50 / 88
第4章 離れたふたり
4-5 迫られる王女との結婚
しおりを挟む
陛下の執務室へ平然と入っていくエドワード。
エドワードは、ルイーズ姿のときに何度か陛下の側近の姿を目にしていた。その度に彼は、陛下の依頼であることを察して逃げていたのだから。
彼はブラウン公爵を見掛ける度に、エドワード姿のルイーズに腕を組んでいたのだ。
回復魔法師であることを隠しているエドワード。自分の職位を知っている数少ない人物たちに、日頃は自分をその名で呼ぶなと命じてある。
そのため陛下の側近は、エドワードが1人になったときにしか声を掛けてこない。
それを逆手に取り、ブラウン公爵の姿を見掛けてはルイーズの体の自分が、エドワードの体にピッタリと張り付いていた。
エドワードが声を掛けられれば、応じられない理由を説明するのが簡単ではなかったから。
突然の入れ替わりで、しばらく仕事を休んでいたことに後ろめたさのあるエドワードは、回復魔法師としての口調にしては、日頃より丁寧だ。
自分がいなかった間に、きっと何かあったのだろうと、いつもより陛下を労わるように声を掛けている。
実のところ、エドワードは毎日ブラウン公爵の姿を見掛けていた。
エドワードと付き合いの長い陛下のことは、彼なりに心配している。
その上、事前の承諾もなく、一方的に仕事を放棄していたのが気に病んでいるようだ。
「最近、王宮にいないことが多かったから、陛下のことが気になって。たまには俺から来たけど、用事はなかったですか?」
「ずっと待っていたぞ。腰と肩が凝って痛くてな。エドワード様が捕まらないから他の回復魔法師様に頼んだが、やはり、いまいちだった」
陛下から待っていたと言われ、エドワードは申し訳なくなり目を伏せた。
けれど、その原因を聞いて白目を向いたエドワードは、いつもの調子に戻っていく。
「まさか、肩こりで俺を探し回っていたのか……。大概にしてくださいよ、ったくとんでもないな。調子がいまいちだから、しばらく仕事は休むと報告していたでしょう」
「そう水臭いことを言うな」
「はいはい、分かりましたよ」
そう言って、エドワードは、陛下の肌に触れるように手を握った。
しばらくして、エドワードが治療の終わりを告げる癖。反対の手で陛下の手の甲を2回軽くたたいて合図を送る。
治療の終了を理解した陛下は、おもむろに口を開く。
だが、その表情も口調も、辛気臭さく、明らかに落ち込んでいるようだ。
「エドワードは、フォスター伯爵家のルイーズ嬢がお気に入りなのか? 最近あちこちからその話を耳にする。恋人同士のように2人で腕を組んで歩いているんだって」
「どっから、そんな出鱈目……あ。まあ、親しいのは事実ですけどね」
(陛下の側近を見て、逃げるためにルイーズの体の俺が、エドワードの腕を組んで逃げ去ったからな。そのときの話か。
2人は元に戻ったわけだし、そんなことをすることは、もうないんだろうな……)
「ルイーズ嬢を伴侶にするつもりなのか?」
「あ、いや、そんな予定はないけど」
「ならば、レベッカと婚約してくれないだろうか。レベッカがやたらとエドワードに執心していてな。スペンサー侯爵家を公爵にする話も出したにもかかわらず、婚約の申し出がないと憤慨している。挙句にスペンサー侯爵家は王家への反逆とまで言いだした。私では、王女に説明する言い訳が見つからず、正直なところ困っている」
陛下はさらに全身に重苦しい空気をまとっているように映る。
レベッカ王女から、「なるべく早く婚約の話をちょうだい」と言われ、既に10か月以上たっている。王女の年齢的に、これ以上曖昧にするわけにいかないのは分かっている。
どう考えても、レベッカ王女を選ぶべきで、誰もがみんな、それが順当だと見立てているのが現状。ただ、エドワードの気持ちを除いては、だが。
(レベッカ王女ね……。俺の性格も全くの勘違いをして、変な期待をしているんだよな。それなら、ルイーズと一緒にいる方が落ち着くんだよな……)
「少し考えさせてください。断るなら理由は考えておきます。俺が王女の誰かと結婚しなくても、陛下の所にはいつでも来ますから、そう落ち込まないでください」
それを聞き、顔を上げてぱぁぁーっと笑顔になる陛下。
「そう言ってくれるのを待っていた」
「くくっ、ったく調子がいいな。そういえば、左膝も動かしにくかったでしょう。硬くなっていたから、ついでに治しておきましたから」
「先日転んだときのだな。エドワード様が捕まらなかったから、回復魔法師様に治してもらっていたんだ。痛くはなかったんだが、助かった」
「そうでしたか。それじゃ、また呼んでください」
エドワードは笑顔を陛下に向けてから退室していたが、独りになった途端に真顔に戻った。
そして、頭の中では直前の発言を撤回すべきかと、心がムズムズしている。
(冷静になれって、俺はどうしたんだよ。何故、王女よりルイーズの方が良いって思ったんだよ。そんなわけないだろう。
駄目だ。ルイーズのような何にも知らないあほでは、侯爵家の中のことさえ、ままならないだろう。どう考えたって、レベッカ王女の方が断然好都合だ。
王女に比べてルイーズの方が良い理由なんて、……気のせいだろう。
どうしちまったんだ……、何であんなことを陛下に言ったんだよ)
悶々とするエドワードは、救護室へ向かっていた。
心が乱れ、いつもより警戒心が薄れているエドワード。
彼は、いつもとは違う行動をとり、救護室で暴言をはいているモーガンと遭遇することになる。
