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第2章 あなたは暗殺者⁉

不思議なあなたは……①

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 眉をひそめるアンドレが、ボソボソと不満げに反応する。
「いつも男性と、こんな事をしていたんですか?」

「そんな記憶はないけど、一人で食べるのは悪いかなって思っただけよ」

「パフェを二人で食べるって……そういうのは苦手なので、僕に勧めてこないでくれますか」
 コーヒーカップを手に持つ彼に冷たくあしらわれたが、それはそれで全く構わない。

「じゃあ、遠慮なく独り占めさせていただくわね」と伝え、自分の方へ、金魚鉢のようなパフェグラスを引き寄せた。

 そしてすぐさま、パクっとアイスを一口含む。
 味の感想なんてうまく言えない。チョコが濃くて美味しい、その一言に尽きるもの。う~ん、甘くて幸せだ。

 妙にお腹が空いており、黙々と食べ進めてしまう。
 すると、静かにわたしを見ていたアンドレが、くすくすと笑いだした。

「ジュディは、随分と美味しそうに食べますね」

「ふふっ、すっごく美味しいわよ」
 ご馳走してくれてありがとうと、満面の笑みで答える。

「……そう言われてしまうと、せっかく勧めてくれたパフェを断ってしまい、失敗した気がします」
 照れたようなアンドレが、目を細める。

「な~んだ。見ていたら食べたくなったんでしょ? 食べてもいいわよ」

 と伝えた直後のことだ。
 鋭い視線を感じ、バッと横を見る。
 すると、わたしの真横に見知らぬ若い男二人が立っているではないか。

 まあ、顔を見たところで誰か分かるはずもない。けれど、向こうはわたしを知っているのだろうか?

 軍服姿の彼らが、わたしを食い入るように見ていた。

 何かしら! と強気に問いただしたいのは山々だが、相手は軍人だ。
 トラブルになる前に、一先ずアンドレに確認すべきよね。
 そう考えて、アンドレに視線を向ける。

 そうすれば、男の一人が口を開き、それにすかさずアンドレが反応した。

「この子、アンドレの彼女か?」
「いいえ、違いますよ」

「朝、湖畔にいた子だろう。ナグワ隊長が、昨日の夕方その子を見かけて気になっているんだよ。ちょっと、その子を貸して欲しいんだけど」

「二人は夜警開けなんでしょう。くだらない事をしてないで、早く寄宿舎へ戻って休んだらどうですか」

 わたしでさえ振るえ上がりそうな低い声で、冷たくあしらう。
 そうすれば、彼らとの間にピリピリと緊張感が走る。まあ当然だ。

「うっさいな! アンドレには関係ないから、その女を貸せよ」
「そんなことをしても第一部隊に昇格はできませんよ。二人には実力が足りませんからね」

 気が立つ彼ら二人は、ふんと鼻を鳴らすと再びわたしを見た。

「まあいいや。直接俺たちが彼女を口説くから」
 と言った男の一人が、わたしの横の席に座ろうと動いた。
 だが……。
 彼らが腰を下ろすより先に、アンドレがわたしの元まで静かにやってきて、手を差し出す。

「ジュディ、第二部隊の方たちがこの席に座りたいようです、僕たちは出ようか」
「うん」と返答するかどうかのタイミングで、その場から動き出す。

「おい待てよ」と、男二人の声が重なるが、アンドレが気にする様子もないので、わたしも無視に徹する。

 店内から出る直前。「行くな」と呼び止める彼らの声を、背中で聞き流し、アンドレに訊ねる。

「お会計は?」
「机の上に置いたから、問題はありません」
 そう言った彼に手を引かれ、店の外に出て一息つく。

「ジュディに怪我はないですか?」
 彼はサッと足の甲を見た。
 流石に店内で手を繋いで歩く速度くらいで足がもつれるほど、鈍臭くないしと思いながら、「ええ、大丈夫よ」と伝える。

「あのパフェが、朝ごはんと言えるのか分からないですが、ジュディの朝食を逃してしまい申し訳ないですね」

「別にアンドレが悪い訳じゃないでしょう。それより、彼らは軍服を着てたけど、何なの?」

「今年の試験で、第一部隊から第二部隊に降格した兵士たちですよ。どうしても昇格したくて、第一部隊の隊長にゴマをすっている連中で、タチが悪いから近づかないでくださいね」

