ヒロイン? 玉の輿? 興味ありませんわ! お嬢様はお仕事がしたい様です。

彩世幻夜

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第十一章

お正月のご馳走

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 ――疲れた。

 ノアの助力のお陰で仕事はあの量に対して随分と楽に終わったというのに。
 そのノアのせいで、無駄に疲れた。

 慣れない私にとっては、二時間もののサスペンスドラマの最後に崖っぷちに追い詰められた犯人みたいな。
 精神的に酷く疲れさせられた。

 今夜はいわゆる大晦日。
 今日は夜更しをする民も大勢居るはずだけど、まだ子供な私は早々に寝室に押し込まれた。

 階下からは、使用人達が陽気に酒を呑み明かす宴の歓声が聞こえてくる。
 ……ふん、羨ましくなんかないんだから!

 そして、翌日。
 料理長と給仕のメイド、最低限の執事以外は休みを取って皆島内にある自分の実家に帰省していった。
 ……中には昨夜の酒の報いに苦しむ者達も居たが、それは自業自得というものだ。

 「――明けましておめでとう。皆、今年もよろしくね。良いお正月を」

 まぁ、三が日が終わればすぐ戻って来るんだけど。
 「うぷ、お嬢様も。たまにはごゆっくりお過ごしくださいね」
 「……もう、また飲みすぎたの? それじゃあ馬車に乗ったら辛いでしょうに。仕方ないわね」

 精霊魔法で、二日酔いを治してやる。
 「おおっ、お嬢様ありがとうございます!」
 「ふふふ、その分お土産期待してるわよ?」
 「かしこまりました」

 そうして使用人を見送った私達は食堂へ向かう。

 「うわぁ、何これ。綺麗だ……」

 テーブルに並んだお節を見てノアが驚く。

 ……おせちやお雑煮は地域によっても差のあるものだけど、この島ではまさに家庭の味。家ごとに詰めてるものも微妙にちがったりしてて、だからよそのお宅のお節を食べ歩くのも、この季節の一つの楽しみだったりする。

 伯爵家の料理長が腕を振るったお節は、流石に色とりどりで美しい。芸術品の域だ。
 明日にはこれが領民に振る舞われる。
 独り占めできるのは今日だけなのだけど、いつもは仕事に追われてゆっくり出来ないから、その点はノアに感謝だ。

 「いただきます」

 うん、つやつやの照りが黒い宝石の様な黒豆、うまうま。甘く煮てて美味しいんだけど、ほのかなしょっぱさが舌を飽きさせない。
 海に囲まれた島ならではの、大きなエビに、カニ入りのナマス。

 美しい飾り切りの野菜がてんこ盛りの煮しめに、酢〆のタコにコハダ。
 数の子、いくら。

 「初めて食べるものばかりだけど、どれも美味しい」

 ノアによると、城では洋風のオードブルの様な物が出てくるらしい。あ、このオードブルって前菜の意味じゃなくて、デパ地下に売ってるようなパーティー用のオードブルの方ね。

 もきゅもきゅとタコを噛みしめるノア。

 いつも一人で食べていた、見た目は綺麗でも味気なかったお節が、今日ばかりは何故かとても美味しかった。
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