57 / 88
第4章 離れたふたり
4-12 ルイーズの捕獲②
しおりを挟む
訳の分からないルイーズは、強引なエドワードに手を引かれている。
少し前まで困惑の表情を浮かべていた彼女は、エドワードに付き合わされ、町の中を渋々歩いていたはず。
それなのに、そんなことはすっかり忘れ、いつもどおりの2人。
……結局、ルイーズは楽しそうにしている。
やはり単純だなと、エドワードはルイーズの顔をみて笑っていた。
「ルイーズの弟は、ルイーズよりしっかりしているな」
「そうなの、不思議よね~。とってもいい子で賢いのよ」
感心するように話しているルイーズを見て、エドワードは顔を引きつらせる。
「10歳の子どもに負けているって言われたら、否定するところだろう」
「いいのよ。あの子は本当にしっかりしているから。子どもだって思っていたら、くまの刺繍は嫌だって、いつの間にか成長していたんだもん」
「はぁぁーっ、10歳の子どもが嫌がった刺繍を俺のガウンに描くなよ」
「だって、2人の入れ替わりから戻ったときに、万が一それが夢だと思ってしまったら、わたしがいた証しが何も残らないでしょう。そう思ったら、なんか寂しくなって。エドワードの服は、どれもこれも上品で繊細な刺繍ばっかりなんだもん、くまが丁度良かったのよ。……それに、アランよりエドワードの方が子どもっぽいし」
それを聞いたエドワードの涙腺が緩みかけた。が、ピタリと閉まる。
「おいっ! ほんの一瞬だけ感動した俺の時間を返せ。10歳の子どもに俺が劣っているわけないだろう、あほっ」
「困ったわね……。そんな風に全然見えないわ」
「それは、ルイーズの感性がおかしいからだろう」
結局言いたい放題のふたり。でも、そのふたりの腕は、がっしり組んで緩む様子はない。
エドワードの用事。その店へ2人で入ろうとする。
だが、ここは見覚えがある。流されて入ったら後戻りできない。
……嫌な予感がすると、狼狽するルイーズは、入り口で精いっぱいの抵抗を見せる。
そんなものは、エドワードに通用しない。
入り口で固まるルイーズは、ぼけっとするなと、エドワードに背中を押され、店舗の奥にある別室に押し込まれていた。
(ちょっと、ここって、高価な石ころのお店でしょう……)
彼女が別室の椅子で座って待っている間、エドワードが店主と話し込んでいるようだった。
……そして、ルイーズの元へ戻った彼は、時間を気にしている。
「俺の用事は済んだけど、ルイーズはどこか行きたい所はないか?」
「うーん、わたしは特に、これといってないわね」
ぐぅぅ~っと、ルイーズから響き渡るおなかの音。どうしてこんなときに、タイミングが悪すぎると焦るルイーズ。
……気まずくなったルイーズは、涼しい顔で空を見上げる。
「言えよ。腹が減っているんだろう」
「いや、それは本当に大丈夫。そんなのいいわ。ウソじゃないから……」
「何を言っても無駄だ。ウソも下手だが、俺にはバレバレだしな。悪い、でも今日は時間がないからチョコレートのケーキは無理だ、王宮へ行くぞ」
「王宮? 訓練? 無理、無理、もう騎士は目指してないから!」
剣なんて持てない!
