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第5章 祝福されるふたり
5-10 大波乱の舞踏会⑦
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衛兵は宰相へ問題の品を手渡す。
姉ミラベルから外された、大きなサファイアが付いたネックレス。
宰相が一目見て、ハッと身じろぐほど、相当に高価な代物。
もちろん、宰相であるスペンサー侯爵家の当主には全く見覚えはない。
おそらくエドワードだろうと、当主は息子に視線を向けている。
だが宰相は、少し前にエドワードから仕事中だと言われたばかり。
ルイーズが絡むと様子が変わるエドワードに、迂闊なことを言わないように、口を噤む。
この中で唯一、全てを知っているエドワードは機嫌が悪い。
とにかくここに長居をしたくない。いら立ちを抑えながら、低い声で話し始めた。
「2か月前にルイーズへ贈るために購入したものだ。これだけでなく、今、ミラベル嬢が身に着けている宝飾品全てに見覚えがある。だが、何故かルイーズへ渡す前に忽然と消えた」
「ということは、ミラベル嬢の物は盗品で間違いないと?」
衛兵が事実を念押しする。
「ああ、そうだ。宝飾店の店主も俺が買ったことを覚えている。盗まれたから違うものを買いにきたと、先日話したばかりだからな。被害届は明日提出するが、あの者を牢にぶち込んでおけ」
エドワードの話が聞こえていたミラベルは、ルイーズへ駆け寄って必死に懇願を始めた。
「ちっ、違います、盗んでいないわ。ねぇルイーズ、これは屋敷に届いた直後に貸してくれたものでしょう。あなたもあの日、ネックレスに、イヤリング、指輪を買ってもらった、と言っていたでしょう。それを今借りているだけじゃない」
(そうだって言いなさいよ。あんたはわたしの妹でしょう。ここでとぼけていつもの調子で、知らない、なんて言うんじゃないわよ)
「知らない……。わたしは、そんなことを言った覚えはないもの。ドレスも……そっちの方が大事だから、駄目だって言ったのに」
お前は馬鹿なの! とミラベルは目をつり上げる。……が、エドワードの顔をチラリと見て、ひゅっと、息をのんだ。
ルイーズは、全く身に覚えもないが、「ウソをついているのは妹のルイーズだ」と責められる気がしてならない。いつだって最後は、自分が姉に言い含められる。その恐怖で小刻みに震えている。
そんなルイーズの気持ちを知ってか知らでか、エドワードは、以前から不快に思っていたミラベルを、適当な理由で免じるつもりは毛頭なかった。
エドワード自身も、ミラベルに思うところがある。
「ルイーズは黙っているのは得意だが、バレバレのウソしか言わないからな。ルイーズがミラベル嬢に貸したというのは、違うだろう。それに、今着ている青いドレス。お前は気付いていないだろうが、袖に我が家の家紋が、一目では分からないように刺繍されている。今朝ルイーズへ届けたものを、お前が強引に着ているんだろう。侯爵家では、家紋の入ったものを許可のない部外者に着用を認めていないが、スペンサー侯爵家の当主はどう思う?」
青いドレスには、花とアゲハ蝶が、生地と同色の糸で刺繍されていた。
「……ああ、ルイーズ嬢が今着ているドレスは家紋なしだが、姉のドレスに刺繍されており、おかしいと思っていた。ルイーズ嬢への贈り物を、本人を差し置いて先に着用するとはな……。装飾品も同じく、ルイーズ嬢が受け取る前に盗んだのだろう。家紋付きを平然と着られては、我が家への侮辱だ。王宮の牢に入れておくのが賢明であろう」
宰相の指示で、ミラベルは衛兵によって舞踏会の会場から連れ出されていった。
大興奮するミラベルが、ルイーズへ向けて「ウソ言うんじゃないわよっ!」と大声で繰り返し叫んでいた。
……そのせいで、会場中の視線が今、ルイーズに集まっている。
煌びやかな舞踏会の会場に、ミラベルの妹である自分は、あまりにも相応しくない。
ルイーズは、彼と全く釣り合わないのが恥ずかしくなり、すっかり意気消沈している。
だがエドワードは、こんなことは百も承知で、ルイーズに求婚した。
ルイーズは自分にふさわしくないと、散々思い悩んでいたエドワードが、今更ながら気にするわけはない。
その彼は、会場中を見渡し、顔を引きつらせた。
それより、まずいのは……他にいる。
一刻も早く帰りたいエドワードは、固まって動かないルイーズをせかす。
「ルイーズ、姉のことを気にしていないで帰るぞ」
「う、うん……」
返事はしたものの、ルイーズはまだ悩んでいた。
(わたし、エドワードと一緒にいていいの……。どうしてエドワードは何も気にしていないの?)
