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第4章 逃がさない

腕をすり抜けたのは……最愛のあなた②

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「もう……何ですか、落ち着いてください。あの子とは、ジュディのことですか?」

「ああッ、そうだよ!」

「彼女なら父親が迎えに来て帰りましたよ」
「父親って、ドゥメリー公爵が来ていたのか⁉ 俺の屋敷に来てないが……」

「――ぇ……?」
 目を見開くイヴァン卿の声が、耳の中でこだまし、辺りの雑音も一切聞こえない。
 ドゥメリー公爵。その言葉に激しく動揺し、そのまま時間が止まった――……。

 呼吸すら忘れていると、イヴァン卿が肩を揺すり声を張り上げる。
「聞いてるか!」

「……ぁ、ドゥメリー公爵? いいえ。全く違う名前でしたし、貴族のような素振りは全くありませんでした……が……。ぇ……。ドゥメリーって……」

「あ、あ、あの子は、ジュディット・ル・ドゥメリー。次期筆頭聖女のドゥメリー公爵家のご令嬢――ジュディット様だ」

「ぅそだ……」

「嘘じゃない! 王宮騎士師団長のパスカル王弟自らが、ここまでお迎えに来たんだよ。今、王都でまずいことになっている。彼女をどこへやった⁉」

「……ジュディは僕の刺客ではなかった……」
「ああ。そうじゃないことは確かだ!」

「どうして……ジュディット様が森に?」

「――あ~ッ、わっかんね~よ。アンドレは、彼女は魔力なしだって言ってただろう。それなのに誰があの子をジュディット様だって思うんだよ!」

「僕の見間違いではない……。魔力計測器がぴくりともしなかったことは確かだし、実際、魔力はなかったから」

 ジュディがジュディット様? 本当に……? 全く理解できず、頭の中がぐちゃぐちゃに混乱する。

「とにかくジュディット様を一刻も早く連れ戻すぞ」

 彼女は魔力がなかったのに、聖女だというのか? 彼女から魔力は感じなかった。大司教のガラス玉を握らなければ道具も使えなかったのに――何故。

 それどころか、魔力計測計でも彼女の魔力はゼロを指して動かなかった。どうしてだ……。

 聖女でありながら魔力がないのは、あり得ない。
 だけど……ジュディが本当にジュディット様なのか⁉

 それを正しく理解できていないにもかかわらず、振り返った彼女の顔が鮮明に浮かび、心臓がドクドクと激しく音を立てる。
 伸びかけた白い腕を掴まなかったことを悔やみ、口が渇く。

 父親と帰りたがらない彼女を見送って、一体、何分が経過しただろうか。
 彼女がジュディット様であるならば、実家はロンギア侯爵領にないのは確かだ。
 まずい。ジュディはどこへ向かった……。考えろ。

 あの人物は誰だ⁉ ドゥメリー公爵なのか? それとも全く関係のない人物なのか?

 そもそも公爵がジュディを連れ戻すなら、自分がドゥメリー公爵だと告げて命じるのが一番手っ取り早い。それなのに、何故、それをしなかったんだ。

 いや。あの薄汚れた男……とても公爵家の人間には見えなかった。信じられない。やつは父親ではなかったのか。

 あの男に怯えていた彼女は無事なのか⁉ 彼女のことを考えると、次から次へと疑問と不安が生じる。

「おいッ! アンドレ! 何をぼんやりしているんだ。俺の話を聞いているのかよ。ジュディット様を誰に渡したって言うんだ。誘拐だろうそれは⁉ 本気でやばいって」

「ロンギア侯爵領から来たと申し出た父親は、とても貴族には見えなかったんだ……」

「おいおい、マジで言ってんのかよ。ジュディット様が行方不明なのか……。どうしよう、俺、処刑されるんじゃないか――」

 イヴァン卿が、真っ青な顔で頭を抱えている。

 それもそうだ。筆頭聖女候補のジュディット様が何者かに連れ去られたのだ。彼女を見送った僕自身も他人事ではない。
 けれど自分の事なんかどうでもいい。それ以上に、彼女のことだ。

 間違いなくジュディを迎えに来たあの男は、訳ありだ。姿絵をどうやって手に入れ、なんの目的でジュディを連れ去ったというのだ。 

「パスカル殿下は何故、ここにジュディット様がいると目星を付けたんですか? それが分かれば追跡できるだろう」

 ジュディがカステン辺境伯領に来てから僅か五日で辿り付いたのだ。見つけられた理由が何かある。
 彼女に追跡魔法でもかけられているのだろうか? それならば探し出せるはず。

「この国に張られた結界が粗くなって、各地で魔物の侵入が相次いでいるらしい」

「それがジュディと何の関係があるんだ? まだ筆頭聖女ではないジュディット様は、結界とは無関係のはず」

「いいや。この国の結界は、もう何年もジュディット様が保っていたらしい。彼女が姿を消したせいで、魔物が各地に侵入しているんだってよ。まあ、結界の網を抜けてくるのは、魔犬や魔狼レベルの弱いやつらしいけどな」

「だとしても、それはおかしいですね。カステン辺境伯領は魔猪の侵入こそ一度ありましたが、それ以降は魔虫さえ見かけていませんよ」
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