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173話 金剛満の賭け
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「なんということだ」
目の前に現れた侵略者の目的を聞き、やはり自分の判断は間違えていなかったと金剛満は確信した。
「あなたが、この星の守護者と言ったところかしら?」
まだ幼い少女に扮した侵略者は、易々と金剛満の領域へと侵入を果たし、くつろぎながら質問をぶつけた。
金剛満は苦悶の表情だ。準備が遅々として進まぬまま、一番顔を合わせたくない存在と面会してしまったからだ。
加工スキル持ちは実践投入するには未だ未熟。
対抗手段として投入するには時間がもう少し欲しいところだった。
「そうだ、と言ったらこのまま帰ってくれるのかね?」
まず無理だろうな、と思いながら願望を込めた質問を繰り出す。
聞かれた少女はクスリと笑い、心の内を見透かしたように視線を強めた。
「嫌よ。わざわざ顔を合わせにくるほど親しい間柄でもないでしょう? それに、あなたは既に私たちの目的はわかってるんじゃないの? だからこうして時間稼ぎをしている」
どうせエネルギーの管理権目的だろう。
金剛満は即座に理解しながらも、同時にそれを手放すことは地球への侵略を見過ごすことだと意味した。
「力づくで奪うこともできたんじゃないのかね?」
「あら、そうした方が良かったかしら?」
少女が無邪気に金剛満を揶揄う。
自分で言っておきながら、そうされたら困るのは金剛満の方だ。
なんとかしてこの場を切り抜ける策はないか?
キュリエに目配せしながら窮地を脱する策を弄する。
「それこそ冗談を。目的はダンジョンで活用するエネルギーの管理権限だろう? 私を殺せば未来永劫失われてしまう」
「ええ、それぐらいの手は打ってくると思っていたわ。妹が寝ている間に権限を掠め取っていた存在が、それをしないなんて間抜けな選択をするはずないもの」
「妹?」
金剛満の中で予感が確信へと塗り変わる。
「創生者、そう言ったらわかるかしら? この惑星にダンジョンを送り込んだ者。それが妹なの」
「バカな! その存在は未だ眠りについている! キュリエはそう言っていた! 起きたなどという話が信じられるものか!」
「何をそんなに慌てているの? あなたの予定なんて知らないわ。寝ていたから起こした。それだけのことじゃないの」
金剛満は思案する。
どうも話が噛み合わない。
それがエネルギー管理権限の譲渡だけではない気がしていた。
そもそも、そのエネルギーがないから創生者は眠りについているという話だ。起き上がるためのエネルギーを稼ぐのが狙いだった。
キュリエを筆頭に迷宮管理者はその創生者を起こして地元に送り返すためのエネルギーを集めていた。
それがダンジョンの成り立ちだ。
しかし目の前の少女の言い分では、妹を迎えに来た。
妹は起きている。
だというのにエネルギーの管理権を求めている。
これはおかしな話じゃないか?
だって相手側の要件は全て達成しているんだから。
そのまま帰ってくれればいいだけだ。
だが、帰らずに権利を渡せと言ってきた。
金剛満の考える最悪のケース。
地球侵略が現実味を帯びてきたのだ。
しかしキュリエは未だ金剛満の支配下にある。
キュリエが奪われたら金剛満に対抗手段は無くなってしまうが、まだ手の内にあるのなら抗える。
さっさと寄越せ、都少女の掌が差し迫る。
「待ってくれ、今一度話し合おう。君たちは何か大きな勘違いをしている」
金剛満は相手が盛大に勘違いしているのを指摘し、会話をしようと試みる。
どうも話が食い違っている。
こちらがエネルギー圏を守っているのは地球を守護するためであり、秘匿するためのものではない。
なんだったらどこかのバカが浪費するだけして、回収がままならない不良債権を抱えてる始末。
投げ渡せて解決するんなら投げつけてやりたいほどだった。
だが、それを渡したら最後。
地球はかの侵略者に侵略されてしまうだろう。
失望は暴力に変わり、無駄に被害を及ぼすのが目に見えてしまう。
だったら、相手にこっちのエネルギー総量が膨大であると思わせていた方がまだ交渉の余地があるというものだ。
「何? 直接渡せない問題でも抱えているの?」
「ああ、それなんだが……」
ここで金剛満はとある切り札を切る。
それが自分の血族でイレギュラーな存在の居場所。
本宝治洋一。
