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第3章 入れ替わりのふたり
3-3 距離感ゼロのふたり②
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ソファーに寝転がっているルイーズは、真剣なエドワードの姿を静かに見守っている。
普段は見ることのないエドワードの一面に、少しだけ心が打たれていた。
(そんなに言葉を選んで、誰に手紙を書いているんだろう……。
さっきから何回も書き直しているけど……、やっぱり、わたし以外には気遣いができる人なのよね。
それなのに、初対面のときからわたしには冷たかった……。
わたしって、どうしてかな……。生まれたときからずっと、誰からも嫌われる……)
エドワードのことを考えていたルイーズは、何とも言えない物悲しい気持ちに襲われる。
頭を抱えて悩んでいるエドワードを、ルイーズは夢中になって見つめ続けた。見ているのは見慣れた自分自身の姿だけど。
作業を終わらせた彼が、ルイーズへ説明を始める。
「その引き出しの中身は絶対に触るな、重要書類しか入っていない。他は好きにしてもいいが、俺の印章を使って勝手なことをするなよ」
うんうんと軽くうなずくルイーズは、その引き出しの中身は語気を強めて言うくらい、彼にとって大切なものだと理解した。
だが、ルイーズは、おかしくなって笑いだす。
「ふふっ、もちろん触らないし勝手に使わないけど、そんなことを言うなら、自分の手元に持っていけばいいのに。大事なものを悪用されたらどうするのよ」
「勝手の知らない場所へ持っていくより、お前の所の方が安全だろう」
「まあ、そうよね。わたしが勝手なことをして、自分の体に戻れなかったら、自分に返ってくるんだもん」
そうだと言わんばかりに大きくうなずいたエドワード。
「お前も、たまには現状を理解しているようで良かった」
「はぁぁーっ、いつもちゃんと分かっているわよ、失礼しちゃうわね」
その言葉に、首をかしげながら、納得していないと言いたいエドワード。
だけど、否定するのがめんどうになり、彼は、そのまま話し出した。
「あした、ここに掛けている服を着て訓練に行くまでは何とかなるだろう。分かったら次はお前の屋敷へ行くけど、お前、俺に触って何か感じないか?」
そう言って、エドワードの体がはめている手袋を外して手をつなぐ。
「……そんなことをされても、エドワードのことは好きにならないわよ」
「当たり前だっ! 馬鹿か。俺の方がお前では願い下げだ。聞いているのはそれではない」
「ふふっ、わたしもまんざらでもない、かわいいなぁ~って、ことかしら」
随分真剣に質問をしてくるエドワード。それに答えようと、ルイーズはまじまじとエドワードを見た。
けれど、見えているのはプラチナブロンドの髪に、菫色のつぶらな瞳の自分自身。感じたとおりの感想を伝える。
あまりに的外れの回答に、苦笑いをするエドワード。
(駄目だ。全く分かっていない……。俺の手で触れれば、体の中も外も伝わって見えるだろう。いや、ルイーズでは、見えていないのか。ってことは、俺が戻らないとヒールは使えないってことか……)
「お前は、俺を鏡で見続けて惚れるなよ。迷惑だからな」
入れ替わっても相変わらずな、2人の掛け合い。
エドワードが自分の家に行くと言い出してから、ルイーズの心臓の拍動が早まっている。
ルイーズは、自分の屋敷へ行くことをためらっていた。
屋敷の中の事情は、伯爵家の中でしか知らないことが多くあふれていたから。
それに、ルイーズがエドワードを連れてきたら、姉がどんな反応をするかと想像してしまい不安になった。
これまで剣を交わしていても、エドワードのことをほとんど知らなかったルイーズ。
侯爵家の人間ということは、もちろん知っていた。
けれど、今日、ここに来るまでは、エドワードがどんな暮らしをしているのか? それを聞く機会もなかったから。
部屋の豪華な調度品を見て、姉が興味を持ちそうな家柄だと、初めて知ったのだ。
ルイーズは、この部屋の品々の価値は正しく分かっていない。
けれど、エドワードの部屋の家具は、全部が全部どう見ても特注品。
その全てに、金であしらったアゲハ蝶の家紋が埋め込まれており、高級品であることは一目瞭然だった。
「ちょっと、その前にトイレに行ってくるわ」
そう言って浴室へ向かったルイーズは、すぐに悲鳴を上げながら戻ってきた。
「分かんない。何がどうなっているの? どうしたらいいの?」
「おいっ、それを俺に説明して欲しいのか? それなら一緒に行ってやる」
「はぁぁーっ、無理。何言っているのよ。エドワードはデリカシーって言葉を知っているの? ……我慢する」
「はぁぁーっ、デリカシーも何も、その体を一番知っているのは俺だ。我慢するな馬鹿。お前、俺の体をなんだと思っているんだっ!」
「いいのっ! 我慢する。今はまだ何とかなるもん」
そう言って、赤くなっているルイーズは、彼と一緒に自分の屋敷へ行くことになった。
その馬車の中で、次第にルイーズは固い表情になっていく。
自分の境遇をエドワードにどう伝えていいか分からず、思い悩んでいた。
「エドワード……、あしたには、戻れるかな……」
「当たり前だ。だが、さっきから心当たりを試しているが、戻れない。お前は替わった瞬間に何をしていた?」
「うーん。ひどく疲れていたから、休みたいなぁ~って思っていたけど、それ以外は特に思いつかないなぁ~」
あっけらかんと答えたルイーズ。
ルイーズは、エドワードから同情の眼差しで見つめられる。……自分自身の顔で、だが。
「アホに聞いた俺が悪かった……」
もう限界だったエドワードは、ルイーズに寄りかかる。
