記憶と魔力を婚約者に奪われた「ないない尽くしの聖女」は、ワケあり王子様のお気に入り~王族とは知らずにそばにいた彼から なぜか溺愛されています
瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
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第2章 あなたは暗殺者⁉
喜ぶフィリベール王太子①
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◇◇◇SIDEフィリベール
リナが乗る馬車がガラガラと音を立てて出発してしまい、一人になった。
天を見上げると、リナの美しい瞳のように澄んだ空色が広がる。
なんだか、一晩中一緒に過ごした彼女がいなくなったことで、侘しい気持ちにさせられる。
昨日の朝からずっと共にいたのに、早くリナに会いたいと思うのだから、間違いなく真実の愛だな。
相思相愛の妃を持てることになり、今の自分は最高に幸せだ。
自分の執務室へ向かうより先に、国王陛下の執務室へと足を運ぶ。
私の結婚相手は妹のリナだ。何かにつけて鼻につくジュディットではない。それを報告するつもりでいる。
あの女……。今思い返しても気分が悪い。
式典がただ面倒という理由で、常々公式行事をサボるジュディットは、どこまで自分勝手な女だった。
極めつけは、ジュディットのやつは、私が幼い頃に練習でかけた避妊の魔法契約を逆手に取り、他の男を屋敷に連れ込んでいたとリナから聞いた。
あの女が魔物の討伐に、わざわざ連れ立っていくのを不審に思っていたが、騎士団の男とデキていたとは。
王太子の婚約者が何を考えているのだ。前代未聞だろう。許しがたい。
自分の名声を上げるため、禁術である黒魔術を使ったことも許しがたいが、平然と不貞を働く性根の悪さは断じて受け入れられない。
最低最悪な女だ。真実をリナに教えてもらえ、心底良かった。
私はジュディットと結婚するものだと信じきっていたが、こんな直前まであの女の本性に気づかなかったとは、自分が情けない。
忌々しいジュディットは、王室とは無関係であると、一刻も早く国民に報告したいのだ。
とはいえ少々気になるのは、やはり陛下の反応だ。
ことある度にジュディットを贔屓目で見ていたからな。王妃と二人で。
だが、そんな陛下だって、ジュディットが他の男と駆け落ちを目論み逃げたと告げれば、事実を受け止めるだろう。
あの女は、国母に相応しくない。到底無理だと。
自分の部屋を素通りすれば、国王の執務室に到着した。
この場所へあまり来ることはないが、近い将来この部屋は自分のものになるのだ。
真っ赤に塗られた扉には、金の装飾が施されており、ルダイラ王国の一番高貴な部屋であることを主張している。
この扉の艶やかな赤は、海を超えた遠くにある国から取り寄せたと聞く。
獅子の顔を形どったドアノッカーで訪問を知らせ、「私です。フィリベールです」と発し、扉を開く。
陛下が私を見れば、訪問の用件について皆目見当もつかなかったのだろう。不思議そうな顔を浮かべる。
「珍しいな……何かあったのか?」
「ええ。少々申し上げにくい事態が起こりまして」
「ふっ。この国は多少のことがあっても問題とはいえないだろう」
私としては苦々しい顔で報告してみたものの、陛下は嘲笑うだけ。全く気にも留めず、あっけなく受け流された。
――それもそのはず。
ルダイラ王国は八十か国が属する大陸の中にあり、その中で最強といっても過言ではない、いわば強国なのだ。
魔物の侵入を防ぐ鉄壁の結界を、筆頭聖女である母上がこの国全体に張り巡らせ、魔物の被害を受けない状態が続いている。
そのうえ王宮の優秀な騎士団の働きによって、周囲に集まる魔物から希少な素材を集め、国の利益に換えている。
生活水準が潤った我が国は中央教会とも結束し、魔力なしの貧民にも手を差し伸べる策を講じる。
そう、この国ではすっかり有名になっている、魔力の結晶の無償配布までしているのだ。
それ故、安全で豊かな国民の暮らしがここ何年も続いている。
――いうなれば、我が国には一切の綻びはない。
「婚約者のジュディットが、他の男との駆け落ちを目論んで失踪いたしました」
「ジュディット様が失踪? 何を馬鹿な冗談を言っている」
「いいえ冗談ではありません。誠の話です。昨日、ジュディットは禊の儀にも現れませんでしたから」
「現れなかった……?」
「私としては既に彼女との関係を割り切っているので問題はないのですが、ジュディットはドゥメリー公爵家の屋敷から飛び出し、姿をくらませました」
「な、何だって! そ、そ、そ、それは一大事ではないか! 結界は、どうなっている⁉」
