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一章
彼氏いない同盟②
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全力を見たい。否、見せてみろと言い切ったココに、わたしの胸には言葉にならない感情が渦巻いた。
12年前、当時まだゲームのいろはも分からなかった頃マリーに言われた言葉がある。
「やらないで後悔するよりやって後悔した方が断然いい。あたしはそう思うな。ノワールは色々と頭で考えすぎちゃってるのよ。とりあえず動いて、それから考えてみればどう?」
やらないまま後悔して、いつもうじうじしていたわたしをその言葉で窘めてくれた。今のマリさんはあの頃より随分と保守的になってしまった。
だけど今はそのポジションにココットが居てくれる。
だからそんな言葉に勇気をもらって、やってみようという気になる。
『わかった、やろう。ううん、勝つよ』
わたしが決意表明を示すと、二人は暖かく迎え入れてくれた。
そして場所はエリア・荒れた大地に切り替わる。はじめに出迎えてくれたのは歓声、そして激しい戦闘音だった。
「おー、やってるやってる」
『なんか人いっぱいいるね。意外』
「そりゃそうですよ、今のところ夜に強いプレイヤーが断然多いですからね。その分敵も強くなるんですけど」
ラジーが知らなかったんですか、と声をかけてくる。ココは笑っていた。わたしも笑ってごまかした。
昼間とは打って変わって賑わいを見せているボスエリア前。
話を聞く限りでは昼に討伐された朗報を受けて夜の部にも期待がかけられていたようだ。
本来フィールドボスはレイドモンスターとして立ちはだかる。その為前のパーティが全滅した直後に入れば続きから出来る仕組みになっている。
わたし達が討伐した時も僅かに減っていたが、それはダメージが継続されていたからにすぎない。
最終的に経験値はダメージを与えた全員に行くため、誰がラストアタックを飾るか、MVPを飾るかの奪い合いが起こるわけである。
だから本来なら昼の草原もこのように賑わっていてもおかしくない。
しかし現状初討伐による旨みはない為行くには犠牲がでかすぎるとしてもっぱら素材集めに終始しているようだった。
しかし昼と夜では特性が違う為完全に別物として扱われる為、初討伐報酬が残っているのだ。
現在30組目のパーティが挑戦しているが、持って1分が限界。中にはダメージすら与えられずに全滅するパーティまでいた。
その中でも一番勝ちの目が高そうなパーティに順番が回ってきた。
どこかで見たことのあるパーティ編成。
毒持ち、ヘイト剥がし、筋力特化の純アタッカー、純タンク、ヒーラー、そしてダークネスの精霊を連れたバード種/蝙蝠の6人編成。
まごう事なきアーサーさんの情報通り。
その為寄せられる期待も多くかけられているようだった。
しかし……
夜のレンゼルフィアは昼とは違う動きを見せた。月によって狂化されているので序盤からスタミナ無視の3回攻撃。そしてスキル編成も大きく異なっていた。
『月夜に吼える』レンゼルフィア
LV30
種族:暴風狼亜種
《種族特性:10秒毎にHP5%回復》
《眷属召喚:影を操り範囲攻撃》
属性:樹/地/闇
弱点:ー
HP:62000/80000《毒により回復効果無効》
MP:980/1000
スタミナ:40%《毒により回復効果無効》
満腹度:10%《食い破る効果上昇》
□状態異常
★狂化:状態異常を無視して行動
☆出血:スリップダメージ
☆毒:スリップダメージ
筋力:300
知力:100
体力:300
精神:100
器用:100
敏捷:300《出血により25%低下》
幸運:0
□アタックスキル
「暴れ回るⅠ:狼属性範囲物理攻撃」
「食い破るⅡ:狼属性割合即死攻撃」
「なぎ払うⅠ:狼属性割合出血攻撃」
「王者の咆哮Ⅱ:獣属性全能力上昇効果」
「グラビトンウェーブⅠ:広範囲鈍足効果」
「アースクェイクⅠ:地属性広範囲魔法攻撃」
□サポートスキル
「瞬歩Ⅱ:スタミナ消費なしで移動可能」
「空歩Ⅱ:上空に2回足場を作る」
「看破Ⅰ: 相手のステータスを読み取る」
その性能はまさに別格。高すぎるHPと格段に効果の上がったHP回復効果の上昇がなによりも痛い。
ラジーも持ってる空歩持ち。それは空に安全地帯はないと言っているようなもので……
開戦直後、レンゼルフィアは上空で迂闊にもヘイト取りをしていたバード種を強襲。あまりにも一瞬の出来事だった。
まだ準備もできていないまま、パーティの前提条件が崩れた。
