【完結】突然の変わり身「俺に惚れるな」と、言っていたのは誰ですか⁉ ~脱走令嬢は、素性を隠した俺様令息に捕獲される~

瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!

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第4章 離れたふたり

4-10 ルイーズが逃げた

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 エドワードが、ルイーズを町で見かけた翌日。
 訓練場の前に、エドワードにとって見覚えのある子どもが、姿勢を正して立っていた。

 その子は自分から声を掛けず、大人から声を掛けてもらうのをひたすら待っている。
 当然、貴族の令息たちが自ら子どもに声を掛けるわけがない。
 少年もそれを分かって立っているから動じていないが、大半の候補生が無情にも素通り過ぎていた。

 そこに女豹めひょうの群れから逃げるように、エドワードは速足で通りすぎようとした。
 こんなところに子ども? んっ、あの少年……立ち姿に記憶がある。
 そう思って、顔をのぞき込めばやはりそうだ。驚いた顔をするエドワードは、その子どもがルイーズの弟であることに気付く。
 そんなエドワードは、弟のことをえらく気に入っていた。
 アランは、自分を気づかってリンゴを置いていった少年。
 時間があれば、わざわざ自分から部屋を訪ね、勉強をみてやった。その上、アランからダンスのことも聞かれ教えたのだ。
 ルイーズに、こんなことが分るのか? と疑問に思いながらエドワードは指導してみる。
 そうすれば、弟から尊敬のまなざしを向けられた。入れ替わり中、まるで自分の弟のように、かわいがっていた。

「おうっ! こんな所でどうしたんだ? 誰かに用事か?」
 今だって、入れ替わり中の気さくな態度。

「あ、あの。フォスター伯爵家のアランと申しますが、姉のルイーズにチョコレートとリンゴをくれた方を探しているのです」

 に落ちない顔をしているエドワードは、ルイーズの弟が、カーティスを探していることに疑問を抱く。
 リンゴとチョコレート。そう言われれば、弟の探し人は、自分ではないと承知している。
 それでも彼は、ルイーズのことは一番知り尽くしている自負がある。
 エドワードはアランへ、当たり前のように聞き出す。

「何かあったのか?」
「いや、僕はあなたのことを知らないから……用件は話せません。姉にチョコレートのような高価なものをくれてた、その方と話をしたいんです」
 アランにとっては、エドワードは食卓でよく話題に上る名前。だが、顔も知らない人物。目の前の妙に慣れ慣れしい大人に、不安そうな顔を見せる。

「うっっ」
 痛い所をつかれ、思わず声を詰まらせるエドワード。リンゴにチョコ、どちらも自分が渡したものではない。

(ルイーズの話だろう。カーティス公爵家3男に伝えるより俺の方が良いに決まっているだろう。ルイーズに落ちているリンゴを拾ってやったし、ルイーズの中に俺がいたとき、チョコレートのケーキは食べていたし……、いいよな)

「リンゴはルイーズが高熱を出して訓練を休んでいたから、快気祝いに俺が渡した」
 少しばかり気が引けたエドワードは、アランから目をそらす。

「あっ、それは申し訳ありません、大変失礼なことを申しました」
「そんなことはいい。わざわざ弟がここまで来て、なんの話だ?」
「姉が、屋敷を出ていったのですが、僕には行先が分からなくて。僕は姉にお世話になりっぱなしだったのに、このままでは将来、姉を探しだすことができなくなります。もしかして、姉のことを気に掛けていた方であれば、行先を知っているかと思って伺いにきました」

 子どもの口から出るとは思っていなかった言葉に驚き、エドワードは目を丸くして、弟を凝視する。
「そんなに心配しなくても、どうせ帰ってくるだろう。昨日も町でルイーズを見かけたぞ」


「そ、そうですか……、分かりました。それと、姉が書いた候補生の辞退届、机の上にあったので持ってきたのですが、どちらに届けるものか教えていただけませんか」

「はぁぁーっ。あいつ勝手に辞めるのか……。チッ、騎士団長には俺から届けておく」
 どうして自分で届けに来ないのか? と、いら立ちを覚えるエドワードは、アランから奪い取るように辞退届を受け取った。
 そんなはずがない、ウソだろうと思い書類を見る。
 すると本当に「ルイーズ・フォスター」と目に入った。間違いない。親から与えられたミドルネームもない、彼女の名前と家名が書いてある。
 ……本当に辞めるのかと、エドワードは、へこんだ表情を見せる。

 そのやり方がルイーズらしくないと疑念を抱き、その字体を見た瞬間、目元がピクリと動いた。
 
「お時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした」
 そう言って、きびすを返してすぐに立ち去ろうとする弟のアラン。

 その弟の襟を捕まえて、慌てて制止するエドワード。その所作に妙な既視感を覚えたアラン。エドワードの顔をまじまじと見るが、全く見覚えがない。

「ちょっと待て! この辞退届、ルイーズの筆跡ではないだろう。屋敷で一体何が起きている? 継母か? それとも姉がルイーズに何かしているのか?」

 目を丸くして驚くアラン。
 まさか、この人物が姉の筆跡が分かるとは夢にも思っていなかった。
 フォスター伯爵家でも、ルイーズの筆跡は、自分しか分からないのだ。

「も、申し訳ありません。説明が足りませんでした。……それは、間違いなく姉のルイーズが書いたものです、何十回も自分の署名を練習したノートが机の上にありましたから。おそらく、利き手が動かないから、左手で書いたからだと思います」
「はぁぁーっ、何であいつ俺に相談してこないんだよ。ルイーズにエドワードの所に来いと伝えておけ」

 毅然きぜんとしているアランが、今にも泣きそうな顔に変わる。
「……エドワード様。それは無理です。もう姉は屋敷に帰ってこないでしょうから、その言伝ことづては受け取れません」

「おっ、おい、どうして突然そんな話になるんだよ。……あいつ、舞踏会に行くのを楽しみにしていただろう」
「舞踏会? そんな話は聞いたことはありませんが……。うちの母は、姉が18になればどこかに売るというのは口癖でしたから。その前に逃げたのだと思います。今、母は姉を探していますが……。まさかこんなに早く、何も言わずにいなくなるとは……」

「は、……ウソだろう。ルイーズから一度もそんな話は聞いていない……。そんな……どうして」
 見る見る青ざめるエドワード。

(俺の部屋でカーティスとの婚約話をあほみたい話して、笑っていただろう。もしかして、もう2度とルイーズに会えないのか……)

「アランは、やっぱりしっかりしているな。俺、心当たりがあるから、これからルイーズを捕まえる。アランは屋敷で待っていろ、1人で帰れるだろう」

 エドワードに圧倒されて、うんうんとうなずいているアラン。
 だが、その子を横目に、切羽詰まった顔を浮かべるエドワードは、既に走り出していた。

(だからルイーズは練習に来なかった、いや、来られなかったのか。
 ルイーズは昨日、郊外へ向かうつじ馬車を調べていたのか。あー畜生、昨日のうちに声を掛けるべきだったな。何時に出発するんだよ、間に合うのか……。
 あの、ルイーズの部屋のカレンダーは、誕生日を楽しみにしていたわけではなかったのか……)

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