遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。

月湖

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6 転生者

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オデュセイア王国 ブラウデン侯爵グラニル・ブラウデン第四子 デュオニーソス(性別・男)
姉・兄・兄・妹・双子弟の七人兄弟の真ん中に生まれ、物心ついた頃には自分が転生者だと気付いていた。

僕の赤子時代は普通に赤子だった。
それまで順調に風邪ひとつ引かずに育った僕だったが、二歳の誕生日が近づいたある日突然、ひどい熱を出して寝込み一週間ほど生死の境を彷徨ったらしい。
そして、気が付いたら朧気ながら前世の記憶を宿していた僕がいた。

前世での自分の名前や顔はどうやっても思い出せない。
けれど、当時の記憶―――出来事や周囲にあった物や文化は覚えている。
サラリーマン家庭に生まれ、公立の小中学から県立の高校、国立の中堅大学に進学。中堅の商社に就職し、スーツという服を身に纏い、電車というこちらとは全く違う動力源で動く乗り物で移動する。
朝早くに出て働き、帰宅は夜。そんな生活をしていた。
魔法は無く、その代わりに化学や科学が発展したそこそこ便利な世界。
小さな頃は現実世界と前世の記憶の混濁があって、物の名前を覚えるのが大変だった。
前世で関わった人物の顔は一切覚えていなかった為、親兄弟を他人だと感じる事は無くちゃんと家族として愛せている事は幸い以外の何物でもない。

文化的な発展度でいうと、見た目だけならこちらは中世ヨーロッパといったところ。
移動は基本徒歩や馬、それと馬車。だがサスペンションやスプリングが効いて馬車の揺れは少ない構造になっていて、見た目通り中世ヨーロッパの発展度ではない事が分かる。
昔は転移魔法という特殊な魔法を使う魔法使いがいて、その人の魔法で一瞬で移動する事も出来たそうだが、現代で転移魔法を使える人はいないとされている。
亜空間魔法という、異空間に荷物をいっぱい入れて持ち運べる魔法を持つ人は一定数いるんだけどね。内緒だけど僕もその一人だ。容量はそんなに大きくないけれど。

生活には魔法が根付いていて、魔法が無ければ生活が成り立たない。
水は川や湖から街に引かれているけれど、飲み水や生活用水にするために水道橋には強力なクリーン魔法が掛けられている。
地球のような水道は無し。
水はかけ流しで、一通り家の中を流れては下水に流れていく。当然使う前もクリーン魔法は掛けられて、流れていく際にもクリーン魔法陣を描いた石板の上を通って行くので、街中を汚れた水が流れる事は無い。
暖炉の点火は魔法。暖炉にくべるのは薪だけれど、寒い日は部屋が暖まるまで待てないから先に魔法で一気にやってしまう。
料理をするところはまだ見た事が無いけど、絶対に魔法も使っている筈だ。
そして僕が前世で大好きなだった風呂は。
バスルームは一応あるけれど、湯船にお湯を張るのは主に浸かってリラックスするためだ。
身体や髪を洗うのはそれこそ生活魔法の出番。「クリーン!」と唱えれば一瞬で終わってしまう。
この生活魔法クリーンは、水の浄化で使うクリーン魔法とは違い、ほんの少し風属性と水属性の適性があれば使えてしまう便利な魔法だ。
生活魔法は使う魔力量も多くないから、魔力量の少ない平民でも使えるものが多く、そういう者は貴族家にメイドや下男として雇われていたりする。
貴族家のメイドという仕事は平民の女子にとっては憧れの職業のひとつらしい。
その辺の町娘が着る服よりも上等な生地のメイド服を着て外にお使いに行く時などに、町娘にキラキラした目で見つめられれば優越感を感じる事に快感を覚えるのも理解できるけど。

魔力量が多い者は大抵が四属性以上を持ち、二属性以上の属性魔法を使う事が出来る。
大きな魔法を使える属性魔法師は貴族、特に多属性は高位貴族に多く、下位貴族になると一属性使えればいい方という家が多くなる。
僕の家系は父方が火とその他ひとつか二つ、母方は風とその他ひとつか二つの属性魔法持ちが多い。
長姉は火と風属性が強く、少し弱い水属性が使えるらしい。長兄は風属性が特に強く、他に弱い地属性と水属性が使えるという。次兄は長姉と同じ属性。
正式な魔法測定をするのは十五歳になってからだ。
魔法測定には専門の神官がおり、各測定毎に秘匿の宣誓を行うという。本当に秘匿されているのかは怪しいけれど。
三月生まれの僕は、中等部を卒業から高等部に入学するまでのひと月ある休みの間に、中央教会の神官に家に来てもらって測定した。

「デュオニーソス様は、六属性です」
「・・・おお」

神官の言葉に、測定に立ち会っていた父が声を上げた。
確か父は五属性。僕が六属性という事は、現時点で既に父を上回る魔力量があるという事だ。
これは、ちょっと気まずい・・・?

