【完結】突然の変わり身「俺に惚れるな」と、言っていたのは誰ですか⁉ ~脱走令嬢は、素性を隠した俺様令息に捕獲される~

瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!

文字の大きさ
6 / 88
第1章 別世界のふたり

1-6 17歳の舞踏会②

しおりを挟む
 エドワードは、第1王女のレベッカと踊る前に、15歳の第3王女と、16歳の第2王女と踊っていた。
 そのせいで、もうすっかりダンスに嫌気が差し、表情がさえなかった。
 疲労のにじむ彼の顔を見て、レベッカが頬笑みを向ける。

「あの子たちは、まだ子どもだから、エドワードが相手をするのは大変だったでしょう」
 そう言うレベッカは18歳で、エドワードは23歳だ。

「いや、そんなことはありませんが……、堅苦しいダンスが少々苦手でして」
「まあ、それならわたしとだけ踊りたいって父へ伝えれば良かったのに。わたしだって、エドワードなら大歓迎よ」
「ははは、ありがたいお言葉です……」

 エドワードの本心を知らないレベッカ王女は、彼は自分に気があると勘違いをしている。
 控え目な彼が、自分への婚約の申し出を、ためらっていると考えていたのだ。
 これまでの舞踏会で、エドワードがダンスを踊っていたのは自分だけだと知っていた。
 そのせいで、レベッカ王女は存分に誤解している。

 レベッカ王女とだけ踊っていた本当の理由。
 それは、エドワードは陛下とスペンサー侯爵家の当主から王女とのダンスを命じられ、その気もないのに声を掛ける羽目になっていただけ。
 けれど、その事情を王女は知らない。

 エドワードの本音は、王女と話すのもめんどくさい。といったところ。

 エドワードは王女である自分にダンスを申し込み、1曲踊った後は他の誰とも踊らないのだ。

 端正な顔立ちのエドワードは、数多あまたの令嬢たちからダンスの申し出を受けている。
 それを全て断る。それほどまで、自分を立てていることに快くしていた。

 そして、いつまでも煮え切らないエドワードとの結婚を後押しするため、自分から積極的なアピールを始めてきたのだ。

「ふふっ。そう言うと思ったから、わたしとエドワードが結婚するなら、スペンサー侯爵家を公爵家にしてと、父へ頼んでみたの。父からはお許しが出たわ」
 それを聞いてエドワードは、じわりと額に汗がにじんだ。

「いや、でも我が家は」
「大丈夫よ、スペンサー侯爵家が、ご両親と一緒に暮らしていることでしょう。それなら、わたしの父が王家所有の、王宮から近い土地を譲ってくれるから。新居を建てれば、わたしも義母に気兼ねなくお茶会が開催できるし、いいと思わない?」
 王女からのあり得ない提案が、エドワードの顔をピクピクと引きつらせている。

「俺には過分な条件が次々と用意されて、少し気が引けてしまいます。何より、俺ではレベッカ王女殿下の夫としては、務まらないと思いますよ」

「わたしはわがままだから、エドワードみたいに、落ち着いて、包容力のある人が良いのよ。あなたは優しいから、何でもわたしのお願いを聞いてくれるでしょう」

「いや、俺は王女が思っている人間とは違うだろうから、ご期待に沿えなくて申し訳ない……」
「ふふっ。すぐに謙遜するのね。エドワードからの婚約の申し出、できるだけ早く頂戴ね」

(俺が、落ち着いている? 包容力? 優しい? おいおい、そんな人間じゃないだろう。謙遜じゃねーよ。そう感じているなら、俺が精いっぱい、王女に気を遣っているからだ)

 エドワードの表情はこわばっているが、周囲の人間からは「エドワードが王女に照れている」ぐらいに見えてしまう。
 黒髪に黒い瞳の見目麗しい、体躯たいくの良いエドワードが、令嬢たちの視線を一身に集めていた。
 陛下から、王女3人と踊って欲しいと懇願されていたため、エドワードは致し方なく、その3人目とのダンスをたった今終えたばかり。彼は立ち尽くして、げんなりしていた。

 婚約者のいない侯爵家の嫡男へ、令嬢たちが熱い視線を送っている。だが、当のエドワードは、それに全く興味がなかった。

 言い寄ってくる令嬢の中には、モーガンのように、この舞踏会だけで振る舞われるリンゴの酒を、是非にと差し出す者も多かった。
 それを、しきりに断り続けるエドワード。
(王家主催の舞踏会で、令嬢たちが食いつくような珍しい酒を振る舞うなよ……。次から次へとやって来て、迷惑だっ)

 内心は相当に怒っているエドワード。
 そのエドワードへ、陛下の側近であるブラウン公爵が、周囲の様子をうかがいながら声を掛けてきた。
「エドワード様、陛下がお呼びになっています」

 エドワードは、その側近へ不愉快だと言わんばかりに、眉間にしわを寄せた顔を向ける。

「それは、スペンサー侯爵家の俺か? それとも、もうひとり、としてか?」
「陛下が『エドワード様』と呼ばれていたので、もうひとりとして、だと思います」

「何が起きてんだか知らんが、王宮の仕事中じゃないからな。後で正規の報酬を払えと伝えておけよ」
 ブラウン公爵へ、強い口調で言ったエドワード。

(ったく、あのじじぃ。俺を無理やり娘と躍らせた後は、これか……。今は仕事の時間じゃないだろう)
 不承不承のエドワードは、おもむろに両手にはめていた手袋を脱ぎながら、陛下の元へ向かっていった。

 全く住む世界の違うルイーズとエドワードが、モーガンの企てによって出会うことになるとは、このときの会場にいる誰もが知らなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...