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第4章 離れたふたり
4-9 すれ違うふたり②
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パトリシアは、エドワードの視線の先にルイーズがいることに気付いた。でも、それくらいで引く訳にはいかないと、彼を熱く見つめる。
……それなのに、真横にいる自分には見向きもしない。パトリシアは、そんな彼にヤキモキする。
こうしてはいられないと、彼に問い掛けた。
「エドワード様は、ルイーズ様がお好きなのですか? もしかして、今日もこの後に何か予定でも?」
「いや、そんなわけはないし、……予定もない」
「あぁ良かったわ。そうなのですね」
ホッと胸をなでおろす。
よし、特別に見えたルイーズだって、何ら自分と変わらない。うれしそうにエドワードへ笑いかける。
かれんなパトリシアのかわいい笑顔。これにルイーズは引き込まれていた。
けれど、彼の気持ちは全く揺らいでおらず、ルイーズのことを考えている。
(ルイーズを好きって……、そんなことはないだろう。あるわけないな。あんな口が悪くて、何も知らないのに生意気な女。……でも、本当にあいつは、こんなところで何していたんだ)
エドワードはルイーズのことが気になって仕方がない。
入れ替わりから戻って、まだ何も話せず仕舞い。
もう一度、彼女を見ようと、ルイーズの姿を探す。あれ、いない……。
ルイーズがどこに行ったのかと、首を動かし左右を見るが、ルイーズの姿は見えない。
パトリシアと言葉を交わした、わずかな時間。彼が目を離した間に彼女が消えてしまい、残念そうに目を伏せる。
……ほんの少し前。
宿代もない長旅。それにルイーズは恐怖心を抱いた。
そうだ、そんなことなら娼館の方がましだ、と思いついた。
継母に無理やり売られてしまうより、自分の足で扉をたたいた方が、まともに暮らせる気がする。
その結論にうなずいたルイーズは、すくっと立ち上がった。
目をギラギラと輝かせる男性。この人は、好き者っぽいし、娼館の場所を知っている気がする。
聞くならこの人だ!
そう意を決して「娼館に行きたい。全然分からないので、詳しく教えて欲しい」と問い掛ける。そう伝えれば、地図を描いてくれると期待した。
にやりと笑う見ず知らずの大男。まさか、若い娘、それも生娘が堂々と誘ってきたのだ。前代未聞の大チャンス。
ドキドキするルイーズは、瞳を潤ませ答えをひたすら待っていた。
だが、好き者と目星を付けた男が、舐め回すように全身を見てくる。……危ない空気が漂う。
これって……もしかして……。とってもまずいかもしれない……。
ルイーズが、そう思っていると、手をつなごうとしてきた大男。
ゾッとしたルイーズは、走って逃げていた。
まさか、ルイーズがそんなことになっているとは、エドワードは知らない。
エドワードとパトリシアは30分店の外で並んでから入店していた。
彼は、この後に王宮で仕事するつもりだ。この時点で既に時間が気にかかる。
ちらりと懐中時計を見ると、間もなく11時30分。
ギョッとする彼は、冷ややかな目でパトリシアを見ている。
「どうしてここへ? ケーキであれば並ばなくても、他でも食べられるでしょう」
「人気店に行ったと言えば、お茶会で、みんなに自慢できるでしょう」
「ふ~ん、そういうもんですかね」
(わざわざこんなことを自慢……。令嬢の気持ちは、よく分からんな)
そう思っているエドワードは、形式上頼んだだけで、お茶に口を付けることもない。
「エドワード様はお茶だけでいいのですか? わたしの頼んだ、リンゴのケーキ1口どうぞ」
そう言い切る前から、エドワードの目の前まで、フォークに乗ったケーキを差し出すパトリシア。
先日パトリシアは、ルイーズが自分から腕を組んでいるのを見ていた。
パトリシアはその行為が、はしたないと、ハッとした。
それなのに、エドワードは嫌がる様子もなく受け入れていたのだ。むしろ楽しそうに。
そのため、エドワードには、これくらいしなければ距離が縮まらないと思っている。
珍しく、口をあわあわと動かし、エドワードは激しく動揺する。
エドワードの口の直前まで迫っていたリンゴを見て、身の危険を感じたエドワードは、それを隠すのを諦めた。
「いや悪い。俺、リンゴはアレルギーで食べられないから」
「あっ、そうだったんですね。知らずに申し訳ありません、わたしったら……」
「いえ、屋敷の人間と極一部の者しか知らない話ですから当然でしょう」
「もしかして、ルイーズ様も知らないのですか?」
「ああ、ルイーズに伝えたことはないな」
(ルイーズと入れ替わったときも、間違って食べないように、食事は俺が注文していたしな)
「それをわたしが知っているなんて、うれしいわ。今度、ルイーズ様に会ったら自慢しようかしら」
それを聞き、エドワードの気遣いが消えつつあり、声色に冷酷さが混じる。
「別に、ルイーズになら伝えても構わないけど……。でも、人があえて話していないことを、平然と誰かに話すのは、どうかと思うけど」
「あっ、申し訳ありません、つい、ルイーズ様が知らないと聞いて、浮かれてしまいました……」
「……」
