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67話 消えて無くなりたい
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郁也の腕の中でおとなしくなったのを確認してや
っと力を緩めた。
そうだ、初めての時もそうだった。
いきなり抱きしめてキスをしたんだった。
このまま引き寄せて唇を重ねる。
柔らかくちょっとしょっぱい気がした。
涙が伝わっている事に気づくと、ギョッとして
引き離した。
「ごめんっ、歩夢………」
「嫌いだ……大っ嫌い!」
泣きながら走り去る姿を見送る事しかできなか
った。
家を出るまでもう時間がなかった。
「こんなんでついて来てくれって言っても無理
だろ…」
女なら簡単に口説き落とせるのに。
歩夢に至っては全く口説ける気がしなかった。
何をしても反応してくれなかったからだ。
どうしたら、自分を見てくれるのか?
どうして、泣いていたのか?
郁也にはわからなかった。
泣かせたくはない。
ただ、自分のそばで笑っていて欲しい。
ただそれだけが、難しいのだ。
男と付き合うのは初めてじゃない。
前に姫宮倫と付き合っていた事がある。
その時は、誰も何も言って来なかったし、偏見の
視線も気にならなかった。
それは姫宮がある一定の人に崇められていたから
なのだが、歩夢は違う。
平凡な高校生なのだ。
顔も普通だし、可愛く見えるのは郁也の補正効果
のせいだろう。
気を取り直すと、家へ帰る事にしたのだった。
卒業祝いにと秋里と一緒に来たのが間違いだった
のかもしれない。
彼女は今でも復縁を望んでいるのは知っている。
多分、歩夢にもそう詰め寄ったに違いない。
帰り際に秋里に会うと、嬉しそうに近寄って来た。
「郁也ぁ~、弟くん見つかったの?」
「あぁ、だが逃げられたよ。理恵、スマホ貸して
くれ」
「いいわよ?何なに?」
嬉しそうに差し出すと、連絡先を出して自分の番
号を削除したのだった。
そしてクラウドの方に繋ぐとそれも書き換えてお
いた。
「えっ……ちょっと郁也!」
「これからは、連絡してくるな!俺のも消してお
くからな…」
「ちょっと、待ってよ。どうして?」
「俺さ大事な子ができたから、もう遊びで関係を
持ちたくないんだ。悪いな」
それだけ言うと、帰って行く。
突然の本気宣言に嘘だとしか思えなかった。
なぜなら郁也が誰か一人に本気になるなど、今ま
でだって一度もなかったからだ。
その頃帰路についた歩夢は少し遠回りをして帰っ
ていた。
まだ家に帰りたくない。
こんな泣き腫らした顔で帰ったら余計にあらぬ疑
いをかけられるだろう。
それじゃなくてもまどかさんには自分達の事がバ
レてしまっているのだ。
これ以上心配をかけさせたくない。
それに……こんな気持ち持たなければよかった。
どうして、郁也が女性といるだけでイライラした
のだろう。
屋上に来た時は、何だがホッとした自分がいる。
必死に口説こうとしている姿を見て、嬉しくなっ
ていたのも事実だった。
でも、それだけでもなかった。
どっからともなく聞こえて来た言葉。
『ちょっと男同士とか、気持ち悪いんだけど……』
あれは、誰に向けられたものだろう。
いや、聞こえてきた距離からいっても近かったと
思う。
やっぱり自分たちを見た人が思ったのだろうか?
そう思っただけで、吐き気がしたのだった。
やっぱりダメだ。
いっそ、聞こえなければよかった。
そうしたら、郁也の言葉だけ聞こえていたら…こ
んな気持ちになんてならなかったのに……。
橋の上に来ると川を眺めた。
夕焼けが綺麗で、余計に寂しくなる。
「このまま消えてなくなれたらいいのに……」
「ならいっそ死んでくださいよ。弟?嘘でしょ?
郁也さんの一方的な想い人なんて信じない。だ
から、お前なんて……」
殺意が籠った声に、頭を抑える。
聞きたくない!
ふと顔を上げると、いきなり胸ぐらを掴まれると
思いっきり押されたのだった。
ぐらっと身体が傾くとふわっと身体が浮き落下し
て行くような感覚がした。
バシャーーンッ!