ボスエリア前にバフをかけても無効化される為、準備はエリア内で行う必要がある。その為上空でヘイトを稼ぎながら同時進行で準備を進めるのが常套手段である。その先手を潰されて、パーティが敗北を認識する間もなく全滅する出来事が起こった。
飛び上がったレンゼルフィアは看破で次の獲物を狙うでもなく、つまらなそうに初手【アースクェイク】でフィールドエリアそのものを土塊に変えた。
それだけで期待の星は地に落ちて戦闘終了のコールが鳴らされた。
空は決して安全じゃない。そのうえ空にでも昇らない限り逃げ場のないエリア単位の魔法攻撃。
この事実に、圧倒的力量差に、先ほどまで騒いでいたプレイヤーが同時に尻餅をつく。
その表情に浮かんだ色は絶望。
次々と棄権するプレイヤーが現れる中、それを見上げて作戦会議する者がいた。
どう見ても場違いなほどの低LVと装備。すぐにその場に通い慣れたもの達からただの冷やかしだと評価を下される。
だがしかし。問題があるとすれば、そのレベルでどうやってここまで来たのかということだ。
ただでさえ昼間と違って難易度が激増する夜のフィールド。平均レベル5のパーティメンバーは好戦的な眼差しを浮かべてレンゼルフィアを見上げた。
その足取りは軽く、誰もかれもがその3人のプレイヤーを引き止めることができなかった。
その直後、目を見張るほどの攻防が展開されるとは、この時誰も想像だにしていなかった。
さて、開戦ですよ。
わたし達の戦略はヘイトのキャッチボールです。わたしがヘイトを持って、空を飛ぶココと気配を消すラジーの間で往復していくというもの。
ココは霧化できるので魔法が飛んできても大丈夫。ラジーはまぁ、頑張って。
現在はココの背中の上で踏ん反り返って様子見中。ココは《闇纏い》のパッシブで気配を絶っている。しかし今日は月灯りでその効果も半減。
そしてこちらをしっかりと感知したレンゼルフィアは月明かりを跳ね返すように歯列をぎらつかせた……まずい、勘付かれてる!
『ココ、緊急回避!』
「え? きゃあ!」
その場で大地を蹴り、一歩、空を踏みしめての跳躍。
それだけでレンゼルフィアは肉薄する。
ココは即座にわたしを装備から切り離し《霧化》。大振りのレンゼルフィアの薙ぎ払いは空を切り裂いた!
しかしそこにあった反応はすでに消え失せている。ぐるりと辺りを見回すも姿はなく、下へ落下していく反応を捉える。
その場でもう一度空を踏みしめ、レンゼルフィアは “わたし” を追撃した。
(かかった!)
あのまま上空で待機させられたらココが見つかってしまう。それに空歩を二度使わせた。これで一時的に上空は安地になる。うまく逃げてよ、ココット。
わたしは落下と同時に【ノック】を頭上に設置して落下ダメージを回避。糸を放出して跳ねる衝撃を緩和した。
次いでレンゼルフィアも着地する。
超重量の落下により多少のダメージは受けるものの受け身がしっかりと取れているので期待する程のダメージは与えられなかった。
しかしそれにより捲れ上がった大地。フィールドそのものにダメージが伝わる。
もー、ぼんぼこ壊すんだからー。
さて、ここから20秒以上稼がないとね。わたしは相対したレンゼルフィアを挑発しながら糸を展開した。
◇side.ラジー
私は目の前で繰り返される攻防に舌を巻く。なんだろうかアレは。
ミュウさんというドライアドは凄い人だ、それは聞いた。どう凄いのかは知らないけど、装備した時の有能さはあと少し届かないない所へ手が届く万能感を与えてくれた。
しかしそれがただの装備補正ではない事を目の当たりにする。
最初こんな所へ連れてこられた時はパーティ結成記念か何かだと思っていた。
あんな屈強なプレイヤー達が瞬殺されるシーンを見れば高揚していた熱だって嫌でも冷める。上には上がいる事を知れて良かった。慢心せずに精進しろ。それを教えてくれるための挑戦だと思っていた。
だけどココ姉様やミュウさんは善戦をした上で勝つつもりだ。
ミュウさんの提案したそれは一見して無茶な作戦。空と地上でヘイトをパスし合う。それがわたしなら出来ると言い切った。ココ姉様は嬉しそうに、楽しそうに笑っていた。私もまた同じように今笑っている。
今見えている限り、先ほどまで周囲に振りまかれていた絶望などどこにもなかったのだから。
『ラジー、そろそろよ。準備は出来てる?』
ココ姉様からの交信だ。
私は最大限まで腕にかけた【ストレングス】を放出する機会を《隠密》を維持しながらずっと窺っていたのだ。そしてその時はあっさりとやってきた。
目の前には王に跪くように寝そべるレンゼルフィア。どういうわけか身動き一つ取れない状態で地面に張り付けにされていた。凄い……
そしてココ姉様の【魅了のオーラ】を浴びて意識混濁を起こしている今、私のツメはレンゼルフィアの鼻先を抉った!
