ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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166話 共食い狂想曲1

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「え、あいつら勝手に外に出てたんですか? まだその時ではないと言うのに……」

 早速サボってたことをチクった。
 するとルゥちゃんは神妙な顔つきで顎に手を添えて考え込む。

『逆に良かったのではないか? いつでも見張っておるぞ、と他方に牽制をかけることができる』

 タコのぬいぐるみ、瑠璃はおおらかに事実を受け止める。
 多少なりともポジティブなのだろう。
 それとも遅かれ早かれぐらいに思ってるのかな?

 ルゥちゃんはそこのところ慎重っぽいし。

「とりあえず加工スキル持ちなら対処できる話と、魔法は効かずとも足止めできることは教えといたよ」

「それは……」

 余計なことを! と言いたげな視線。

「え、別に問題ないでしょ? だってあれらは雑兵で、本命はまだ隠してるんだし。むしろこっちはサボり魔をチクるだけに留めず、処罰する権利を持つんだから。処罰できる対象が増えれば、兵士のサボりもなくなるんじゃない?」

 それで好奇心旺盛なあのサハギン達が懲りるとは思わないけど。
 ルゥちゃん的としては人海戦術でダンジョンを掌握してやろうという目論見だろうけど、そもそも言うことを聞かないんじゃどうしようもない。
 そこで、サボって遊んでる見張りを懲らしめる役割を俺たち以外にも設けた。多少の損失こそ出すが、それでサボりが治るんならWin-Winの筈。

 ダンジョン側はファンガスクラスの討伐実績を得られて。
 ルゥちゃん側は兵隊に上下関係を叩きつけられる。
 そもそもなんで生みの親であるルゥちゃんに忠義を尽くしてないのか全く理解不能なんだけど。
 生まれ変わりと言っても、世界が違うから支配力まで及んでなかったり?

『正論じゃな。実際、あやつらがサボることで計画が遅々として進まん。まずは神殿の建設、これは絶対じゃ。妾が顕現するためにも、なくてはならん器じゃしの』

 良いことを聞いた。
 これ、あれだ。支配するための力を得るために早急に神殿を建設する必要があるんだ。
 この調子で兵を増やせど自由意志で動き回られるとエネルギーの無駄遣いになりうるのか。
 ルゥちゃんはそれをわかってるのか?

「ああ、あれ。そんな狙いがあったんですね。瑠璃のわがままだと思ってました」

 分かってないようだ。
 この主人にして、この眷属あり。
 オリンと同様に情報を隠して進めているから、主人にまるで伝わってないんだな。

 わかるわかる。俺も一緒。
 それとなく前情報だけ渡されても、自分のことを優先しちゃって後回しにしちゃうんだよな。

 ルゥちゃん的にはエネルギーの回収が最優先。
 やたらエネルギーを使う神殿の建設は後回しにしていたそうだ。

 なんと要求エネルギーはまさかの2億。
 毎回2000万のお布施があるとしても、10回分のお布施を投資できるかって言われても考え所だ。

 何せその施設でできることを肝心の運営者がまるで理解してないのだから。そこの情報を伏せたら流石に意識が向かないのもわかるよ。

 俺も食うのに困ってる時に、有金叩いて最高級調理器具かうか? って聞かれたら実際迷うもん。

 包丁はスキルでいくらでも出せるし、だったら目先のご飯に飛びつく。
 今、ルゥちゃんの置かれてる状況も同じなのだ。

 何せこのダンジョン、来客が俺たちくらいでそれ以外の収入が一切ない。
 俺たちの配信によるお布施が収入の10割を占めるのである。

 その上で言うことを聞かない眷属の召喚にほとんどの支出。
 一度召喚した後はネズミ算式に増えていくようで、手がつけられない模様。兵士として役割をあたえても好奇心が旺盛すぎてすぐ遊びに出掛けてしまう始末。

 リソースは貯められているものの、コストが高すぎるんだろうね。
 おねだりでもするように俺のところに来たよ。
 配信はいつでもできるけど、まぁお互いに忙しい身だしね。