加工スキルのスペシャリストであり、SSSSSランクモンスターが蔓延るダンジョンでも気兼ねせず宴会を開ける胆力の持ち主。
それに問題ごとを解決してもらおうと責任を丸投げした形だ。
自分でもどうかと思うが、一番エネルギーを生み出すことができるのがその男を置いて他にないと自負しているからこその信頼だった。
かくしてその計画は大成功を収め、侵略者は創生者共々帰ってくれた。
これで地球に再び平和が訪れたかと思ったが、とんでもない置き土産を置いて言ったことに後になって気がついた。
『まさかあの方達の眷属の間引きを一任されるとは思いませんでしたね』
キュリエの言葉に、九死に一生を得たのも束の間、再び滅亡の危機に置かれていることを素直に喜べない金剛満である。
「それぐらいなら引き受けるさ。無条件で降伏し、人類を餌にする計画を持ちかけることもできたはずだ」
創生者の姉と名乗る存在の抱える問題は増えすぎた眷属の植民地の獲得、若しくはそれを減少させる手段だった。
本宝治洋一ならそれが容易であることを伝えられ、ならばその件は彼が一任すると伝えたら大人しく帰ってくれた。
たまに遊びに来る、というおまけ付きで。
脅威は未だ状況を維持したまま、何ら解決してない。
しかし地球そのものを植民地にするという方は免れた。
それを引き出せただけでも金剛満は一生分の運を使い切った気持ちである。
『そうされるよりは、ということですか?』
キュリエにとってはなぜそこまで人口を減らすことに危機を感じてるかわからないといった気持ちである。
今まで何人も犠牲にしておきながら、それでも付き従う主人に質問を重ねた。
「あの男には改めて礼を言わねばならんな」
本宝治洋一。
四番迷宮管理者が惚れ、付き従う男。
どこにそんな魅力があるかはわからないが、あの堅物が心を開いた相手だ。最初に生まれた存在として気にかかる。
それはそれとして、今まで散々利用してきた相手に感謝の言葉が通るだろうかという心配が尽きぬ金剛満。
『素直に聞いてくれるでしょうか?』
「私の子育ての仕方が間違えているらしくてな。どうにも嫌われてしまったようだが」
今になって後悔ばかりが募っていく。
地球の侵略戦争は、当時切り捨てた落ちこぼれが救った。
そんな人々の希望とは縁遠い男の物語など、誰が‘持て囃すだろうか?
「改めて私は今までの間違った政策を鑑み、良い父親としての方策を取ろうと思う」
キュリエは『今更ですか?』という言葉を喉元まで出しかけて、飲み込んだ。
そのご金剛満は、地球を直接乗っとる相手に真っ向から立ち向かうために、新たな組織を建設する。
そのためにも人類の進化は必要悪として認め、人類は新たなるステージへと立たされた。
それが新たなる食材。
邪神の眷属の肉を使ったグルメの提案だった。
今までモンスターの肉を取って成長してきたように、邪神の恥肉を入れることで新たな力を手に入れる試みだった。
適合できなければ多くの犠牲者を出すだろうが、そのまま蹂躙されるよりはマシと舵取りをするのだった。
裏でそんなことが取り決められているとは知らない当事者達は……
「ヨッちゃん、ダンジョンが出入りできるようになってるぞ!」
ようやく封鎖されたダンジョンが開放されたことに一喜一憂する。
「お、ようやくか?」
ワクワクとした様子の藤本要に続き、全く違う存在までもがそれに乗っかった。
『|◉〻◉)わーい』
『┗Θ⊿Θ)わーい』
『≦◎§◎) わーい』
例の邪神の眷属達である。
ニアとミーアがこの場をさった後、当たり前のように一緒に住み始めたのだ。
サハギンと同様に徐々に数を増やし、今では可愛さ余って憎さ百倍の仲でもあった。
探索者が出入りできるるということは、このユニークなモンスター達も表に出れるということを意味する。
それは俗にいるダンジョンブレイクと言っても差し支えない。
この自由意志を持つもの達が表に出て暴れたら、人類がどのような目に遭うかは火を見るより明らかだった。
「やっぱり出るのやめようか?」
「そうだな。俺たちが責任持って駆逐してやらないと」
『|◉〻◉)えぇ!』
『┗Θ〻Θ)ボウリョクハンターイ』
『≦◎§◎) ギャァアアアア!』
『|◉〻◉)シャン君が死んだ!』
『┗Θ〻Θ)この人でなしー』
「ちょうど魚を切らしてたんだった。それ、熟成乾燥」
『|◎〻◎)あ、あ、やだー』
『┗Θ〻Θ)/ 魚くーん!』
のちにこのダンジョンは一大産業のメッカとなるが、それはまた別の話である。
こうして人知れぬうちに人類滅亡の危機は去り、美食倶楽部による加工食品が地上にばらまかれることで人類進化が早まった。
