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第4章 逃がさない

だまされない④

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「それは出鱈目だから信じないでください」

 謎にイラつく彼が告げた。だが、誰が信じるか。馬鹿にするなと言い返す。

「誤魔化さないで。もう何を言っても信じないわ」
「お願いだから、僕の言葉を信じてください」

「無理よ。……嘘つき。二度とあなたの言葉は信じない。アンドレの顔も見たくないから、どっか行ってよ」

「どうして僕が嘘つきに……イヴァン卿が余計なことをしたせいで……」

「何を人のせいにしているのよ。……頭が痛いって言った時だって……怖かった」
 彼は常々冷たい顔を見せていたのに、わたしってば馬鹿だ。ケロッと騙されていた。

「申し訳ありません……。あの時、ジュディが僕の部屋で栞を手にしていた時に気づくべきでした」

 彼が一際真剣な形相で告げたため、差し固めて鋭い視線を向ける。
「なっ、何よ‼」

「こんなことなら栞を素直に返せばよかった。せっかくあなたが僕の傍にいたのに、気づかずに申し訳ありませんでした。ジュディット様」

 アンドレは苦悶の表情を浮かべると、謝罪を口にした。

 やはりアンドレは、以前からわたしを知っていたのだ。自分の勘が正しいと判明しても、心は晴れない。

 ――そもそもジュディット様って誰だ⁉

 きっとわたしのことだろうが、名前が分かったところで、すっきりしない。
 ほらね。記憶がなければやっぱりこれだもの。

「何よ。やっぱりわたしのことを知っていたのね。アンドレはわたしに何をしたの? どうして記憶がないのよ」

「僕はジュディに何もしてません。ですが、あなたの記憶を取り戻す事ならできるはずです」
 彼の片手が首に触れる。

「いやよ。わたしに触らないで。アンドレは信用ならないもの。もう一緒にいてくれなくて結構だわ。大嫌いだからどこかへいって。人を崖から落として、愛しているだの、好きだの、異常だわ」

「これだけ言っても信じてもらえないのでしたら、少々手荒なまねに出るしかないようですね」

 そう言って、アンドレが無理やりわたしの体をぐいっと引くため、真っ直ぐ立っていられなくなる。

 ふらっとするわたしは、よろけるように彼の胸に顔を預けてしまう。

「やめて!」
 悲鳴を上げたが彼は全く聞き入れる様子はない。

 そして彼がわたしの額に手を当てると、そこが光っているように、視界がぼんやりと明るくなる。

 その事象。何をされているか思い当たる節がある。紛れもなく魔法契約だ。
 わたしの体に鎖を繋ぐ真似をされては、たまったもんじゃない。

「やだ、やだ、やだ。魔法契約じゃない。何の契約をわたしと結ぼうとしているのよ。それをかたに脅す気でしょ。やめて」

「いいえ。あなたがフィリベール殿下に結ばれた魔法契約のうちの一つを、解呪しているだけです」

「嘘ばっかり、離してよ。魔法契約は術者との血の契約だわ。本人にしか解呪できないのに、意味不明なことを言って誤魔化さないで」

 興奮気味に言い終えたところで、頭の中にたくさんの言葉と映像が流れ込んでくる。

 頭の中へ、ぼやけた情報が次々と入ってきてぐわんっと眩暈を起こす。
「アンドレ? フィリ――」

 何これ。わたしの知る人物はアンドレではないのか……。そう思ったところで、意識を保っていられず、がくんと倒れてしまった。

 そして、薄れつつある意識の中で、耳に息がかかる――。曖昧な思い出と声が混じり聞き取れない。

「やっと手に入れたあなたを、もう二度と離しませんから。愛してますジュディ」
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