ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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137話 ダンジョン封鎖計画 5

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 すっかりたこ焼きを堪能した俺たちは、その場で休憩したのち、違うタコ料理を追求していく。

 やっぱりね、料理人なら素材を生かしてこそ。
 一つの料理で満足してしまうのは勿体無いと思ってしまう生き物なのだ。

 ただ、ここ数時間油をたっぷり使った食事が多かったので、さっぱりと行きたいところである。

 そこでタコで出汁をとったスープなんかどうだろうと思い浮かぶ。
 そうと決まれば熟成乾燥の出番。
 今回も弱・中・強でかけて、味の違いを見ていく。

 砂場に仰向けで倒れ込んでグロッキーなヨッちゃんは「朝日が目に染みるぜ」なんてダンジョンの景色に文句を言ってる。

 確かにダンジョンだから天候は変わらないが、こうも照りっぱなしというのも堪えるな。

 いっそスープよりドリンクの方がいいのでは?
 まぁそれはアルコールに任せて今はスープ作りに専念しよう。

 それはそうと菊池さんに頼んでビーチパラソルでも借りてこようかな?
 俺はともかく、ヨッちゃんはここに住むことになりそうだし。

 出入りできるのは加工スキル持ちだけらしいって噂も、どこまで本当かわからないし、ダイちゃんに来てくれとも言えないからなぁ。

 そこで思いついた顔があった。それが富井さんたちだ。

 あの2人も共に加工スキル持ち。
 もしあの2人が移動可能なら、今後ダンジョン内に呼び出しやすくなる。

 Dフォンで連絡をすると、普通に繋がった。
 今ダンジョンに入ってる人は限られてるが、ダンジョンから外に繋がるのは普通にありがたい。

『どうしたい、急に。ダンジョンでのトラブルの話かい?』

「それがですね」

 俺は菊池さん経由で聞いた話を元にこちらの事情を話した。
 ダンジョンの出入りが封鎖されてること。
 そして加工スキル持ちなら出入りが可能であることだ。

 厳密にはダンジョンには入れるが、脱出できないことを語る。

『加工スキル持ちだけがダンジョンの出入りができる? ダンジョンセンター職員はそれが原因で出入りできず仕事ができないってわけか』

「したくてもできないので、向こうとしてもいい迷惑でしょう。俺たちもダンジョンセンターに頼ってるところがありますからね」

『なんでまたそんなことになっちまってるんだい? ワシらがちょっと事業に意識を向けてる間によ』

「それなんですが……」

 一つだけ心当たりがある、と船上パーティの話題を持ち上げた。内閣総理大臣直々の呼び出し。
 A以上の25歳から35歳までの探索者を一同に集めたパーティがあったこと。

 最初こそは国お得意の囲い込みだと思った。
 けど中身は相当に真っ暗。
 なんだったら今後の探索者声明すら脅かすものだと判明する。

『ふぅん、ワシが寝てる間に知らん奴が表で威張り散らしてるみたいだな』

 富井さんは実に60年間眠っていたという。
 金剛満の実年齢は詳しく知らないが、俺たちの父親を名乗る時点で60歳以上。
 
 しかし富井さんの活躍してる時代ではまだ赤ん坊の可能性があるか。
 ミィちゃんよりも前に世界に名前を打った探索者。
 それが金剛満。
 しかし俺はあまりにもその人のことを知らなすぎた。

 あまり表で活動してこなかったというように、内閣総理大臣になってからは暗躍していたと公言している。
 どこまでが本当のことかわかったものではないが、暗躍する時点で碌なことではないだろう。

 「あの人が何を考えてダンジョンを封鎖したかはわかりませんが」

『どちらにせよ、ワシらの事業にまで影響するってことか』

「はい。俺たちもダンジョンセンターにおやすみされたままではダンチューバー業に差し支えますし、素材確保に支障が出ると富井さんも困るでしょう?」

『それこそ待たせている顧客も失ないかねん。わかった、その申し出に協力しよう」

「ありがとうございます。ご足労いただく際、軽いおつまみもご用意しますね」

『そいつが楽しみなんだ』

 富井さんがそのことを想像しながら電話を切る。
 向こうも暇じゃないだろうに、わざわざこんなことに付き合ってくれるんだからありがたい。

 さて、それじゃあこっちもそれに向けて準備を始めますかね。
 ビーチで一人寝転がってるヨッちゃんを起こす。

 これから富井さんが来るのに、このままじゃ見栄えが悪いからな。

「ほら、ヨッちゃん起きろ。ここで寝てると日焼けすんぞ?」

「グエー」

 そんな潰れたカエルみたいな声出して。
 今日は着飾ってきたんじゃなかったのか?
 あちこちに砂が入って大変なことになっている。

 <コメント>
 :せっかく着飾ってもこのザマである
 :中身がヨッちゃんだしな
 :結局ヨッちゃんだからで済まされる件
 :美少女なんていなかったんや
 :速攻正体明かしたもんな
 :酒と食事を前にしたら返送が意味ないって証拠
 :クララちゃんすら感落ちだからな
 :美玲様も瞬落ちなんよ
 :恐るべきはポンちゃんの料理ってことか!
 :たこ焼きの輸入待ってます
 :今JDS経由でしか扱えなくね?
 :そういやダンセン閉鎖してるんだっけ
 :完全に生殺しなんだよ
 :家でタコパしてる俺に抜かりはない
 :俺も久しぶりにたこ焼き食いたくなってきたわ
 :俺はもう食ってる(鮮焼来店)
 :もうそこに行くしかねーか、待ってろ新潟!

 なんだかんだ、リスナーさんたちも楽しんでくれるようで何よりだ。

 やっぱり高級な食材を使った未知の料理より、食べ慣れてる料理を熱かった方が追走してもらいやすい。
 出来上がるものに差はあれど、そこは匂いで補完してくれたらいいしね。

「ヨォ、来たぜ」

「邪魔するよ、ポンちゃん」

「ん? 誰か来たのか?」

 来客の声に合わせて、ヨッちゃんが寝ぼけ眼をこする。

「すいません、ヨッちゃん今まで寝てて」

「今日は普段んと装いが違うじゃねーの」

「馬子にも衣装ってやつか。似合っとるぞ」

 女装姿のヨッちゃんを奇異の目で見つめるお二人。

「あーん? オレが女だと何か問題あんのかよ。こう見えてポンちゃんの姉貴だぞ?」

「なるほどな、生き別れの姉弟だったか。それで自らの性別をあけすけにしたってわけかい?」

「そりゃ、いい歳した男女が一緒に過ごすってなれば色々制約はつくだろ? だが姉弟なら、そこら辺は取っ払われるって寸法よ!」

「急に面倒な身内が出てきて俺は困惑しきりです」

 ヨッちゃんの申し出に、俺は頭を掻くばかりだ。

 富井さんたちはそれで納得したのか、一度元の場所に戻れるかを確認して、その上で今回のゲストとしての参加に相なった。

 菊池さんの宣言通り、加工スキル持ちのお二人はダンジョン内の行き来が可能だった。
 その確認さえしてもらえれば、今後ゲストを誘いやすい。

 クララちゃんやダイちゃん、ミィちゃんなんかはその筆頭だ。
 他にもまだ見ぬ身内が出てくるんだろうか。

 その日はタコを加工したりして突発的なバーベキューなどをしたりして楽しんだ。
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