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第一章「袖振り合う世の縁結び」
5.恐怖! 謎のみたらしおじさんの怪
しおりを挟む交番の場所を調べたところ、地下鉄の駅とは反対方向に見つかった。
商店街の中を歩いて向かうことにする。
友人は手筒花火を眺めて満足したらしい。「じゃ、俺帰るわ」と別れの挨拶を手短にすませ、境内を出るなり、見物客の人波に流されるように消えてしまった。
太洲商店街におとずれるのは久しぶりとはいえ、ある程度の土地勘はそなわっている……はずだった。
事前に調べた地図に従って太洲神社から遠ざかり、ものの数分、足をぶらぶらさせていたらゴーストタウンに迷い込んでしまった。
夜祭りの盛りあがりはどこへやら、まったくもって人気がない。
しかも運の悪いことに、目的地にたどりつくまでにスマートフォンの充電を切らしてしまったのだ。これでは地図を当てにすることもできない。
あたりを見渡せば、店先は軒並みシャッターが降りている。
記憶どおりならアーケードを抜けた先を左折すれば交番が見えてくるはずだから、まっすぐに歩いていれば到着するはずだ。
「もし、そこの少年」
道すがら、背後から呼び止められた。
振り返ると、赤提灯。
ぼんやりと浮かぶ赤色が、小さな屋台を照らしている。
台座に大きな車輪をそなえた、昭和レトロの風情が生きた手押し車式の屋台だ。
のれんには「みたらし団子」の文字。たこ焼きやトルネードポテトの出店が騒がしい歩道や境内では見かけなかったが、移動販売の帰りだろうか。
甘辛い醤油の香りが鼻をかすめる。
夕食は早めにすませておいたのに、おなかがぐぅと鳴ってしまった。
食欲にはあらがえない。
よほど物欲しそうな目で見つめてしまったからか、屋台を引く店主の顔がほころぶ。
ふっくらとしたえびす顔に福耳が似合うおじさんだ。
「よければ食べていくかい。売れ残りだからサービスするよ?」
ありがたい。お言葉に甘えることにする。
足を止めて、会計をお願いすると代金はいいからと断られてしまった。
かわりにしばらく雑談に付き合ってくれと誘ってくれた。差し出されたみたらしを受け取って、一口ほおばる。
おやおや、これはこれは。なるほどおこげが香ばしい。
「こちらの通りは駅前とはまるで反対方向だね。どこかへ向かう途中だったのかい?」
「ええ。花火大会があったでしょう。最中に、落とし物を拾ってしまいまして。ちょうど僕の隣で花火を見物していた人が財布を落としたようで」
ショルバーバッグから道中財布を取り出して、店主に見せる。
キャッシュカードや身分証明書のたぐいは入っていなかったこと。すこしの現金と「九遠堂」とだけ記されたマッチが入っていたこと。そのほかに持ち主を特定できる手がかりはなかったこと。
ことの顛末を話すと、店主は片眉をつりあげて興味深げに財布を見つめた。
「おや、九遠堂か。もしやシドウの店じゃないかい。君が見かけたのは、どうも目を引く雰囲気の男だったろう?」
「目を引く……といいますか、変わった雰囲気の人ではありましたね」
顔を合わせたのはほんの短い時間ながら、印象深い相手ではあった。
幽鬼のような生白い肌を思い出すとぞくりと背筋が凍る。どこか、この世のものではないような空気をまとう人だったのだ。
「うむ、それはあの男に違いない。――九遠堂のシドウ。交番にあずけずとも、君の手で直接届けてあげるといい。店はこのまま、まっすぐ進み、二つ目の角を左に曲がった先だよ。きっと開いているはずだ。あの店には昼も夜もないようなものだから」
みたらし屋台の親切な店主は、ほがらかに笑いかけてくる。
彼の言葉を信じるならば、財布の持ち主は「シドウ」という男で、九遠堂というのは彼が営む店の屋号らしい。幸運なことに、太洲商店街に所在する店舗のようだ。
「どういうお店なんですか?」
「行ってみればわかるさ」
なんとも腑に落ちない。
店主は「そろそろ店仕舞いするかね」と腰を上げて、てきぱきと片付けを始める。
長居をして邪魔立てするのも気が引けた。「ごちそうさまでした。おいしかったです」と告げ、こころばかりのお礼を残して足早に立ち去ることにする。
しばらく道沿いに歩いてから、ふと気がつく。
あの古めかしい屋台を引いていた店主、「シドウ」さんとやらと知り合いのようなのだから、彼の元まで財布を届けてくれるように頼めばよかったのではないか。
そこで背後を振り返ると、すでに屋台はこつ然と消えていた。
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