その間も、自分の部屋を出るときにからつないだ手は、片時も離すことはない。
(何だ、この体。さっきからずっと変だ……。
馬車に座っているだけで倒れそうになる。替わる前に、1度でもこいつに触っておけばよかったな……。一体どうなっている⁉)
普段は見ることのないエドワードの一面に、少しだけ心が打たれていた。
(そんなに言葉を選んで、誰に手紙を書いているんだろう……。
さっきから何回も書き直しているけど……、やっぱり、わたし以外には気遣いができる人なのよね。
それなのに、初対面のときからわたしには冷たかった……。
わたしって、どうしてかな……。生まれたときからずっと、誰からも嫌われる……)
エドワードのことを考えていたルイーズは、何とも言えない物悲しい気持ちに襲われる。
頭を抱えて悩んでいるエドワードを、ルイーズは夢中になって見つめ続けた。見ているのは見慣れた自分自身の姿だけど。
作業を終わらせた彼が、ルイーズへ説明を始める。
「その引き出しの中身は絶対に触るな、重要書類しか入っていない。他は好きにしてもいいが、俺の印章を使って勝手なことをするなよ」
うんうんと軽くうなずくルイーズは、その引き出しの中身は語気を強めて言うくらい、彼にとって大切なものだと理解した。
だが、ルイーズは、おかしくなって笑いだす。
「ふふっ、もちろん触らないし勝手に使わないけど、そんなことを言うなら、自分の手元に持っていけばいいのに。大事なものを悪用されたらどうするのよ」
「勝手の知らない場所へ持っていくより、お前の所の方が安全だろう」
「まあ、そうよね。わたしが勝手なことをして、自分の体に戻れなかったら、自分に返ってくるんだもん」
そうだと言わんばかりに大きくうなずいたエドワード。
「お前も、たまには現状を理解しているようで良かった」
「はぁぁーっ、いつもちゃんと分かっているわよ、失礼しちゃうわね」
その言葉に、首をかしげながら、納得していないと言いたいエドワード。
だけど、否定するのがめんどうになり、彼は、そのまま話し出した。
「あした、ここに掛けている服を着て訓練に行くまでは何とかなるだろう。分かったら次はお前の屋敷へ行くけど、お前、俺に触って何か感じないか?」
そう言って、エドワードの体がはめている手袋を外して手をつなぐ。
「……そんなことをされても、エドワードのことは好きにならないわよ」
「当たり前だっ! 馬鹿か。俺の方がお前では願い下げだ。聞いているのはそれではない」
「ふふっ、わたしもまんざらでもない、かわいいなぁ~って、ことかしら」
随分真剣に質問をしてくるエドワード。それに答えようと、ルイーズはまじまじとエドワードを見た。
けれど、見えているのはプラチナブロンドの髪に、菫色のつぶらな瞳の自分自身。感じたとおりの感想を伝える。
あまりに的外れの回答に、苦笑いをするエドワード。
(駄目だ。全く分かっていない……。俺の手で触れれば、体の中も外も伝わって見えるだろう。いや、ルイーズでは、見えていないのか。ってことは、俺が戻らないとヒールは使えないってことか……)
「お前は、俺を鏡で見続けて惚れるなよ。迷惑だからな」
入れ替わっても相変わらずな、2人の掛け合い。
エドワードが自分の家に行くと言い出してから、ルイーズの心臓の拍動が早まっている。
ルイーズは、自分の屋敷へ行くことをためらっていた。
屋敷の中の事情は、伯爵家の中でしか知らないことが多くあふれていたから。
それに、ルイーズがエドワードを連れてきたら、姉がどんな反応をするかと想像してしまい不安になった。
これまで剣を交わしていても、エドワードのことをほとんど知らなかったルイーズ。
侯爵家の人間ということは、もちろん知っていた。
けれど、今日、ここに来るまでは、エドワードがどんな暮らしをしているのか? それを聞く機会もなかったから。
部屋の豪華な調度品を見て、姉が興味を持ちそうな家柄だと、初めて知ったのだ。
ルイーズは、この部屋の品々の価値は正しく分かっていない。
けれど、エドワードの部屋の家具は、全部が全部どう見ても特注品。
その全てに、金であしらったアゲハ蝶の家紋が埋め込まれており、高級品であることは一目瞭然だった。
「ちょっと、その前にトイレに行ってくるわ」
そう言って浴室へ向かったルイーズは、すぐに悲鳴を上げながら戻ってきた。
「分かんない。何がどうなっているの? どうしたらいいの?」
「おいっ、それを俺に説明して欲しいのか? それなら一緒に行ってやる」
「はぁぁーっ、無理。何言っているのよ。エドワードはデリカシーって言葉を知っているの? ……我慢する」
「はぁぁーっ、デリカシーも何も、その体を一番知っているのは俺だ。我慢するな馬鹿。お前、俺の体をなんだと思っているんだっ!」
「いいのっ! 我慢する。今はまだ何とかなるもん」
そう言って、赤くなっているルイーズは、彼と一緒に自分の屋敷へ行くことになった。
その馬車の中で、次第にルイーズは固い表情になっていく。
自分の境遇をエドワードにどう伝えていいか分からず、思い悩んでいた。
「エドワード……、あしたには、戻れるかな……」
「当たり前だ。だが、さっきから心当たりを試しているが、戻れない。お前は替わった瞬間に何をしていた?」
「うーん。ひどく疲れていたから、休みたいなぁ~って思っていたけど、それ以外は特に思いつかないなぁ~」
あっけらかんと答えたルイーズ。
ルイーズは、エドワードから同情の眼差しで見つめられる。……自分自身の顔で、だが。
「アホに聞いた俺が悪かった……」
もう限界だったエドワードは、ルイーズに寄りかかる。
その間も、自分の部屋を出るときにからつないだ手は、片時も離すことはない。
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