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第3章 入れ替わりのふたり
3-4 翌日、エドワードの病気? の原因
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ルイーズが侯爵家の嫡男を連れて、一目散に自分の部屋へ向かったという話は、すぐに姉の耳に入っていた。
妹に興味を持つのであれば、同じ家名の自分にも必ず関心を持つ、いや、妹以上に自分にひかれるはずだ。そう思っている姉は、エドワードと接近できることを虎視眈々と狙っている。
小さなベッドと机、ほとんど空のクローゼットと本棚。そしてソファーだけのルイーズの質素な部屋にエドワードとルイーズがいた。
ルイーズの殺風景な部屋にエドワードが動じていないのは、壁一面のクローゼットには扉が付いており、一見では分からないからだ。
エドワードは、ルイーズをあほだと思い込み、彼女が勉強するようにも見えていない。本棚が空っぽなのは、むしろ案の定くらいに思っていた。
横並びに座ったソファーで、目を合わせて向き合っている2人。
ルイーズは真剣そのもの。彼女は険しい顔で話をしている。
それなのに、エドワードの反応がどこか上の空のため、彼女は気が気ではない。
ルイーズは、日頃自分が心掛けている処世術を伝えているのだ。
彼が継母を刺激すればどんな仕返しが返ってくるか分からない。だが、ルイーズはエドワードの日頃の性格を知っている。
エドワードであれば、あっという間に、継母と言い合いのけんかをする確信がある。それはなんとしても避けたいところ。
「いい? 継母と姉には近づかない。食事は執事が呼びにくるから、ここにいるだけでいいし、無言で食べたら逃げるように戻って部屋から出ない」
それを聞いて、エドワードが愉快そうに笑っていた。
「ふ~ん。お前って、屋敷の中で嫌われているのか? くくっ、男をあさることばかり考えているから、みんな、あきれているんだろう」
「だから、そうじゃないから。あっ、もし弟のアランに勉強を聞かれたら教えてあげて」
「はぁぁっ、どうして俺がそんなことを。そもそも家庭教師に任せておけばいいだろう」
「家庭教師なんて、お金が掛かるでしょう。お願い、10歳の子の勉強くらい見てあげてよ、できるでしょう」
「お前の弟ってのは気に入らないが、……分かった」
エドワードの適当な返答。……この男、少しも分かっていないようだと、ルイーズは顔をピクピクさせる。……が、話しの先を急ぐ。
「あと、このリンゴ。これはわたしがもらったの。だから、エドワードが食べて、そして、あしたカーティスにお礼を言って頂戴。できれば1個、アランにも分けてあげて」
「俺がカーティスに礼を言うって、……何だそれ」
「お願い。食べるのはエドワードなんだから、いいでしょう」
「ああ、分かったよ。そうだ言い忘れていたけど、俺の体で、その辺のものを拾い食いをするなよ、出された食事以外禁止な。お前は食い意地張っているから」
「ひっどーい。わたし食い意地なんか張っていないわよ」
「はぁぁーっ、よくいう。ケーキを食い損ねたと騒いでいただろう。その前はチョコレートだったな」
「それは……、あのときのケーキがおいしそうだったからで……。もう分かったわよ、ちゃんとエドワードとの約束は守るから安心して」
反論したいが、ルイーズは余裕がない。もじもじと、何かをこらえている。
素っ気ないのもそのせいだ。
そんなルイーズの気も知らず、部屋の中を見回しているエドワードは、壁に貼っている1枚もののカレンダーに目が留まった。
それには、2か月以上も先の日にちに丸印が付いており、エドワードは、滑稽に思えて仕方がない。とうとう我慢できずに、けたけたと笑いだした。
自分はそれに行くのが嫌でたまらないのに、令嬢は全く逆だと解釈している。
「くくっ、お前、どれだけ王宮の舞踏会を楽しみにしているんだ?」
それを聞いてもピンとこないルイーズ。
何のことだ? と、首をかしげているルイーズへ、カレンダーの10月30日を指差したエドワード。
ほんの少しだけ、ルイーズは表情を曇らせる。
「今年の舞踏会は、その日だったのか……。それは、わたしの18歳の誕生日よ。他に言いたいことと聞きたいことがないなら、わたしを馬車まで送って」
今はまだ、その意味を伝えるわけにはいかなかったルイーズは、そっけなく話を受け流す。
