と真剣な顔をすると、わたしを見つめた。
「僕の魔力量が多いことは、他の人には言わないで欲しいんです。あの時は油断して、ジュディに知られてしまったけど、僕の魔力が二十級を越えているのは、周囲に知らせていないから」
「別にいいけど。その魔力、もったいないわね」
「まあ、いいんですよ――。……先ほどは、ジュディを心配するあまり、慌てて浴室に入って、申し訳ありませんでしたね」
「えぇ、あッ、あぁ。まあ、いいわよ」
彼は魔力の話題を続けたくなかったのか?
脈絡もなく、浴室の話にすり替えられた。
こちらとしても、遠ざけていた話題を振られたせいで、なんて答えるべきか分からず。思ってもいない「まあ、いいわよ」と、言ってしまった。
だけど。――よくないでしょう!
恥ずかしそうに視線を外した彼は、何かを見たに違いない。
やっぱり言い直そうとした矢先。「アンドレ!」と叫ぶ、男の人の声が聞こえた。
その声がする方向を見ると、エントランスに美しい身なりの貴公子が立っている。
「おお、出掛けるところだったのか?」
「ええ、まあ」
と、アンドレが平然と答える。
アンドレと見比べると、彼より十歳は年上だろうか?
セーターを着るアンドレと違い、黒いジャケットを纏う男は身分が高いようにも見える。
◇◇◇
「第一部隊長が『アンドレが彼女を軍の事務所に連れこんで、私的に利用している』と直訴してきたから、覗きに来たんだが……。自分の服を着せて、どういう趣向だ? ナグワに聞かせる面白いネタができたな」
「イヴァン卿。厄介なナグワ隊長の勘違いを更に増幅させる、どうしようもない思い込みはやめてください」
「ふっ。事実だろう」
「彼女は恋人ではありませんし、僕とはなんの関係もありませんから」
「ああ、そっちだけの関係な。まあアンドレだって女が欲しい時だってあるだろう。俺は理解があるから責めたりしないさ」
「は? そんな時は、ないですよ」
「そうか?」
「何ですか一体。僕は急いでいるんですけど」
「なあなあ。この美人。紹介してくれないか。ナグワがアンドレに彼女ができたと思い込んで、周囲のやつらに当たり散らして手に負えん。別にアンドレの彼女じゃないならいいだろう。あいつに紹介してやるよ」
「ええ、もちろん紹介しますよ。先ほどカステン軍の雑役兵として採用したんですから」
「雑役兵? な~んだそっちか。それでその格好な」
カステン辺境伯が、あからさまに肩を落とす。
わたしの話をしているようだし、ひとまず第一部隊ナグワ隊長は、警戒すべき人物としてインプットした。
「ええ。厨房のエレーナが人を欲しがっているのは、以前から報告していたでしょう。なかなか見つからなかったけど、やっと仕事を求める人材が手に入りましたからね。辺境伯領の軍には女性用の宿舎はありませんし。アパートが見つかるまで、ここで暮らすだけです」
アンドレがわたしをカステン辺境伯に紹介した。
となれば、挨拶しようと表情を作る。
「今日からお世話になります、ジュディです。よろしくお願いします」
堂々と名乗ったのだが、本当のところ「ジュディ」がわたしの名前か分からない。
けれど、それしか知らないから仕方ない。
とりあえず姿勢を正し、なるべく美しく見えるお辞儀をする。
その様子をカステン辺境伯から、まじまじと見られている。まるで品定めをするみたいに念入りに。
わたしとしては彼から挨拶を返されると思っていたのに、何やら様子がおかしい。
わたしが挨拶を終えた直後。楽し気に笑みを浮かべていたカステン辺境伯の空気が、緊張感に満ちた。
そして、そのまま怪訝な表情を浮かべている。
「随分と綺麗なカーテシーだが……。アンドレはどこかのご令嬢を攫ってきたのか?」
「さっきからイヴァン卿は、なんですか……人聞きが悪いですね」
「じゃあ、どういうことだ……今のカーテシーは? 説明をしろ! この女は家名を言わなかったが貴族だろう。それも相当に教育を受けた家柄のご令嬢にしか見えない。ここの軍に怪しい人物を近づけるな。大問題になるぞ! 早く追い出せ」
激怒するカステン辺境伯の一方。アンドレから、はぁ~と深い息を吐く音が聞こえる。
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