ダンジョン美食倶楽部【第一部・完】
目の前に現れた侵略者の目的を聞き、やはり自分の判断は間違えていなかったと金剛満は確信した。
「あなたが、この星の守護者と言ったところかしら?」
まだ幼い少女に扮した侵略者は、易々と金剛満の領域へと侵入を果たし、くつろぎながら質問をぶつけた。
金剛満は苦悶の表情だ。準備が遅々として進まぬまま、一番顔を合わせたくない存在と面会してしまったからだ。
加工スキル持ちは実践投入するには未だ未熟。
対抗手段として投入するには時間がもう少し欲しいところだった。
「そうだ、と言ったらこのまま帰ってくれるのかね?」
まず無理だろうな、と思いながら願望を込めた質問を繰り出す。
聞かれた少女はクスリと笑い、心の内を見透かしたように視線を強めた。
「嫌よ。わざわざ顔を合わせにくるほど親しい間柄でもないでしょう? それに、あなたは既に私たちの目的はわかってるんじゃないの? だからこうして時間稼ぎをしている」
どうせエネルギーの管理権目的だろう。
金剛満は即座に理解しながらも、同時にそれを手放すことは地球への侵略を見過ごすことだと意味した。
「力づくで奪うこともできたんじゃないのかね?」
「あら、そうした方が良かったかしら?」
少女が無邪気に金剛満を揶揄う。
自分で言っておきながら、そうされたら困るのは金剛満の方だ。
なんとかしてこの場を切り抜ける策はないか?
キュリエに目配せしながら窮地を脱する策を弄する。
「それこそ冗談を。目的はダンジョンで活用するエネルギーの管理権限だろう? 私を殺せば未来永劫失われてしまう」
「ええ、それぐらいの手は打ってくると思っていたわ。妹が寝ている間に権限を掠め取っていた存在が、それをしないなんて間抜けな選択をするはずないもの」
「妹?」
金剛満の中で予感が確信へと塗り変わる。
「創生者、そう言ったらわかるかしら? この惑星にダンジョンを送り込んだ者。それが妹なの」
「バカな! その存在は未だ眠りについている! キュリエはそう言っていた! 起きたなどという話が信じられるものか!」
「何をそんなに慌てているの? あなたの予定なんて知らないわ。寝ていたから起こした。それだけのことじゃないの」
金剛満は思案する。
どうも話が噛み合わない。
それがエネルギー管理権限の譲渡だけではない気がしていた。
そもそも、そのエネルギーがないから創生者は眠りについているという話だ。起き上がるためのエネルギーを稼ぐのが狙いだった。
キュリエを筆頭に迷宮管理者はその創生者を起こして地元に送り返すためのエネルギーを集めていた。
それがダンジョンの成り立ちだ。
しかし目の前の少女の言い分では、妹を迎えに来た。
妹は起きている。
だというのにエネルギーの管理権を求めている。
これはおかしな話じゃないか?
だって相手側の要件は全て達成しているんだから。
そのまま帰ってくれればいいだけだ。
だが、帰らずに権利を渡せと言ってきた。
金剛満の考える最悪のケース。
地球侵略が現実味を帯びてきたのだ。
しかしキュリエは未だ金剛満の支配下にある。
キュリエが奪われたら金剛満に対抗手段は無くなってしまうが、まだ手の内にあるのなら抗える。
さっさと寄越せ、都少女の掌が差し迫る。
「待ってくれ、今一度話し合おう。君たちは何か大きな勘違いをしている」
金剛満は相手が盛大に勘違いしているのを指摘し、会話をしようと試みる。
どうも話が食い違っている。
こちらがエネルギー圏を守っているのは地球を守護するためであり、秘匿するためのものではない。
なんだったらどこかのバカが浪費するだけして、回収がままならない不良債権を抱えてる始末。
投げ渡せて解決するんなら投げつけてやりたいほどだった。
だが、それを渡したら最後。
地球はかの侵略者に侵略されてしまうだろう。
失望は暴力に変わり、無駄に被害を及ぼすのが目に見えてしまう。
だったら、相手にこっちのエネルギー総量が膨大であると思わせていた方がまだ交渉の余地があるというものだ。
「何? 直接渡せない問題でも抱えているの?」
「ああ、それなんだが……」
ここで金剛満はとある切り札を切る。
それが自分の血族でイレギュラーな存在の居場所。
本宝治洋一。
加工スキルのスペシャリストであり、SSSSSランクモンスターが蔓延るダンジョンでも気兼ねせず宴会を開ける胆力の持ち主。
それに問題ごとを解決してもらおうと責任を丸投げした形だ。
