ヒロイン? 玉の輿? 興味ありませんわ! お嬢様はお仕事がしたい様です。

彩世幻夜

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第十二章

因果

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 「――っ、誰か! 医者を呼んで!」

 声にならない悲鳴を思わず挙げたくなって。
 でも、それより早くやらなくちゃいけない事を思い出して、周囲に指示を飛ばす。

 アゼル?

 ヤツならアークノアが殴って昏倒させたから床に転がっている。
 ヤツが握りしめていた刃物と一緒に。

 その刃には、べっとりと赤い血が付きぬらぬらと光っていた。
 私を庇って代わりに刺された、アークノアの血が。

 「……大丈夫、と言うか医者は――町医者じゃ駄目だ、済まないけど君の屋敷に、王宮の医者を呼んでくれ。僕は……普通の医者に診られる訳にはいかないんだ」

 ああ、吸血鬼だから……。と、言う事は。

 「もしかして、下手に医療処置をするより血を吸ったほうが有効だったりする?」

 「――流石にこの規模の怪我だし、血が濃いとはいえ100%の純血でもないから傷は縫わなきゃいけないと思う。けど、素人の応急処置よりは遥かに有効では……ある。ただ、今の僕にあまり余裕は無いから……いつかの時みたく無理させるかも……」

 「……分かった。グレスト、悪いけどひとっ走りして伯爵邸ウチから人呼んできて。ノア、今は目を閉じといた方が良い。瞳の色が変わりかけてる。……比喩ではなく、ね」

 「……ああ、すまない」
 「私こそ……不意打ちだったとはいえ、貴方が居なかったら今頃転がってるのは私の方だったはず。血は、後で人目につかないとこでいくらでもあげるから。あともう少し、頑張って」

 チンピラの徘徊するような治安の悪い地区の裏道でならともかく、庶民の学校としては名門校の、こんな明るい最中に起きた惨事に、あたりは騒然としていて。

 そんな中に。

 「あー、人を呼ぶ必要は無いっすよ。人手はこちらで用意しました。そこの元坊の後始末係も含めてね。お二人さん、取り敢えず王宮へ来て貰います」

 どやどやと街の警備兵が駆けつけてくる。
 その指揮を取っている人物には見覚えがあった。

 「裏門に馬車を回してるんで。は中でお願いしますよ」

 ……貴族学校に教師として潜り込んでいた影。
 王直属の、影。

 ああ、せっかく楽しい卒業パーティーだったのに。

 これが、ゲームの強制力を捻じ曲げた因果だと言うなら。
 私はノアに土下座して謝るべきかもしれない。

 アゼルも。こうまでしてはもう処刑は免れまい。
 嫌な奴ではあったけど。

 複雑な思いが、心を重く曇らせた。
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