ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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150話 熟練の教え

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「とりあえずさ、君たちのスキルと使い方を教えて。俺のは特殊調理。ゴーストとかなんでも隠し包丁入れちゃうの。スライムとかも食えるようになるぞ」

「うわ、それだけで探索者になれるのかよ。俺らより不遇じゃん」

 俺のスキルは、どうも彼らより不遇らしい。

「ポンちゃんはそれでトップにのしあがったからな! 上辺だけで判断してると足元掬われちゃうぞー?」

 ヨッちゃんの助け舟かよくわからない言葉で、取り敢えず話はまとまる。

 囲まれた少年は3人。
 特殊変化:液状化ドリンク『鳥居リンク』
 特殊変化:粉末化パウダー『宇田葉』
 特殊変化:製油化オイル『織部ルイ』

「おいおいおい、みんなして優秀だなぁ、こりゃどこのダンジョンからも引く手数多なのがわかる」

 今最も欲しく、足りない状態だ。
 飲み物はいくらあっても欲しい。
 粉物は鉄板焼きに欠かせない素材。
 そして油。
 
 表面だけ熱を入れるのにこれ以上効率的なものはない。
 そして油があるだけで、野菜や肉も美味しく食べられる。

 粉と合わせればレパートリーは増やし放題だ。

 いいなぁ!
 俺もこういうのが欲しかった。
 今更だが、いくつかメニューを考案した。

「すいません、今回はこの子達と共同で炊き出しをしたいと思います。モンスターを幾つか提供していただいてもよろしいですか?」

「俺たちは構わないが、向こうは納得するのか?」

「ポイントの仕組みを知れば、向こうが何を求めてるのかわかります。そして、それさえわかればいくらでも交渉は可能です。俺からも新しいメニューの考案がありますので、そのついでに」

「うまいもんが食えるんなら俺たちは助かるが」

「旨くなるかはダンジョン側の運営次第ですね。野菜の種でも買い付けて、自給自足をするのをお勧めします。肉なんかの加工物も作っていけば尚のこと。ヨッちゃん、火」

「オッケー」

 まずは持ってきた乾麺を綿棒で叩く。
 そいつを簡易的に作った竈門の上に引いた鉄板の上で、お湯を注ぎながら炒めていく。

「織部君、ソースなんかは出せる?」

「タダじゃなぁ」

「ならこれをあげよう」

 オリンから怪物タコの足を一本取り出し、手渡す。

「ぐわぁ!」

 あ、持てなかったか。
 抱き抱えたまま後ろに倒れちゃった。

「手渡すサイズじゃねぇんだわ」

 ヨッちゃんにまで言われたらおしまいだよ。
 普通に空中でキャッチするくせにさ。

「悪い悪い、いつも受け取る方も当たり前の様に受け取ってたから。事前に持ちやすいサイズに切っとくべきだった」

「な、なんなんだあんた!」

「この人はSSSランク探索者なんだぞ。本人が気さくだからそんな感じは一切ないけど、一応すごい人だから敬意は払うように」

「あと、今手渡されたのはSSランクモンスターで、食えば目玉が飛ぶくらいうまい。たこ焼きがおすすめ」

「そ、そそそそ。そんなものポンと渡すなー!」

 何故だか怒られてしまった。
 おかしいなー。

 気を取り直して三等分にして渡す。

「はい、これお土産。ランクが高過ぎてクララちゃんも扱うのに困ってたモンスターだから、加工できるかはわからないけど」

「クララ? クララってあの倉持クララか?」

「アレ? 君たちオレらのことは知らないのにクララちゃんのことは知ってる系?」

 ヨッちゃんが軽くショックを受けつつ、事情を聞く。
 どうも知ってるのは探索者やダンジョンセンターの情報ではなく、同じくダンジョンデリバリーとして活躍する彼女の情報だったそうだ。

 聞いてないのに調べてもなかなか出てこないような情報をあっさり回答できる博識具合。そして加工の腕前がトップレベルと早くもその実力に注目されている。

 あのクララちゃんがねぇ。
 同年代から恐れ多い化け物みたいに扱われてるのはちょっとだけ不憫だ。

 俺たちもそんなふうに世間から思われてるんだろうか?