(ルイーズだったら、絶対にしないんだろうな。なんだって、こんなにあいつのことばかり考えているんだ)
2人の間には沈黙が続く。
焦るエドワードは、パトリシアが食べ終わるや否や店を後にする。
……それなのに、真横にいる自分には見向きもしない。パトリシアは、そんな彼にヤキモキする。
こうしてはいられないと、彼に問い掛けた。
「エドワード様は、ルイーズ様がお好きなのですか? もしかして、今日もこの後に何か予定でも?」
「いや、そんなわけはないし、……予定もない」
「あぁ良かったわ。そうなのですね」
ホッと胸をなでおろす。
よし、特別に見えたルイーズだって、何ら自分と変わらない。うれしそうにエドワードへ笑いかける。
かれんなパトリシアのかわいい笑顔。これにルイーズは引き込まれていた。
けれど、彼の気持ちは全く揺らいでおらず、ルイーズのことを考えている。
(ルイーズを好きって……、そんなことはないだろう。あるわけないな。あんな口が悪くて、何も知らないのに生意気な女。……でも、本当にあいつは、こんなところで何していたんだ)
エドワードはルイーズのことが気になって仕方がない。
入れ替わりから戻って、まだ何も話せず仕舞い。
もう一度、彼女を見ようと、ルイーズの姿を探す。あれ、いない……。
ルイーズがどこに行ったのかと、首を動かし左右を見るが、ルイーズの姿は見えない。
パトリシアと言葉を交わした、わずかな時間。彼が目を離した間に彼女が消えてしまい、残念そうに目を伏せる。
……ほんの少し前。
宿代もない長旅。それにルイーズは恐怖心を抱いた。
そうだ、そんなことなら娼館の方がましだ、と思いついた。
継母に無理やり売られてしまうより、自分の足で扉をたたいた方が、まともに暮らせる気がする。
その結論にうなずいたルイーズは、すくっと立ち上がった。
目をギラギラと輝かせる男性。この人は、好き者っぽいし、娼館の場所を知っている気がする。
聞くならこの人だ!
そう意を決して「娼館に行きたい。全然分からないので、詳しく教えて欲しい」と問い掛ける。そう伝えれば、地図を描いてくれると期待した。
にやりと笑う見ず知らずの大男。まさか、若い娘、それも生娘が堂々と誘ってきたのだ。前代未聞の大チャンス。
ドキドキするルイーズは、瞳を潤ませ答えをひたすら待っていた。
だが、好き者と目星を付けた男が、舐め回すように全身を見てくる。……危ない空気が漂う。
これって……もしかして……。とってもまずいかもしれない……。
ルイーズが、そう思っていると、手をつなごうとしてきた大男。
ゾッとしたルイーズは、走って逃げていた。
まさか、ルイーズがそんなことになっているとは、エドワードは知らない。
エドワードとパトリシアは30分店の外で並んでから入店していた。
彼は、この後に王宮で仕事するつもりだ。この時点で既に時間が気にかかる。
ちらりと懐中時計を見ると、間もなく11時30分。
ギョッとする彼は、冷ややかな目でパトリシアを見ている。
「どうしてここへ? ケーキであれば並ばなくても、他でも食べられるでしょう」
「人気店に行ったと言えば、お茶会で、みんなに自慢できるでしょう」
「ふ~ん、そういうもんですかね」
(わざわざこんなことを自慢……。令嬢の気持ちは、よく分からんな)
そう思っているエドワードは、形式上頼んだだけで、お茶に口を付けることもない。
「エドワード様はお茶だけでいいのですか? わたしの頼んだ、リンゴのケーキ1口どうぞ」
そう言い切る前から、エドワードの目の前まで、フォークに乗ったケーキを差し出すパトリシア。
先日パトリシアは、ルイーズが自分から腕を組んでいるのを見ていた。
パトリシアはその行為が、はしたないと、ハッとした。
それなのに、エドワードは嫌がる様子もなく受け入れていたのだ。むしろ楽しそうに。
そのため、エドワードには、これくらいしなければ距離が縮まらないと思っている。
珍しく、口をあわあわと動かし、エドワードは激しく動揺する。
エドワードの口の直前まで迫っていたリンゴを見て、身の危険を感じたエドワードは、それを隠すのを諦めた。
「いや悪い。俺、リンゴはアレルギーで食べられないから」
「あっ、そうだったんですね。知らずに申し訳ありません、わたしったら……」
「いえ、屋敷の人間と極一部の者しか知らない話ですから当然でしょう」
「もしかして、ルイーズ様も知らないのですか?」
「ああ、ルイーズに伝えたことはないな」
(ルイーズと入れ替わったときも、間違って食べないように、食事は俺が注文していたしな)
「それをわたしが知っているなんて、うれしいわ。今度、ルイーズ様に会ったら自慢しようかしら」
それを聞き、エドワードの気遣いが消えつつあり、声色に冷酷さが混じる。
「別に、ルイーズになら伝えても構わないけど……。でも、人があえて話していないことを、平然と誰かに話すのは、どうかと思うけど」
「あっ、申し訳ありません、つい、ルイーズ様が知らないと聞いて、浮かれてしまいました……」
「……」
(ルイーズだったら、絶対にしないんだろうな。なんだって、こんなにあいつのことばかり考えているんだ)
2人の間には沈黙が続く。
焦るエドワードは、パトリシアが食べ終わるや否や店を後にする。
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