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第3章 入れ替わりのふたり
3-1 入れ替わり
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騎士候補生の訓練場に、久しぶりに剣をぶつけ合う2人の姿があった。
だが、今日のルイーズは様子がおかしい。早々に、はぁはぁ~と肩で大きく息をしている。
「馬鹿。剣を地面に刺すな。剣先が痛むだろう」
「……」
エドワードに言い返す元気もない。
……それもそのはず。元々きゃしゃだったルイーズが、高熱でうなされていた、この2週間。具無しのスープしか口にしていない。
ただでさえ運動量と食事量が見合っていなかったルイーズは、そもそも栄養不足。
始めから「無いも同然の体力」。それが休んでいた間に更に落ちた自覚が、訓練前からルイーズに、はっきりとあった。
自分の不調を察知して、ここで倒れるわけにはいかないと必死だ。
……その結果。少し前から下したままの剣は、杖のように彼女を支えている。
今日、無理を押して訓練に来たのも、このまま休んでいては候補生の資格がなくなるから。ただその一心。
それでも今日は無理。既に限界だと、やっと諦めがついた。
休憩所を見やるルイーズは、練習を切り上げようとしている。
「エドワード、悪いけどここまでにして。疲れたから下がるわね」
見るからにフラフラ。立っているのも辛かったルイーズ。
彼女は、ぼーっとしながら他の候補生の間を通って、戻ろうとしていた。
「おい、馬鹿っ。これだから女は……」
と、エドワードは大きな声で叫ぶ。強く制止したが、ルイーズに止まる気配はない。
そして、小さな声でつぶやく。
「ったく、他のやつらが剣を振っている間を通って、危ないだろう」
ハラハラした顔を見せるエドワードは、ルイーズに駆け寄ろうと、周囲の様子を見ていた。
「おい、馬鹿っ」と、エドワードの叫ぶような言葉を聞いたルイーズ。彼女は、さらりと自分の気持ちが言えるエドワードを羨ましく思っていた。
自分がエドワードだったら、姉に「お前は馬鹿か」と言ってやれたのに、と心からそう思った。
そして、ルイーズを追いかけようとしたエドワードの目に飛び込んだのは、どこかの訓練生の手から滑って、空高く飛んでいる剣だった。
その剣の軌道の先を追えば、ルイーズがいる。
これはまずいと、目を大きく見開くエドワード。
……その剣の真下にいるルイーズは、案の定、全く気付く気配もない。
「ルイーズ危ないっ!」
日頃から掛け声で騒がしい訓練場では、危険を知らせる声はルイーズには届いていない。
……それどころか、今にも倒れそうな彼女は、すぐに反応する余裕もなかった。避ける素振りは全くない。
あの剣がルイーズに直撃した後、すぐに治療をすれば助けられるだろうか? と、エドワードは思考をめぐらせた……。
その結果、サーッと血の気が引いた。助けられる自信がない。
……ルイーズが死ぬ。
そんなのは駄目だ。エドワードがルイーズと代わりたい、そう思った瞬間だった。
ルイーズを見ていたはずの自分の視界に、ルイーズはいない。
そして、何が起きたのか周囲を見渡せば、離れた所に自分がいる。
その後に、見上げた先には真っ逆さまに落ちてくる剣がある。……それで悟った。
――ルイーズとエドワードが入れ替わった。
それに気が付いたエドワードは、あっけなく落下してきた剣を避ける。
そしてそのまま、自分の体の元へ駆け寄り、何も言わずに、その人物の手を引いて訓練場を後にした。
休憩室へ着くなり、踵を返したエドワード。
彼は、知り尽くしているその体の両方の肘を強くつかんで対面していた。
「おいっっ、お前、ルイーズだろう!」
動揺を隠しきれないエドワードが、甲高い声でエドワードの体へ問いかける。
「そうよ。ねぇ、一体何がどうなって、こうなっているの。意味が分からない」
