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第2章 あなたは暗殺者⁉

わたしは誰④

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「な~んだ。ジュディちゃんったら、おっちょこちょいだね。間違って使い終わったガラス玉を持ち歩いてちゃあ、水道だって使えないさ」

「え⁉ 使い終わっている?」

「そうだよ。ほらっ、このガラス玉の真ん中。一本、線が入っているだろう」

 そう言ってガラス玉を返されると確かに線は見える。
 けれどそれがどうした? 元からある模様ではないか?

 何のことやらと反応できずにいれば、エレーナが続ける。

「魔力がなくなった印でしょう」

 大司教のガラス玉を使う者であれば、当然知っているだろうという口ぶりで言われた。

 ――けれど、ちっとも知らない。
 全くの初耳である。

 どうしてだろう……。

 土蜘蛛の知識は、当たり前のように頭の中にあった。
 魔力なしが生活に苦労する話も。

 それなのに、この大司教のガラス玉に関しては、記憶の欠片も残っていない。

 これまでの生活で、毎日、使っていたはずなのに。
 そうでなければ、使い終わったガラス玉がポケットに入っていないだろう。

 これがポケットに入っていた理由を探ろうとすれば、頭が割れるように痛い。
 これ以上考えるなと誰かが訴える。何かの警告みたいに。

「はい、これジュディちゃんに一つあげるよ。ないと困るだろう。無駄に使わなきゃ、一か月は持つから。次、カステン辺境伯様が王都へ行く時に、ジュディちゃんの分ももらってきてもらうから、安心してお使い」

 にこにこと屈託なく笑うエレーナさんから、別のガラス玉を握らされた。

 ……どうしたものか。

 ――情けないが、同じものが部屋にたんまりとある。
 心から心配してくれているエレーナさんに申し訳ない。

 まさかわたしが、転売疑惑を向けられる程、わんさとガラス玉を持っているとは思っていないよね……普通に。

 ――立つ瀬がない。

 そう思って、つとアンドレへ視線を向ければ、天井を見て必死に笑いを堪えているし。

 内心笑っている彼はどうせ、碌な事を考えていないはずだ。

 そうこうしているうちに、エレーナさんへ、ガラス玉を返すタイミングをすっかり見失ってしまう。

 当然のことながら今は手持ちのガラス玉はコレだけだし、このまま借りておきたい。別の機会に新品を返すとするか。

「大司教のガラス玉。わたしの部屋に新しいのがあるので、後でお返ししますね」

「違う、違う。そのガラス玉は、大司教様の手柄にしているだけで、実際に作っているのは王太子殿下の婚約者様だよ、絶対」

 それを聞いたアンドレがわたしより先に食いついた。

「僕は聞いたことはないですが、それは間違いないのですか? 王太子殿下の婚約者はドゥメリー公爵家のご令嬢ですよね、彼女が?」

「そうそう。その婚約者様は、私らみたいな魔力のない者に無償で配ってくれているんだから、できたお方だよ」

「どうして、その婚約者様が作った物だと分かるんですか?」
 アンドレに続いて、わたしもエレーナさんへ疑問をぶつける。

「だってぇ、これが配られ始めたのは、約十年前に次期筆頭聖女様が公表されたのと同じ時からだよ。今、六十歳を超えている大司教様がこのガラス玉を作れるなら、とっくに作っていたでしょうに」

「気づけばこの国に広がっていた気がしますが、エレーナはよく覚えていますね」

「当然さ。このガラス玉のおかげで生活が楽になったんだもの」

「ねえ、それって婚約者様が国民に名前を売る好機なのに、もったいないんじゃない。わたしには理解できないわ」

「ドゥメリー公爵家のご令嬢は、自分の功績を隠してまで国民のために尽くしているのか……」

「やっぱり理解できないわ」
 変わった人もいるもんだと、首を傾げる

「ジュディも王太子殿下の婚約者を見習うといいですよ。ジュディときたら、あんなに大量にポケットへ押し込めて、くくっ」

 わたしの部屋に売る程あるガラス玉を思い出したアンドレが、またしても揶揄う。

 独りよがりで悪かったわねと、彼をギロリと睨んでみたものの、楽しそうな顔は少しも崩れる気配はない。

 もういいやと、気を取り直しエレーナに確認する。

「じゃあ、このガラス玉を作ったのは、王太子殿下の婚約者なんですね……」

「ああ間違いないさ。私なんてね、もう九年、王太子殿下の婚約者様のいる王都に足を向けて寝てないんだよ。もうすぐある結婚式のパレードで、この辺を通過するのを楽しみにしているんだから」

「エレーナさん……」
 急に目頭が熱くなり、涙が頬を伝う。

「ジュディちゃんどうしたんだい。ごめん、おばさん泣かせるような変なことを言ったかい?」

「……いいえ。このガラス玉が、あまりにも嬉しくて」

「そうかい、そうかい。べっぴんさんは、泣いてもべっぴんさんだね」

 ――何も分からない。

 ほんの一欠けらも過去の自分を思い出せないのに、どうしてか、エレーナさんの話を聞くと、ぼろぼろと涙が止まらなかった。

◇◇◇
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