エドワードは、ルイーズ姿のときに何度か陛下の側近の姿を目にしていた。その度に彼は、陛下の依頼であることを察して逃げていたのだから。
彼はブラウン公爵を見掛ける度に、エドワード姿のルイーズに腕を組んでいたのだ。
回復魔法師であることを隠しているエドワード。自分の職位を知っている数少ない人物たちに、日頃は自分をその名で呼ぶなと命じてある。
そのため陛下の側近は、エドワードが1人になったときにしか声を掛けてこない。
それを逆手に取り、ブラウン公爵の姿を見掛けてはルイーズの体の自分が、エドワードの体にピッタリと張り付いていた。
エドワードが声を掛けられれば、応じられない理由を説明するのが簡単ではなかったから。
突然の入れ替わりで、しばらく仕事を休んでいたことに後ろめたさのあるエドワードは、回復魔法師としての口調にしては、日頃より丁寧だ。
自分がいなかった間に、きっと何かあったのだろうと、いつもより陛下を労わるように声を掛けている。
実のところ、エドワードは毎日ブラウン公爵の姿を見掛けていた。
エドワードと付き合いの長い陛下のことは、彼なりに心配している。
その上、事前の承諾もなく、一方的に仕事を放棄していたのが気に病んでいるようだ。
「最近、王宮にいないことが多かったから、陛下のことが気になって。たまには俺から来たけど、用事はなかったですか?」
「ずっと待っていたぞ。腰と肩が凝って痛くてな。エドワード様が捕まらないから他の回復魔法師様に頼んだが、やはり、いまいちだった」
陛下から待っていたと言われ、エドワードは申し訳なくなり目を伏せた。
けれど、その原因を聞いて白目を向いたエドワードは、いつもの調子に戻っていく。
「まさか、肩こりで俺を探し回っていたのか……。大概にしてくださいよ、ったくとんでもないな。調子がいまいちだから、しばらく仕事は休むと報告していたでしょう」
「そう水臭いことを言うな」
「はいはい、分かりましたよ」
そう言って、エドワードは、陛下の肌に触れるように手を握った。
しばらくして、エドワードが治療の終わりを告げる癖。反対の手で陛下の手の甲を2回軽くたたいて合図を送る。
治療の終了を理解した陛下は、おもむろに口を開く。
だが、その表情も口調も、辛気臭さく、明らかに落ち込んでいるようだ。
「エドワードは、フォスター伯爵家のルイーズ嬢がお気に入りなのか? 最近あちこちからその話を耳にする。恋人同士のように2人で腕を組んで歩いているんだって」
「どっから、そんな出鱈目……あ。まあ、親しいのは事実ですけどね」
(陛下の側近を見て、逃げるためにルイーズの体の俺が、エドワードの腕を組んで逃げ去ったからな。そのときの話か。
2人は元に戻ったわけだし、そんなことをすることは、もうないんだろうな……)
「ルイーズ嬢を伴侶にするつもりなのか?」
「あ、いや、そんな予定はないけど」
「ならば、レベッカと婚約してくれないだろうか。レベッカがやたらとエドワードに執心していてな。スペンサー侯爵家を公爵にする話も出したにもかかわらず、婚約の申し出がないと憤慨している。挙句にスペンサー侯爵家は王家への反逆とまで言いだした。私では、王女に説明する言い訳が見つからず、正直なところ困っている」
陛下はさらに全身に重苦しい空気をまとっているように映る。
レベッカ王女から、「なるべく早く婚約の話をちょうだい」と言われ、既に10か月以上たっている。王女の年齢的に、これ以上曖昧にするわけにいかないのは分かっている。
どう考えても、レベッカ王女を選ぶべきで、誰もがみんな、それが順当だと見立てているのが現状。ただ、エドワードの気持ちを除いては、だが。
(レベッカ王女ね……。俺の性格も全くの勘違いをして、変な期待をしているんだよな。それなら、ルイーズと一緒にいる方が落ち着くんだよな……)
「少し考えさせてください。断るなら理由は考えておきます。俺が王女の誰かと結婚しなくても、陛下の所にはいつでも来ますから、そう落ち込まないでください」
それを聞き、顔を上げてぱぁぁーっと笑顔になる陛下。
「そう言ってくれるのを待っていた」
「くくっ、ったく調子がいいな。そういえば、左膝も動かしにくかったでしょう。硬くなっていたから、ついでに治しておきましたから」
「先日転んだときのだな。エドワード様が捕まらなかったから、回復魔法師様に治してもらっていたんだ。痛くはなかったんだが、助かった」
「そうでしたか。それじゃ、また呼んでください」
エドワードは笑顔を陛下に向けてから退室していたが、独りになった途端に真顔に戻った。
そして、頭の中では直前の発言を撤回すべきかと、心がムズムズしている。
(冷静になれって、俺はどうしたんだよ。何故、王女よりルイーズの方が良いって思ったんだよ。そんなわけないだろう。
駄目だ。ルイーズのような何にも知らないあほでは、侯爵家の中のことさえ、ままならないだろう。どう考えたって、レベッカ王女の方が断然好都合だ。
王女に比べてルイーズの方が良い理由なんて、……気のせいだろう。
どうしちまったんだ……、何であんなことを陛下に言ったんだよ)
悶々とするエドワードは、救護室へ向かっていた。
心が乱れ、いつもより警戒心が薄れているエドワード。
彼は、いつもとは違う行動をとり、救護室で暴言をはいているモーガンと遭遇することになる。
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる