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第5章 祝福されるふたり
5-26 ルイーズの元に届くミトン
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祝賀会の翌日、本来であればエドワードは王宮に来るつもりはなかった。
そもそも陛下が休めと言ったのだ。
だが、よからぬ空気を感じ取ったエドワードは、早朝から動き出した。
不機嫌を露骨に顔に出すエドワードは、国王の執務室を訪ね、部屋の主の前で仁王立ちをしている。
それに動じない強気の姿勢の国王は、すっと自分の手を前に出す。
ムッとするエドワードは、わざとらしい視線を陛下の手に向けた後、無視に徹した。
「じじぃ、昨日の夜は勝手に何を公表した。さっさと撤回しろっ!」
「ははは、バレていたか。ルイーズ夫人の出産から2か月後に舞踏会を延期すると発表した。今回の2人の結婚祝賀会は、エドワード様が怒るから貴族籍に限定したが、舞踏会は同行者に制限がないからな、盛大に子どもの誕生を祝ってもらえるだろう」
「全くもって、余計な気遣いだ。リンゴの収穫祭はどこへいったんだよ、ったく、伝統を変えるな。俺は、そんな面倒なことを引き受ける気は一切ない」
エドワードは、国王がたった一晩で、これまで100年以上続いていた歴史を容易に変えていたことに呆れ果て、白い目を向けている。
エドワードの言葉に、頷いた陛下は、引き出しから重厚感漂う封書を取り出し、ゆっくりと机の上に置いた。
何事かとエドワードがその手紙に目をやれば、陛下の蜜蝋が間違いなく押されている。
そして、陛下は表と裏を返す。
……その宛先を見て放心状態のエドワードは、陛下を黙って見つめる。
「昨日のエドワード様を見て分かった。頑固な本人より、こっちのほうが、話が早いだろう。これから遣いを出してここに呼び出す」
その言葉に絶句しているエドワード。
今朝、隣ですやすやと眠っていたルイーズを、起こさないようにと気遣い部屋を出てきた。
険しい表情のエドワードは、陛下の手を何も言わずに掴むと、そのまま少しの時間停止した。
パッと陛下の手を離したエドワードは、そのまま机の上の親書を奪い取る。
「信じられないな……。俺の知らないところで勝手にルイーズを呼び出すな」
「呼び出すのが駄目なら、親書は宰相に渡せば間違いなく届くだろう。王家の命令の意図は、十分に伝わるはずだ」
「舞踏会に参加しても、妻が疲れれば、そのときは俺の意思で帰るからな」
「まぁ、それは私にも止められないから仕方がない」
頭に血が上ったエドワードは、力任せに扉を閉め、陛下の元を去った。
**
屋敷では、ルイーズの元に赤子用のミトンが次々と届く。
ルイーズが首をかしげていると、目覚めたときには既にいなかったエドワードが帰ってきた。
そのエドワードは少し不機嫌だ。ドカッと音を立て、ルイーズが腰掛けるソファーに座った。
エドワードが怒るのは、どうせいつものこと。まあいいかとルイーズは気にしない。
「回復魔法師様の体質って、子どもにも受け継がれるの?」
「っなわけあるか。俺の直系の知り得る範囲にヒーラーはいない。他の2人の家系もそうだ。生まれてくる子どもが男子であっても関係はない。世間の勝手な勘違いだ」
「ふーん、そうなのね。そうだ、陛下はお元気だったかしら、心配だわ」
陛下のことは、気にするのも馬鹿馬鹿しいと、エドワードの顔は引きつった。
エドワードは、チラリとルイーズの顔を見て、肩を落とす。
自分に、腕を回し幸せそうな顔をしているルイーズへ、エドワードは言いにくそうに、小さな声で告げた。
「舞踏会、ルイーズは絶対参加と、陛下の命令があった」
「はぁぁーっ、どう考えても正当な欠席理由があるでしょう」
「これ……、陛下からルイーズ宛ての親書だ。舞踏会はルイーズが参加出来るまで延期するって。陛下が俺には命令できないから、その手を打ってきたようだ」
エドワードは、申し訳なさげにルイーズへ封筒を渡した。
「えー、エドワードと一緒だと、ご馳走を食べるための時間じゃないから、舞踏会なんて詰まらないわ」
「思っていた以上にあほの返答だな、問題はそこか? そもそも、あの舞踏会をそんな時間だと思って参加しているのは、ルイーズしかいないだろう、くくっ」
陛下と宰相の思惑を全く気にしていないルイーズのことを、エドワードはくすくすと笑っていた。
楽し気なエドワードは、さっきまで抱えていた、いら立ちも、すっかり忘れている。
定例の王家主催の舞踏会は、日程未定で延期となった。
そして、令嬢たちに人気だった、伝統のリンゴの酒は廃止されることが決まった。
……けれど、不満を言う者はいない。
きっと次の舞踏会、相変わらず思ったことをそのまま彼にぶつけて、笑っているルイーズの姿と、妻を大好きなエドワードが、大騒ぎをしながら参加しているはずだ。
※※※
次の挿話は【完全に続き】です。
「祝福されるふたり」の章に入れるか悩んだ結果、本編をここで完結とします。
