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第5章 祝福されるふたり
5-12 大波乱の舞踏会⑧
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ルイーズの継母、伯爵夫人がルイーズから少し離れた所で、わなわなと怒りで体を震わせていた。
泥棒猫の娘、ルイーズが大ウソを言った。そのせいで、ミラベルが投獄された。
今ここで、宝石はミラベルに貸したと言わせなければ、機会を失う。
このままでは、ミラベルは一度入ると2度と出てこられないチルベルにある修道院に送られるのだ。
あの場所は修道院とは名ばかりの劣悪な所。そこに自分のかわいい娘を行かせるわけにはいかない。
忌々しいルイーズへの怒りと、かわいい娘の行く末を案じ、いいだけ頭に血が上り激昂した伯爵夫人。
履いているヒールで、カッツカッと大きな音を立てて動きだした。
怒りに満ちているが、発言を撤回させる自信も相当にある。
伯爵夫人はあの晩確かに、ルイーズのクローゼットに入りきらない服や靴が届いたのと同じく、ネックレスなどの宝飾品も目にしていた。ルイーズがウソをついていることに、少しの疑いもない。
ルイーズの継母、伯爵夫人が琥珀色の酒が満たされたグラスを手にして、エドワードとルイーズの前に現れた。
「ルイーズ! あんたウソを言うのは大概になさい。わたしも、宝石が届いたのは見たわよ。貸していると撤回なさい」
知っているのはエドワードなのだろうと、ルイーズは横にいるエドワードをチラリと見るが、彼が何か言う気配もない。
むしろ、彼は分かった上で盗まれたと言った……。自分に彼を否定することは出来ない。
「……いえ。だから……。知らない」
「そんなはずはないわ。貸していると言いなさい」
「わたし……、貸していない」
その言葉を聞いた伯爵夫人の怒りは最高潮に達する。
いつもの調子で、持っているグラスの中身をぶちまけようとルイーズの方へグラスをかたむけた。
「まだ、ウソを言うつもりっ!」
継母が、グラスの中身をぶちまけることに、ルイーズは気付いた。
いつもなら、怖くて目をつむる。でも、これは絶対に目を離しては駄目だ。
大好きなエドワードに何かあったら、申し訳が立たない。すっと胸を正して継母を見つめる。
伯爵夫人が琥珀色の酒を、ルイーズにぶちまけようと思った瞬間。目に入る豪華なドレス。汚すのは憚られる。
そう思った伯爵夫人の手元が狂った。
……その先にはエドワードがいる。
……彼には、絶対に駄目!
彼女は、咄嗟にエドワードの前に立ち塞り、継母がぶちまけたグラスの飲み物を、自分自身の顔で受け止めていた。
エドワードと頭一つ分背の低いルイーズが飛び出したことで、彼の服の胸元は汚れることはなかった。けれど、彼女の顔はずぶ濡れになり、伝って滴る雫が、最高級のドレスを汚す。
「キャー」と、会場の1人が上げた悲鳴を発端に、会場全体にどよめきが起こる。
令嬢として、ドレスを自ら汚すなどあり得ない。ましてや、あれ程の代物を……と、ルイーズを批判する声が上がっている。
周囲のざわめきを受けて、にやっと笑う伯爵夫人は、せいせいしたと言わんばかりの顔を向ける。
「ミラベルは、あの宝石を盗んでいないわ。借りているだけよ、そうでしょうルイーズ」
ルイーズを諭すように話し始めた伯爵夫人。
だがしかし、今のルイーズは、継母の話どころではない。
これはまずい。とんでもないことをしでかした。見なくても分かる。
……背後にいる彼の気配が、おかしい。
……背中から伝わってくる恐怖心から、ルイーズは冷や汗をかいている。
「だから、ルイーズが貸しているものよね」
継母はエドワードの怒りに気付かず、訴え続けていた。
エドワードは、伯爵夫人の話などお構いなしでルイーズしか見ていない。
「ルイーズ、大丈夫か……」
エドワードは、自分が持っていたハンカチを出し、ルイーズの顔を拭こうとする。だが、彼の手が震え、眉間のしわが深い。
「……だ、大丈夫よ。自分で出来るわ……」
彼にそんなことはさせられないと案じて、そのハンカチをエドワードから奪い取る。
慌てて、ルイーズ自ら濡れた顔を拭き始めた。
「どうして俺の前に飛び出して来たんだ。あんなのは俺が1歩下がれば、避けられるだろう」
「あっ、あっ……。だって、エドワードのことが心配で、そんなことを考える前に体が動いたんだもん。もし……、もしエドワードに、あのお酒が掛けられると思ったら、怖くなって。エドワードに、何かあったら、そんなの駄目だから……。エドワードに申し訳が立たないもの。でも、どうしよう、わたし仕立屋の店主に高価なものだって教えてもらったのに、ドレスを汚してしまったわ……」
「馬鹿、そんなのは気にするな。って、もしかしてルイーズは酒が体に合わないのか? リンゴの酒が掛かった所が赤くなっているだろう」
「駄目よ。わたしに触れないで、どこにお酒が付いているか、分からないから、あなたに触れる自信がないわ。わたしが赤くなっているのは、すぐに治るから大丈夫。エドワードは掛かっていない? 苦しくなっていない」
アルコールによって、顔中が赤くなっているのが、ルイーズの陶器のような白い肌だから、余計に目立つ。
