【完結】突然の変わり身「俺に惚れるな」と、言っていたのは誰ですか⁉ ~脱走令嬢は、素性を隠した俺様令息に捕獲される~

瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!

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第1章 別世界のふたり

1-7 女性騎士を目指す

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 ホイットマン子爵家の3男のモーガンが、熱烈にルイーズの両親を説得していた。

 モーガンが自分への気持ちをサラリと口にする。それに動揺するルイーズの心は、ドギマギとしていた。

「ルイーズ嬢を愛していますし、お金がなくても何とか2人で暮らしていきます。フォスター伯爵家にルイーズの政略結婚の当てがあったなら話は別ですが、そうでないのなら、僕との結婚を認めてください」

 モーガンの顔は真剣そのもの。フォスター伯爵に向けた視線は少しもブレることはない。むしろ、目を泳がせているのは、ルイーズの父。

「いや、だがな……」
 中々首を立てに振らない当主に、詰め寄るようなモーガン。
「何か問題でもありますか?」
「私はルイーズが望むなら、それでも良いと思うが、妻がなんと言うか……。どう思う?」
 横を向いて、伯爵夫人にバトンを託す。

 ルイーズの父である当主は、モーガンと娘の結婚に食い気味に承諾したい。けれど、それをしては、伯爵夫人の逆鱗げきりんに触れる。
 当主は、この状況では妻もさすがに断れないだろうと高をくくりながら、最終判断を伯爵夫人にゆだねていた。
 当主の狙いどおり、体裁を気にした伯爵夫人は考え込む。
 ……だが、良い案が浮かばず唇をみ、悔しそうな顔を見せる。

(何なのよ、本当に役に立たない男ね。誰がこの場でルイーズは娼館しょうかんに売るから無理だって言えるのよ。まさか、ここまできたのに金にもならない、こんな男に搔っ攫かっさらわれるなんて……。あんなにさえない格好で舞踏会に参加して、どうして男を捕まえてきているのよ。あぁー、悔しくてたまらないわ)

 夫人は腹の中では納得しないが、断る理由が見つけられなかった。
「分かったわ。ルイーズが良いって言っているなら、いいんじゃないかしら」
 不快な感情を隠しきれない夫人の顔は、少しも笑っていなかった。
 少しも折れる様子のないモーガンに、フォスター伯爵夫人が折れた格好。支度金の当ては全くないホイットマン子爵家の3男と、ルイーズの婚約を渋々ながらに承諾した。

 モーガンが帰った後。この場に残った伯爵夫妻とルイーズ。
「お前、夜会で何かをホイットマン子爵家の男に話したのかい。そうでなければ、おかしいでしょう。どうして、お前なんかと結婚したがるのよ」

「わたしは何も言っていません。突然モーガンから話し掛けてきたんです」
 ルイーズはそのときの光景を思い出し、喜びの感情を顔に出してしまった。ハッとしたがもう遅い。
 ……ルイーズが、まさかの恋愛結婚。目の前で幸せそうな顔をした。
 それが、伯爵夫人の感情をえぐったのだ。激しくルイーズへ詰め寄る。

「チッ、うまくやったものね。18になる前に家を出るなんて。今まで育ててもらった恩も感じずに、我が家にとって、少しも金にならない男の元に嫁ぐとは、――このあばずれ女っ!」

 そう言った継母の言葉と、バシンッと大きな音が部屋に響く。
 ルイーズは頬が赤くなるほど強くたたかれ、苦痛に満ちた顔をする。

 継母がルイーズの左頬を2回たたいたところで、やっと父が夫人の手を取って制止した。だが、遅すぎるだろうと、恨めしく思う。
 自分の左頬に手を当てると、ジンジンと鈍い痛みが残る頬。

 ルイーズは、引け目のある生い立ちのせいで、継母の暴力でさえ、何の抵抗もなく常に受け入れていた。

 カッッとしやすい継母は感情的になると、すぐに手が出たり、グラスの水を掛けたりするのが日常茶飯事。
 ルイーズは幼い頃から、夫人に当たり散らされていたせいで慣れている。
 だが、今回は過去最高の力が込められていた。