振り上げた瞬間、肩を起点にして暴力的な加速を持ってそれが振り下ろされる。
威力に速度が乗り、その一撃はヤツの防御力をなんでもないように貫通した。
このサポートはミュウさんだ。振り上げたと同時に脱力する瞬間を見極め、絶妙なタイミングで合わせてくれる。
凄い、この人はこの距離でのタイミングでも問題なく合わせてくれる。心の内で歓喜しながらミュウさんから交信をもらう。
『ないすラジー。撤退用意、回収よろしく』
(はい!)
心の中ではこれでもないくらいに感情を露わにするも、無言で頷きレンゼルフィアから踵を返す。途中ミュウさんを回収、装備して《隠密》を発動させた。声を出さないのは感知されるから。鼻先を攻撃したのは嗅覚を鈍らせる目的も兼ねている。
今日は月が大きい。その為隠密の効果も薄れるのだ。だから匂いで探られるのを防いだ。私の背中にいる人は凄い人だ。
そう思い、上空に居るココ姉様と合流した。
その直後だ。
自由の身になったレンゼルフィアが暴れまわったのは。奴は今上空への対処ができない。だから大地を駆け回るしかないんだ。私はミュウさんの【ノック】によって緩やかに空へ上昇している。
一度目のジャンプで高さを計算、3度のジャンプを経てギリギリ届かない高度で私達は危なげもなく雑談を行う。
ここで装備変更。ミュウさんに【ノック】を維持してもらいながらココ姉様に装備を切り替えてスタミナを回復。
この人はどれだけ先を見て行動するのだろうと、なんだか私はミュウさんに憧れにも似た感情を抱いていた。
12年前、当時まだゲームのいろはも分からなかった頃マリーに言われた言葉がある。
「やらないで後悔するよりやって後悔した方が断然いい。あたしはそう思うな。ノワールは色々と頭で考えすぎちゃってるのよ。とりあえず動いて、それから考えてみればどう?」
やらないまま後悔して、いつもうじうじしていたわたしをその言葉で窘めてくれた。今のマリさんはあの頃より随分と保守的になってしまった。
だけど今はそのポジションにココットが居てくれる。
だからそんな言葉に勇気をもらって、やってみようという気になる。
『わかった、やろう。ううん、勝つよ』
わたしが決意表明を示すと、二人は暖かく迎え入れてくれた。
そして場所はエリア・荒れた大地に切り替わる。はじめに出迎えてくれたのは歓声、そして激しい戦闘音だった。
「おー、やってるやってる」
『なんか人いっぱいいるね。意外』
「そりゃそうですよ、今のところ夜に強いプレイヤーが断然多いですからね。その分敵も強くなるんですけど」
ラジーが知らなかったんですか、と声をかけてくる。ココは笑っていた。わたしも笑ってごまかした。
昼間とは打って変わって賑わいを見せているボスエリア前。
話を聞く限りでは昼に討伐された朗報を受けて夜の部にも期待がかけられていたようだ。
本来フィールドボスはレイドモンスターとして立ちはだかる。その為前のパーティが全滅した直後に入れば続きから出来る仕組みになっている。
わたし達が討伐した時も僅かに減っていたが、それはダメージが継続されていたからにすぎない。
最終的に経験値はダメージを与えた全員に行くため、誰がラストアタックを飾るか、MVPを飾るかの奪い合いが起こるわけである。
だから本来なら昼の草原もこのように賑わっていてもおかしくない。
しかし現状初討伐による旨みはない為行くには犠牲がでかすぎるとしてもっぱら素材集めに終始しているようだった。
しかし昼と夜では特性が違う為完全に別物として扱われる為、初討伐報酬が残っているのだ。
現在30組目のパーティが挑戦しているが、持って1分が限界。中にはダメージすら与えられずに全滅するパーティまでいた。
その中でも一番勝ちの目が高そうなパーティに順番が回ってきた。
どこかで見たことのあるパーティ編成。
