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第5章 祝福されるふたり
5-22 ふたりの結婚式
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ルイーズとエドワードの結婚式が教会で始まろうとしている。
……その控え室では、白いウェディングドレスをまとうルイーズを、エドワードが穏やかな表情を浮かべ、見つめていた。
すると突然、ルイーズは楽しげに声を上げた。
「わぁ~、黒いアゲハ蝶だ。最近、よく見るのよね」
「……この国に、黒いアゲハ蝶なんていないだろう。何で教会の中に……」
ルイーズが手を伸ばし、こっちへおいでと、手招いたが、優雅に舞うアゲハ蝶は窓から外に消えていった。
**
チャペルへ向かおうと、エドワードが扉を開ける直前。ルイーズの横にいる伯爵を見て、エドワードは顔をしかめる。
「おいっ、ルイーズがフォスター伯爵と歩くって何だよ。どうして俺の横をルイーズが歩かないんだ! ルイーズの横はいつだって俺って決まっている」
準備万全の父と並んでいたルイーズは、彼によって引き離された。
……結局、ルイーズはエドワードと腕を組んでバージンロードを歩く。
目の前に広がる大きなステンドグラスから、七色の光が美しく差し込んでおり、ルイーズは思わず目を見張っていた。
だが、それよりも……。
少し前の出来事がおかしくてたまらないルイーズは、噴き出しそうな感情を必死に堪えている。
彼は、自分の結婚式をマルロとエドワードの母に任せきりにしていた。
めんどうくさがりのエドワードは、直前まで式の段取りを聞いていなかったのだろう。
何度もチラチラと彼の横顔を見て、何をやっているんだと、うれしそうな顔のルイーズ。
その視線に彼も気付き、ばつの悪そうな顔をしている。
2人の結婚式の教会は、スペンサー侯爵家の親族だけで席を埋め尽くすほどだ。
花嫁を託して最前列の席に着くはずだったルイーズの父は、今更ながら前に行くわけにもいかず、最後列の隅に腰かけていた。
ルイーズの視界には、父が座る予定だったその横に、アランが1人でいるのが見えている。
アランは、父の姿が見えなくても、動じる様子もなく相変わらず堂々たるもの。
むしろ、2人で登場した姉に頬笑みかける余裕もあるようだ。
それを見て、ルイーズは「偉い偉い」と心の中で声を掛けていた。
結婚式の形式上にある誓いのキスは、エドワードの執拗で本気モードなキスが襲ってきた。
まさか、こんなところで、彼の舌が割り入ってくるとは思ってもいない。完全に油断していた。
静まりかえる教会で、クチュクチュと音を立てるキスは、なかなか離れる気配はない。
動揺して心拍数が上昇するルイーズ。
彼の唇が離れた瞬間、ルイーズは思わず吐息がもれ、真っ赤になった。
誓いのキスが終わってすぐに、「弟の前で何をするのよっ」と彼を見ると、してやったりの顔をされた。
ルイーズは、少し前にエドワードを笑っていたことに反撃されたと悟り、あとで仕返しをする気でいる。
多くの参列者がそろう厳正な結婚式のさなか、ふざけたことを考えるのは、エドワードとルイーズくらいだ。
ふたりとも、それが分かりつつ、全く気にしていない。
結婚式直後にアランが、新婦の控室を訪ねてきた。
久しぶりに会話を交わすアランは、以前よりも更にしっかりしているようだ。
アランは、姉よりも先に、エドワードに深々と礼をしていた。
「お2人のパーティーですが、王家主催の祝賀会なので、子どもの僕は参加できないようですから、ここで帰りますね」
「えー、どうして……。アランが出られないで、全く知らない人たちが参加するの?」
「ルイーズが事前に調整していなかったせいだろう」
「はぁぁーっ、そこはエドワードが何とかしておくところでしょう」
弟の前でムキになって言い合う2人は、アランから、至って冷静な声を掛けられた。
「いやいや、2人とも揉めないで。社交界に出る前ですから当然です。そうだ、姉上が時間のあるときに、僕に剣術を教えてくれませんか?」
弟に頼られて浮かれるルイーズは、自分に剣術の素養のなさをいまだに自覚していなかった。
訓練の様子を知らないアランから見ると、ルイーズはエドワードに一目置かれるほど、騎士の訓練をそつなくこなした存在だ。
「いいわよ。いつでも言いなさい」
その適当な返事を聞いて動揺するエドワードは険しい表情を見せている。
「はぁぁーっ、絶対にだめだ。ルイーズが人に教えられるわけもないが、そんな危ないことはさせられない。妊婦がすることじゃないだろう」
ルイーズは手を振って、慌ててエドワードの言葉を制止しようとしたけれど、もう遅かった。
(エドワード、それはまだ秘密でしょう。アランは分からないだろうけど、結婚前から何しているのって、他の人に笑われるわよ……)
「妊娠。……そうでしたか。姉上の先ほどの誓いのキスも随分と熱が入っていると思っていましたが。無理なお願いをしてしまいました。僕のことは心配なさらず、頼りない父にでも相談してみますから」
サッと礼をし、立ち去ったアラン。
ルイーズは片手を前に出し、何かを弟へ伝えようとしたけれど、うまい言いわけは見当たらない。
結局、顔を引きつらせたまま、見送っていた。
「エドワードのせいで、アランに淑女らしくないって思われちゃったでしょう」
「いいだろう。ルイーズが淑女らしかった姿は、そもそも俺は見たことはないんだ。見えを張るな」
「はぁぁーっ、見えを張るのは、エドワードから習ったのよ」
回復魔法師であるエドワードの結婚を祝うために、何故か、新郎新婦が強制参加させられる羽目になった祝賀会。
