【完結】ドライアドの糸使い

双葉 鳴

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七章

天変地異

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 ◇side.ジド


「いやはや、見せつけられちゃってるね、どうも」


 席を立つなり背伸びをし、妻であるローズにどうするべきかと話しかけた。
 ローズはそれをジッと見上げながら「そうだね」と返す。しかしその表情は少しムスっとしていた。


「なんだよ、その含みのある顔は」
「べっつに~?」
「……なんだよそれ」


 こういう時の妻の反応は、よく理解していた。
 要は無い物ねだりである。
 頭脳派のオレに、あの脳筋と同じような事をしろと我が妻はご所望なのだ。

 正直、はじめたばかりのオレにそんな手立てはない。冗談でもなんでもなく、スキル構成はサポーター寄りである。
 ジョブだってレンジャーだ。スキルで罠ぐらいは仕掛けられるが、あれと同じかそれ以上を求められて、ハイそうですかとは頷けない。

 だがしかし、オレは本来ならそれができない人間ではない。むしろ率先してやる側だ。今できるかと問われれば、勿論出来る。
 問題があるとすれば、それがきっかけで正体が妻達にバレてしまわないか。それだけが気がかりだった。

 あの馬鹿のあれだって一目じゃ分からないが、かなりギリギリ内角をついている。マサムネである要素がマリーである妻に露見すれば、それと仲のいいオレを闇影と紐付けるのは容易だ。
 それだけはなんとかして避けたいんだが……


「はぁ、参ったな」


 ぼやきながらも一人考える。
 先程見た妻の目にはあからさまなほどに大きな期待がこもっていた。
 普段から得意げになっている分、こういう時後に引けなくなることが特に多い。
 葛藤を振り払い、覚悟を決める。


「仕方ない。いい加減オレも奥さんにいいカッコ見せないとな」
「行くのか?」
「男には逃げちゃならない時がある。特に奥さんの期待がかけられてる時なんかにゃな。そういうわけで行ってくるわ」


 ダチの呼びかけに笑いかけ、背中越しに手を振った。そして愛する妻の前で告白する。


「お前はもっと自分の旦那を信じとけ。なに、あいつにばかりいい思いなんてさせないさ。まぁ見てろ」
「うん、うん!」



 ポンと肩を叩き、妻の前から戦場へと歩いていく。足取りは軽い。そこには敵に対して物怖じしない男の勇敢さがにじみ出ていた。


「なんだかああいうのも良いですね」
「ユミは羨ましいか?」
「そんなわけでは……いえ、本音を言えば少しだけ。クロウさんのキャラにそういうのは似合わないとはわかってるんですけどね」
「そうか……僕も少しそういう努力をしていこうか」


 ユミちゃんはそれを見てほう、とため息をつく。
 クロウは己の今後の振る舞いを改めるべく考慮したような顔をしていた。

 そんな最中、本来なら影で動き、サポートに徹していた男が矢面に立つ。


 さて、踏ん張りどころだぞ、オレ。

 自分ならここでどんな力を振るうか……それを決めかねていた。
 使えるスキルは『警戒』『足払い』『罠:落とし穴』のみ。
 それらを並べ、オレは思考を巡らせる。
 直ぐに思いついたのは落とし穴。
 だがそれだけじゃあ納得しない妻。
 どうしたもんかと、こねくり回し、出来上がったのは連鎖式の爆破術式である。

 問題があるとすればこの術式、使い勝手はいいが、大規模になればなるほど時間がかかるという事。かつ派手さを優先すればなおのこと緻密な組み立てが必要だ。
 例えるならばプログラミング。緻密な数字と文字列を編みこむような繊細な技術。
 それを立体で計算し尽くして、スイッチを起動させる。

 ものは出来た。あとはお披露目だ。
 妻が気に入ってくれれば良いんだが……そこのところは少しばかり荷が重い。
 なんと言ってもオレのスキルは動き回らないからな。どこかの脳筋と違って。


「さてローズ、よーく見てろよー?」
「うん!」


 オレは一つの場所に注目を集めて、指をパチンと鳴らした。これがオレ式のカッコいい起動術。
 しかし辺りには静寂が宿った。
 何も起こらない……その事実にローズは盛大にずっこける。あれだけ期待させておいて、何もおきないなんて恥ずかしすぎて死んでしまいたい!
 そう思わせる瞳がオレを睨みつける。
 ……ったく。お前は功を焦りすぎる。
 よく見とけと言ったよな?


