元伯爵令嬢の結婚生活~幸せな繋がり~

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新婚期

やりかえす

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プリマからメイドのリストをもらったマリィアンナは、さっそくメイドの性格や仕事ぶりを観察することにした。
今後の事を考えて役立たせるために、マリィアンナは邸宅の至る所に出没した。
プリマの提出した書類を下地に、1人1人細かく観察しつくした。

何事もなく職人達の作業も順調にすすんで、あと3日ほどで作業終了というところで『ちょっとしたもめ事』が起こった。

マリィアンナが庭園を歩いていたある時、女性の騒がしい声が聞こえた。
声の方へ行ってみると、3人の女性がいた。

「ですから!なぜ私なんですか!?」
「貴方に割り振った仕事だからです」
「でも、おかしくないですか?なぜここ1ヶ月、いつもの仕事内容が変更になったんですか??」

垣根の隙間から見るとプティとトルノがプリマに詰め寄っているのが見えた。
「それは」
プリマが言いかけると、プティがさらに怒りに満ちた声で言い募った。
「こんなのおかしいでしょ!なんで馬番の掃除なんて手伝わないといけないの!?早く元の仕事に戻して!」

自分より上の管理職であるプリマに対して、礼節もないが仕事内容の変更を物申すとは…とマリィアンナは呆れてしまった。

「貴方達の仕事を割り振るのは私の仕事ですから、変更はしません。仕事に戻りなさい」
毅然とした態度のプリマに、プティは眉間にしわをよせて不満顔をさらした。
「なぜ私達なんですか?他の人でもいいじゃないですか!理由を聞かせてください!」
トルノは任された仕事が嫌で、他の人に代わってほしいようだった。

「割り振った仕事は変更しません。今、貴方に任せている仕事をきちんとこなしなさい」
プリマの凛とした声が響く。


もう、プリマは大丈夫ね。ちゃんと管理職としてやっていけそうね


マリィアンナが安堵していると、プティはニヤリと笑って
「あ~あ、アルベルト様が知ったらどう思うかしら~」
と、楽しそうに言い出した。
「!?」
プリマはビクリと震えた。
「私達を元の仕事場所に戻した方が貴方の為だと思うけど?」
「なぜ…ですか」
プリマは平静を保ちながら聞いた。
「なぜって…そりゃ~…フフフ。私はここでアルベルト様のメイドをなが~くしてるでしょ?私が一言言ったら…」
プティの答えに、トルノもニヤニヤとし始めた。

「言ったら…なんですの?」

マリィアンナは我慢できずに聞いた。
「は?」「え?」
プティとトルノは振り返ってマリィアンナを見た。

「アルベルト様に言ったらなんですの?と聞いたの。答えなさい」
「は…?え?」
戸惑うプティにさらにマリィアンナは詰め寄る。
「私の問いに答えられないの?」
「…いいえ。アルベルト様に言ったらどうなるかはプリマさんが想像つくかと思いまして」
プティは口角をあげて答えた。
「アルベルト様と貴方はどのような関係なのかしら?」
「どのような関係…それは『親しい関係』ですわ」
「親しい関係…ね」
マリィアンナは目を伏せながら答えた。

「そうですの!それはもう可愛がってもらってますわ!フフフ」
勝ち誇った顔で言ったプティにマリィアンナは『淑女の顔』で
「それで?アルベルト様と親しいからって仕事を変更することに何か関係があるのかしら?」
と冷たく言い放った。
「は?」
「伯爵様ならともかく、アルベルト様に何の関係があるのかしら。雇用関係としてアルベルト様に貴方は雇われているのかしら?契約しているの?」
「え?契約…はしてないけど…」
「あぁ、貴方のちょっとした我儘もアルベルト様は聞いてくれるって事なのかしら?」
「そう!そうですの!アルベルト様は私のお願いを聞いてくれますから!」
「そう。でも、今はその頼みの綱のアルベルト様もいませんね。貴方の我儘は誰も聞いてくれませんわ。残念ですわね~」
微笑みながら、マリィアンナは口に手を当てて少し意地悪そうに答えた。
「なっ!」
「そのような態度でいますと後悔しますわよ」
マリィアンナは微笑んだ顔から無表情な顔に瞬時に変え、プティに忠告した。
「プリマ、今後について色々話すことがあるからわたくしの部屋へ来て頂戴」
「かしこまりました」

マリィアンナとプリマは、メイドの2人をほっといて部屋へと帰っていった。

「あの女…許さない…」
プティの低い怒りの声に、トルノはびくりと震えた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
部屋へ戻ると、プティに今後の事を細かく話した。