「そのクララちゃんを救い出し、世話したのが美食倶楽部なんだよ。探索者界隈じゃ有名だぜ?」

「マジかよ、あの人の恩人?」

「おいこれ、バレたらまずい案件じゃねーか?」

「俺たち居場所を無くしちまう!」

 せっかく見つけた場所を取り上げられてしまうんじゃ無いかと恐々する彼らだったが、別に取り上げないから安心してほしい。

「別に俺とクララちゃんが知り合いだからって、君たちに責任を追及する気はサラサラ無いから気にしなくていいよ。俺が彼女を起用したのは、彼女の加工スキルが素晴らしいものだったからだ。俺はこう見えて料理人でもあってね、とりわけモンスターの加工品、彼女の場合は調味料か。あれらが既存品と逸脱した特殊効果があることを一目で見抜いておつきあいさせてもらっている。君たちのスキルも、自分たちが思ってる以上にすごい力を秘めてる可能性があるんじゃ無いかと思ってね、ご協力いただきたい。どうかな?」

 少年たちは内緒話をしながら、結論が出たのか俺たちに向き直った。
 どうやら俺の条件を飲んでくれるらしい。

 ポイントとやらがどんなものかは知らないが、彼らの加工スキルを試す機会を得た俺は、加工スキルを加味した料理をたくさん作って炊き出しをした。

 いやー、楽しくなってきた。
 最初に作ったのは鉄板焼き。
 宇多くんの粉末化させた素材とヨッちゃんの魔法の水で練り上げたお好み焼き。

 そこでストックしていた巨大タコの削り節と織部くんのソース、マヨネーズを追加していく。
 
 ここで意外な伏兵として活躍して見せたのは宇田君だ。なんとこちらの海苔を粉末化させて青のりなんかも手配してくれた。

 モンスターを加工するならわかるが、あと一手間足りない素材を加工してくれるのは非常に助かる。

 それらに具として乾麺を砕いたものを入れて、ダンジョンのみんなに提供。高評価を得た。


 続いてたこ焼きを作っていく。
 先程手渡したタコがどれほどの美味なのかを知ってもらう必要があったからだ。

 本来タコはぶつ切りにして熟成乾燥(弱)で仕込むんだけど、ここで活躍してくれたのだ鳥居君の液状化。

 彼はそれをドリンクと呼んでいたけど、俺はこれがすりおろし機能、またはジューサーと同等のものだと推測。

 早速持ち寄りのとろろ芋をすりおろしてもらい、それを生地に混ぜ込んだ。
 表面はカリッ、中はトロッのたこ焼きだ。

 織部君のオイルも大活躍。
 彼らは粉物を作るためだけに生まれてきたと言われても過言じゃ無いくらいの活躍を見せてくれた。

 そしてそれぞれの実食。試食会だ。

 見た目からして炭水化物のオンパレード。
 そこに持ち込んだインスタントラーメンも相まってオール炭水化物と言ってもいい。

 しかしここで鳥居くんが表で買い付けた各種野菜と果実でフルーツミックスジュースを作成してくれた。
 これで足りない栄養素を補えるってわけだ。

 この子達すっごい便利だなぁ。
 クララちゃんと同様、独自に契約を結んだのは言うまでもない。

「基本、俺たちは低ランクダンジョンに出没するようにしてる。今回君たちがどれくらいのポイントを稼いだのかはその表情を見るに察するけど、今日と同じような効果を望むなら、ぜひ上ばかり見ずに低いランクにも立ち寄ってほしいかな? もちろん、無理強いはしないけど。俺たちはここで暮らしてるし、いつでもここにいるけど、君たちは未来ある若者だ。旨みを感じれば上へと駆け上がって行くだろう。俺はそれを引き止める権利を持たない」