「ちょっとダーリン、あれだけカッコつけといてやっぱり無理でしたってことは……」


 少しづつ小さくなる妻の声。
 飲み込みかけた言葉。そんな彼女に、旦那であるオレは信じろと強く言い切る。
 見下ろす彼女はどこか不安げな表情を纏う。
 それも仕方のない事だ。
 今までのオレの行動が彼女を不安にさせる原因を作っているのも事実。
 だがな、ここから先、見せる景色はお前のためだけに作り上げるとっておきだ。
 普段ならこんな派手なことはしないんだぜ?


「安心しろ。もうカタはついた。オレのスキルは連鎖爆発型でな。結果が出るまで少し時間がかかるんだ」


 そう言ってローズの肩に手をポンと置く。ローズは不安そうに顔を歪めている。また調子のいいことを言っていると思っているのだ。これで不甲斐ない結果だったらと思うとローズはユミリアの手前、自慢をしたかったのに気が気じゃない。

 一方その頃……
 オレの狙いをつけた場所ではチャージシープ達が呑気に牧草を食べていた。
 そこはまるで平和そのもの。自分たちを脅かす存在など皆無であるかのようにのびのびと暮らしている。
 ……しかし、そんな平和も数秒後に崩れ去ろうとしていた。

 ピシリ。
 空間にヒビが入る音がどこかから聞こえてきた。そしてビキビキとその音は断続的にチャージシープの真下から聞こえてきた。
 最早食事どころではないと、チャージシープ達は急速にストレスを溜め込んでいく。
 チャージシープは怒りを溜め込むと、その場で暴れ狂ったように地団駄を踏む習性がある。
 それが最高潮に達した時……それをトリガーとして引き起こされた災害にチャージシープ達は群れごと穴の下へ真っ逆さまに落っこちることになった。
 それは崩落といって差し支えない規模の大穴。突如穿たれた穴に、吸い込まれるようにしてチャージシープ達はその命を散らした。そしてパーティーメンバーに経験値が入り込む。

 だが全長6メートル以上の巨大を誇る羊達が数十匹。それがすっぽり埋まる穴を、人は落とし穴とは呼ばない。
 それはあたかもピンポイントで起こされた災害であった。
 それを確認してオレは上手くいったと笑う。


「どうだ、ローズ。オレも少しはやるだろ?」
「うん、凄いよ。でも地味!」
「うぐ……そんなこと言わないでさ。ほら、もっと褒めてくれよ。こう見えてオレ、結構頑張ったんだけどなー」
「あたしはダーリンがクロウさんみたいに機敏に動いてスパパパパーンとチャージシープ達を張り倒す姿が見たかったの!」
「オレには荷が勝ちすぎるって」
「もっと頑張ってよ! うわーん」


 予想に反し、ローズは泣きじゃくる。
 こんなはずじゃなかったのに。
 そこでユミちゃんが気を利かせてくれた。


「お見事です、ジドさん。まさかここまでの規模でスキルを発動させられるとは思ってもみませんでした」
「本当だよ。お前な……これで40%とか冗談も大概にしろ。俺のスキルが霞むだろうが、全く。
 今から100%がどんなことになるのか想像もつかんぞ?」
「なはは、奥さんにはウケが悪かったけど、ライバルであるお前に認めてもらえてようで何より。まぁそれは後でのお楽しみってな!」


 オレは笑ってみせるが褒めて欲しい妻からは言葉をかけてもらえず、人知れず気落ちしていた。


「ちょっとリアさん、あまり気を使わなくて良いのよ? この人すぐ調子にのるから」
「ひでーなローズ。本来そこはお前がオレを庇ってくれるところだろうが」
「えー、だって……私の口から言わせる気?」


 相変わらず妻は辛口だ。
 普段の行いが早くも露呈してしまった形だが、もはや彼女の呆れは限界を通り越してしまったようである。そもそもアイツと張り合う時点で色々と無理がある。ただでさえアイツは肉体派。
 敏捷性能では追従するものこそあれ、それを引き出すポテンシャルが別物なのだ。
 オレとて好きで二番手に甘んじているわけではない。その方が色々と裏で動く面では楽だからというのもあるが、それが今欲しい能力に蓋をしているのも事実である。
 これは機嫌が直るのは時間がかかりそうだ。
 そう諦めかけた時、またもやユミちゃんが助け舟を出してくれた。