ルイーズが唇を震わせながら、不安気に答えた。
「お前、俺の体で気持ち悪いから、そんな喋り方するな」
「はぁぁっ! そっちこそ、わたしの体でガサツな言い方をしないでよ」
エドワードの言葉にカッとしたルイーズは、エドワードとヒートアップしたテンションに早変わりしている。
「ヤバい、全然戻り方に心当たりがない。お前なんかしたのか?」
「するわけないでしょう。エドワードの方が何かしたんじゃないの?」
(自分の回復魔法が働いたのかもしれない。だが、魔法は使っていない……)
天を仰いでいるエドワードは、苦悶の表情を浮かべ考え込む。
だが、どう考えても答えは分からなかった。イライラして自分の体に当たり散らす。
「あー-っ、分からん! そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
エドワードがいつもの自分の頭だと思い、ルイーズの長い髪をぐちゃぐちゃとかきむしったせいで、髪はまるで鳥の巣のように、ぐしゃぐしゃになっている。
その姿を見てギョッとするルイーズだけど、何だか楽しそうだ。
「もーう、女の子はこんなことをしないわよ」
と、ルイーズが笑いながらルイーズの髪をなでて整える。
ルイーズにされるがままのエドワードは、至って真面目にこの先のことを考えている。
「いつ戻れるか分からないから、取りあえず、俺の屋敷へ行く。その後はお前の屋敷だ」
「えぇー、エドワードの部屋へ行くなんて、ちょっと困る。わたしに何するつもり」
「馬鹿か! お前、今日はどっちの屋敷へ帰るつもりでいるんだ! 今日中に自分の体に戻れなかったら、お前は俺の屋敷で過ごすんだぞ。俺の部屋の場所も分からないだろう。俺が狂ったと思われるから、『わたしルイーズです』と、馬鹿なことを屋敷で言うなよ」
「はぁぁーっ、何それっ! そんなのお互い様でしょ、分かっているわよ」
ルイーズの屋敷の馬車を帰し、2人でスペンサー侯爵家の2頭引きの豪華な馬車に乗り込んだ。
息の上がるエドワードは、自然とルイーズに腕を組んで歩いている。
だが、今日のルイーズは様子がおかしい。早々に、はぁはぁ~と肩で大きく息をしている。
「馬鹿。剣を地面に刺すな。剣先が痛むだろう」
「……」
エドワードに言い返す元気もない。
……それもそのはず。元々きゃしゃだったルイーズが、高熱でうなされていた、この2週間。具無しのスープしか口にしていない。
ただでさえ運動量と食事量が見合っていなかったルイーズは、そもそも栄養不足。
始めから「無いも同然の体力」。それが休んでいた間に更に落ちた自覚が、訓練前からルイーズに、はっきりとあった。
自分の不調を察知して、ここで倒れるわけにはいかないと必死だ。
……その結果。少し前から下したままの剣は、杖のように彼女を支えている。
今日、無理を押して訓練に来たのも、このまま休んでいては候補生の資格がなくなるから。ただその一心。
それでも今日は無理。既に限界だと、やっと諦めがついた。
休憩所を見やるルイーズは、練習を切り上げようとしている。
「エドワード、悪いけどここまでにして。疲れたから下がるわね」
見るからにフラフラ。立っているのも辛かったルイーズ。
彼女は、ぼーっとしながら他の候補生の間を通って、戻ろうとしていた。
「おい、馬鹿っ。これだから女は……」
と、エドワードは大きな声で叫ぶ。強く制止したが、ルイーズに止まる気配はない。
そして、小さな声でつぶやく。
「ったく、他のやつらが剣を振っている間を通って、危ないだろう」
ハラハラした顔を見せるエドワードは、ルイーズに駆け寄ろうと、周囲の様子を見ていた。
「おい、馬鹿っ」と、エドワードの叫ぶような言葉を聞いたルイーズ。彼女は、さらりと自分の気持ちが言えるエドワードを羨ましく思っていた。
自分がエドワードだったら、姉に「お前は馬鹿か」と言ってやれたのに、と心からそう思った。
