59 / 112
第2章 あなたは暗殺者⁉

離したくないあなたは……僕の暗殺者③

しおりを挟む
◇◇◇

 兵士の部屋へ入った直後。さてどうしたものかと時が止まる。
 
 全く予期していなかったのだが、いざシーツを敷こうとベッドの前に立つと、どうしてよいのか分からない。

 アンドレが一緒にいなければ、わたしはどうするつもりだったのだろう。情けない。

 横に立つアンドレの顔をちらりと窺えば、困惑するわたしとは裏腹に、目尻を下げる彼は妙に楽しげだ。

「どうかしましたか?」と尋ねられ、気まずい空気が流れる。

「ねえ、ちょっと申し上げにくいことを伝えしてもよろしいかしら」

「ジュディが言いたいことは、大体の察しがつきましたが、まあ、聞いてあげましょう」

「それなら遠慮なく言うわね」
「どうぞ」

「シーツって、どうやって敷くのかしら? 上に乗せるだけじゃないわよね。全く分からないんだけど」

「くくっ。相変わらず残念すぎるまだらな記憶ですね」
「変ねぇ……」

「だけど、ジュディがシーツを剥がしていたんでしょう」

「あの時は急いでいたから、やっつけ仕事で引っ剥がしてしまったのよ。ちゃんと見ておけばよかったわね」

 わたしとしては至って真剣なのに、クツクツ笑うアンドレがやたらと楽しそうにしている。

 笑わすつもりはない。止めてよねと、彼をじぃーっと見つめる。
 何度も言うが、わたしは至って真面目だ。

「くくっ。どうやって記憶を失うと、そんな都合よく忘れられるんでしょうか」

「そんなのは、わたしが聞きたいわよ。ほらっ、自分から付いてくるって言ったんだから、分かりやすく教えてよね」

「教えてもいいですが、ジュディが敷いたと伝えれば、上に乗せるだけでも誰も文句を言わない気もするけどね」

 ――またしてもこれだ。

 適当な仕事の犯人をわたしにすれば、万事大丈夫と押し付ける手法である。
 日ごろ真面目なくせに、なんの根拠もない自信を持ち、大雑把な提案を平気で言い始めた。

 それではわたしが納得しない。断固拒否だ。

「アンドレはわたしのことを勘違いしているわね。こう見えても完璧主義なのよ。適当な仕事はしたくないの」

「へぇ~、完璧主義ね。それは僕としては困ったものですが、主義としては僕も同じなので、ちゃんとやりますか」

 気合の入ったアンドレから、「さあそっちを持って」と洗い立てのシーツの端を持たされた。
 マットの下に折り込んで、端は三角形に角を作るらしい。

 いざと意気込みベットの両サイドにそれぞれが立ち、マットレスを持ち上げシーツを折り込んだ。
 すると、すぐさまアンドレの指導が飛ぶ。

「ジュディ! 引っ張り過ぎです!」

「そんなことはないでしょう。これくらいないと、ちゃんと折り返せないもの」

「こっちは全然足りませんよ。見てください、綺麗に折り込んだのに、ジュディが無理やり引っ張るからマットが出ていますよ」

「あら……変ねぇ。つい夢中になって見えていなかったわ」

「これまでだってシーツくらい敷いたことがあるでしょうに」
「う~ん、やっていれば感覚が戻るかと思ったけど、さっぱりだわ」

「くくっ、もう面白くてお腹がよじれそうです」
 またしても、わたしを揶揄う。

「ちょっと失礼しちゃうわね」

「だって、『魔法は使えない』とぶつぶつ文句を言っておきながら打ち込んだ雹弾は、寸分の狂いもなかったのに。シーツは本当に敷けないんですから。とんだ雑役兵ですよ。くくっ」

「まさか、クビにしたりしないわよね」
 アンドレを見つめ、恐る恐る口にする。

「しませんよ。森でジュディを拾ったよしみですから、とことん付き合ってあげますよ。明後日の夜は、ジュディの歓迎会だってエレーナが言っていましたし、ずっとここにいてください」

 柔らかい笑顔を見せるアンドレに、「助けて欲しい」と、自分の胸騒ぎを打ち明けたい気持ちに駆られる。
 まるで彼に縋るように、口が自然と動いていた。

「あのね……」
 と、弱々しく言いかけてみたものの、少し前の出来事をハッと思い出したため口を噤む。
 イヴァン卿に釘を刺されたのだ……。危なかった。

「うん? どうかしたんですか?」

「いいえ、魔猪を食べるのが楽しみだなぁって」
「そうですね。ジュディは捕獲者だから、たくさん食べるんですよ」

 その後、魔猪について熱く語りながら、雑役兵の仕事をこなしていった。

◇◇◇
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

「君を愛することはない」と言われたので、私も愛しません。次いきます。 〜婚約破棄はご褒美です!

放浪人
恋愛
【「愛さない」と言ったのはあなたです。私はもっとハイスペックな次(夫)と幸せになりますので、どうぞお構いなく!】 侯爵令嬢リディアは、建国記念舞踏会の最中に、婚約者である王太子レオンハルトから婚約破棄を宣言される。 「君を愛することはない!」という王太子の言葉は、国中に響く『公的拒絶誓約』となってしまった。 しかし、リディアは泣かなかった。 「承知しました。私も愛しません。次いきます」 彼女は即座に撤退し、その場で慰謝料請求と名誉回復の手続きを開始する。その潔さと有能さに目をつけたのは、国の行政を牛耳る『氷の宰相』アシュ・ヴァレンシュタインだった。 「私の政治的盾になれ。条件は『恋愛感情の禁止』と『嘘がつけない契約』だ」 利害の一致した二人は、愛のない契約結婚を結ぶ。 はずだったのだが――『嘘がつけない契約』のせいで、冷徹なはずの宰相の本音が暴走! 「君を失うのは非合理だ(=大好きだ)」「君は私の光だ(=愛してる)」 隠せない溺愛と、最強の夫婦による論理的で容赦のない『ざまぁ』。 一方、リディアを捨てた王太子は「愛さない誓約」の呪いに苦しみ、自滅していく。 これは、悪役令嬢と呼ばれた女が、嘘のない真実の愛を手に入れ、国中を巻き込んで幸せになるまでの物語。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。 「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」 ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。

処理中です...