「ローズさん、もう少し旦那様を信頼してあげてください。確かに派手さではクロウさんに軍配が上がります」
「……っておいおい、ユミちゃんまで?」


 違った。追い討ちだった。二人してひでーぜ。


「でしょ、でしょ? リアさんもそう思うよね?」
「ですが結果を見れば同じ数をクロウさんよりも手早く討伐しきっています。そして私にとっての高得点は、こんな大規模震災を、たったあれだけのスキルで構築したことです。あれは凄いことなのですよ?」
「……そうなのかな?」
「そうですよ。ジドさんは実際凄い人です。ローズさんは妻としてもっと誇ってください。本来ならクロウさんと競うことすら無謀なんですから」
「ひどーい。上げたそばから落とすなんて! でもそうだね。あたしぐらいは褒めてあげなきゃ」
「そーだそーだ。ユミちゃんいいこと言った」
「ほら、すぐ調子に乗った。だから褒めたくなかったんだよね」
「いいじゃんかよー、少しくらい。ローズはもっとオレを褒めるべき。そうすべき」
「ほんと、お二人とも仲良いですよね。それに……そっくりです」
「「何が?」」


 ユミちゃんの言葉に、オレとローズは疑問符を頭の上に並べた。似た者夫婦なのは理解していたが、他人からこうして指摘されたのは初めてのことだ。
 彼女は普段から猫をかぶってるからな。
 お袋も今の妻を見たら、ひっくり返っちまうかも。
 いや、逆により鍛え甲斐がありそうだと張り切るかもしれん。結局、オレもお袋に似てるんだ。

 そう思えば、今日は無理してでも来た甲斐があった。普段みせる彼女の仕草が全て演技だと露呈したからな。
 そして当時のマリーともかけ離れている今のローズは、オレにも見せたことのない顔でユミちゃんに迫る。
 本当に親友なんだな。ちょっとだけ悔しいぜ。


「何をそんな神妙な顔をしてる。お前らしくもない」
「放っとけ。オレだって黄昏たい時だってある」
「そうか。昔のお前はムードメーカーだったもんな。今のお前はどうか知らんが」
「今も昔も変わんねーよ。ただ相手によって顔色を変えてるだけだ」
「そうしなきゃやっていけない社会だ。俺だって人の顔見て態度を変える」
「お前のそういうデレデレしてる顔は学生時代にも見なかったしな。やっぱ嫁さんが出来れば変わるものだな」
「それこそ放っておけ」


 親友と二人して笑い合う。
 タカシは昔から偏屈で朴念仁だったから、こいつ本気で恋愛できるんだろうかってずっと心配してた。でも今じゃオレの方が羨むくらい可愛い奥さんをゲットして自慢してくる。

 いいや、妻自慢じゃオレだって負けないぜ?
 なんたってウチの奥さんは、オレが惚れた女だからな!
 こんなどうしようもない忍者オタクのオレでも構わないっていってくれた女子って貴重なんだぜ?

 だからよ、タカシ。お前も奥さんを大切にしろよな。いつまでも過去に引っ張られてちゃユミちゃんがかわいそうだぜ?
 オレはそれだけが心配なんだよ……





 ◇side.ユミリア

 すこし休憩しまして場所はエリア3からボス前まで移動します。ここまで来たらボスまで行ってみようとみなさんノリノリでした。
 まぁあんなワンちゃん風情、赤子の手を捻るように倒せてしまえますけどね。
 でもどうせだからどっちが早く倒せるか夫婦で勝負しないかとジドさんの提案により、両家のプライドをかけたタッグマッチが開始されたのですが……


「しかしまた、混んでるねー」


 ローズがおでこの上に手をつけてぴょこんとお尻を振って遠くを眺めています。
 そんなことなどしなくてもわかるぐらいにボスエリア前は多くのパーティが並んでいました。
 今日はまたすごい行列ですね。
 見るからに屈強そうなな男達は、明らかに初心者装備に身を包む私達を見て煙たがっていますね。まぁ怖い。


「あまり気にするなよ?」
「平気です。クロウさんが守ってくれてますから」
「それでもだ。君はどこか自分を蔑ろにしがちだ。見ていて心配なんだよ」
「善処します」
「そうしてくれ」
「順番受け付けてきたー」


 ジドさんが参加受付の申請を行い、それぞれのワッペンを入手してきたようです。
 どうやら最近ではこの形が主流なようですね。そうまでして順番を守らない方がいるのでしょう。
 ……うん、完全に過去の私が原因ですね。
 ここは気にしないことにしましょう。きっとそれがいいです。


「今から20番目か。結構かかるな」
「仕方ないですよ。なんでもクランの解放が関わっているらしいですし」
「クランか。オレ達には関係ないな」
「でも将来的にはスカウトとかもあるだろうし、身を隠すためには敢えて結成しとくのもありかもねー?」
「そういうのもありますね。どうします、クロウさん?」
「そうだな……とりあえずここを乗り越えなきゃ話にならんだろ。またその時に考えれば良いさ」


 クロウさんはどうでも良いとばかりにスッパリと切り捨てました。それを聞いた第三者が、聞き捨てならないとばかりに乱入してきました。ワッペン仕事してないじゃないですか。良いんですか、これ?


