婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?

ゆるり

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婚約破棄

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「なぜ、皆拍手をしないのだ。祝福せよ!」

 スミソニアンが不快げに怒鳴るが、その場にいる者は皆顔を見合わせた。

「……殿下、婚約破棄とは如何なる理由によるものでしょう」

 誰もが困惑しているので、スカーレットが仕方なく壇上に近づき問いかけた。エドガーは黙って従ってくれる。

「理由だと?!言われなくては分からんのか。さすが悪名高い女だな」
「……どこで言われている悪評かは存じませんが、どうぞ理由をお教えくださいませ」
「ふんっ、そんなものは決まっておろう。お前が俺の婚約者のレティを虐げたからだ!」
「スミソニー、私怖かったわぁ」
「……今はまだ、婚約者は私のはずですが、まあ、いいでしょう。私はそちらのポトリフ男爵令嬢を虐げたことなんて1度もございませんわ」
「なんだと?!」

 スミソニアンが怒りの表情を浮かべる。それを見て、スカーレットは呆れてため息をついた。

「一体、私が何をしたと仰るのですか」
「お前は、レティの教科書を捨てた!」
「ひどいですわぁ」
「レティの母の形見を壊した!」
「悲しかったのよ……」
「レティを廊下で突き飛ばし怪我をさせた!」
「本当に痛かったわ……」

 スミソニアンがひと言話す度に、レティが相づちのように涙目で言うので、それがなんだか喜劇みたいで笑いそうになってしまった。

「挙げ句の果てに、レティを階段から突き落とした!」
「恐ろしい人だわ……」
「……まあ。ポトリフ男爵令嬢、お怪我はなかったの?」
「奇跡的に無傷だったんだ。だが、死んでいたかも知れないんだぞ?!」
「そう……。それで、今殿下が仰ったことを私がしたという証拠はありますの?」
「証拠だと?レティが証言したんだ!」
「……まあ、証拠はないのね。当然でしょうけど」

 あまりにお粗末な訴えに失笑する。乙女ゲームの記憶を持っているなら証拠の捏造くらいするかと思ったが、そこまで頭が回る人間ではなかったようだ。もしくは、ゲームシナリオの補正力とかを信頼しているのか。そんなものがあったら、スカーレットはこんなに落ち着いていないだろうが。

「殿下が仰ったことを全て否定しますわ。私はポトリフ男爵を虐げてなんておりません。第一、そんなことをする必要もないでしょう?」
「はっ、嫉妬だろ?俺がそんなに欲しかったのか?それとも王妃の座か?」
「まあ!殿下は自意識過剰でいらっしゃるのね」
「なんだと?!」

 スミソニアンが顔を真っ赤にして、スカーレットを睨み付ける。

「私が殿下のことを好きだったことなんて1度もありませんよ。王妃の座を望んだこともね」
「お前はことあるごとに俺に話しかけてきただろうが?!」
「だって、私たち婚約者だったのよ?できる限り婚約者に寄り添えるよう努力しますわ。嫌いな人と一生を過ごすなんて嫌だもの。不快感がないくらいにはなりたかったですわ。殿下にはご理解して頂けなかったようですけど」

 義務感で話しかけるスカーレットを、恋心を寄せていると誤解して冷たく扱い悦に入っていたスミソニアンは、顔を赤くしたまま拳を震わせた。その様子をレティが困惑した様子で見ている。こういう展開は彼女の思っていてものとは違うようだ。

「……ああ、連絡がきましたわ」

 会場の入り口から眼鏡をかけた男性が入ってくる。王の秘書官クリスだ。クリスは壇上のスミソニアンを冷たい眼差しで見てから学園長の方に向かった。苦々しい顔をしていた学園長は、クリスを見て少しだけ顔を緩める。

「連絡だと?」

 スミソニアンも自身の父の秘書官は知っており、戸惑った顔をしていた。スミソニアンはまだ婚約破棄も、レティとの婚約も父王に報告していない。この段階でわざわざ秘書官が卒業パーティーにやってくる意味が分からなかったのだ。
 クリスの話を聞いていた学園長が、重々しく頷いて再度壇上に上がった。そしてスミソニアンを少し悲しげに、その傍にいるレティには凍えるような視線を向ける。

「陛下からのお言葉である」
「父上から?まさか、我々の婚約の祝福を?」

 自分でもそれは違うと分かっているのだろう。真っ赤から一転青ざめた表情で動揺も露に歪な笑みを浮かべていた。

「王太子スミソニアンとフーリエ公爵令嬢スカーレットの婚約解消を認める」
「え?解消?俺がしたのは破棄―――」
「そして、今日この時をもってスミソニアンを廃太子し、王位継承権を剥奪する!」

  会場に動揺のざわめきが広がった。

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