相当に痛痒いだろう。
……それなのに、不安そうな顔でエドワードのことばかりを心配している。
その瞬間、彼の怒りは頂点に達する。
泥棒猫の娘、ルイーズが大ウソを言った。そのせいで、ミラベルが投獄された。
今ここで、宝石はミラベルに貸したと言わせなければ、機会を失う。
このままでは、ミラベルは一度入ると2度と出てこられないチルベルにある修道院に送られるのだ。
あの場所は修道院とは名ばかりの劣悪な所。そこに自分のかわいい娘を行かせるわけにはいかない。
忌々しいルイーズへの怒りと、かわいい娘の行く末を案じ、いいだけ頭に血が上り激昂した伯爵夫人。
履いているヒールで、カッツカッと大きな音を立てて動きだした。
怒りに満ちているが、発言を撤回させる自信も相当にある。
伯爵夫人はあの晩確かに、ルイーズのクローゼットに入りきらない服や靴が届いたのと同じく、ネックレスなどの宝飾品も目にしていた。ルイーズがウソをついていることに、少しの疑いもない。
ルイーズの継母、伯爵夫人が琥珀色の酒が満たされたグラスを手にして、エドワードとルイーズの前に現れた。
「ルイーズ! あんたウソを言うのは大概になさい。わたしも、宝石が届いたのは見たわよ。貸していると撤回なさい」
知っているのはエドワードなのだろうと、ルイーズは横にいるエドワードをチラリと見るが、彼が何か言う気配もない。
むしろ、彼は分かった上で盗まれたと言った……。自分に彼を否定することは出来ない。
「……いえ。だから……。知らない」
「そんなはずはないわ。貸していると言いなさい」
「わたし……、貸していない」
その言葉を聞いた伯爵夫人の怒りは最高潮に達する。
いつもの調子で、持っているグラスの中身をぶちまけようとルイーズの方へグラスをかたむけた。
「まだ、ウソを言うつもりっ!」
継母が、グラスの中身をぶちまけることに、ルイーズは気付いた。
いつもなら、怖くて目をつむる。でも、これは絶対に目を離しては駄目だ。
大好きなエドワードに何かあったら、申し訳が立たない。すっと胸を正して継母を見つめる。
伯爵夫人が琥珀色の酒を、ルイーズにぶちまけようと思った瞬間。目に入る豪華なドレス。汚すのは憚られる。
そう思った伯爵夫人の手元が狂った。
……その先にはエドワードがいる。
……彼には、絶対に駄目!
彼女は、咄嗟にエドワードの前に立ち塞り、継母がぶちまけたグラスの飲み物を、自分自身の顔で受け止めていた。
エドワードと頭一つ分背の低いルイーズが飛び出したことで、彼の服の胸元は汚れることはなかった。けれど、彼女の顔はずぶ濡れになり、伝って滴る雫が、最高級のドレスを汚す。
「キャー」と、会場の1人が上げた悲鳴を発端に、会場全体にどよめきが起こる。
令嬢として、ドレスを自ら汚すなどあり得ない。ましてや、あれ程の代物を……と、ルイーズを批判する声が上がっている。
周囲のざわめきを受けて、にやっと笑う伯爵夫人は、せいせいしたと言わんばかりの顔を向ける。
「ミラベルは、あの宝石を盗んでいないわ。借りているだけよ、そうでしょうルイーズ」
ルイーズを諭すように話し始めた伯爵夫人。
だがしかし、今のルイーズは、継母の話どころではない。
これはまずい。とんでもないことをしでかした。見なくても分かる。
……背後にいる彼の気配が、おかしい。
……背中から伝わってくる恐怖心から、ルイーズは冷や汗をかいている。
「だから、ルイーズが貸しているものよね」
継母はエドワードの怒りに気付かず、訴え続けていた。
エドワードは、伯爵夫人の話などお構いなしでルイーズしか見ていない。
「ルイーズ、大丈夫か……」
エドワードは、自分が持っていたハンカチを出し、ルイーズの顔を拭こうとする。だが、彼の手が震え、眉間のしわが深い。
「……だ、大丈夫よ。自分で出来るわ……」
彼にそんなことはさせられないと案じて、そのハンカチをエドワードから奪い取る。
慌てて、ルイーズ自ら濡れた顔を拭き始めた。
「どうして俺の前に飛び出して来たんだ。あんなのは俺が1歩下がれば、避けられるだろう」
「あっ、あっ……。だって、エドワードのことが心配で、そんなことを考える前に体が動いたんだもん。もし……、もしエドワードに、あのお酒が掛けられると思ったら、怖くなって。エドワードに、何かあったら、そんなの駄目だから……。エドワードに申し訳が立たないもの。でも、どうしよう、わたし仕立屋の店主に高価なものだって教えてもらったのに、ドレスを汚してしまったわ……」
「馬鹿、そんなのは気にするな。って、もしかしてルイーズは酒が体に合わないのか? リンゴの酒が掛かった所が赤くなっているだろう」
「駄目よ。わたしに触れないで、どこにお酒が付いているか、分からないから、あなたに触れる自信がないわ。わたしが赤くなっているのは、すぐに治るから大丈夫。エドワードは掛かっていない? 苦しくなっていない」
アルコールによって、顔中が赤くなっているのが、ルイーズの陶器のような白い肌だから、余計に目立つ。
相当に痛痒いだろう。
……それなのに、不安そうな顔でエドワードのことばかりを心配している。
その瞬間、彼の怒りは頂点に達する。
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