僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也

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72話 一緒に暮らそう

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だらし無いにも程がある。

そう言いたげな歩夢の視線に気付くとバツが悪そ
うにポリポリと頭を掻いた。

大きなため息を吐き出すと郁也の腹をトントンっ
と叩いたのだった。

言いたい事はなんとなくわかった気がした。

『片付けろ!』

そう言いたげな目線に苦笑いを浮かべるとその日
は歩夢の卒業を祝う予定で部屋に連れて来たはず
が、大掃除をする羽目になってしまった。


「歩夢~、もうこのくらいでいいだろ?」

「……」

ふるふると首を振ると、途中で止める事を良し
とはしなかった。

「わかった、分かったからさ~、ちょっと飯に
 しね~か?腹減っただろ?」

まだ何か言いたげだったが、いきなりお腹がき
ゅう~っと鳴った事で、一時中断する事にした
のだった。

恥ずかしそうに見上げてくると郁也はニヤッと
笑う。

「ほらな?」

「……」

その日は出前を取ると、片付け終わったスッキリ
した部屋で二人で食事を食べたのだった。

「大学はここから通うだろう?」

「……」

「いいよ、部屋はもう一個あるし。それとも一緒
 に寝るか?俺はその方が嬉しいけどなっ……」

堂々と隠しもせずに言ってくるのだった。
呆れる程素直になった気がする。

どちらにしても歩夢には嘘は通じない。
だったら、思った事を素のまま言った方がいいと
思ったのだろう。

間違ってはいないが、あまりにストレートに表現
されると、歩夢の方も対応に困る。

顔を真っ赤にすると、『帰るっ!』と言わんばか
りに立ち上がったのだった。

送ると郁也が言い張ったのだが、断固として聞か
なかった。

渋々、駅まで送るとそのまま改札を通って帰るの
を見送ったのだった。

「今度荷物取りに行くからまとめとけよっ!」

「……」

返事はなかったが、歩夢の反応からしたら、きっ
と理解はしているだろう。
郁也の方も、歩夢を迎えに行ってよかったと思っ
ていたのだった。



家に帰りついた歩夢を待っていたのは、幸樹だっ
た。

今日、卒業式があると知っていたが、仕事で時間
が取れなかったので、早めに帰ってきて、祝おう
と思っていたようだ。

まどかさんも同じようにお祝いの準備をしていた。

が、一向に歩夢が帰って来なかったのだ。
昼までには帰ってくると思っていたので外食をと
考えていたのが、こんな時間になってしまった。
時計の針はとうに9時を回っていた。

スマホにも何の連絡もなかった。

「歩夢、遅かったな?今日は式だけだったんだろ?
 今までどこにいたんだ?」

「……」

話せないと分かっていても、聞いてしまう。
時計を見て、再びため息を吐いた父を見ると胃がキ
リキリと痛む。


「歩夢くん、今日は友達と一緒にいたの?せめて遅
 くなるなら連絡を入れてくれない?それに…心配
 になるでしょ?」

「お兄ちゃんおそーい、料理が冷めちゃったじゃん」
『まぁ、別に帰ってこなくてもいいけど……』

「……」

「さぁ、温め直すから食べましょう?ねぇ、幸樹さ
 んも美咲ちゃんも席について」

わざと明るく振る舞ってはいるが、幸樹とうまく行
っていないのがわかる。

歩夢も席には着くが、あまり食欲がない。

さっき、郁也と一緒に食べたばかりで、少し手をつ
ける程度で、箸を置いた。

「食欲がないの?」

「……」

「歩夢、お前の為に用意してくれたんだぞ?ちゃん
 と食べるのが礼儀だろ?」

幸樹は最近歩夢の食欲が減って来ているのも知って
はいた。

が、それでも多少減ったとしても、どこかで外食で
もしているのだろうと思って、あまり気にも留めて
いなかったのだ。

わざと、皿に盛ると歩夢の前に差し出した。

「ちゃんと食べろ。今日くらいしっかり食べるん
 だ」

「……」

ただ黙ったまま、箸を持つと、ゆっくり咀嚼した。
もちろん、なかなか箸が進まなかった。

「最近歩夢くん、食が細いものね、無理しなくても
 いいのよ?」

まどかさんだけは、無理強いしないように声をかけ
てくれた。

父親の幸樹と美咲は食欲が多い方だった。
だから余計に歩夢の少なさは目立つ。

皿に盛られた分の半分も食べられなかった。

幸樹が風呂から出ると早々に呼びに来ていた。
歩夢が席を立つと、風呂場に向かう。

その間も、美咲はキッチンでテレビを見ていた。

「美咲ちゃん、歩夢くんの事なんだけど……どう
 したら…」

「お母さん、お兄ちゃんの事なんて気にしなくて
 いいよ。私が郁也お兄ちゃんの事本気だって知
 ってるくせに……お兄ちゃんが先に誘惑するな
 んて最低!男のくせに、汚ないわ。顔も平凡な
 くせに……あんな奴お兄ちゃんじゃないもん」

「美咲ちゃんっ……」

「まどかお母さんもそうでしょ?お兄ちゃんが何
 かしたから郁也お兄ちゃんが出て行っちゃった
 んでしょ?」

美咲は知らないのだ。
歩夢が郁也を拐かしたと思っているらしかった。

「違うのよ?歩夢くんは何も悪くないの、郁也が
 そもそも…」

「郁也お兄ちゃんはいつも勉強だって見てくれる
 いい人じゃん」

「違うのっ、郁也が歩夢くんを……美咲ちゃんは
 どう思ってるの?ちゃんと聞いて。歩夢くんは
 何も悪くないの。郁也が……一方的に気になっ
 ていただけなのよ。それも一緒になる前から」

「えっ、なんで?知り合いだったの?」

「そう見たいね。気になる子がいるってのは知っ
 てはいたけど、まさかそれが歩夢くんだなんて
 私も知らなかったわ。歩夢くんはいつも否定し
 てたみたいだけどね。お願い、歩夢くんをそん
 なに責めないであげて、あの子だって辛いの」

「そんな事言われても……郁也お兄ちゃんは…お
 兄ちゃんがいる限り美咲の事本気になってくれ
 ないんだもん」

「美咲ちゃん、郁也とは結婚もできないわよ?」

「どうして?血が繋がってないし、いいでしょ?」

「そうじゃないのよ。えーっとどう説明したらい
 いかしら」

美咲の理不尽な想いは一方通行でしかない。
郁也の想いがそうだったように、歩夢には通じ
なかった。

まどかはそう思っていたのだった。

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