毒持ち、ヘイト剥がし、筋力特化の純アタッカー、純タンク、ヒーラー、そしてダークネスの精霊を連れたバード種/蝙蝠の6人編成。
まごう事なきアーサーさんの情報通り。
その為寄せられる期待も多くかけられているようだった。
しかし……
夜のレンゼルフィアは昼とは違う動きを見せた。月によって狂化されているので序盤からスタミナ無視の3回攻撃。そしてスキル編成も大きく異なっていた。
『月夜に吼える』レンゼルフィア
LV30
種族:暴風狼亜種
《種族特性:10秒毎にHP5%回復》
《眷属召喚:影を操り範囲攻撃》
属性:樹/地/闇
弱点:ー
HP:62000/80000《毒により回復効果無効》
MP:980/1000
スタミナ:40%《毒により回復効果無効》
満腹度:10%《食い破る効果上昇》
□状態異常
★狂化:状態異常を無視して行動
☆出血:スリップダメージ
☆毒:スリップダメージ
筋力:300
知力:100
体力:300
精神:100
器用:100
敏捷:300《出血により25%低下》
幸運:0
□アタックスキル
「暴れ回るⅠ:狼属性範囲物理攻撃」
「食い破るⅡ:狼属性割合即死攻撃」
「なぎ払うⅠ:狼属性割合出血攻撃」
「王者の咆哮Ⅱ:獣属性全能力上昇効果」
「グラビトンウェーブⅠ:広範囲鈍足効果」
「アースクェイクⅠ:地属性広範囲魔法攻撃」
□サポートスキル
「瞬歩Ⅱ:スタミナ消費なしで移動可能」
「空歩Ⅱ:上空に2回足場を作る」
「看破Ⅰ: 相手のステータスを読み取る」
その性能はまさに別格。高すぎるHPと格段に効果の上がったHP回復効果の上昇がなによりも痛い。
ラジーも持ってる空歩持ち。それは空に安全地帯はないと言っているようなもので……
開戦直後、レンゼルフィアは上空で迂闊にもヘイト取りをしていたバード種を強襲。あまりにも一瞬の出来事だった。
まだ準備もできていないまま、パーティの前提条件が崩れた。
ボスエリア前にバフをかけても無効化される為、準備はエリア内で行う必要がある。その為上空でヘイトを稼ぎながら同時進行で準備を進めるのが常套手段である。その先手を潰されて、パーティが敗北を認識する間もなく全滅する出来事が起こった。
飛び上がったレンゼルフィアは看破で次の獲物を狙うでもなく、つまらなそうに初手【アースクェイク】でフィールドエリアそのものを土塊に変えた。
それだけで期待の星は地に落ちて戦闘終了のコールが鳴らされた。
空は決して安全じゃない。そのうえ空にでも昇らない限り逃げ場のないエリア単位の魔法攻撃。
この事実に、圧倒的力量差に、先ほどまで騒いでいたプレイヤーが同時に尻餅をつく。
その表情に浮かんだ色は絶望。
次々と棄権するプレイヤーが現れる中、それを見上げて作戦会議する者がいた。
どう見ても場違いなほどの低LVと装備。すぐにその場に通い慣れたもの達からただの冷やかしだと評価を下される。
だがしかし。問題があるとすれば、そのレベルでどうやってここまで来たのかということだ。
ただでさえ昼間と違って難易度が激増する夜のフィールド。平均レベル5のパーティメンバーは好戦的な眼差しを浮かべてレンゼルフィアを見上げた。
その足取りは軽く、誰もかれもがその3人のプレイヤーを引き止めることができなかった。
その直後、目を見張るほどの攻防が展開されるとは、この時誰も想像だにしていなかった。
さて、開戦ですよ。
わたし達の戦略はヘイトのキャッチボールです。わたしがヘイトを持って、空を飛ぶココと気配を消すラジーの間で往復していくというもの。
ココは霧化できるので魔法が飛んできても大丈夫。ラジーはまぁ、頑張って。
現在はココの背中の上で踏ん反り返って様子見中。ココは《闇纏い》のパッシブで気配を絶っている。しかし今日は月灯りでその効果も半減。
そしてこちらをしっかりと感知したレンゼルフィアは月明かりを跳ね返すように歯列をぎらつかせた……まずい、勘付かれてる!