だが、彼に伏し沈むような口調で伝えてしまった。
あらぬ詮索をされないかと不安になり、彼の反応が気になっている。
「お前って、元婚約者にそんなことまでしていたのか? 随分と尽くしていたのに残念だったな」
エドワードからは相変わらずな反応が返ってくる。
「はぁ~っ」
気落ちした、ため息が出るルイーズ。
(もう、どうしてエドワードはこんな言い方しかできないのよ……。
尽くしていたと言われると、否定もできない。分かっている……、モーガンが喜んでくれるのがうれしくて、馬鹿なことをしていた気がするけど、見送ったことはない。彼はいつも1人で、スタスタと帰っていたんだから……)
馬車まで送って欲しいと言ったルイーズの真意は、全く違った。
決して、平常時のルイーズに見せるためではない。
ルイーズは、エドワードの姿でこの屋敷の中を1人で歩けば、姉に絡まれることを心配している。
姉の姿を見ると、うまく話せずに萎縮してしまう。
そんな自分がエドワードとして、うまく切り抜ける自信がなかったため、エドワードに馬車まで送って欲しいと頼んだのだ。
けれど、うまく説明する言葉をルイーズは見つけられず、めんどうになって肯定していた。
「そうね。忘れていたけどこの部屋に触られて困るものは置いていないから、何でも見ていいわよ。もし、すぐに戻れなければ自分のことが分からないと困るでしょう。それに、騎士服なら自分で着られるでしょうから、その格好であしたは屋敷を出るだけね」
「ふ~ん。お前のことなら大体分かっている。人の助言を聞かない馬鹿だろう」
「……いつだってエドワードは、わたしの悪口しか言わないのね。でも、ここに長居はしていられないわ。限界だから帰る」
エドワードがいつもの調子でからかってきたけれど、膀胱事情がいよいよ本格化してきたルイーズは、悠長なことはできない。
「だから、俺は見ないって、さっさと行ってこい!」
「嫌よ、わたしが化粧室から出てきたら、エドワードのことだもの色々聞いて馬鹿にしてくるでしょう」
「俺を何だと思っているんだ!」
「はぁぁーっ、偉そうにする嫌なやつ。それ以外にないでしょう。もういいわ、帰る」
そう言って、動きだしたルイーズ。
その後を追うように、エドワードが、侯爵家の馬車が出発するのを見送っていた。
その姿を廊下で見ていたのが姉だったが、自分の体に戻ることを必死に考えているエドワードは、全く気付いていない。
妹に興味を持つのであれば、同じ家名の自分にも必ず関心を持つ、いや、妹以上に自分にひかれるはずだ。そう思っている姉は、エドワードと接近できることを虎視眈々と狙っている。
小さなベッドと机、ほとんど空のクローゼットと本棚。そしてソファーだけのルイーズの質素な部屋にエドワードとルイーズがいた。
ルイーズの殺風景な部屋にエドワードが動じていないのは、壁一面のクローゼットには扉が付いており、一見では分からないからだ。
エドワードは、ルイーズをあほだと思い込み、彼女が勉強するようにも見えていない。本棚が空っぽなのは、むしろ案の定くらいに思っていた。
横並びに座ったソファーで、目を合わせて向き合っている2人。
ルイーズは真剣そのもの。彼女は険しい顔で話をしている。
それなのに、エドワードの反応がどこか上の空のため、彼女は気が気ではない。
ルイーズは、日頃自分が心掛けている処世術を伝えているのだ。
彼が継母を刺激すればどんな仕返しが返ってくるか分からない。だが、ルイーズはエドワードの日頃の性格を知っている。
エドワードであれば、あっという間に、継母と言い合いのけんかをする確信がある。それはなんとしても避けたいところ。
「いい? 継母と姉には近づかない。食事は執事が呼びにくるから、ここにいるだけでいいし、無言で食べたら逃げるように戻って部屋から出ない」
それを聞いて、エドワードが愉快そうに笑っていた。
「ふ~ん。お前って、屋敷の中で嫌われているのか? くくっ、男をあさることばかり考えているから、みんな、あきれているんだろう」
「だから、そうじゃないから。あっ、もし弟のアランに勉強を聞かれたら教えてあげて」
「はぁぁっ、どうして俺がそんなことを。そもそも家庭教師に任せておけばいいだろう」
「家庭教師なんて、お金が掛かるでしょう。お願い、10歳の子の勉強くらい見てあげてよ、できるでしょう」