自分でもどうかと思うが、一番エネルギーを生み出すことができるのがその男を置いて他にないと自負しているからこその信頼だった。
かくしてその計画は大成功を収め、侵略者は創生者共々帰ってくれた。
これで地球に再び平和が訪れたかと思ったが、とんでもない置き土産を置いて言ったことに後になって気がついた。
『まさかあの方達の眷属の間引きを一任されるとは思いませんでしたね』
キュリエの言葉に、九死に一生を得たのも束の間、再び滅亡の危機に置かれていることを素直に喜べない金剛満である。
「それぐらいなら引き受けるさ。無条件で降伏し、人類を餌にする計画を持ちかけることもできたはずだ」
創生者の姉と名乗る存在の抱える問題は増えすぎた眷属の植民地の獲得、若しくはそれを減少させる手段だった。
本宝治洋一ならそれが容易であることを伝えられ、ならばその件は彼が一任すると伝えたら大人しく帰ってくれた。
たまに遊びに来る、というおまけ付きで。
脅威は未だ状況を維持したまま、何ら解決してない。
しかし地球そのものを植民地にするという方は免れた。
それを引き出せただけでも金剛満は一生分の運を使い切った気持ちである。
『そうされるよりは、ということですか?』
キュリエにとってはなぜそこまで人口を減らすことに危機を感じてるかわからないといった気持ちである。
今まで何人も犠牲にしておきながら、それでも付き従う主人に質問を重ねた。
「あの男には改めて礼を言わねばならんな」
本宝治洋一。
四番迷宮管理者が惚れ、付き従う男。
どこにそんな魅力があるかはわからないが、あの堅物が心を開いた相手だ。最初に生まれた存在として気にかかる。
それはそれとして、今まで散々利用してきた相手に感謝の言葉が通るだろうかという心配が尽きぬ金剛満。
『素直に聞いてくれるでしょうか?』
「私の子育ての仕方が間違えているらしくてな。どうにも嫌われてしまったようだが」
今になって後悔ばかりが募っていく。
地球の侵略戦争は、当時切り捨てた落ちこぼれが救った。
そんな人々の希望とは縁遠い男の物語など、誰が‘持て囃すだろうか?
「改めて私は今までの間違った政策を鑑み、良い父親としての方策を取ろうと思う」
キュリエは『今更ですか?』という言葉を喉元まで出しかけて、飲み込んだ。
そのご金剛満は、地球を直接乗っとる相手に真っ向から立ち向かうために、新たな組織を建設する。
そのためにも人類の進化は必要悪として認め、人類は新たなるステージへと立たされた。
それが新たなる食材。
邪神の眷属の肉を使ったグルメの提案だった。
今までモンスターの肉を取って成長してきたように、邪神の恥肉を入れることで新たな力を手に入れる試みだった。
適合できなければ多くの犠牲者を出すだろうが、そのまま蹂躙されるよりはマシと舵取りをするのだった。
裏でそんなことが取り決められているとは知らない当事者達は……
「ヨッちゃん、ダンジョンが出入りできるようになってるぞ!」
ようやく封鎖されたダンジョンが開放されたことに一喜一憂する。
「お、ようやくか?」
ワクワクとした様子の藤本要に続き、全く違う存在までもがそれに乗っかった。
『|◉〻◉)わーい』
『┗Θ⊿Θ)わーい』
『≦◎§◎) わーい』
例の邪神の眷属達である。
ニアとミーアがこの場をさった後、当たり前のように一緒に住み始めたのだ。
サハギンと同様に徐々に数を増やし、今では可愛さ余って憎さ百倍の仲でもあった。
探索者が出入りできるるということは、このユニークなモンスター達も表に出れるということを意味する。
それは俗にいるダンジョンブレイクと言っても差し支えない。
この自由意志を持つもの達が表に出て暴れたら、人類がどのような目に遭うかは火を見るより明らかだった。
「やっぱり出るのやめようか?」
「そうだな。俺たちが責任持って駆逐してやらないと」
『|◉〻◉)えぇ!』
『┗Θ〻Θ)ボウリョクハンターイ』
『≦◎§◎) ギャァアアアア!』
『|◉〻◉)シャン君が死んだ!』
『┗Θ〻Θ)この人でなしー』
「ちょうど魚を切らしてたんだった。それ、熟成乾燥」
『|◎〻◎)あ、あ、やだー』
『┗Θ〻Θ)/ 魚くーん!』
のちにこのダンジョンは一大産業のメッカとなるが、それはまた別の話である。
こうして人知れぬうちに人類滅亡の危機は去り、美食倶楽部による加工食品が地上にばらまかれることで人類進化が早まった。
ダンジョン美食倶楽部【第一部・完】
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