「結界? 何を仰っているんですか? それは母上である王妃殿下が張られているんですよね」
「ちッ、違う。対外的な体裁を取り繕うために、そういうことにしているだけで、実際、十五年近く結界を守ってきたのはジュディット様だ」
それを言い切る前から、血相を変えて動き出す国王陛下。父は座っていた椅子をガタンッと倒しながら立ち上がると、窓に駆け寄り、真っ青な顔で窓の外を眺めている。
「焦ることはありません。空からの魔物の襲来もないですし、結界は維持しているのでしょう。今、ジュディットの妹であるリナが中央教会にいますから」
「リナ殿が……。それならとりあえずは、安心していいのか……」
「ええ。問題はないでしょう」
多少驚きはしたが、案ずるまでもない。
結界の話は想定外だったが問題はないからな。
ジュディットにできたんだ。リナに限って、できない事は存在しない。自信を持ってそう告げた。
「どうしてジュディット様が、王太子のお前との結婚を拒んだのだ。……納得がいかん」
「それは不徳のいたすところです。私もジュディットが昨日『禊の儀』に現れない、その時まで、他の男と体の関係があることを知りませんでしたから」
「ジュディット様が……。他に心惹かれた存在がいたというのか?」
「ええ、信じられませんが事実です」
「だが昨日の『禊の儀』には、お前の横に、確かに女性の姿があったではないか。あれは誰だ⁉」
全身で困惑を示す陛下が、私のことを訝しむ。
どうしてジュディットごときに、これほどまでに狼狽するのか分からない。腹立たしい。
ましてや、この私をお前と呼んでおきながら、ジュディットには様を付けやがって。
以前から聖女を持ち上げるこの態度が気に入らなかったが。今、リナには様を付けなかっただろう。それを有耶無耶にして許すことはできない。
腹の底では、ジュディットが黒魔術を使ったと打ち明けたいところだ。
だが、それでジュディットが国中に手配されるのは面倒だ。
発見されたあの女が、記憶と魔力が封印されているのを知られれば、私が闇魔法を使ったと疑われかねない。
許可も取らずに行使した闇魔法だし、ジュディットを探し出されるのは、できれば避けたい。
ここは黒魔術の件を持ち出すことなく、ジュディットの不貞のみを知らせることにした。それで十分だしな。
「昨日、禊の儀にいた女性は、ジュディットが儀式から逃げたと私に知らせてくれたリナです。ジュディットが私以外の男と懇ろの関係になっているのを見ていられなかったと教えてくれました」
「馬鹿者ー! お前はリナ殿と聖なる泉に入ったというのか。どうして何も言わなかった! それならば儀式は中止にしたのに――」
リナが乗る馬車がガラガラと音を立てて出発してしまい、一人になった。
天を見上げると、リナの美しい瞳のように澄んだ空色が広がる。
なんだか、一晩中一緒に過ごした彼女がいなくなったことで、侘しい気持ちにさせられる。
昨日の朝からずっと共にいたのに、早くリナに会いたいと思うのだから、間違いなく真実の愛だな。
相思相愛の妃を持てることになり、今の自分は最高に幸せだ。
自分の執務室へ向かうより先に、国王陛下の執務室へと足を運ぶ。
私の結婚相手は妹のリナだ。何かにつけて鼻につくジュディットではない。それを報告するつもりでいる。
あの女……。今思い返しても気分が悪い。
式典がただ面倒という理由で、常々公式行事をサボるジュディットは、どこまで自分勝手な女だった。
極めつけは、ジュディットのやつは、私が幼い頃に練習でかけた避妊の魔法契約を逆手に取り、他の男を屋敷に連れ込んでいたとリナから聞いた。
あの女が魔物の討伐に、わざわざ連れ立っていくのを不審に思っていたが、騎士団の男とデキていたとは。
王太子の婚約者が何を考えているのだ。前代未聞だろう。許しがたい。
自分の名声を上げるため、禁術である黒魔術を使ったことも許しがたいが、平然と不貞を働く性根の悪さは断じて受け入れられない。
最低最悪な女だ。真実をリナに教えてもらえ、心底良かった。
私はジュディットと結婚するものだと信じきっていたが、こんな直前まであの女の本性に気づかなかったとは、自分が情けない。
忌々しいジュディットは、王室とは無関係であると、一刻も早く国民に報告したいのだ。
とはいえ少々気になるのは、やはり陛下の反応だ。
ことある度にジュディットを贔屓目で見ていたからな。王妃と二人で。
だが、そんな陛下だって、ジュディットが他の男と駆け落ちを目論み逃げたと告げれば、事実を受け止めるだろう。
あの女は、国母に相応しくない。到底無理だと。
自分の部屋を素通りすれば、国王の執務室に到着した。
この場所へあまり来ることはないが、近い将来この部屋は自分のものになるのだ。