馬車の中で言い合いをしながら、そこへ2人は向かっていた。
……その控え室では、白いウェディングドレスをまとうルイーズを、エドワードが穏やかな表情を浮かべ、見つめていた。
すると突然、ルイーズは楽しげに声を上げた。
「わぁ~、黒いアゲハ蝶だ。最近、よく見るのよね」
「……この国に、黒いアゲハ蝶なんていないだろう。何で教会の中に……」
ルイーズが手を伸ばし、こっちへおいでと、手招いたが、優雅に舞うアゲハ蝶は窓から外に消えていった。
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チャペルへ向かおうと、エドワードが扉を開ける直前。ルイーズの横にいる伯爵を見て、エドワードは顔をしかめる。
「おいっ、ルイーズがフォスター伯爵と歩くって何だよ。どうして俺の横をルイーズが歩かないんだ! ルイーズの横はいつだって俺って決まっている」
準備万全の父と並んでいたルイーズは、彼によって引き離された。
……結局、ルイーズはエドワードと腕を組んでバージンロードを歩く。
目の前に広がる大きなステンドグラスから、七色の光が美しく差し込んでおり、ルイーズは思わず目を見張っていた。
だが、それよりも……。
少し前の出来事がおかしくてたまらないルイーズは、噴き出しそうな感情を必死に堪えている。
彼は、自分の結婚式をマルロとエドワードの母に任せきりにしていた。
めんどうくさがりのエドワードは、直前まで式の段取りを聞いていなかったのだろう。
何度もチラチラと彼の横顔を見て、何をやっているんだと、うれしそうな顔のルイーズ。
その視線に彼も気付き、ばつの悪そうな顔をしている。
2人の結婚式の教会は、スペンサー侯爵家の親族だけで席を埋め尽くすほどだ。
花嫁を託して最前列の席に着くはずだったルイーズの父は、今更ながら前に行くわけにもいかず、最後列の隅に腰かけていた。
ルイーズの視界には、父が座る予定だったその横に、アランが1人でいるのが見えている。
アランは、父の姿が見えなくても、動じる様子もなく相変わらず堂々たるもの。
むしろ、2人で登場した姉に頬笑みかける余裕もあるようだ。
それを見て、ルイーズは「偉い偉い」と心の中で声を掛けていた。
結婚式の形式上にある誓いのキスは、エドワードの執拗で本気モードなキスが襲ってきた。
まさか、こんなところで、彼の舌が割り入ってくるとは思ってもいない。完全に油断していた。
静まりかえる教会で、クチュクチュと音を立てるキスは、なかなか離れる気配はない。
動揺して心拍数が上昇するルイーズ。
彼の唇が離れた瞬間、ルイーズは思わず吐息がもれ、真っ赤になった。
誓いのキスが終わってすぐに、「弟の前で何をするのよっ」と彼を見ると、してやったりの顔をされた。
ルイーズは、少し前にエドワードを笑っていたことに反撃されたと悟り、あとで仕返しをする気でいる。
多くの参列者がそろう厳正な結婚式のさなか、ふざけたことを考えるのは、エドワードとルイーズくらいだ。
ふたりとも、それが分かりつつ、全く気にしていない。
結婚式直後にアランが、新婦の控室を訪ねてきた。
久しぶりに会話を交わすアランは、以前よりも更にしっかりしているようだ。
アランは、姉よりも先に、エドワードに深々と礼をしていた。
「お2人のパーティーですが、王家主催の祝賀会なので、子どもの僕は参加できないようですから、ここで帰りますね」
「えー、どうして……。アランが出られないで、全く知らない人たちが参加するの?」
「ルイーズが事前に調整していなかったせいだろう」
「はぁぁーっ、そこはエドワードが何とかしておくところでしょう」
弟の前でムキになって言い合う2人は、アランから、至って冷静な声を掛けられた。
「いやいや、2人とも揉めないで。社交界に出る前ですから当然です。そうだ、姉上が時間のあるときに、僕に剣術を教えてくれませんか?」
弟に頼られて浮かれるルイーズは、自分に剣術の素養のなさをいまだに自覚していなかった。
訓練の様子を知らないアランから見ると、ルイーズはエドワードに一目置かれるほど、騎士の訓練をそつなくこなした存在だ。
「いいわよ。いつでも言いなさい」
その適当な返事を聞いて動揺するエドワードは険しい表情を見せている。
「はぁぁーっ、絶対にだめだ。ルイーズが人に教えられるわけもないが、そんな危ないことはさせられない。妊婦がすることじゃないだろう」
ルイーズは手を振って、慌ててエドワードの言葉を制止しようとしたけれど、もう遅かった。
(エドワード、それはまだ秘密でしょう。アランは分からないだろうけど、結婚前から何しているのって、他の人に笑われるわよ……)
「妊娠。……そうでしたか。姉上の先ほどの誓いのキスも随分と熱が入っていると思っていましたが。無理なお願いをしてしまいました。僕のことは心配なさらず、頼りない父にでも相談してみますから」
サッと礼をし、立ち去ったアラン。
ルイーズは片手を前に出し、何かを弟へ伝えようとしたけれど、うまい言いわけは見当たらない。
結局、顔を引きつらせたまま、見送っていた。
「エドワードのせいで、アランに淑女らしくないって思われちゃったでしょう」
「いいだろう。ルイーズが淑女らしかった姿は、そもそも俺は見たことはないんだ。見えを張るな」
「はぁぁーっ、見えを張るのは、エドワードから習ったのよ」
回復魔法師であるエドワードの結婚を祝うために、何故か、新郎新婦が強制参加させられる羽目になった祝賀会。
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