 今回はちょうど第一回魔法講座を終えたタイミングというのもあり、俺たちも少し肩の荷が降りた。

 まだ手ほどきは必要だし、今回都合が悪くて来れなかった人たちもいるから2回、3回と回を重ねていく必要もあるけど、短いスパンで行うのも違うと思うしな。

 ヨッちゃん曰く「修練あるのみ」とのこと。
 コツだけ教わってわかったつもりになったら、そこで試合終了と言っていた。

 ダンジョンが変わるたびに調整が必要なんだ、と熟練の職人のような笑みを見せる。
 ダンジョン内で生活的な魔法が行使される日は一朝一夕では実現不可能だということらしい。

 実際のところは「オレも苦労したんだからお前らも苦労しろ。ケケケ」という底意地の悪い感情が渦巻いているのだが、俺から語るもんじゃないので黙っておく。

「とりあえず、神殿の建設のためにも近いうちに第3回の配信を行おうか? 日程はいつなら空いてる?」

「あ、それでしたら……」

 ルゥちゃんの希望で週末ということになった。
 どうも彼女、世界がこんな状況になっていながら、律儀に学校に行ってるらしい。
 これから支配する人間の観察も兼ねているとかなんとかで、違う意味で勉強中なのだそうだ。

 しかし週末以前に普段から朝も夜もわからない生活をしている俺たち。
 だから期日が来たらサハギンに伝令を頼むという前提で約束を取り付ける。

 最悪、寝てる時もあるしな。
 起き抜けにあの顔はインパクトが強すぎるし、ちょうど良い伝令係だろう。
 思わず倒して食べるまでがワンセットだ。
 ヨッちゃんが毛嫌いしてるからなぁ。

 あんな目に遭えば無理もない話だけど。





 クララちゃんやユウジ君と連絡を取り合いながら過ごすうち、約束の日はアッと言う間に訪れる。

 クララちゃんの方に届いたツテで、もうすでにサハギン達を数体始末したらしい。
 
 通常に対しての変化は【冒涜的なキャビア】

 玉虫色のキャビアで、食べるのを躊躇する色味。
 意を決して食べた先にあるのは楽園の味。
 味を知ったら奪い合いになること請け合いだそうだ。

 そして活け〆状態での変化は【冒涜的な松前漬け】
 なんでそれ? と思ったがレインボーキャビアがふんだんに使われており、その上で栄養価の高い(?)切り身、鱗、そしてヒレ肉などが盛り込まれている珠玉の一品だそうで、見た目での忌避感が尽きないながらもご飯の上に乗せた後は記憶が飛ぶほどのものだという。

 ぜひ一度食べてみたいものだ。
 今度来てもらった時にご馳走してもらおうと思う。

 取置きを頼もうにも、記憶をなくしてるうちに消えてるらしく。
 どうも奪い合いになってるらしい。
 こういう時、記憶喪失って便利な言い訳だよな。



「はい、やってまいりました第3回! 今回も生配信ですよ」

「いえーーーーーー!」

 音頭と共に拍手がなる。
 ヨッちゃんとルゥちゃんがぱちぱちぱち、と。

 サハギンたちはぴちゃぴちゃと湿った拍手だ。
 なんというか気が滅入るが、気にしすぎても仕方ない。
 本魚達のやる気のなさも相まって、第3回の新米邪神継承者配信が始まる。

