記憶と魔力を婚約者に奪われた「ないない尽くしの聖女」は、ワケあり王子様のお気に入り~王族とは知らずにそばにいた彼から なぜか溺愛されています
瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
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第5章 離さない
気づいていない①
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「僕はナグワ隊長と同じということですね。むしろ、記憶がなくても毛嫌うフィリベール王太子とそっくりな僕は、負けているかもしれませんね。……好きというのも許してくれないんですから」
そう言って目元を手で覆う彼は、しばしの間、微動だにしない。
そんなアンドレを見て。彼はわたしを本当に愛してくれているのかもしれない、と考えたが、愚かな妄想はすぐさま否定した。
一緒に朝食を摂っていたとき、カステン辺境伯領でわたしのことを、好きかもしれないし分からないと言った彼の姿に、嘘偽りを感じなかった。
おそらくあれが本音だ。
気味が悪いから迷惑だと、カステン辺境伯に相談していたくらいなんだし、彼と今更、愛だの恋だのは関係ない。
どうせ陛下の命令で、聖女を逃がさないために必死なんだろう。フィリベールと一緒だ。
栞を送ったジュディットに関しても、「別にどうでもいい」と、言っていたくらいだ。
それなのに、アンドレはわたしを好きになろうとしているのか? そんな無理をしなくていいのに。
真面目なアンドレは、陛下の指示に忠実なのね、と感心してしまう。
──だけど、そんなことより気になることがある。
「ねえ、聞いても言い?」
「なんですか?」
山中でフィリベールに魔法を使った直後。彼は確かに生きていた。ただ気を失っていただけだ。
あの時。王族だとか、聖女だとか関係なく彼に魔法を発動した。相当痛めつけた自覚はあるけど。まさか、あれで息絶えていないわよねと気にかかる。
この時間。もしも王宮に戻っていないのであれば弑逆した可能性も浮上する。今度こそ、冗談抜きで断頭台ものの重犯罪な気がしてならない。
自分可愛さで目を背けている事態に、そろそろ正面から向き合うことにした。
「ところで、そのフィリベール王太子はどうしているのかしら?」
「やはり気になりますか?」
「彼を、ではなくて、自分のことが気になるわね」
「陛下が折れたので、投獄は取りやめ、ご自分の部屋で軟禁しています。ドゥメリー公爵は地下牢ですが」
「えぇえ? 軟禁!」
「ジュディに手をかけたのは、この国の大損害ですからね」
フィリベールを自室で軟禁していることに「甘すぎる」と、アンドレは立腹しているが、簡単に逃げるでしょうにと、首を傾げる。
「……あの二人が、よく逃げずに拘束されているわね」
「元々魔力の大きな二人ですからね。パスカル王弟が魔力を封印しているので、逃亡は謀れないでしょう」
「魔力の封印……なるほどね。そういうことか。パスカル様は魔物の討伐には顔を見せないのに、魔力の大きい罪人がいれば、すぐに駆けつけていた意味が分かったわ」
「攻撃魔法が使える人材は、ある種危険ですから」
「わたしも危険人物なのかしら……?」
「まさか。ジュディを捨てて違う女性に走るなんて、彼の見る目がないだけです」
「なんかわたしも見る目がないわね。リナとフィリベール殿下が付き合っているなんて知らなかったわ。この手の話は、どうも鈍いのよ」
「まあ鈍いのは否定しませんが」
アンドレが苦笑すると、言いにくそうに話を続ける。
「……ですがフィリベール殿下の主張は、『ジュディが王太子との結婚を拒み、自ら婚約解消を申し出て、男の元へ駆け落ちした』と譲りません」
「ちょっと、誰が信じる作り話よ」
「当初からそう訴えていたようで、陛下は多少混乱しています」
「……わたしがモテるように見える? 見えないでしょう。わたしに近寄ってくるのは狼くらいなものよ。陛下も何を騙されているのかしら?」