「おいおい、そんな初心者装備だけでここは通れるほど甘くねーぞ?」
「つか、ヒューマンだけで挑むとかウケるwww」
「にいちゃん達さ。俺らより順番前じゃん。どうせすぐ死ぬんだし、ちょっとワッペン交換しようぜ。な、いいだろ?」


 初心者と見て気が大きくなっているのか、肉食系獣人三人組は余裕を持った態度で威圧をかけてきました。
 ハッ……これは彼に甘えるチャンスではないですか?
 ローズさんにアイコンタクトを送ると、ゴーサインをもらいます。やはりタイミングは今を置いてないようですね。行ってしまいましょう。


「クロウさん……」
「ユミ、僕たちは彼らと少しお話ししてくる。ここで待っててくれるか?」


 あっ……もう、クロウさんたら空気を読んでくださらないんですね。ちょっと不満そうな顔をしましたら、そっと肩を抱き寄せられて「直ぐに戻るよ」と耳打ちされてしまいました。
 こ、これは結構ドキドキしますね。ね、ローズさん?

 あ、あの子ったら私達をそっちのけで周囲から視線を総なめしてますよ。やはり殿方は顔より胸なのでしょうか?
 少し遣る瀬無い気持ちに、殺気を抑えるのが大変でした。


「で、俺達に何か用か?」
「だからにいちゃん達のワッペンをよ、交換しようって言ってんのよ」


 獣人三人組の胸にはクロウさん達よりも10番ほど後の番号が記されています。
 要は横入りですね。それをわかっていて脅しをかけてきていると判断。無論拒否するつもりです。表情でそれを物語ってますからね。


「はぁ、お前らは余程己の腕に自信があると見える」
「レベル差を言ってるのか?  まぁ素直なのも悪くねーぜ。じゃあさっさとワッペンを交換してだな……」
「だがお断りだ」
「何?」
「お前らは俺達があの程度のイヌッコロに負けると、本気で思っているのか?」
「威勢のいいやつは嫌いじゃないぜ。だが威勢だけじゃどうにもなんねーのがこの場所なのさ。俺たちはここに通い慣れてる。これは先輩からのアドバイスなのさ、さっさと渡すもん渡してお家に帰んな」
「言ったところで無駄か」
「そうそう、大人しく渡せば……」


 言いかけた男の手元に剣閃が走る。
 クロウさんがナイフを構える隙を見せずに、向きを変えます。特に何事もなかったように振り返り、私の元へと戻ってくる。
 その動き出しから動作に至るまで、あまりに早すぎて見えませんでした。
 しかし彼の中では全て終わったのでしょう。
 どこかつまらなそうにしながらも、私の為に笑顔をたたえてくれました。ちょっとこの人かっこよすぎませんか?
 実は私の旦那様なんですよ、えへへへ。


「ようよう、お兄さん方。今のあんたら最高にかっこ悪いぜ?」


 どうやらジドさんが追撃をかけるようですね。
 ローズさんの方を見れば、またも無い物ねだりを拗らせたような顔をしていました。
 どうやらウチのクロウさんが相当かっこよく見えたようですね。ふふふ、あげませんよ?

 ジドさんはそんな彼女のお願い攻撃によって矢面に立たされます。
 クロウさん程ではないですが、ジドさんもあの面食いなローズさんが認めるだけあってかっこいいのですよね。ただちょっと行動がそれに伴わないだけで。


「こいつ、俺たちが下手に出てりゃつけあがりやがって」


 獣人さん達は怒り心頭で拳を握り、振りかぶります。


「そういうところだっての」


 ジドさんも場慣れしているのか、全く物怖じしませんね。余裕の態度で対応してます。悔しいですが格好いいですね。ローズさんが自慢してくるのもわかるというものです。

 襲いかかる獣人さん。
 ジドさんは特に構えもせずに指を鳴らします。
 するとどうしたことでしょう。何もない足元に突如態勢を崩すのに丁度いい穴ぼこが!
 運悪く転倒、頭から地面に打ち付けると思いきや、そこにも穴ぼこが空いて、無様なオブジェの出来上がりです。お見事ですね。
 もしやこれを練り上げるのに少し時間をかけていたのでしょうか?
 時間もかけずに三人を無力化し、見た目だけじゃないことを周囲にアピールすることも忘れません。ずるいですよ、ローズさん。
 ウチのクロウさんは威嚇するだけでしたのに。
 ねぇクロウさん、もう一度私にかっこいいところを見せてください。え、無理して相手する必要ない?
 そんな~
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