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第2章 あなたは暗殺者⁉

悪事の偽装②(フィリベール)

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SIDE フィリベール

「ふしだらな娘で、王太子殿下に何と申してよいか……。ですが、今ならそこに身を寄せて日も浅いですし、特定の人物と親密という状況ではないはずです」

「まあ、そうだろうな」

「殿下が直接寄宿舎へ迎えに行きますか?」

「いや。寄宿舎へはドゥメリー公爵が一人で迎えに行け。私がカステン辺境伯と顔を合わせれば、面倒なことになる」
「承知しました」

「ジュディットの身元が知られるのはまずい。公爵家の名前もジュディットという名前も出すなよ。家紋の付いていない馬車で訪ね、身分も名前も一切明かすな」

「はぁぁ~……。それで先方は信用しますでしょうか……。私が見た印象では、兵士たちが寄宿舎の娼婦として囲っている感じでしたので、易々と引き渡さない気もしますが」

 私の言葉を信用できないと言いたげに、懐疑的な態度を見せる。

「問題ない。できるだけ古いジュディットの姿絵を持っていき、平民を装ってジュディットを寄宿舎から連れ出せ。証拠を見たら、娼婦一人を引き渡すのに拒む理由はないだろう」

「姿絵でございますか……」

「父親が必死に探していたように見せるためにも、その髭を剃らずに、なるべく汚い格好で迎えに行け」

「承知いたしました。それでは王太子殿下には、ジュディットをいつ引き渡せばいいでしょうか?」

「カステン辺境伯領から王都へ向かうなら、山道を通るだろう。そこでジュディットを乗せたまま、馬車を崖下に落とせ。私は崖の下へ迎えに行く」

 カステン辺境伯から王都へ向かうには、近道となる山道と、ぐるっと遠回りする迂回路がある。早く移動したいなら、選ぶ道は断然山道だ。

 だが、魔力に自信のある者しか山道を選ばない。あの場所は野生の狼の保護区だ。殺傷を禁じられている狼の狩り場を通り抜けるとなれば、安易に攻撃もできず、無駄に魔力を消費する。

 騎士や兵士でさえ、魔力を温存したい傾向にあるから、大概の者は迂回路を選ぶ。ジュディットを乗せた馬車が深い森の中を通り抜けても、誰かに見つかることは、まずない。

 ジュディットの記憶喪失を事故に見せかけるには、相当に都合が良い場所だ。
 よし、よし、よし! と、笑みが零れる。
 私は神に見放されていなかった。

「待ってください! そんなことをすれば、ジュディットだけでなく私も死んでしまいます」

「馬鹿だな。風魔法を使えば、多少体を浮かせることができるだろう」

「実は私……あまり風魔法は得意ではなくて」

「何を言っている! いいから指示に従え! 事故がなければ、ジュディットの記憶喪失の説明がつかないだろう。連れ帰ったジュディットの記憶がないのは、馬車が転落した事故のせいにするのが最適だ」

「お、仰りたいことは分かりますが――。他に何かありませんでしょうか?」

「駄目だ。ジュディットを連れ戻すためには、崖から落とすのが、一番都合がいいだろう。死なない程度に風魔法を使って上手く着地しておけよ」

「むッ、無理です。私は本当に風魔法が使えません。……ましてやジュディットまで浮かせるとなると……できるかどうか分かりません」

 眉を八の字にする公爵が、青ざめながら懇願する。
 公爵家の男が風魔法を使えないと、戯けたことを言っている。嘘をつけ。

 娘のジュディットは、仕留めた飛竜が地面に落ちる直前に、完全に浮かせるほど、風魔法の使い手だと騎士たちから聞いた。
 娘ができるんだ。その父親ならできるだろう。

「他に方法はない。そうしなければ、我々がジュディットにしたことがバレるだけだ」
「私は殿下の命令に従っただけで……」

「戯けたことを言うな! 闇魔法はそもそも罪人に使う魔法だ! 罪人以外の魔力を奪う闇魔法を使うのは禁じられているんだ。ましてやこの国に結界を張っていたジュディットへ闇魔法を使ったのが発覚すれば、相当まずい事態になる。それを見ていたお前もただでは済まないぞ」

「しょ、承知いたしました。な、何とかやってみます」
「頼むぞ」

「では明朝、今日と同じ時間にカステン辺境伯軍の寄宿舎へ、ジュディットを迎えに行きます。ですので、殿下は十時ころに山道にいてください。殿下のお姿が見えたら、馬を崖に誘導いたします」

「ああ、この赤い髪が目立たないよう、黒く偽装して立っているからな。見落とすなよ」

「かしこまりました」

 よし! これで瘴気の浄化の目途が立った。明日、日が昇ったタイミングで騎士たちへこの泉を任せ、カステン辺境伯領へ向かうとするか。
 
 だがしかしジュディットのやつめ……私を窮地に追いやったくせに、男と呑気に夜着を選んでいただと……。

 まあ、この先のことは、あいつが従順に私になびけば、考えるとするか。
 記憶がない今となっては、王太子に会えば泣いて喜ぶだろう。

 ◇◇◇
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