 場所はいつもの拠点で、食事はちょっと趣向を変えて。
 その理由は……

『|◉〻◉)今日は何が食べられるんですか?』
『|◉〻◉)ノ あ、ぼく同胞の煮付けがいいです』
『|ー〻ー)じゃあお前が煮付け役な?』
『|◎〻◎)ガビーン』

 そう、この望んでないギャラリーの多さである。
 
「あ、無視していただいて構わないので」

「あ、うん。まぁ俺もこいつらに料理を振る舞う義理はないし」

「ほら、お前達。あっち行ってなさい」

『|◉〻◉)ぶえー』

 まるで野良犬でも追い払うように、ルゥちゃんが手を振って集まってきたサハギンを散らした。
 この上司にしてこの部下である。

 <コメント>
 :相変わらずのメンツである
 :世界侵略は進んでますかー?
 :こら、煽るな

「まずは日本から攻め落としますね^ ^」

 ニコニコと、それでいて威圧感のある返答をするルゥちゃん。
 完全に藪蛇だ。
 まぁ、兵士が全く言うことを聞かないだなんて情報、明るみにする必要はないもんな。

「はいはい、冗談はそれくらいにして。今日はあまり加工せずとも食べられるお刺身をね、提供していきたいと思います」

「特別な調理はしないんですか?」

「うん、素材はそこら辺にいるサハギンだからね。いいんだよね、食べても?」

「まぁ背に腹は変えられませんし」

 <コメント>
 :どう言うこと?
 :わからん
 :契約的なことでもしてるんだろ
 :サハギンたちが青ざめてるんですが
 :|◎〻◎)ぼく、食べられちゃうんですか?
 :早速混ざってくるな
 :ほんと、自由だなこいつら
 :名誉俺たち
 :なんかこいつらになら征服されても良くなってくるな
 :待て、早まるな!
 :でも自由に生きてるし、生活変わらなくね?

「さっきファンガスに生け取りにされてましたけどね」

 <コメント>
 :魚の人ーーーー!
 :草
 :物理防御高そうなのに捕まるのか!

「知ってるか? こいつらダメージ与えられなくても足止めできるんだぜ? その上でファンガスは寄生してくる。その後どうなるかなんて日を見るより明らかだ。な?」

『|◉〻◉)ぼくのことですか?』

 そこには色味の違うサハギンが居た。背中からキノコが生えた個体である。

「え、これファンガスに寄生されてるの?」

『|ー〻ー)どうもそうみたいです。あ、これお近づきの印に』

 そう言って手渡されたのが、丁寧にキノコの繊維で編まれた袋の中いっぱいに詰め込まれた花粉だった。
 確かこれって寄生してくる媒体だったはず。

「ありがとう。ミンサー」

 受け取ると同時にミンサーで生肉ミンチにしてやると、明らかに『|◉〻◉)チィッ』と舌打ちをした。
 浅い考え極まれりだな。
 知性はあるけど低い。そしてイタズラが手に負えないレベルで悪質だ。
 こう言う個体はmのさばらせておくと被害が拡大する一方なので処理しておく。

 ガシッと腕を掴んで、端から加工の魔眼で処理していき、ヨッちゃんに張ってもらった水の中に投下した。
 次いで鍋の中の水を沸かしてもらい、周囲にいい香りが漂う。

「すげー美味そうな匂いがするな!」

「飛び込みでスープの提供をしてくれるなんてサービス精神に溢れた個体が多くて感謝が絶えませんね」

 そして、『|>〻<)やだ、やだ』と嘆く通常個体の腕をむんずと掴み、そのまま三枚に下ろしていく。

 <コメント>
 :外道!
 :人の心とかないんか?
 :実際、同じことされても文句は言えないで

「こいつら、数だけは居るんで。どうやって食べようかなってレパートリーに迷うくらいですよ」

「で、今日のメニューは?」

「しゃぶしゃぶでどうかなって」

「なら日本酒かなぁ」

「富井さん呼んで、直接加工してもらったほうがいいまであるよね」

「ああ!」

 ゲストを放置して二人して盛り上がる。

「あの、お湯加減良さそうですよ。あまり煮立たせるのも良くないのではないですか?」

「うん、よく知ってるね」

「こう見えて料理はできるほうですので」

 なるほど、家では家庭的なお嬢さんなようだ。
 なんでまた世界征服従ってるのかはわからないが、他人の事情に首を突っ込むのも違うな。

 ヨッちゃんに火の加減をセーブしてもらい。
 俺、ヨッちゃん、ルゥちゃん、どこからかか紛れ込んできたサハギンで鍋を囲んで食べていく。

 ファンガススープに魚介の旨みが重なって、これは削り節にしても美味しいんじゃないかと言う直感が冴え渡る。
 しゃぶしゃぶの方も申し分なし。
 程よく油の乗った切り身を、スープに潜らせてから酢醤油でいただく。

「私は普段胡麻ドレッシング派でしたが、酢醤油も美味しいんですね」

 ハフハフ、と熱を冷ましながら堪能していくルゥちゃん。
 その横では、サハギンが順番を奪い合うようにして喧嘩していた。

 姉妹には仲間の腕を切断してまで味わう個体まで出てくる始末で。
 世はまさに共食い時代に移り変わろうとしていたくらいだ。

 そのまま潰しあってくれとも思わなくもないが、ルゥちゃんの手前口に出すのはやめておいた。
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