「お前の弟ってのは気に入らないが、……分かった」
エドワードの適当な返答。……この男、少しも分かっていないようだと、ルイーズは顔をピクピクさせる。……が、話しの先を急ぐ。
「あと、このリンゴ。これはわたしがもらったの。だから、エドワードが食べて、そして、あしたカーティスにお礼を言って頂戴。できれば1個、アランにも分けてあげて」
「俺がカーティスに礼を言うって、……何だそれ」
「お願い。食べるのはエドワードなんだから、いいでしょう」
「ああ、分かったよ。そうだ言い忘れていたけど、俺の体で、その辺のものを拾い食いをするなよ、出された食事以外禁止な。お前は食い意地張っているから」
「ひっどーい。わたし食い意地なんか張っていないわよ」
「はぁぁーっ、よくいう。ケーキを食い損ねたと騒いでいただろう。その前はチョコレートだったな」
「それは……、あのときのケーキがおいしそうだったからで……。もう分かったわよ、ちゃんとエドワードとの約束は守るから安心して」
反論したいが、ルイーズは余裕がない。もじもじと、何かをこらえている。
素っ気ないのもそのせいだ。
そんなルイーズの気も知らず、部屋の中を見回しているエドワードは、壁に貼っている1枚もののカレンダーに目が留まった。
それには、2か月以上も先の日にちに丸印が付いており、エドワードは、滑稽に思えて仕方がない。とうとう我慢できずに、けたけたと笑いだした。
自分はそれに行くのが嫌でたまらないのに、令嬢は全く逆だと解釈している。
「くくっ、お前、どれだけ王宮の舞踏会を楽しみにしているんだ?」
それを聞いてもピンとこないルイーズ。
何のことだ? と、首をかしげているルイーズへ、カレンダーの10月30日を指差したエドワード。
ほんの少しだけ、ルイーズは表情を曇らせる。
「今年の舞踏会は、その日だったのか……。それは、わたしの18歳の誕生日よ。他に言いたいことと聞きたいことがないなら、わたしを馬車まで送って」
今はまだ、その意味を伝えるわけにはいかなかったルイーズは、そっけなく話を受け流す。
だが、彼に伏し沈むような口調で伝えてしまった。
あらぬ詮索をされないかと不安になり、彼の反応が気になっている。
「お前って、元婚約者にそんなことまでしていたのか? 随分と尽くしていたのに残念だったな」
エドワードからは相変わらずな反応が返ってくる。
「はぁ~っ」
気落ちした、ため息が出るルイーズ。
(もう、どうしてエドワードはこんな言い方しかできないのよ……。
尽くしていたと言われると、否定もできない。分かっている……、モーガンが喜んでくれるのがうれしくて、馬鹿なことをしていた気がするけど、見送ったことはない。彼はいつも1人で、スタスタと帰っていたんだから……)
馬車まで送って欲しいと言ったルイーズの真意は、全く違った。
決して、平常時のルイーズに見せるためではない。
ルイーズは、エドワードの姿でこの屋敷の中を1人で歩けば、姉に絡まれることを心配している。
姉の姿を見ると、うまく話せずに萎縮してしまう。
そんな自分がエドワードとして、うまく切り抜ける自信がなかったため、エドワードに馬車まで送って欲しいと頼んだのだ。
けれど、うまく説明する言葉をルイーズは見つけられず、めんどうになって肯定していた。
「そうね。忘れていたけどこの部屋に触られて困るものは置いていないから、何でも見ていいわよ。もし、すぐに戻れなければ自分のことが分からないと困るでしょう。それに、騎士服なら自分で着られるでしょうから、その格好であしたは屋敷を出るだけね」
「ふ~ん。お前のことなら大体分かっている。人の助言を聞かない馬鹿だろう」
「……いつだってエドワードは、わたしの悪口しか言わないのね。でも、ここに長居はしていられないわ。限界だから帰る」
エドワードがいつもの調子でからかってきたけれど、膀胱事情がいよいよ本格化してきたルイーズは、悠長なことはできない。
「だから、俺は見ないって、さっさと行ってこい!」
「嫌よ、わたしが化粧室から出てきたら、エドワードのことだもの色々聞いて馬鹿にしてくるでしょう」
「俺を何だと思っているんだ!」
「はぁぁーっ、偉そうにする嫌なやつ。それ以外にないでしょう。もういいわ、帰る」
そう言って、動きだしたルイーズ。
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