ヒロイン? 玉の輿? 興味ありませんわ! お嬢様はお仕事がしたい様です。

彩世幻夜

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幕間①

さくらんぼ狩り - 王子視点 -

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    「こちらが今収穫の最盛期を迎えているさくらんぼ畑です。王子様も一つもいでみますか?」

    案内されたのは、山の斜面を慣らし作った階段の様な畑。

   そこに植わった木々には赤く綺麗な宝玉の様に輝く果実。
    僕は、城で出されるデザートにあれが使われているのを見たことはあったが、クリームまみれになっていたシロップ漬けのそれより、木々に生った瑞々しい果実に目を奪われた。
    同時に、辞書で知ったつもりになっていた“鈴生り”という言葉を初めて実感した。

    「踏み台をどうぞ。これなら下の方の実なら届くでしょう?」
    「ああ、ありがとう」

    木箱のような踏み台に乗り近くで見ると、枝の節々から緑色の頼りなさげな茎が伸び、1から3個ほど組みになったものが更に数組房になって実っている。
    細い茎に触れ、軽く引っ張ると、以外に簡単にプチっと茎が離れ、僕の手に赤い宝石が二つ輝いていた。

    「そのままでも召し上がれますが、良かったらこちらで軽く洗ってからどうぞ」
    小さなボウルに水を汲んだ物を差し出してくる。

    ……よくよく見れば勿論粗は沢山あるが、こんな辺境の、それも僕と変わらない年頃の平民なのに、城の使用人の様に気の利く少年だと思わず感心してしまった。

    「うわ、凄く甘い……のに、甘いだけじゃなくて酸味が程よくて美味しい。それに、本当に瑞々しい」
    シロップ漬けのあれなんか比べ物にならないくらいに美味しい。

   「形の良い、綺麗な物は収穫直後に即大陸へ運びます。……生のものは直ぐに悪くなってしまいますから、恐らく生の果実を召し上がられるのはあちらでは港近くに住む貴族様だけでしょうね」

   ……王城は海沿いにはあるが、漁港や商用港からは少々距離もある。僕の所に回って来ないのは当然か。

   「色があまり良くないものは蜂蜜やシロップに漬けて、形の悪いものはジュースや果実酒、ジャム等に加工して出荷しています。こうして生の果実を僕たち平民が食べられるのは、この島ならではですね」
    「この島で食べる物はどれも美味いな。……調理は簡単でも食材が美味い。城のご馳走を有り難がって食べる貴族達に勝った気分だ。……僕の手柄では無いのにな」

    こんな――なんて言ったら失礼だけど、辺境の島に追いやられたのには勿論理由がある。僕自身にはどうにも出来ない生まれつきの理由。
    ここへの島流しが決まった時には絶望を覚えたものだけど、実際に来てみれば案外悪くない。

    だから、もう少しだけ……この楽園のような島で楽しい思い出を作りたい。

    ――タイムリミットが来る、その瞬間まで。
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