僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也

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最終話 君さえいれば

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大学生になった歩夢と、社会人になったばかりの
郁也。
二人の共同生活が始まったのだった。

部屋の片付けもできない郁也には、家事が出来る
万能な弟が同棲している。

「郁也兄さん、もう起きないと遅刻するよ?」

「もうちょっと寝かせてくれよ~~~」

「我儘言わないの!ほら、起きてよ。今日から僕
 もバイト始めるから夜遅くなるからって……聞
 いてる?」

「聞いてる、聞いてる、おはようのちゅうしてく
 れたら起きる~」

「なっ………//////」

耳まで真っ赤にしながらも、軽く触れるだけのキ
スをする。

照れる姿が愛おしく思えると、郁也は歩夢の腕を
掴むといきなり布団の中へと連れ込む。

「5分だけ…抱きしめさせてよ…」

「ちょっ…///////」

何かをするわけでもなく、ただ身体を密着させて
いるだけ。
それだけなのに、恥ずかしくて顔が見れなかった。

まだウブな歩夢をどうやって落とすのか。
全く持って気の長い話になりそうだった。

大学では常に親衛隊に見張らせると定時連絡をし
てもらう事になっている。

今はまだ、両思いでなくても、一緒に暮らしてい
ればきっと好きになって貰える。
そう郁也は割り切ると、際どいくらいに歩夢の身
体に触れていく。
歩夢からもっと触れて欲しいと思ってもらえるよ
うに煽る事にしたのだった。

それも自然と、自分からキスをしてくれるように
ねだったりもすると恥ずかしがりながらも、拙い
キスをしてくれた。

今はこれでいい。

もっと、もっと求めてくれたらそれでいいのだ。

「ほら、5分たったよ!」

「うん、歩夢がいると毎日が幸せだよ…ちゅっ」

「いっ……いいかげん起きろ!…ばかっ!」

怒った顔も可愛い。

「やっぱり俺の歩夢は可愛いな…」

歩夢にとってここでの生活は、自分をさらけ出
せる。
何を聞いても、気分が害される事はない。

聞こえる声は全部が口を出た言葉で、隠し事が
ないからだ。
だからその分、悪態も吐ける。

歯の浮いたような言葉の数々に、照れながらも
楽しく暮らしている。

生活費は仕送りしてくれているらしいが、歩夢
は自分で稼ぐと言い出して聞かなかった。

仕方ないので、バイトを許した。

まだ、あの日以来家族とも会って居ない。

声が出るようになった事も話していないし、
笑顔で笑えるようになった事も言って居ない。

食事も郁也の前では普通に平均男子が食べる
くらいには食べれるようになった。

食が細かったのはストレスからくるものだっ
たからだ。

まだ抱きしめた時に、骨張っている気がする。

「まだまだお肉つけなきゃいけねーな」

「ちょっと、時間っ!」

「分かった、分かったって」

まだまだ愛しい人には敵わない郁也だった。
ずっと自分の目の届くところに置いておきたい。
そう思うのは、郁也のエゴでしかない。
それでもいい……今はまだ、歩夢自身が自分の気
持ちに気付くまでは。