「あ、え~、あ~」と、わたしを慰める言葉を見つけられないアンドレが、困惑している。
そして、コホンと気を取り直した彼は、真面目な顔を取り繕う。
「彼の意見は一切揺るがず、ドゥメリー公爵にジュディの捜索を依頼した結果。『カステン軍の寄宿舎で見つかった』と聞いたので、いても立ってもいられず迎えに行ったところ、ジュディと公爵が乗る馬車の馬が目の前で暴れて、ジュディは崖から落ちたそうです」
開いた口が塞がらないとは、こういう事をいうのだろう。
とんでもない嘘。大嘘だ。
そんな作り話を、呆気に取られながら、ひたすら聞かされた。
ここまでで既に胸がいっぱいな状態なのに、アンドレはまだあると、話を続けた。
「崖から落ちたジュディは、その衝撃で記憶が混乱しているそうです」
「どこの誰が混乱してるって? すっきりしているけど……。よくもまあ思いつくわね」
「まったく呆れますよ……。彼は、自分を見ても分からないほど錯乱したジュディが、魔法攻撃を仕掛けて危険だったので、ジュディの魔力を封印したと訴えています」
「……酷い話だわ。誰もそんな話は信じていないでしょうね」
「まあ、それ自体は嘘だと思っているのですが……。結ばれた魔法契約の解呪が問題になっていて」
「アンドレが、こうやって解呪できるじゃない」
「僕が魔法契約を解呪する瞬間を、誰も見ていないので……。実際、ジュディの記憶が戻るか納得してもらえませんでした」
「そうでしょうね。双子とはいえ他人が魔法契約を解呪できるとは、陛下夫妻も信じていないでしょうね。わたしでさえ、自分が体験していなければ信じないもの」
「ジュディが無意識に張る結界の存在に気づかなければ、僕もできると思っていませんでしたからね」
だよねと、二人で目を見合わせた。
「万が一、僕では魔法契約の解呪ができないと分かれば、王太子の主張を聞き入れる必要が出てきますからね。陛下が慎重に判断したいと決断したため、ジュディの目が覚めるまで王太子の処分が保留になっていました」
「一度処分した後に、わたしの魔力が戻りませんよ~って、言われたら、陛下も困るものね」
「ええ、彼ならジュディを人質に何を言い出すか分かりませんから」
「アンドレの言いたいことは分かったわ。……わたしが彼の嘘を証言すればいいのね」
「申し訳ありませんが、そうなります」
浮かない口調で頼まれた。
そう言って目元を手で覆う彼は、しばしの間、微動だにしない。
そんなアンドレを見て。彼はわたしを本当に愛してくれているのかもしれない、と考えたが、愚かな妄想はすぐさま否定した。
一緒に朝食を摂っていたとき、カステン辺境伯領でわたしのことを、好きかもしれないし分からないと言った彼の姿に、嘘偽りを感じなかった。
おそらくあれが本音だ。
気味が悪いから迷惑だと、カステン辺境伯に相談していたくらいなんだし、彼と今更、愛だの恋だのは関係ない。
どうせ陛下の命令で、聖女を逃がさないために必死なんだろう。フィリベールと一緒だ。
栞を送ったジュディットに関しても、「別にどうでもいい」と、言っていたくらいだ。
それなのに、アンドレはわたしを好きになろうとしているのか? そんな無理をしなくていいのに。
真面目なアンドレは、陛下の指示に忠実なのね、と感心してしまう。
──だけど、そんなことより気になることがある。
「ねえ、聞いても言い?」
「なんですか?」
山中でフィリベールに魔法を使った直後。彼は確かに生きていた。ただ気を失っていただけだ。
あの時。王族だとか、聖女だとか関係なく彼に魔法を発動した。相当痛めつけた自覚はあるけど。まさか、あれで息絶えていないわよねと気にかかる。
この時間。もしも王宮に戻っていないのであれば弑逆した可能性も浮上する。今度こそ、冗談抜きで断頭台ものの重犯罪な気がしてならない。
自分可愛さで目を背けている事態に、そろそろ正面から向き合うことにした。
「ところで、そのフィリベール王太子はどうしているのかしら?」
「やはり気になりますか?」
「彼を、ではなくて、自分のことが気になるわね」
「陛下が折れたので、投獄は取りやめ、ご自分の部屋で軟禁しています。ドゥメリー公爵は地下牢ですが」
「えぇえ? 軟禁!」
「ジュディに手をかけたのは、この国の大損害ですからね」
フィリベールを自室で軟禁していることに「甘すぎる」と、アンドレは立腹しているが、簡単に逃げるでしょうにと、首を傾げる。
「……あの二人が、よく逃げずに拘束されているわね」
「元々魔力の大きな二人ですからね。パスカル王弟が魔力を封印しているので、逃亡は謀れないでしょう」
「魔力の封印……なるほどね。そういうことか。パスカル様は魔物の討伐には顔を見せないのに、魔力の大きい罪人がいれば、すぐに駆けつけていた意味が分かったわ」
「攻撃魔法が使える人材は、ある種危険ですから」
「わたしも危険人物なのかしら……?」
「まさか。ジュディを捨てて違う女性に走るなんて、彼の見る目がないだけです」
「なんかわたしも見る目がないわね。リナとフィリベール殿下が付き合っているなんて知らなかったわ。この手の話は、どうも鈍いのよ」
「まあ鈍いのは否定しませんが」
アンドレが苦笑すると、言いにくそうに話を続ける。
「……ですがフィリベール殿下の主張は、『ジュディが王太子との結婚を拒み、自ら婚約解消を申し出て、男の元へ駆け落ちした』と譲りません」
「ちょっと、誰が信じる作り話よ」
「当初からそう訴えていたようで、陛下は多少混乱しています」
「……わたしがモテるように見える? 見えないでしょう。わたしに近寄ってくるのは狼くらいなものよ。陛下も何を騙されているのかしら?」
「あ、え~、あ~」と、わたしを慰める言葉を見つけられないアンドレが、困惑している。
そして、コホンと気を取り直した彼は、真面目な顔を取り繕う。
「彼の意見は一切揺るがず、ドゥメリー公爵にジュディの捜索を依頼した結果。『カステン軍の寄宿舎で見つかった』と聞いたので、いても立ってもいられず迎えに行ったところ、ジュディと公爵が乗る馬車の馬が目の前で暴れて、ジュディは崖から落ちたそうです」
開いた口が塞がらないとは、こういう事をいうのだろう。
とんでもない嘘。大嘘だ。
そんな作り話を、呆気に取られながら、ひたすら聞かされた。
ここまでで既に胸がいっぱいな状態なのに、アンドレはまだあると、話を続けた。
「崖から落ちたジュディは、その衝撃で記憶が混乱しているそうです」
「どこの誰が混乱してるって? すっきりしているけど……。よくもまあ思いつくわね」
「まったく呆れますよ……。彼は、自分を見ても分からないほど錯乱したジュディが、魔法攻撃を仕掛けて危険だったので、ジュディの魔力を封印したと訴えています」
「……酷い話だわ。誰もそんな話は信じていないでしょうね」
「まあ、それ自体は嘘だと思っているのですが……。結ばれた魔法契約の解呪が問題になっていて」
「アンドレが、こうやって解呪できるじゃない」
「僕が魔法契約を解呪する瞬間を、誰も見ていないので……。実際、ジュディの記憶が戻るか納得してもらえませんでした」
「そうでしょうね。双子とはいえ他人が魔法契約を解呪できるとは、陛下夫妻も信じていないでしょうね。わたしでさえ、自分が体験していなければ信じないもの」
「ジュディが無意識に張る結界の存在に気づかなければ、僕もできると思っていませんでしたからね」
だよねと、二人で目を見合わせた。
「万が一、僕では魔法契約の解呪ができないと分かれば、王太子の主張を聞き入れる必要が出てきますからね。陛下が慎重に判断したいと決断したため、ジュディの目が覚めるまで王太子の処分が保留になっていました」
「一度処分した後に、わたしの魔力が戻りませんよ~って、言われたら、陛下も困るものね」
「ええ、彼ならジュディを人質に何を言い出すか分かりませんから」
「アンドレの言いたいことは分かったわ。……わたしが彼の嘘を証言すればいいのね」
「申し訳ありませんが、そうなります」
浮かない口調で頼まれた。
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