 そんな風に軽く煽る。
 上位ランクのダンジョンに閉じ込められた探索者たちは、モンスター肉でそこまで生活に困ってないのもあり、足りない食材を定期便で送ってなんとか凌いでもらってる。

 彼らみたいな隙間産業は確かにそこで稼ぎを見込めるが、それは加工ができたらの話である。

 どうも加工スキルが総合ステに起因するところがあるのはクララちゃんで検証済み。

 今の彼らがどれくらいのステータスで上に行こうとしてるのかは知らないが、一足跳びで上に行くのはマジでやめたほうがいいと引き留める。

 クララちゃんはダンジョンセンター職員という経歴があったおかげで、余裕を持って総合ステータスに合わせて加工スキルを磨き上げてきた経緯があるが、この子達はぶっつけ本番でそれらと張り合おうとしている。

 まぁ、結果は火を見るより明らかだし、あの子に張り合うのはやめとけ。普通に年季が違いすぎる。

「このタコ、こんなに旨味が違うんですね。俺たちが作るものとはべつもんだ」

 鳥居君がこの子達と組んで最初に取り掛かったのがたこ焼きだったと言う経緯を聞いて、やっぱりなと思った。

「たこ焼きは奥が深いからな。材料が簡単と言っても、やっぱりそっちの道のプロが作るのとでは根本から変わってくる。俺もたこ焼きは今月になってから初めて作ったけど、未だ道半ばだ」

「これで!?」

「この人はどの料理も一級品だが、目指す場所が遠過ぎて自分の実力に気がついてないパターンだ」

「俺の師匠が化け物だらけでなぁ。料理に至っては総合ステータスがなんらアテにならない。むしろ足を引っ張る要因になってる。もちろん、あって困るものではないが、盲信のし過ぎは禁物だ。どれ、記念にもう一品作ろう」

 話が盛り上がり、今日が載ったのでもう一品作る。
 粉物で腹がいっぱいになったばかりで悪いが、ここでさっぱりしたスープを添える。

 鳥居君のドリンクもお好み焼きのお供にいいが、胃が火エすぎてしまうからな。

「これは俺たちが倒したモンスターの出汁でとった黄金スープだ。具は全部溶け込んでしまったので、ほとんどないが、旨みだけは残ってるので皆さんに振る舞いたいと思う」

「いいのかい、そんな貴重なもの」

「個人で飲むには多すぎる。俺たちだけじゃ飲みきれないからみんなにお裾分けってことだよ。どれ、君たちにもあげよう」

 鳥居君、宇多君、織部君にスープカップに注いで渡す。
 偶然その場に居合わせた彼らだったが。粉物以上にその味に驚いてくれたようだ。

 ほとんどモンスターにくを熟成乾燥(強)で加工したのち、出汁をとったスープなので、成分は大体水だ。
 それでも彼らは目を見張るほどに興奮していたし、ダンジョンのみんなは美食倶楽部最高! と小躍りしていた。

 俺たちも飲みながら、いつもの乾杯の儀式をした。
 あとはいつも通り鉄板焼きをしながら近況報告で雑談を交わす。

 こうやって馬鹿騒ぎした後の日常を少しでも楽しんでもらうために、俺たちが率先して馬鹿になる。
 もちろん、それらはしたくてしてるんだけどな。

 粉物にはやっぱりビールだな。
 未成年たちの手前、飲むのは控えてたが、やっぱりアルコールはやめられなかったよ。

 しかしここには鳥居君がいる。
 彼にかかればソフトドリンクなんてお手のものなのだ。

 彼らはポイントが稼げるからと大盤振る舞いしてくれた。
 そうそう、加工はしてなんぼだから。

 ケチってたって成長機会を失うだけだからね。
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