ルイーズは必死に訴えるが、全く取り入ってもらえないまま、馬車へ押し込められた。
ルイーズは、うつむいたまま無言になり、名案を探している。
右手が動かないことを、エドワードにどうやって、ごまかそうかと、必死の様子。
そんなことはお構いなしのエドワードは、もっと近くに来て欲しいと、ルイーズの肩に腕を回す。
それを当たり前のようにルイーズはこたえ、エドワードの肩に頭を乗せる。
「俺に隠していることはないか?」
ルイーズは、予期せぬ質問にビクッと体をこわばらせてしまう。
「えっ、何かしら。隠しごとなら心当たりがあり過ぎるから、分からないわね、ははは」
「くくっ、確かにな。ルイーズは聞いたって、隠しているからな。……なあ、部屋の一番上の引き出しは、最後まで開けなかったのか?」
「あー、重要書類が入っている引き出しのこと? それならもちろん開けていないわよ。見られたら嫌でしょう」
「ルイーズってすごいな。俺は、悪いと思いながらも、あの後もルイーズの体で色々やっていたもんな」
「馬鹿ね。言わなきゃバレないのに正直過ぎるでしょう。もーう、わたしがお願いした意味がないじゃない、何やっているのよっ! それに、むしろ恥ずかしくなるから聞きたくなかったわ」
向きになって怒るルイーズの姿を見て、笑いだすエドワード。
「くくっ。だから、やらない方がおかしいだろう」
「っ、そんなにはっきり言われると、怒っているわたしの方が、おかしい人みたいじゃない」
(エドワードにだったら、今更だもの、どうでも良くなってきたわ)
「……それにしても、わたしたちって、どうして入れ替わって、突然元に戻ったんだろう」
「前にも言ったが、原因は間違いなく俺だ。それと、ルイーズの意思が重なったんだろう。初めに入れ替わったとき、俺になりたいと考えていなかったか?」
そう言われて、そのときのことを思い出そうとするルイーズは、何かを閃いていた。
(あのときは確か、何でも言えるエドワードが羨ましくて……)
「そうだった。姉に馬鹿って言いたいと思って、何でも言えるエドワードになりたいと思ったわ」
「は? まさかそんなことで……。俺が思っていた以上に軽い理由でルイーズらしいな……。良かったな、確かに言ってやった。……それはいいが、元に戻ったときは、どうだった?」
「このままエドワードが、わたしの体と一緒に命を落とすことになったら嫌だと思って、戻れと必死に念じたわ」
「ルイーズって、やっぱりいいやつだな」
「やっと気付いたの? 今まで分かっていないって、エドワードは、本当に感性がおかしいわよ、っふふ」
「確かにそうかもな。俺、人と違うから、他人とは距離を置くようにしていたから」
「ウソばっかり。エドワードは初めっから、わたしにベッタリくっ付いていたじゃない。よく言うわね」
「それは、宰相が見込みのないルイーズのことを心配していたから、俺がお前のそばにいただけだ」
はい? ……意味が分からない。ルイーズの顔には、はっきりそう書いてある。
「えーウソ……、そんな理由だったの……。てっきりエドワードも騎士になりたいのかと思っていたわよ」
「初めから騎士になる気はなかった。俺は、別の職があるからな。俺の仕事はこの体でなければできないみたいだ。だから、ルイーズと入れ替わっていたとき、右手首に大けがをして、俺の体に何としても戻りたいと思った。……ここまで言えば、分かるか?」
少し前まで困惑の表情を浮かべていた彼女は、エドワードに付き合わされ、町の中を渋々歩いていたはず。
それなのに、そんなことはすっかり忘れ、いつもどおりの2人。
……結局、ルイーズは楽しそうにしている。
やはり単純だなと、エドワードはルイーズの顔をみて笑っていた。
「ルイーズの弟は、ルイーズよりしっかりしているな」
「そうなの、不思議よね~。とってもいい子で賢いのよ」
感心するように話しているルイーズを見て、エドワードは顔を引きつらせる。
「10歳の子どもに負けているって言われたら、否定するところだろう」
「いいのよ。あの子は本当にしっかりしているから。子どもだって思っていたら、くまの刺繍は嫌だって、いつの間にか成長していたんだもん」
「はぁぁーっ、10歳の子どもが嫌がった刺繍を俺のガウンに描くなよ」
「だって、2人の入れ替わりから戻ったときに、万が一それが夢だと思ってしまったら、わたしがいた証しが何も残らないでしょう。そう思ったら、なんか寂しくなって。エドワードの服は、どれもこれも上品で繊細な刺繍ばっかりなんだもん、くまが丁度良かったのよ。……それに、アランよりエドワードの方が子どもっぽいし」
それを聞いたエドワードの涙腺が緩みかけた。が、ピタリと閉まる。
「おいっ! ほんの一瞬だけ感動した俺の時間を返せ。10歳の子どもに俺が劣っているわけないだろう、あほっ」
「困ったわね……。そんな風に全然見えないわ」
「それは、ルイーズの感性がおかしいからだろう」
結局言いたい放題のふたり。でも、そのふたりの腕は、がっしり組んで緩む様子はない。
エドワードの用事。その店へ2人で入ろうとする。
だが、ここは見覚えがある。流されて入ったら後戻りできない。
……嫌な予感がすると、狼狽するルイーズは、入り口で精いっぱいの抵抗を見せる。
そんなものは、エドワードに通用しない。
入り口で固まるルイーズは、ぼけっとするなと、エドワードに背中を押され、店舗の奥にある別室に押し込まれていた。
(ちょっと、ここって、高価な石ころのお店でしょう……)
彼女が別室の椅子で座って待っている間、エドワードが店主と話し込んでいるようだった。
……そして、ルイーズの元へ戻った彼は、時間を気にしている。
「俺の用事は済んだけど、ルイーズはどこか行きたい所はないか?」
「うーん、わたしは特に、これといってないわね」
ぐぅぅ~っと、ルイーズから響き渡るおなかの音。どうしてこんなときに、タイミングが悪すぎると焦るルイーズ。
……気まずくなったルイーズは、涼しい顔で空を見上げる。
「言えよ。腹が減っているんだろう」
「いや、それは本当に大丈夫。そんなのいいわ。ウソじゃないから……」
「何を言っても無駄だ。ウソも下手だが、俺にはバレバレだしな。悪い、でも今日は時間がないからチョコレートのケーキは無理だ、王宮へ行くぞ」
「王宮? 訓練? 無理、無理、もう騎士は目指してないから!」
剣なんて持てない!