『ココ、緊急回避!』
「え? きゃあ!」
その場で大地を蹴り、一歩、空を踏みしめての跳躍。
それだけでレンゼルフィアは肉薄する。
ココは即座にわたしを装備から切り離し《霧化》。大振りのレンゼルフィアの薙ぎ払いは空を切り裂いた!
しかしそこにあった反応はすでに消え失せている。ぐるりと辺りを見回すも姿はなく、下へ落下していく反応を捉える。
その場でもう一度空を踏みしめ、レンゼルフィアは “わたし” を追撃した。
(かかった!)
あのまま上空で待機させられたらココが見つかってしまう。それに空歩を二度使わせた。これで一時的に上空は安地になる。うまく逃げてよ、ココット。
わたしは落下と同時に【ノック】を頭上に設置して落下ダメージを回避。糸を放出して跳ねる衝撃を緩和した。
次いでレンゼルフィアも着地する。
超重量の落下により多少のダメージは受けるものの受け身がしっかりと取れているので期待する程のダメージは与えられなかった。
しかしそれにより捲れ上がった大地。フィールドそのものにダメージが伝わる。
もー、ぼんぼこ壊すんだからー。
さて、ここから20秒以上稼がないとね。わたしは相対したレンゼルフィアを挑発しながら糸を展開した。
◇side.ラジー
私は目の前で繰り返される攻防に舌を巻く。なんだろうかアレは。
ミュウさんというドライアドは凄い人だ、それは聞いた。どう凄いのかは知らないけど、装備した時の有能さはあと少し届かないない所へ手が届く万能感を与えてくれた。
しかしそれがただの装備補正ではない事を目の当たりにする。
最初こんな所へ連れてこられた時はパーティ結成記念か何かだと思っていた。
あんな屈強なプレイヤー達が瞬殺されるシーンを見れば高揚していた熱だって嫌でも冷める。上には上がいる事を知れて良かった。慢心せずに精進しろ。それを教えてくれるための挑戦だと思っていた。
だけどココ姉様やミュウさんは善戦をした上で勝つつもりだ。
ミュウさんの提案したそれは一見して無茶な作戦。空と地上でヘイトをパスし合う。それがわたしなら出来ると言い切った。ココ姉様は嬉しそうに、楽しそうに笑っていた。私もまた同じように今笑っている。
今見えている限り、先ほどまで周囲に振りまかれていた絶望などどこにもなかったのだから。
『ラジー、そろそろよ。準備は出来てる?』
ココ姉様からの交信だ。
私は最大限まで腕にかけた【ストレングス】を放出する機会を《隠密》を維持しながらずっと窺っていたのだ。そしてその時はあっさりとやってきた。
目の前には王に跪くように寝そべるレンゼルフィア。どういうわけか身動き一つ取れない状態で地面に張り付けにされていた。凄い……
そしてココ姉様の【魅了のオーラ】を浴びて意識混濁を起こしている今、私のツメはレンゼルフィアの鼻先を抉った!
振り上げた瞬間、肩を起点にして暴力的な加速を持ってそれが振り下ろされる。
威力に速度が乗り、その一撃はヤツの防御力をなんでもないように貫通した。
このサポートはミュウさんだ。振り上げたと同時に脱力する瞬間を見極め、絶妙なタイミングで合わせてくれる。
凄い、この人はこの距離でのタイミングでも問題なく合わせてくれる。心の内で歓喜しながらミュウさんから交信をもらう。
『ないすラジー。撤退用意、回収よろしく』
(はい!)
心の中ではこれでもないくらいに感情を露わにするも、無言で頷きレンゼルフィアから踵を返す。途中ミュウさんを回収、装備して《隠密》を発動させた。声を出さないのは感知されるから。鼻先を攻撃したのは嗅覚を鈍らせる目的も兼ねている。
今日は月が大きい。その為隠密の効果も薄れるのだ。だから匂いで探られるのを防いだ。私の背中にいる人は凄い人だ。
そう思い、上空に居るココ姉様と合流した。
その直後だ。
自由の身になったレンゼルフィアが暴れまわったのは。奴は今上空への対処ができない。だから大地を駆け回るしかないんだ。私はミュウさんの【ノック】によって緩やかに空へ上昇している。
一度目のジャンプで高さを計算、3度のジャンプを経てギリギリ届かない高度で私達は危なげもなく雑談を行う。
ここで装備変更。ミュウさんに【ノック】を維持してもらいながらココ姉様に装備を切り替えてスタミナを回復。
この人はどれだけ先を見て行動するのだろうと、なんだか私はミュウさんに憧れにも似た感情を抱いていた。
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