いつかは、大事にした分だけこの愛しい子を抱き
たいと思っている。

それまでは、かっこいいお兄ちゃんでいればいい。
郁也兄さんでなく、名前で呼んで欲しい。

兄さんと呼ばれるだけで、手を出してはいけない
と言われているようでどうにも落ち着かないのだ。

だから、一つのルールを決めた。
夜は名前で呼ぶ事。
兄さんなどの言葉をつけない事!としたのだった。

バイトが終わって賄いを持って帰ってくる歩夢を
見つけると、後ろから声をかけた。

「歩夢、お疲れ~」

「郁也兄さん!なんでいるのっ…」

「言い方。違うでしょ?歩夢、もう一回」

「郁也さん……なんでここにいるんだよ」

「心配だったから迎えに来た」

「………」

この心配性な兄にはどうにも困る。
店に入って来ないだけでまだマシだが、入って来
られると、女性客が群がるのだ。

見ていて、いい気はしない。

「何?俺の可愛い歩夢くんは、黙っちゃってどう
 したのかな?」

わざとらしく言ってくる郁也にイラッとするが、
最近では歩夢自身も気付き始めていた。

自分でも嫌になるほど、郁也に女が寄る事に苛
立ちを募らせる理由を。

もう、ちゃっかり自分の男だと思ってしまって
いる事に………。

「僕の事好き?」

「もちろん」

「他の女の子に目移りしない?」

「それは歩夢次第だな~、俺も男だし?一人は寂
 し~いしなぁ~、毎日一緒に寝てくれるなら、
 考えるけど?」

「いいよ。ただし……僕以外に手を出したら許さ
 ないから……」

「うん、いいよ。歩夢が俺の彼女になるって事で
 いいなら、俺も誰にも見向きもしないよ?キス
 してよ?早く…」

わざわざ外だと分かっていて意地悪そうに言って
みる。
歩夢なら怒ってしないと思って居た。
が、いきなり襟首を掴まれると、ぐいっと引き寄
せてきた。

柔らかい唇が押し当てられると、舌を絡ませてき
たのだ。

「これで…いい?」

「あぁ、上出来だ。」

ひょいっと歩夢を抱き上げるとコンビニに寄る。

「何買うの?」

「ゴムとローション」

「…///////」

真っ赤になって口をパクパクさせているのを横
目に、歩夢を無視して買い物カゴに必要なモノ
を突っ込んでいった。
手は握ったままアパートに戻っていく。
店員からの視線は、ずっと繋いだままの手と、
籠に入っている薄手のゴムに視線としせんが
いったのだった。

「今日から俺の彼女には、毎晩気持ちよ~くな
 ってもらわないとな…手を出してもいいんだ
 ろう?」

「えっ……まって……心の準備が……」

「大丈夫、俺、慣れてるし、上手いから」

そして何から何まで始めての体験をする事になっ
たのだった。


朝になると、横には郁也の顔があって驚いて飛び
起きたのだった。

「ぃっ………ッ………」

飛び起きたはいいが、予想外の身体の痛みに腰を
抑えた。

「おはよう。昨日はどうだった?気持ちよさそう
 に可愛い声あげてたけど?初めての気分は?」

「最悪……」

「えっ、歩夢、っ……」

わざとらしい言い方に、郁也は歩夢の身体を引き
寄せると抱きついたのだった。

お互い裸のままだったせいかいつも以上に気まず
い。
朝勃ちで固くなってしまっていたのをしっかりと
実感してしまうと余計に恥ずかしかった。

「待って、シャワー浴びたいし……」

「綺麗に拭いたぞ?気持ち悪いか?」

「そうじゃなくて……」

そう言いながら歩夢の視線が下半身へと向いた。
もじもじしながら言う理由など一つしかなかった。

「一緒に入るか?それに……立てないだろ?」

さっきの腰の痛みで一瞬、固まって動かなくなって
居たのを見て居たので、バレバレだった。

そして朝から元気になってしまった自身を歩夢に
擦り付けながら言った。

「歩夢、これからは兄さんって言葉は絶対禁止な!
 もう兄弟じゃないだろ?俺の恋人なんだ。だろ?」

「…//////」

いつになく強引に言うと唇を強めに吸った。

「ンッ……」

「これからは俺だけを見ろよ?歩夢」

こくりと頷くと呆けたように郁也を見上げてきた。
あれほど拒んでいた行為も、一度抱いただけでこ
れほどまでに変わるとは思わなかった。

甘えるように抱きついてくると、理性が吹き飛び
そうになる。

「歩夢くん?ちょっとあんまり誘惑されると、今
 日はこのまま抱き潰したくなっちゃうんだけど?」

「……!?」

多分無意識だったのだろう。
慌てて離れると、這って出て行こうとした。

「だから~、その可愛いお尻をこっちに向けてるの
 が誘惑してるって言ってるんだけどな~」

郁也は起き上がると、歩夢の脇腹をひょいっと掴む
と抱き上げたのだった。

少し暴れたが、このくらいで離すわけはない。

大学でも、ちゃんとやれているようだった。

今も友人は多くはないようだが、それでも話せる
人間ができた事はいい事だと思う。

郁也はと言うと、会社の方でいつになく女子から
黄色い声が湧く。

しかし、変わった事が一つだけあった。

左の薬指にシルバーのリングがハマっている事
だった。

歩夢の首にも同じリングがぶらさがている。



情を交わした初めての朝に渡された物だった。

『これ、歩夢の分な…』

『これって……指輪?』

『そう、俺と歩夢のエンゲージリング♪』

『でも、結婚はできない……』

『いいの、俺たちの愛の形ってこんな事くらいし
 かできないだろ?』

確かに、日本ではまだ同性婚は認められていない。
だから養子縁組という方法を取る場合がある。

が、実際二人は同じ戸籍にいるのだから、それは
もう必要ない。

なら……と郁也が買って用意しておいたのだった。

その日は歩夢の指にも同じものがハマっていたのだ
が、次の日にはチェーンに括りつけられて首にぶら
下がっていた。


いつかは家族に認めてもらいたい。
そう思うのは我儘なのだろうか。

歩夢にとって、何が一番いいのかわからないが、
郁也にとっては、歩夢がそばにいればいい。

ただそれだけで、幸せだと感じたのだった。

これからの人生がまだまだ苦難があるかもしれな
いが、大丈夫だと思える。

一人じゃなければ、きっと。

                       ーENDー





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