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第2章 あなたは暗殺者⁉

離したくないあなたは……僕の暗殺者⑤

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 隊長との買い物を断ったのだから、上司として満足なはずだ。『文句はないでしょう』と、アンドレに向かって顎を上げる。

 せっかくの誘いを断ってみたが、「欲しいものがない」というのは嘘になる。
 けれど、アンドレがやたらと機嫌が悪いのは、わたしが仕事をサボッてばかりいるからだろう。

 休憩時間だからといって、いつもいつも出歩いてばかりではいけないのかもしれない。
 まあね、確かにそうだ。改めて考え起こせば、カステン軍に雑役兵として雇われたにもかかわらず、真面な仕事をちっともしていない気がする。

 だが、隊長は余程暇なのか? 買い物の誘いを断られたにもかかわらず、むしろ嬉しそうににっこりと笑い、違う切り口の提案をしてきた。

「それでは、明日こそ俺の部屋でお茶をしましょうか? 分からないこともいっぱいあるでしょうし、不安もあるでしょう。俺が色々教えてあげますよ」
「そうね」と返答しかければ、アンドレが今にも立ち上がりそうな勢いで大きな声を出した。

「ジュディ! 二人きりでお茶をする前に、欲しいものはあるでしょう。ナグワ隊長が何か買ってくれると仰るのですから、お言葉に甘えるとよろしいですよ!」

 え……。今の会話。何だってアンドレが怒るのよ――。部屋でお茶ぐらいいいじゃない。

 真っ直ぐわたしを見つめるアンドレの提案に、こてんと首を傾げる。

 明日の休憩時間の過ごし方にちゃちゃを入れるアンドレは、わたしがナグワ隊長と悠長にお喋りをする前に、暮らしを整えろと言いたいのだろうか?

 もう! いちいちアンドレの心境を汲むなんて、難しいわよと困惑が深まる。

 そんな風に思っていると、馬車が角を曲がり、体に遠心力がかかる。
 それを気にしてくれたのだろう。ナグワ隊長がわたしの体をぐいっと抱き寄せてくれた。

 肩に回された腕。隊長に深い意図はないと分かっているのに、きゅっとして照れくさい。
 いや違う。なんだか胸の中がざわざわする……。

 誰かと馬車に乗ってこんな時間を過ごしてみたいと思っていたのかしら?

 ――ううん、そうじゃない。何か予定があって、それを心待ちにしていた感覚の方が近い気もする。

 どんな予定があったのだろうかと、頭をフル回転させた。……帰省? 違うな。
 誰かと旅? そう考えた瞬間、全身にぞくりと悪寒が走った。妙な緊張感と不安。

 ――今の感情は何⁉

 ナグワ隊長からすぐさま離れ、気まずくなって下を向く。すると、ほころびた靴が目についた。

 やだわ、確かにこの靴はないな。
 欲しいものがすぐに見つかったわたしは、少し前のアンドレの提案に納得して、ナグワ隊長の意向を窺うように、甘えた顔を向ける。

「隊長から、他にも買ってもらってもいいかしら?」

「もちろん! 明日こそデートですね。どこへ行きたいか考えておいてくださいね」

 隊長が満面の笑みを浮かべたが、それはアンドレによってかき消された。

「隊長は非番でも。ジュディはあくまでも、休憩時間に買い物へ行くだけだと忘れないでくださいね」

 わたしに早く部屋を出ていって欲しいアンドレから、遊び惚けるのを許さないと釘をさされたため、大人しく「ええ」と答えておいた。

 ――嫌だな。なんだか馬車の空気が険悪だ。

 よく分からないけれど、向かいに座るアンドレが、いちいちナグワ隊長に嫌みな言い方ばかりするから、重苦しい雰囲気に包まれている。

 そのとげとげしい空間から逃れたいために、一刻も早く服屋に着けと願ってしまう。

 まあ、狭い辺境伯領においては、それから大して時間もかからず店の前に馬車が停止したけれど。

 ◇◇◇

 息苦しい馬車から降り立ったわたしは、新鮮な空気を目いっぱい肺の奥まで吸い込む。
 そうして入店した服屋は、数日前にアンドレと来たばかりだ。

 その時の彼はわたしの買い物には全く興味なさげに、そっぽを向いていたのだが、今日のアンドレはわたしの横にピッタリと張り付いたまま離れることはない。

 それもそうだろう。彼も冬用の厚地の寝衣を欲していると話していたし、目的の商品はわたしと同じ場所にあるのだから。
 至って普通に、彼と並んで商品棚を見つめる。

 寝衣は服よりもバリエーションが少なく、縦一列に陳列されているのみだ。

 婦人物は、上下に分かれたパジャマと、ロングワンピースタイプが目線の高さにある。取りやすい場所にあるこの二つが、売れ筋と思われる。
 紳士物は生地が違うパジャマとガウンタイプがあるようだ。
 
 彼が何を選ぶかはさておき、わたしの選択肢としては、パジャマにするか、ワンピースにするかを選んで、何色にするかを決めるだけで終わる。

 自分の欲しい物におよその見当を付けたところで、アンドレに顔を向けて訊ねる。

「アンドレは気に入ったのが見つかったのかしら?」

 すぐに目が合ったアンドレは、本当に寝衣が欲しいのだろうか? それとも、全く見当外れの品しか並んでいないのだろうか?

 そう思わせるくらい彼自身の買い物に無関心だ。わたしの横目でも伝わってくるくらい、あからさまに、紳士物の陳列棚を流し見で終えた。

 そして、じぃ~っとわたしを見つめている。ちょっとなんなのよ。何か付いているのかしらと、気になって仕方ない。
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