コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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そこに至る道程 ②

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その日僕は王都外の縫製工場に居た。

ここにはアスタリアから受け入れた孤児の少年少女がいる。
彼らは元々マネキンモデルとして見栄え重視で選ばれた逸材揃い。
あのファッションショーで彼らが見せた原石の輝き。どう考えてもあの中から誰かピックアップするのが最も手っ取り早い。


「はーい注目ー!」

時はお昼時。彼らはフードコートみたいな場所で社食を食べているところだ。

僕は孤児っ子全員を並べて大きな声で告知した。
来春アスタリアで行われる大掛かりなイベント。そこで前座パフォーマンスをするエヴァの相棒を選定したいのだと。
つまり今回のコレクションで僕とサルバが見せた小芝居ね。掴みはやっぱ大切だろう。

ザワザワザワ…

これはある意味一攫千金のチャンス。だってここに居るのは親の無い孤児たち。彼らがどれほど真面目に働いて将来を切り開いてもゆうて庶民止まりだ。
けど彼らはすでに知っている。
庶民のエヴァがこの国の王太子に気に入られ王城にまで出入りしているという驚愕の事実を。

…どっちかというとあれはほとんどカタリーナ様関連なのだが…、いずれにしてもだ。エヴァの相棒…そこにキラキラした夢を見たって何もおかしくはない。

「今回はエヴァの相棒なので女子、もしくは中性的な男子限定でーす。イケメン系はまた今度機会を設けますね」

「次の機会」にホッと息を吐きだすイケメン男子だち。やっぱりみんなこれを〝チャンス”と捉えるのだろう。だが今回の企画はエヴァファンクラブ会員に二推しを作るための特別計画。許してほしい。…いつか必ず…


さて、僕の頭は瞬時に計算していた。

エヴァがある日彗星のごとくいきなり現れたカリスマアイドルだとして、元孤児である彼女らにオタの眼を向けさせるためには、何か仕掛けが必要じゃないかと。ならどうするか…

と、そこへ聞こえてきたのは班長の指示。

「おい!誰かそこの48番を荷台に積んどいてくれ!」
「俺が行きます!48番の衣装箱ですね!」

もう用はないとばかりに席を立つイケメン男子。ん?48?48…48…何か脳裏に浮かぶものが…

はっ!な、なにも一人二人に絞り込む必要があるだろうか?イヤ無い!
だってアイドルサイボーグ〝エヴァ”は言わばレジェンド。エヴァに匹敵するアイドルなんてきっとどれほど頑張ったって生まれない。

イヴァーノはキャラデザを担当した絵師のおかげで顔だけは非の打ち所がない。悪役っぷりっをより際立たせるためにきつめではあるが、本人が鼻に掛けられる程度にかなりの美人だ。
その顔面をベースに、プリッとしてキュアなあの娘を参考にコスメイクを施しているのだから超絶可愛いに決まってる。
その破壊力といったら!

そしてここが意外と重要なのだが…

前世の僕は、イベントではそれなりにカメコを集めるレベルのレイヤーであり、時にはまとめサイトに写真が掲載される期待の大型新人レイヤーであり、自インスタのフォロワーも3000人が射程圏内という絶賛人気上昇中のレイヤーであり、まさに栄光への階段に足をかけた次世代を牽引する人気レイヤーであって、まさに観せるプロ!
これは…理屈じゃない!もって生まれたカリスマなのだ!

ならばこの超えられない壁、埋められない不足分をどうするか。…決まってる。これぞ前世方式。

…競わせるのだよ…オタク同士を…ニヤリ…


「訂正します。一人じゃなくていっぱいにします。希望者は指定された日に貴族街にある我が家まで乗合馬車で来てください。交通費は支給します」

「イ、イヴァーノ様!」
「はいなんでしょう」

声をあげたのはダンボになって話を聞いていたサルディーニャのお針子女子。

「それはアスタリアの少女限定ですか?」
「え?い、いや…」

そうか!多人数グループなら何も孤児限定でなくてもいいのか!

「あたし顔には自信があります!」

ザワザワザワ…

より一層ざわつく工場内。すでに何名かの女子は鏡を手に自身をチェックし始めている。

「うーん、アイドルの条件は顔だけじゃありません。人を惹きつけるがないと。えーと…じゃあオーディションでも開こうかな?希望者は全員今週末、我が家の向かい側にある古いお屋敷まで来るように」



そうなると色々計画が代わってくる。僕はこれがすでに寸劇では終わらない可能性を見出していた。

ここで一つ説明しよう。

と、その前に…あの日僕はカタリーナ様からすでに説明を受けている
僕が行く予定だったアンシュルス公国とは確かに音楽の国、あそこもオペラは盛んに違いないが文化のメインはオーケストラのほうだ、と。大陸中でも有名な音楽家はほぼあの国の出身で、多くの有名な楽団があの国にはあるらしい。

で、音楽の分野でアンシュルスに先を越されたサルディーニャが(多分ギィィィ!となって)追っかけ生み出したのが、アンシュルスの音楽に演劇要素を加え、更に豪華セットを組み立て、まるでステージが一枚の絵画のようになったこの、選ばれし民の極上な娯楽〝オペラ”だ。(歌劇場には一般庶民向け立見席もある)

けど、一般庶民が主に楽しむのは〝仮面演劇”コメディほにゃららといわれる吉本〇喜劇によく似た舞台と、前世のミュージカルにかなり近い雰囲気のオペレッタと呼ばれる簡易オペラだ。

これらは自国の文化に誇りを持つカタリーナ様から、ため息交じりにコンコンと説明を受けたので間違いない。今では僕もすっかり知識人の仲間入りだ。
イヴァーノが下手に〝賢い”属性持ちじゃなかったおかげで、僕のこうした無知は大概スルーされる。僕はそれを非常に幸運だと思っている。

こう考えると転生先が〝イヴァーノ”だったのはジャストフィットだったんではなかろうか。まあ…今だから言えることだが。


となれば募集はビアジョッティ歌劇団、略してBKDのスタートアップメンバー。これしかない!
女の園となるその歌劇団に入団できるのは乙メン男子と女子のみ。
この世界に…というか、前世でも日本と中国以外に『ドキ!女だらけの歌劇団‼』は存在しなかったはず!ってことは…これこそまさにニュースタイルオペレッタ!

僕は同じ旨を記載した用紙を、商業ギルドと庶民街の広場にある掲示板にも張り付け日曜を待つことにした。



勢いで決まったオーディションだがこれはこれで。

僕はエヴァのファンクラブ会員から選りすぐりの精鋭に、このオーディションにおける審査をお願いすることにした。
結成前から彼らを関わらせて、より自然に二推しをつくらせることにしたのだ。

おっさんとは若者が頑張る姿に胸を熱くするものである。それがカワイ子ちゃんなら尚更。そして彼らは「自分が見つけた!」と、熱心に応援するようになる。

そこで第二段階、次にあるのはドーム公演(闘技場)に向けて〝必死で頑張る姿”だ。
彼らは「コスサミでチケット〇〇枚売れなければ解散」という僕の非情な宣言により、可愛いあの子のために必死になるだろう。(そしてイヴァーノの悪評も高まる…)

そして気が付いた時にはすっかり沼に浸かっている…というわけだ。

僕はオタクのサラブレッド。蛇の道は蛇。推し変までの道のりは僕に任せておけ。




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