「デュオニーソス・・・」
「はい」

名を呼ばれて父を振り仰げば、

「!?父上!?」

父はその蒼い瞳を潤ませたかと思うや滂沱し、綺麗に結ばれていたクラバットを濡らしていた。

「父上?大丈夫ですか」
「デュオニーソス」
「はい、父上」
「すまない。感激して我を失ってしまった。我が家で六属性とは、初代様以来の快挙だ。神官殿の話をよく聞き、力の使い方を考えなければならないよ」

父は少し恥ずかしそうに取り出したハンカチで顔を拭き、走り寄った僕を神官の前に押し戻した。
我が家の初代様って何年前?父上が確か、二十二代目だから・・・ずっと前だというのだけは分かった。
これは、後で家族に騒がれるな。父がこれでは、母も姉兄達も冷静でいてくれるとは思い難い。
まあ、魔法属性の測定自体が十五歳のお祝いの一部になっているのだから騒がれるのは予定通りで、それが予定の規模をすこーし上回るというだけだ。・・・・あの時は大変だった。
魔法属性はデリケートな問題で、外で大っぴらに吹聴するものでないから、お祝いが終われば後は普段通りという習慣は非常に助かった。


僕はデュオニーソス・ブラウデン。
魔法属性は、火・風・水・地・光、そして、聖。

初等部の頃にはうちの家族みんな気付いていた。僕に聖属性があるんじゃないかって。
転んで怪我をしたら「痛いの飛んでけー!」で血が止まったり痛みが消えたり。
母上が病気になった時「母上が良くなりますように」って祈ったら次の日には起き上がれるようになってたり。
両親兄妹は僕の力の異様さに、とにかく力を隠すように言い含めた。
聖属性を持つ者は昔から教会が求めて止まないのだそうだ。
水属性や光属性保持者も回復や治癒魔法を使える者が比較的多くいて各地の治療院などで活躍しているけれど、完全治癒を使えるのは聖属性を持つ者のみ。保持者が極端に少ないその力を持つ者は神の奇跡として教会で崇められているという。そんなの御免だ。
ラノベでだって、そういう変な崇められ方をする奴に限ってロクな事にならないし。
あの時魔法測定をしてくれた神官も僕の測定結果に興奮して、帰りしな「大きくなったら是非教会へ!」なんて言っていたけれど、それは父上が「自身の将来はデュオニーソス自身が決める事です。神官殿は宣誓に従って内密にしてくれますよね?」と丁重に送り出していたな。

・・・まあ、別に魔法属性はどうでもいいんだ。
当分は秘密にしておくのがいいと思うけれど、大人になれば自然に聖属性魔法だって使うだろうし、そのうち絶対にバレる事だ。でも侯爵家の権力を以てすればおかしな引き合いに出される事もないだろう。そこは心配してない。

だけど、もうひとつの大きな秘密、「転生者」。
これは誰かに言ったとして、絶対に信じてもらえないような事だ。
どういう訳か前世のラノベのような物語がこの世界にもあって「転生者」や「異世界からの使者」なんて者が出てくる物語もあるけれど、それは物語であるから成り立つのであって、侯爵家令息と言う高貴な身分でそんな事を言い出せば、下手したら虚偽や詐欺の罪で収監なんて事にもなり兼ねない。そうなれば侯爵家の醜聞だ。大事な家族に迷惑は掛けられない。
ここは確かに剣と魔法のファンタジーな世界だけれど、今の自分には現実世界で、厳密な身分差のある階級社会だ。ここに前世の日本の常識なんて通用しない。
だから、ここでは僕は普通の学生でいなければ。最低限高位貴族として恥ずかしくないような。まあ、万が一多少目立ったとしてもそこは侯爵令息という身分でどうにか―――したい。
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