真っ赤に塗られた扉には、金の装飾が施されており、ルダイラ王国の一番高貴な部屋であることを主張している。
この扉の艶やかな赤は、海を超えた遠くにある国から取り寄せたと聞く。
獅子の顔を形どったドアノッカーで訪問を知らせ、「私です。フィリベールです」と発し、扉を開く。
陛下が私を見れば、訪問の用件について皆目見当もつかなかったのだろう。不思議そうな顔を浮かべる。
「珍しいな……何かあったのか?」
「ええ。少々申し上げにくい事態が起こりまして」
「ふっ。この国は多少のことがあっても問題とはいえないだろう」
私としては苦々しい顔で報告してみたものの、陛下は嘲笑うだけ。全く気にも留めず、あっけなく受け流された。
――それもそのはず。
ルダイラ王国は八十か国が属する大陸の中にあり、その中で最強といっても過言ではない、いわば強国なのだ。
魔物の侵入を防ぐ鉄壁の結界を、筆頭聖女である母上がこの国全体に張り巡らせ、魔物の被害を受けない状態が続いている。
そのうえ王宮の優秀な騎士団の働きによって、周囲に集まる魔物から希少な素材を集め、国の利益に換えている。
生活水準が潤った我が国は中央教会とも結束し、魔力なしの貧民にも手を差し伸べる策を講じる。
そう、この国ではすっかり有名になっている、魔力の結晶の無償配布までしているのだ。
それ故、安全で豊かな国民の暮らしがここ何年も続いている。
――いうなれば、我が国には一切の綻びはない。
「婚約者のジュディットが、他の男との駆け落ちを目論んで失踪いたしました」
「ジュディット様が失踪? 何を馬鹿な冗談を言っている」
「いいえ冗談ではありません。誠の話です。昨日、ジュディットは禊の儀にも現れませんでしたから」
「現れなかった……?」
「私としては既に彼女との関係を割り切っているので問題はないのですが、ジュディットはドゥメリー公爵家の屋敷から飛び出し、姿をくらませました」
「な、何だって! そ、そ、そ、それは一大事ではないか! 結界は、どうなっている⁉」
「結界? 何を仰っているんですか? それは母上である王妃殿下が張られているんですよね」
「ちッ、違う。対外的な体裁を取り繕うために、そういうことにしているだけで、実際、十五年近く結界を守ってきたのはジュディット様だ」
それを言い切る前から、血相を変えて動き出す国王陛下。父は座っていた椅子をガタンッと倒しながら立ち上がると、窓に駆け寄り、真っ青な顔で窓の外を眺めている。
「焦ることはありません。空からの魔物の襲来もないですし、結界は維持しているのでしょう。今、ジュディットの妹であるリナが中央教会にいますから」
「リナ殿が……。それならとりあえずは、安心していいのか……」
「ええ。問題はないでしょう」
多少驚きはしたが、案ずるまでもない。
結界の話は想定外だったが問題はないからな。
ジュディットにできたんだ。リナに限って、できない事は存在しない。自信を持ってそう告げた。
「どうしてジュディット様が、王太子のお前との結婚を拒んだのだ。……納得がいかん」
「それは不徳のいたすところです。私もジュディットが昨日『禊の儀』に現れない、その時まで、他の男と体の関係があることを知りませんでしたから」
「ジュディット様が……。他に心惹かれた存在がいたというのか?」
「ええ、信じられませんが事実です」
「だが昨日の『禊の儀』には、お前の横に、確かに女性の姿があったではないか。あれは誰だ⁉」
全身で困惑を示す陛下が、私のことを訝しむ。
どうしてジュディットごときに、これほどまでに狼狽するのか分からない。腹立たしい。
ましてや、この私をお前と呼んでおきながら、ジュディットには様を付けやがって。
以前から聖女を持ち上げるこの態度が気に入らなかったが。今、リナには様を付けなかっただろう。それを有耶無耶にして許すことはできない。
腹の底では、ジュディットが黒魔術を使ったと打ち明けたいところだ。
だが、それでジュディットが国中に手配されるのは面倒だ。
発見されたあの女が、記憶と魔力が封印されているのを知られれば、私が闇魔法を使ったと疑われかねない。
許可も取らずに行使した闇魔法だし、ジュディットを探し出されるのは、できれば避けたい。
ここは黒魔術の件を持ち出すことなく、ジュディットの不貞のみを知らせることにした。それで十分だしな。
「昨日、禊の儀にいた女性は、ジュディットが儀式から逃げたと私に知らせてくれたリナです。ジュディットが私以外の男と懇ろの関係になっているのを見ていられなかったと教えてくれました」
「馬鹿者ー! お前はリナ殿と聖なる泉に入ったというのか。どうして何も言わなかった! それならば儀式は中止にしたのに――」
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