大きな水飛沫をあげて、川の中へと落ちていく。
歩夢は泳げないし、意外と深いせいで落ちたはず
みでどっちが上かわからなくなっていた。
またまた通りかかった人が見ていて、救助に向か
ってくれたが、一向に上がっては来なかったのだ
った。
っと力を緩めた。
そうだ、初めての時もそうだった。
いきなり抱きしめてキスをしたんだった。
このまま引き寄せて唇を重ねる。
柔らかくちょっとしょっぱい気がした。
涙が伝わっている事に気づくと、ギョッとして
引き離した。
「ごめんっ、歩夢………」
「嫌いだ……大っ嫌い!」
泣きながら走り去る姿を見送る事しかできなか
った。
家を出るまでもう時間がなかった。
「こんなんでついて来てくれって言っても無理
だろ…」
女なら簡単に口説き落とせるのに。
歩夢に至っては全く口説ける気がしなかった。
何をしても反応してくれなかったからだ。
どうしたら、自分を見てくれるのか?
どうして、泣いていたのか?
郁也にはわからなかった。
泣かせたくはない。
ただ、自分のそばで笑っていて欲しい。
ただそれだけが、難しいのだ。
男と付き合うのは初めてじゃない。
前に姫宮倫と付き合っていた事がある。
その時は、誰も何も言って来なかったし、偏見の
視線も気にならなかった。
それは姫宮がある一定の人に崇められていたから
なのだが、歩夢は違う。
平凡な高校生なのだ。
顔も普通だし、可愛く見えるのは郁也の補正効果
のせいだろう。
気を取り直すと、家へ帰る事にしたのだった。
卒業祝いにと秋里と一緒に来たのが間違いだった
のかもしれない。
彼女は今でも復縁を望んでいるのは知っている。
多分、歩夢にもそう詰め寄ったに違いない。
帰り際に秋里に会うと、嬉しそうに近寄って来た。
「郁也ぁ~、弟くん見つかったの?」
「あぁ、だが逃げられたよ。理恵、スマホ貸して
くれ」
「いいわよ?何なに?」
嬉しそうに差し出すと、連絡先を出して自分の番
号を削除したのだった。
そしてクラウドの方に繋ぐとそれも書き換えてお
いた。
「えっ……ちょっと郁也!」
「これからは、連絡してくるな!俺のも消してお
くからな…」
「ちょっと、待ってよ。どうして?」
「俺さ大事な子ができたから、もう遊びで関係を
持ちたくないんだ。悪いな」
それだけ言うと、帰って行く。
突然の本気宣言に嘘だとしか思えなかった。
なぜなら郁也が誰か一人に本気になるなど、今ま
でだって一度もなかったからだ。
その頃帰路についた歩夢は少し遠回りをして帰っ
ていた。
まだ家に帰りたくない。
こんな泣き腫らした顔で帰ったら余計にあらぬ疑
いをかけられるだろう。
それじゃなくてもまどかさんには自分達の事がバ
レてしまっているのだ。
これ以上心配をかけさせたくない。
それに……こんな気持ち持たなければよかった。
どうして、郁也が女性といるだけでイライラした
のだろう。
屋上に来た時は、何だがホッとした自分がいる。
必死に口説こうとしている姿を見て、嬉しくなっ
ていたのも事実だった。
でも、それだけでもなかった。
どっからともなく聞こえて来た言葉。
『ちょっと男同士とか、気持ち悪いんだけど……』
あれは、誰に向けられたものだろう。
いや、聞こえてきた距離からいっても近かったと
思う。
やっぱり自分たちを見た人が思ったのだろうか?
そう思っただけで、吐き気がしたのだった。
やっぱりダメだ。
いっそ、聞こえなければよかった。
そうしたら、郁也の言葉だけ聞こえていたら…こ
んな気持ちになんてならなかったのに……。
橋の上に来ると川を眺めた。
夕焼けが綺麗で、余計に寂しくなる。
「このまま消えてなくなれたらいいのに……」
「ならいっそ死んでくださいよ。弟?嘘でしょ?
郁也さんの一方的な想い人なんて信じない。だ
から、お前なんて……」
殺意が籠った声に、頭を抑える。
聞きたくない!
ふと顔を上げると、いきなり胸ぐらを掴まれると
思いっきり押されたのだった。
ぐらっと身体が傾くとふわっと身体が浮き落下し
て行くような感覚がした。
バシャーーンッ!
大きな水飛沫をあげて、川の中へと落ちていく。
歩夢は泳げないし、意外と深いせいで落ちたはず
みでどっちが上かわからなくなっていた。
またまた通りかかった人が見ていて、救助に向か
ってくれたが、一向に上がっては来なかったのだ
った。
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