「さすがに手を上げるのは、よさないか? 顔が腫れたら、あのモーガンに何を言われるか分からんだろう」
 父が継母をなだめるも、夫人は、キィーッと力強く当主をにらみつけ、感情を抑える気は毛頭ない。
 
 当主は夫人ににらまれて、すぐに夫人の手を離している。

 当主は既にだんまりを決め込んだ。そう、ルイーズには映っている。

 夫人の鋭い目つきは、ルイーズの方に再び向けられた。

「自分ひとりだけ幸せになる気で、いまいましい。どこまでも、あの泥棒猫の娘ね」
「いえ……」
「口答えを、お前に認めた覚えはないわよ。男ができたからって調子に乗って。お前の顔は見たくないわ。不用意に屋敷の中を歩いていたら、その不愉快な髪を切ってやる。娼館しょうかんに売れないなら、あんたの見た目なんてどうでもいいわよ」

 その言葉にサァーッと血の気が引き、青ざめるルイーズ。

娼館しょうかんって、うわさに聞くあの場所……。信じられない……、まさか、そんなところへ、わたしを売るつもりだったなんて。
 モーガンが、わたしを好きになってくれていなければ、そこに行く派目になっていたってこと⁉ 
 彼が好きかどうかは、よく分からないけど、きっと、これから好きになれるはずだもの。
 わたしにとって彼は恩人だわ)

 そう思ったルイーズは、モーガンに愛情よりも恩義を感じている。


 フォスター伯爵家の問題を、詳しく知らないモーガンは、ルイーズの部屋を頻繁に訪ねていた。
 ルイーズは、自分の空っぽの部屋を見ても何にも言わないモーガンは、本当に自分のことが好きなのだと信じ、うれしくてたまらないのだ。
 ここ最近のルイーズは、少しずつ彼へ心を開き始めていた。

 ルイーズは突然、モーガンからある提案をされ、どうすべきか分からずに戸惑っている。

「ねえ、ルイーズは女性騎士になるといいんじゃない。この国では女性騎士は王妃や王女の警護のために配置されているから、貴族の娘しかなれないのに、騎士の訓練に参加希望者がいなくて、毎年困っているだろう」

「う~ん、わたしにできるかしら……。わたし剣を握ったこともないのよ、ちょっと自信がないわ」

「大丈夫だよ。真面目で一生懸命なルイーズならできるよ。僕だって剣技は、ほとんど経験がないけど、父が騎士を勧めるくらいだ。あの訓練では1から教えてくれるんだろうさ」

 それを聞いて、ルイーズの気持ちは一変する。
「知らなかった! そうなのっ! 素人でも大丈夫なら期待が持てるわ。騎士の給金だったら2人で、余裕で暮らせるわよね。うん、わたし騎士を目指すわ」

 女性騎士と聞いても、考え込むように表情が晴れなかったルイーズ。
 だが、未経験者でも一縷いちるの望みがあると知り、がぜんやる気になった。

(騎士になればモーガンと2人で余裕のある暮らしもできるし、弟のアランに家庭教師を雇ってあげられるわ。わたしが屋敷を出ても、弟が困ることはないもの。なんか希望が見えてきた。令嬢たちの婚約者や両親が、訓練が危険だから嫌煙をするのに、わたしの場合は、そんなことはないのだから)

 モーガンが、ただ自分を好きになったと思っているルイーズは、うれしそうに声を上げて笑っていた。


 その2人の楽しそうな声をルイーズの部屋の外で、聞き耳を立てた姉が聞いている。

(どうしてあのモーガンって男は、わたしには目もくれないで、ルイーズなんかを選んだのよ。あの女の何が良いのよ! あいつを娼館しょうかんに売りつけたら、わたしに新しい宝石を買ってもらう約束だったのよ。それなのに、楽しそうに笑いやがって……、このまま平穏に家を出られると思うのは、大間違いよ)

 何かをたくらみ始める姉のミラベル。

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