そう思ったときだった。
つかつかと、2人の元へやって来た1人の人物が、大波乱の引き金になる。
姉ミラベルから外された、大きなサファイアが付いたネックレス。
宰相が一目見て、ハッと身じろぐほど、相当に高価な代物。
もちろん、宰相であるスペンサー侯爵家の当主には全く見覚えはない。
おそらくエドワードだろうと、当主は息子に視線を向けている。
だが宰相は、少し前にエドワードから仕事中だと言われたばかり。
ルイーズが絡むと様子が変わるエドワードに、迂闊なことを言わないように、口を噤む。
この中で唯一、全てを知っているエドワードは機嫌が悪い。
とにかくここに長居をしたくない。いら立ちを抑えながら、低い声で話し始めた。
「2か月前にルイーズへ贈るために購入したものだ。これだけでなく、今、ミラベル嬢が身に着けている宝飾品全てに見覚えがある。だが、何故かルイーズへ渡す前に忽然と消えた」
「ということは、ミラベル嬢の物は盗品で間違いないと?」
衛兵が事実を念押しする。
「ああ、そうだ。宝飾店の店主も俺が買ったことを覚えている。盗まれたから違うものを買いにきたと、先日話したばかりだからな。被害届は明日提出するが、あの者を牢にぶち込んでおけ」
エドワードの話が聞こえていたミラベルは、ルイーズへ駆け寄って必死に懇願を始めた。
「ちっ、違います、盗んでいないわ。ねぇルイーズ、これは屋敷に届いた直後に貸してくれたものでしょう。あなたもあの日、ネックレスに、イヤリング、指輪を買ってもらった、と言っていたでしょう。それを今借りているだけじゃない」
(そうだって言いなさいよ。あんたはわたしの妹でしょう。ここでとぼけていつもの調子で、知らない、なんて言うんじゃないわよ)
「知らない……。わたしは、そんなことを言った覚えはないもの。ドレスも……そっちの方が大事だから、駄目だって言ったのに」
お前は馬鹿なの! とミラベルは目をつり上げる。……が、エドワードの顔をチラリと見て、ひゅっと、息をのんだ。
ルイーズは、全く身に覚えもないが、「ウソをついているのは妹のルイーズだ」と責められる気がしてならない。いつだって最後は、自分が姉に言い含められる。その恐怖で小刻みに震えている。
そんなルイーズの気持ちを知ってか知らでか、エドワードは、以前から不快に思っていたミラベルを、適当な理由で免じるつもりは毛頭なかった。
エドワード自身も、ミラベルに思うところがある。
「ルイーズは黙っているのは得意だが、バレバレのウソしか言わないからな。ルイーズがミラベル嬢に貸したというのは、違うだろう。それに、今着ている青いドレス。お前は気付いていないだろうが、袖に我が家の家紋が、一目では分からないように刺繍されている。今朝ルイーズへ届けたものを、お前が強引に着ているんだろう。侯爵家では、家紋の入ったものを許可のない部外者に着用を認めていないが、スペンサー侯爵家の当主はどう思う?」
青いドレスには、花とアゲハ蝶が、生地と同色の糸で刺繍されていた。
「……ああ、ルイーズ嬢が今着ているドレスは家紋なしだが、姉のドレスに刺繍されており、おかしいと思っていた。ルイーズ嬢への贈り物を、本人を差し置いて先に着用するとはな……。装飾品も同じく、ルイーズ嬢が受け取る前に盗んだのだろう。家紋付きを平然と着られては、我が家への侮辱だ。王宮の牢に入れておくのが賢明であろう」
宰相の指示で、ミラベルは衛兵によって舞踏会の会場から連れ出されていった。
大興奮するミラベルが、ルイーズへ向けて「ウソ言うんじゃないわよっ!」と大声で繰り返し叫んでいた。
……そのせいで、会場中の視線が今、ルイーズに集まっている。
煌びやかな舞踏会の会場に、ミラベルの妹である自分は、あまりにも相応しくない。
ルイーズは、彼と全く釣り合わないのが恥ずかしくなり、すっかり意気消沈している。
だがエドワードは、こんなことは百も承知で、ルイーズに求婚した。
ルイーズは自分にふさわしくないと、散々思い悩んでいたエドワードが、今更ながら気にするわけはない。
その彼は、会場中を見渡し、顔を引きつらせた。
それより、まずいのは……他にいる。
一刻も早く帰りたいエドワードは、固まって動かないルイーズをせかす。
「ルイーズ、姉のことを気にしていないで帰るぞ」
「う、うん……」
返事はしたものの、ルイーズはまだ悩んでいた。
(わたし、エドワードと一緒にいていいの……。どうしてエドワードは何も気にしていないの?)
そう思ったときだった。
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