ルイーズは必死に訴えるが、全く取り入ってもらえないまま、馬車へ押し込められた。
ルイーズは、うつむいたまま無言になり、名案を探している。
右手が動かないことを、エドワードにどうやって、ごまかそうかと、必死の様子。
そんなことはお構いなしのエドワードは、もっと近くに来て欲しいと、ルイーズの肩に腕を回す。
それを当たり前のようにルイーズはこたえ、エドワードの肩に頭を乗せる。
「俺に隠していることはないか?」
ルイーズは、予期せぬ質問にビクッと体をこわばらせてしまう。
「えっ、何かしら。隠しごとなら心当たりがあり過ぎるから、分からないわね、ははは」
「くくっ、確かにな。ルイーズは聞いたって、隠しているからな。……なあ、部屋の一番上の引き出しは、最後まで開けなかったのか?」
「あー、重要書類が入っている引き出しのこと? それならもちろん開けていないわよ。見られたら嫌でしょう」
「ルイーズってすごいな。俺は、悪いと思いながらも、あの後もルイーズの体で色々やっていたもんな」
「馬鹿ね。言わなきゃバレないのに正直過ぎるでしょう。もーう、わたしがお願いした意味がないじゃない、何やっているのよっ! それに、むしろ恥ずかしくなるから聞きたくなかったわ」
向きになって怒るルイーズの姿を見て、笑いだすエドワード。
「くくっ。だから、やらない方がおかしいだろう」
「っ、そんなにはっきり言われると、怒っているわたしの方が、おかしい人みたいじゃない」
(エドワードにだったら、今更だもの、どうでも良くなってきたわ)
「……それにしても、わたしたちって、どうして入れ替わって、突然元に戻ったんだろう」
「前にも言ったが、原因は間違いなく俺だ。それと、ルイーズの意思が重なったんだろう。初めに入れ替わったとき、俺になりたいと考えていなかったか?」
そう言われて、そのときのことを思い出そうとするルイーズは、何かを閃いていた。
(あのときは確か、何でも言えるエドワードが羨ましくて……)
「そうだった。姉に馬鹿って言いたいと思って、何でも言えるエドワードになりたいと思ったわ」
「は? まさかそんなことで……。俺が思っていた以上に軽い理由でルイーズらしいな……。良かったな、確かに言ってやった。……それはいいが、元に戻ったときは、どうだった?」
「このままエドワードが、わたしの体と一緒に命を落とすことになったら嫌だと思って、戻れと必死に念じたわ」
「ルイーズって、やっぱりいいやつだな」
「やっと気付いたの? 今まで分かっていないって、エドワードは、本当に感性がおかしいわよ、っふふ」
「確かにそうかもな。俺、人と違うから、他人とは距離を置くようにしていたから」
「ウソばっかり。エドワードは初めっから、わたしにベッタリくっ付いていたじゃない。よく言うわね」
「それは、宰相が見込みのないルイーズのことを心配していたから、俺がお前のそばにいただけだ」
はい? ……意味が分からない。ルイーズの顔には、はっきりそう書いてある。
「えーウソ……、そんな理由だったの……。てっきりエドワードも騎士になりたいのかと思っていたわよ」
「初めから騎士になる気はなかった。俺は、別の職があるからな。俺の仕事はこの体でなければできないみたいだ。だから、ルイーズと入れ替わっていたとき、右手首に大けがをして、俺の体に何としても戻りたいと思った。……ここまで言えば、分かるか?」
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる