100 / 112
第5章 離さない

どうして私に縋らない⁉︎①(フィリベール)

しおりを挟む
◇◇◇SIDEフィリベール

 危なく地下牢に投獄されるところを、なんとか回避し、自分の部屋で軟禁生活を強いられ、早三日。

 カステン辺境伯の話では、私が王宮へ到着するより先にジュディットは戻ってきているはずだ。廊下から漏れ聞こえるジュディットの声はないが、おそらく隠しているのだろう。

 パスカル殿下が、あの竜巻を遠目で見ていたと聞き、こちらにとっては好都合だった。真実、発狂したジュディットの仕業だ。


 事故で記憶を失ったジュディットは、私のことも分からず狂乱したのだ。私が捕まったのは想定外だが、事態は悪くない。
 こうなれば、感情任せの魔法攻撃を仕掛けるジュディットに闇魔法を行使しても裁かれる筋合いはないからな。

 むしろ、記憶と魔力のないジュディットに違和感のない、うってつけの状況が整った。

 陛下も若くない。各地での騒動が始まり時間も経過したことだし、いい加減、体力の限界を迎えたはずだ。

 陛下と私の根競べが始まり、既に三日。
 綱渡りのような結界に、いよいよ困り果てたはずだ。
 となれば、ジュディットの魔法契約を解呪して欲しいと、そろそろ陛下が音を上げる頃だろう、

 いよいよ私に声がかかる──。
 そう思っていたところで、外に巻かれているチェーンをガチャガチャと解く音が聞こえた。

 まさに思ったとおりのタイミングで、にやりと笑った。

 どいつもこいつも散々私をコケにしやがって、絶対に許さないからな。特にジュディット。顔中酷い痣だらけになのは、あの女が私を風に巻いたせいだ。

 例え側室に上げようとも、可愛がる気は毛頭ない。

「王太子殿下、陛下がお呼びになっておりますので、同行願います」
 形式じみた態度で入室してきた、シモンが告げた。

「ふんっ、やっと私を必要になったのか。随分と時間がかかったな」

「本日、次期筆頭聖女である、ジュディット様の目が覚めたようです」
「ぶふっ」
 噴き出して笑った。なんだあの女。馬鹿だな。私に向かって竜巻を発動した後に、狼にでも襲われて気を失っていたのか?

 私を攻撃したくせにおかしくてたまらない。どこを怪我したのか知らないが、ざまぁないなと腹を抱えそうになる。

 シモンを従え謁見の間に到着し、彼が扉を開けるのを待つ。
 すると扉も開けずに、シモンが淡々と口を開く。

「謁見の間に入りましたら、許可された言動以外慎みくださいと、ご命令が出ております」
「それは陛下からか?」
「いえ、違います──」
「ならば聞く必要はない。さっさと扉を開けろ!」

 声を荒げれば、顔をしかめるシモンが渋々ながらも扉を開く。

 イライラするなと思いながら謁見の間に足を踏み入れれば、玉座に座る陛下の横にパスカル殿下が控える。

 何故かこの場にカステン辺境伯がいる違和感を抱きながら、横を見れば、見覚えのない王族が一人、この場に紛れている。

 ──誰だ!
 あいつは誰だというんだ⁉
 髪が赤いということは、闇魔法の加護があるのか……。

 それにしても、私によく似ている。
 まあ確かに、大概の王族は似通っているのだから、大して驚く話でもない……。父と王弟も同系統の顔だ。
 だが、どうしてその男の横にジュディットがいるんだ。
 もしや、カステン辺境伯の言っていたアンドレなる男か?

 ──はぁっ? わたしの知らない王族が他にいたというのか? あり得ないだろう。
 ──アンドレ……アンドレ。もしや弟のアンフレッドのことなのか?
 まさか陛下は、弟を呼び出したというのか? 

 なるほどな。私がいくらリナと結婚したいと申し出ても、一切受け入れず、ジュディットを嫁にすべきだと強く推していた陛下らしい。

 ジュディットを弟の妃にでもする気なのか。くそっ、何を考えているんだ陛下は。

 いや、そうだとしても案ずる必要はない。あいつは母上でも解呪できない精霊の呪いにかかっているんだからな。

 ましてやジュディットは、このままでは使いものにならない。
 ──ふっ、それに私が刻んだ避妊魔法もあるのだから。

 陛下が何を訴えようが問題はない。ジュディットの力が必要なら、必然私が必要なんだ。必死に私に縋ってくるだろう。

 私が玉座の前で深々と頭を下げると、陛下が早々に言葉を発した。
 だが、それに納得できず、動揺しながら聞き返した。

「フィリベールの処分を言い渡す」
「えっ、突然何を仰いますか? しょ、処分ですか?」

「当然だ。この国の聖女に暴挙を働いた挙句、この国に損害を与えたのは、フィリベール、お前だからな」

「お、お待ちください。なっ、何を仰っているんですか? 私は、いっときの気の迷いで王都を飛び出したジュディットを、ただ迎えに行っただけです。事故に遭遇したのを目撃したので救助に向かえば、錯乱したジュディットが魔法を暴発させたんですよ。危険だったので、彼女の魔力を封印しただけです。そのように説明しているはずですが!」

「まだ言っているのか、この愚か者がっ!」

「陛下は私の言葉を信じないと仰るのですか⁉」

「当たり前だろう。お前も、ドゥメリー公爵も同じような事を言っているが、ただ一人違う証言をする方がいるんだからな」
「誰ですか。それは私を嵌める罠です」

 余計な事を言っているのは、初めて見る赤毛の男のような気がして、じろりと睨みつける。

 あの男……。先ほどから私を敵意の眼差しで見てくる。私を貶めて、王太子の席を自分のものにしようとしているのか? そうはさせるかっ!

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

「君を愛することはない」と言われたので、私も愛しません。次いきます。 〜婚約破棄はご褒美です!

放浪人
恋愛
【「愛さない」と言ったのはあなたです。私はもっとハイスペックな次(夫)と幸せになりますので、どうぞお構いなく!】 侯爵令嬢リディアは、建国記念舞踏会の最中に、婚約者である王太子レオンハルトから婚約破棄を宣言される。 「君を愛することはない!」という王太子の言葉は、国中に響く『公的拒絶誓約』となってしまった。 しかし、リディアは泣かなかった。 「承知しました。私も愛しません。次いきます」 彼女は即座に撤退し、その場で慰謝料請求と名誉回復の手続きを開始する。その潔さと有能さに目をつけたのは、国の行政を牛耳る『氷の宰相』アシュ・ヴァレンシュタインだった。 「私の政治的盾になれ。条件は『恋愛感情の禁止』と『嘘がつけない契約』だ」 利害の一致した二人は、愛のない契約結婚を結ぶ。 はずだったのだが――『嘘がつけない契約』のせいで、冷徹なはずの宰相の本音が暴走! 「君を失うのは非合理だ(=大好きだ)」「君は私の光だ(=愛してる)」 隠せない溺愛と、最強の夫婦による論理的で容赦のない『ざまぁ』。 一方、リディアを捨てた王太子は「愛さない誓約」の呪いに苦しみ、自滅していく。 これは、悪役令嬢と呼ばれた女が、嘘のない真実の愛を手に入れ、国中を巻き込んで幸せになるまでの物語。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。 「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」 ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。

処理中です...