そして、ルイーズを追いかけようとしたエドワードの目に飛び込んだのは、どこかの訓練生の手から滑って、空高く飛んでいる剣だった。
その剣の軌道の先を追えば、ルイーズがいる。
これはまずいと、目を大きく見開くエドワード。
……その剣の真下にいるルイーズは、案の定、全く気付く気配もない。
「ルイーズ危ないっ!」
日頃から掛け声で騒がしい訓練場では、危険を知らせる声はルイーズには届いていない。
……それどころか、今にも倒れそうな彼女は、すぐに反応する余裕もなかった。避ける素振りは全くない。
あの剣がルイーズに直撃した後、すぐに治療をすれば助けられるだろうか? と、エドワードは思考をめぐらせた……。
その結果、サーッと血の気が引いた。助けられる自信がない。
……ルイーズが死ぬ。
そんなのは駄目だ。エドワードがルイーズと代わりたい、そう思った瞬間だった。
ルイーズを見ていたはずの自分の視界に、ルイーズはいない。
そして、何が起きたのか周囲を見渡せば、離れた所に自分がいる。
その後に、見上げた先には真っ逆さまに落ちてくる剣がある。……それで悟った。
――ルイーズとエドワードが入れ替わった。
それに気が付いたエドワードは、あっけなく落下してきた剣を避ける。
そしてそのまま、自分の体の元へ駆け寄り、何も言わずに、その人物の手を引いて訓練場を後にした。
休憩室へ着くなり、踵を返したエドワード。
彼は、知り尽くしているその体の両方の肘を強くつかんで対面していた。
「おいっっ、お前、ルイーズだろう!」
動揺を隠しきれないエドワードが、甲高い声でエドワードの体へ問いかける。
「そうよ。ねぇ、一体何がどうなって、こうなっているの。意味が分からない」
ルイーズが唇を震わせながら、不安気に答えた。
「お前、俺の体で気持ち悪いから、そんな喋り方するな」
「はぁぁっ! そっちこそ、わたしの体でガサツな言い方をしないでよ」
エドワードの言葉にカッとしたルイーズは、エドワードとヒートアップしたテンションに早変わりしている。
「ヤバい、全然戻り方に心当たりがない。お前なんかしたのか?」
「するわけないでしょう。エドワードの方が何かしたんじゃないの?」
(自分の回復魔法が働いたのかもしれない。だが、魔法は使っていない……)
天を仰いでいるエドワードは、苦悶の表情を浮かべ考え込む。
だが、どう考えても答えは分からなかった。イライラして自分の体に当たり散らす。
「あー-っ、分からん! そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
エドワードがいつもの自分の頭だと思い、ルイーズの長い髪をぐちゃぐちゃとかきむしったせいで、髪はまるで鳥の巣のように、ぐしゃぐしゃになっている。
その姿を見てギョッとするルイーズだけど、何だか楽しそうだ。
「もーう、女の子はこんなことをしないわよ」
と、ルイーズが笑いながらルイーズの髪をなでて整える。
ルイーズにされるがままのエドワードは、至って真面目にこの先のことを考えている。
「いつ戻れるか分からないから、取りあえず、俺の屋敷へ行く。その後はお前の屋敷だ」
「えぇー、エドワードの部屋へ行くなんて、ちょっと困る。わたしに何するつもり」
「馬鹿か! お前、今日はどっちの屋敷へ帰るつもりでいるんだ! 今日中に自分の体に戻れなかったら、お前は俺の屋敷で過ごすんだぞ。俺の部屋の場所も分からないだろう。俺が狂ったと思われるから、『わたしルイーズです』と、馬鹿なことを屋敷で言うなよ」
「はぁぁーっ、何それっ! そんなのお互い様でしょ、分かっているわよ」
ルイーズの屋敷の馬車を帰し、2人でスペンサー侯爵家の2頭引きの豪華な馬車に乗り込んだ。
息の上がるエドワードは、自然とルイーズに腕を組んで歩いている。
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