淫愛家族

２８

「仕事だと聞いていたが、勤怠の記録は定時で押されていた」
「そ、それは……」

　自分の都合で給料を多く貰うわけにはいかないと、睦紀は定時には打刻をしていただけだった。それがこうして裏目に出るとは思ってもみなかった。

「あまり家に帰ってこない涼華にも問題があるのは確かだ。それに風俗が浮気に入るかと聞かれれば、賛否両論だろう。でもな――ここまで追い詰められるほど、黙っていた睦紀にも問題がある」

　何も言い返せずに俯く睦紀の前に、春馬の陰が落ちる。

「そんなに俺が頼りないか？　だったら、父さんも含めて家族みんなで――」
「俊政さんには言わないでください！」

　思わず春馬に縋り付く。これ以上、俊政には心配をかけたくはなかった。それに自分の判断で、ヤナギ商事の件を保留にしていることも知られたくはない。

「……分かった」

　春馬の一言に、睦紀はホッと息を吐く。

「だったら――俺が店に行かずに済むようにしてやる」

　言葉の意味を理解するまでもなく、睦紀の背がベッドにつく。上にのしかかってきた春馬に、睦紀は激しく狼狽えた。
　何をされるのか分からない恐怖。でもそれ以上に、春馬のただならぬ気迫に圧されてしまう。

「春馬さ――んっ」

　睦紀の言葉を封じるように、春馬の唇が重なった。抵抗する間もなく頭を抱え込まれ、強引に舌がねじ込まれる。

「うっ……ん、はぁっ……」

　苦しさに顔を背けようとするも、容赦なく唇を貪られ身動きが取れない。
　ここまで激しいキスは初めてだった。自分のしてきたキスを考えれば、どれだけ拙かったか思い知らされる。
　春馬の技巧に翻弄されているうちに、春馬の手がシャツに入り込んでくる。
　そこでやっと我に返り、睦紀は抵抗するように春馬の腕を掴む。男同士というだけが問題じゃない。相手は義兄だ。不貞行為をする以上に罪深く思える。