「なるほど…確かに人員はなんとかなります」
「メイド達の観察も終わったし、あとはを迎えるだけ。あと3日で職人達の作業が終わるから最終日までに使用人全員の荷物を各自まとめるよう伝えて頂戴。それから、最終日の翌日は早朝から掃除メイド全員で使用人部屋を残らず掃除すること。それから…」

事細かにプリマに指示を出してマリィアンナは椅子にドサリと座った。
「若奥様、お任せくださいませ」
「よろしくね。やっと…やっと区切りがつくわ」
マリィアンナは微笑みながら答えた。


プリマが退出した後、息をついているとノックの音がした。
乱暴な音にびっくりしたマリィアンナであったが、入ってきた人物にさらにびっくりした。

「貴方…」
「失礼します!掃除に来ました」

先ほどキツい言葉をかけたプティだった。

ズカズカと入ろうとするプティに、マリィアンナは凛とした声で
「結構よ」
と拒否をした。
プティは怒るかと思いきや、フッと鼻で笑って胸を張りながら
「そうですか」
とだけ答えた。

マリィアンナは困惑した。
一体何しに来たのか。何がしたいのか。何か意味があるのか?

食事はホールでとるようになったからここに来ること自体なかったのに、なぜ急に来た?しかも掃除?割り振った仕事の担当ではないのになぜ無理やり…?

ふとプティの張っている胸を見ると、生花がブローチで服にとめられている。


この花?この花が何なの?
意味が分からないわ。


マリィアンナの頭がハテナでいっぱいの中、プティは
「そういえば、アルベルト様からお花など届きましたか~?」
と、口角をあげてニタニタと意地悪い顔をした。

「!?」

「そうです~へぇ~そうですか~」


なるほど…ね。さっきの仕返しって事ね。
なんて幼稚な…恋に溺れるとこうなるのね。ある意味勉強になるわ…
アルベルト様を愛しているってわけじゃないけど、いい気はしないわ。

マリィアンナはイラつく気持ちを隠しながら
「花なんていらないわ。贈る花を選ぶ時間があるのなら、アルベルト様が早く帰って来てほしいもの」
と、答えた。

プティは顔を真っ赤にして怒りでいっぱいの顔をしてドアを閉めて出て行った。


マリィアンナはフンと鼻を鳴らして遅まきながら反撃開始のゴングを鳴らした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
職人達の作業最終日、マリィアンナはキレイに仕上がった家具やカーテンを見て感激していた。
予想以上に補修も綺麗に出来ており、職人達も嬉しそうだった。マリィアンナは職人達へ後金を奮発し、夕飯にごちそうを用意させた。職人はさらに喜び、中には泣き出す者もいた。


「おぉ。すばらしいね」
「お義父様!」
新しい家具が飾られた部屋を、ドランジェ伯爵がひょいっとドアの間から覗きに来た。

「マリィの采配は見事だね。さすが私の義娘だ」
「ふふっ。ありがとうございます」

「そろそろ食事の時間だ。私がエスコートさせてもらっても?」
「光栄ですわ」
2人は仲良く微笑みながらホールへと向かった。

ホールで温かい食事をしながら2人はにこやかに話をした。
「どうだい調子は」
「物は整いましたので次はですね。明日、整えますわ」
「アルベルトは間に合わなかったねぇ」
「そうですわね…それでよかったかもしれません」
「そうかな?」
「わたくし、恨まれるかもしれませんし」
「恨む?」
不思議そうな義父にマリィアンナは
「だって、アルベルト様のお気に入りの方…えっと…プティでしたっけ?その方を…」
「お気に入り?あの子はアルベルトのお気に入りなのかい?」
びっくりした顔で義父はマリィアンナに問いかけた。
「えぇ、プティ曰く『親しい』そうで…」
「ふうぅむ…親しいねぇ…それって…フフフ」
義父は笑い出してしまった。
「…?」
「いやはや、私が言う事でもないね。アルベルトが言うべきだ」
「?そうです…ね」
「マリィはプティのことをどう思うんだい?」
「どう…とは?」
「アルベルトと親しいと聞いてさ」
カトラリーを持つ手を止めてマリィアンナは目を伏せて
「…いい気はしませんわ。」
と答えた。そしてさらに
「アルベルト様はどこをお気に召しているのかサッパリわかりませんわ」
きっぱりとマリィアンナは言いきってからチキンソテーを口へと運んだ。
「くっくっく!」
笑い出した義父を不思議に思いながらもマリィアンナは食事を進めた。



食事を終えてホールを出るマリィアンナを、ドランジェ伯爵はお茶を片手に微笑みながら見送った。
そしてポツリと独り言をつぶやいた。


「君がこの家に嫁いでくれてよかったよ。君ならこの家を支えられる。私がいなくなっても安泰だ」
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