ヒロイン？ 玉の輿？ 興味ありませんわ！ お嬢様はお仕事がしたい様です。

第十一章

チーズを食べよう！

　さて。ゴーダチーズは取り敢えず出来たものの、実際に食べられるのは早くてニヶ月後。

　「けど、チーズ食べたいよね？」
　「そ、それは……。いや、正直料理とは少し違ったけど、変わった美味しい物となれば、それはね……」

　「と、言うわけで。もう一つ作りましょう。今度はモッツァレラチーズよ。流石に今日の今日で食べるのは無理だけど、明後日の朝ご飯には食べられるチーズよ」
　「おおっ！」

　「では、準備は良いですか？」
　「勿論！」

　「まずはさっきと同じ、牛乳を温めるわ。決して沸騰させたらダメよ。さっきより少し熱め、40℃位が適温よ。そしたら、レモン汁とヨーグルトを加えて……」
　……本当はクエン酸が必要なんだけど、単体のクエン酸なんてどう用意したら良いか分からないから、ここはレモンを使う。ついでにヨーグルトの酸味と乳酸菌にも手伝って貰う。

　「今から一時間、鍋の温度を変えずに放置よ。絶対かき混ぜたりしちゃ駄目だからね」
　「これは……火加減が難しいですね。少なくともアクアみたいな適当な奴に任せたらいけない仕事です」

　そして、一時間後。
　「さぁ、レンネットを入れて。一回だけ、さっと混ぜたら火を止めて。ここからまた一時間放置よ。今度は鍋にも触っちゃダメ。ちょっとでも揺らしたらこれまでの苦労が全部水の泡よ」
　「……それはますます、アクアに向かない仕事ですね。几帳面な人材をピックアップする必要がありそうです」

　そして、一時間後。
　「おお、固まってますね！」
　「ああ、豆腐かプリンみたいに柔らかいけど、液体じゃなく固形物になってる！」
　「さあ、それをさっと碁盤の目に切って、鍋を火にかけて。また40℃まで上げるわよ。そうしたらホエーが出てくるから、最低30分、出来たら1～2時間ゆっくりかき混ぜて」

　ホエーと分離したら、ザルでチーズとホエーに完全に分け。
　チーズを80℃のお湯に浸けてそのまま15分程練る。

　「おお、餅みたいに伸びる！」
　「いや、これ餅以上に伸びてない？」

　「はいはい、そしたら20％の塩水に浸けて15分よ」
　最後に水気をきっちり拭き取り、布巾に包んで冷蔵庫へイン。

　「……全工程で、約５時間、ですか。初めての作業は面白かったですけどね」
　「いや、今から丸一日寝かせなきゃいけないから。けど、丸一日で済むからね。今日はもう夜だから、出来上がりは明日の夜、だから朝食に食べましょ」

　そして。
　カプレーゼにマルゲリータピザ、トマトとモッツァレラチーズのスパゲッティーを彼らの前に出してみた。

　「これは……！　チーズその物に味はあんまり無いのに、ミルクの香りが凄いな。トマトの酸味を上手く丸く抑えてくれる。トマトとの相性バツグンのチーズだな」
　「この、独特の食感が面白いですね」

　どうやら好評の様だ。

　「あ、そうだ」
　そんな、朝食の後。声を上げたのはノアで。
　「ちょっと、グレストに内緒で付き合ってくれない？」
　にっこり微笑み、お願いされたのだった。