「わたしなんかに、どうして絡んできたのかしら?」
 訳が分からないと、首を傾げる。

「僕のせいですね。第一部隊長は、僕が事務所を占有しているのを不満に思っているので、何かにつけて僕に絡んでくるんですよ。昨日、ジュディを事務所に運んでいるのを見ていたから、勝手にライバル心を抱いて奪い取ろうとしているだけです」

「それって、カステン辺境伯が仰っていた隊長のことよね」

「ええ、そうです。まあ、何かあればすぐに相談してください。僕がなんとかするので」

「ありがとう。何かあったらすぐに相談するわ」と言えば、彼は静かに頷いた。

「さて、どうしましようか。どうせ、次のお店へ行っても彼らが付いてくるだけでしょうし、このまま関所へ案内してもいいですか」

 その言葉に頷いたわたしは、泣く泣くパフェを諦め、馬車停めに戻る事にした。

 実は、わたしたちが目を離している馬。
 すぐに盗まれてもおかしくない、毛並みのよい相当高価な軍馬である。

 それを馬車の待機所に、無人で残してどうするのかなと思っていると、なんの問題もなかった。

 何故ってそれは、アンドレがその馬を囲うように、さっとバリケードを張ってくれたからだ。

 そもそもバリケードを自分から離れた位置に張り続けるのは、なかなかできることではない。
 凄い技術に驚いたし、こんな使い方もあるのかと感心した。

 自分で作った透明できらきら輝くバリケードを彼が消失させる。
 そして、馬によじ登れそうにないわたしを、彼が引き上げてくれた。

 わたしたちは馬を少しだけ走らせ、関所、なる所へ向かう。

 早送りのような速度で移りゆく景色。それを堪能しながら進むと、前方に何やら、人だかりが見えてきた。

「ねぇ……。あの恐ろしいまでに長い行列は、何かしら?」

「あの先に、東の国へ抜ける関所とゲートがあるんですよ」
「ゲートって何かしら?」

「魔力のある者は、結界に阻まれて国境を超えられないからね。東西南北にあるゲートだけが、魔力を持つ存在の出入りを可能にしているんですよ。この行列の先は出国専用で、もう少し離れた所に入国用のゲートがあるので」

「へぇ~そうなんだ。だけど、どうしてさっきから、列が全然進まないのかしら?」

 先ほどから行列を眺めているが、一向に前へ進んでいる気配が見えない。
 自分たちが、前方に進んでいるからそう感じてしまうのか分からないけど、列はピタリと静止したままに思える。

 馬がどんどんゲートに近づくにつれ、列の先頭の人物が見えてくる。
 どうやら、そこに立っている人は、ずっと変わっていない事に気づく。

 黄色い服を着た、やけに目立つ男性がいつまでも同じ場所に立ち続けている。
 よく目を凝らして窺うと、その男性の直前に一本の紐がバリケードのように張られ、そこを先頭にして並んでいるみたいだ。

 ゲートを抜けるだけで、これほど待たされるとなれば、列の最後尾にいる人たちが大きな門に近づくまで、四時間以上、平気でかかりそうに思える。効率が悪い。

「ゲートの先に魔物がいるか。それとも、詐称した身分証で出国を目論む者とトラブルになっているんでしょう。どちらもよくある事なので」

「なるほどねぇ。じゃあ今は、土に潜って身を隠している、土蜘蛛のせいでこの列が動いていないのね。ゲートを出てすぐの地中に隠れているのに、どうして気づかないのかしら?」

「……え? ジュディ?」
 それを聞いたアンドレが固まった。
 わたしは何か変な事を言ったのだろうか? アンドレが目をパチクリさせ、ぽかんとしている。

「アンドレは、どうかしたの?」

「普通は魔力量と魔力感知は比例しているから、わずかに漏れる魔力をジュディが感じ取れるはずがないんだけど……あなたは魔力がないのに、魔力を感知できるんですか?」
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