残り数話の挿話の最後が、ルイーズとエドワードの奇跡の出会いの完結です。
ご了承ください。
そもそも陛下が休めと言ったのだ。
だが、よからぬ空気を感じ取ったエドワードは、早朝から動き出した。
不機嫌を露骨に顔に出すエドワードは、国王の執務室を訪ね、部屋の主の前で仁王立ちをしている。
それに動じない強気の姿勢の国王は、すっと自分の手を前に出す。
ムッとするエドワードは、わざとらしい視線を陛下の手に向けた後、無視に徹した。
「じじぃ、昨日の夜は勝手に何を公表した。さっさと撤回しろっ!」
「ははは、バレていたか。ルイーズ夫人の出産から2か月後に舞踏会を延期すると発表した。今回の2人の結婚祝賀会は、エドワード様が怒るから貴族籍に限定したが、舞踏会は同行者に制限がないからな、盛大に子どもの誕生を祝ってもらえるだろう」
「全くもって、余計な気遣いだ。リンゴの収穫祭はどこへいったんだよ、ったく、伝統を変えるな。俺は、そんな面倒なことを引き受ける気は一切ない」
エドワードは、国王がたった一晩で、これまで100年以上続いていた歴史を容易に変えていたことに呆れ果て、白い目を向けている。
エドワードの言葉に、頷いた陛下は、引き出しから重厚感漂う封書を取り出し、ゆっくりと机の上に置いた。
何事かとエドワードがその手紙に目をやれば、陛下の蜜蝋が間違いなく押されている。
そして、陛下は表と裏を返す。
……その宛先を見て放心状態のエドワードは、陛下を黙って見つめる。
「昨日のエドワード様を見て分かった。頑固な本人より、こっちのほうが、話が早いだろう。これから遣いを出してここに呼び出す」
その言葉に絶句しているエドワード。
今朝、隣ですやすやと眠っていたルイーズを、起こさないようにと気遣い部屋を出てきた。
険しい表情のエドワードは、陛下の手を何も言わずに掴むと、そのまま少しの時間停止した。
パッと陛下の手を離したエドワードは、そのまま机の上の親書を奪い取る。
「信じられないな……。俺の知らないところで勝手にルイーズを呼び出すな」
「呼び出すのが駄目なら、親書は宰相に渡せば間違いなく届くだろう。王家の命令の意図は、十分に伝わるはずだ」
「舞踏会に参加しても、妻が疲れれば、そのときは俺の意思で帰るからな」
「まぁ、それは私にも止められないから仕方がない」
頭に血が上ったエドワードは、力任せに扉を閉め、陛下の元を去った。
**
屋敷では、ルイーズの元に赤子用のミトンが次々と届く。
ルイーズが首をかしげていると、目覚めたときには既にいなかったエドワードが帰ってきた。
そのエドワードは少し不機嫌だ。ドカッと音を立て、ルイーズが腰掛けるソファーに座った。
エドワードが怒るのは、どうせいつものこと。まあいいかとルイーズは気にしない。
「回復魔法師様の体質って、子どもにも受け継がれるの?」
「っなわけあるか。俺の直系の知り得る範囲にヒーラーはいない。他の2人の家系もそうだ。生まれてくる子どもが男子であっても関係はない。世間の勝手な勘違いだ」
「ふーん、そうなのね。そうだ、陛下はお元気だったかしら、心配だわ」
陛下のことは、気にするのも馬鹿馬鹿しいと、エドワードの顔は引きつった。
エドワードは、チラリとルイーズの顔を見て、肩を落とす。
自分に、腕を回し幸せそうな顔をしているルイーズへ、エドワードは言いにくそうに、小さな声で告げた。
「舞踏会、ルイーズは絶対参加と、陛下の命令があった」
「はぁぁーっ、どう考えても正当な欠席理由があるでしょう」
「これ……、陛下からルイーズ宛ての親書だ。舞踏会はルイーズが参加出来るまで延期するって。陛下が俺には命令できないから、その手を打ってきたようだ」
エドワードは、申し訳なさげにルイーズへ封筒を渡した。
「えー、エドワードと一緒だと、ご馳走を食べるための時間じゃないから、舞踏会なんて詰まらないわ」
「思っていた以上にあほの返答だな、問題はそこか? そもそも、あの舞踏会をそんな時間だと思って参加しているのは、ルイーズしかいないだろう、くくっ」
陛下と宰相の思惑を全く気にしていないルイーズのことを、エドワードはくすくすと笑っていた。
楽し気なエドワードは、さっきまで抱えていた、いら立ちも、すっかり忘れている。
定例の王家主催の舞踏会は、日程未定で延期となった。
そして、令嬢たちに人気だった、伝統のリンゴの酒は廃止されることが決まった。
……けれど、不満を言う者はいない。
きっと次の舞踏会、相変わらず思ったことをそのまま彼にぶつけて、笑っているルイーズの姿と、妻を大好きなエドワードが、大騒ぎをしながら参加しているはずだ。
※※※
次の挿話は【完全に続き】です。
「祝福されるふたり」の章に入れるか悩んだ結果、本編をここで完結とします。
残り数話の挿話の最後が、ルイーズとエドワードの奇跡の出会いの完結です。
ご了承ください。
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