拾われ子のスイ

蒼居 夜燈

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第二章 中央大陸

拾われ子の緊急討伐依頼

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《久しぶりの仕事だな》

『そうだね』

 東街道で空を見上げるハンター達。スイとコハクも含めた彼等のその視線の先には、大型の鴉の大群が羽ばたいている。

 シンシアの元で修行を始めて二ヶ月が経った頃、ギルドから中位ミドルランク以上のハンターを対象に緊急討伐依頼が出された。ブラッドクロウの大移動が確認された為だ。

 ブラッドクロウは東大陸に生息していて危険度ランクはD。黒く大きな身体に赤い眼が際立つ。
 ハルピュイアよりもランクや単体の攻撃力は下だが知性が高く、群れで連携して攻撃してくるのでランクの低い冒険者やハンターにとっては強敵だ。
 血の匂いに敏感で、怪我を負っている獲物を執拗に狙い仕留めようとする習性がある。

 東大陸と中央大陸の間には東の関門があり、兵士も常駐しているが数で押されて対応しきれず、ブラッドクロウの大群は関門を飛び越えてしまった。
 関門から緊急事態発生の報告を受けて、ハンターズギルドと魔導師ギルドが緊急依頼を出し、今に至る。

『確か、風魔法を使える筈だから気をつけて』

「解った」

 ガァガァと耳障りな声で鳴くブラッドクロウ達は、集まったハンター達の様子を見るように滞空している。

「四人一組を崩すな。もし怪我をしたらすぐに下がって回復に専念しろ。スイ、怪我の度合いによっては治癒魔法を頼む。二人も、回復薬が間に合わないと思ったらスイに頼め」

『了解しました』

「「了解」」

 チームリーダーの指示に三人が頷いた。
 大群の討伐依頼という事で今回は四人一組での行動となる。王都以外の町からもハンター達が集まったが中央大陸という場所柄、中位以上、それもCランク以上のハンターは少ない。
 その為、チームリーダーがCランク以上、残り三人がリーダーよりも下位ランクのハンターか、回復役を兼ねた魔導師となっているチームが多い。
 スイのチームも、チームリーダーであるCランクハンターのボルド、Dランクハンターのエリオドア、クライル、そしてスイと言う編成だ。

「では、討伐開始!」

 リーダーの号令に、風以外の属性魔法が空をはしる。他のチームからも魔法が放たれ、被弾したブラッドクロウが次々に落下した。

「ガァッ!」

『おっと』

「ガァガァッ!」

『わっ』

 一人、身体の小さいスイが一番仕留めやすいと認識したのか、スイにばかりブラッドクロウの攻撃が集中する。それらを躱し、スイは少数ずつ剣で仕留めていく。
 その様子を見て、ブラッドクロウ達はスイを狙うのをやめた。
 上空から風魔法をハンター全員に放ち、避けた所を猛スピードで突っ込み、大きな嘴や爪を使って攻撃を仕掛けてくる。それを避けると次のブラッドクロウが突っ込んでくるの繰り返しに、各々の体勢が崩れ始めた。

「くそっ!」

「うわっ、しまっ……!」

 クライルがブラッドクロウの直撃を受けてよろめくと、攻撃が集中した。

「クライル!」

「退け、クライル!」

 四方から攻撃を受けるクライルはブラッドクロウの袋叩きから逃れられない。目に見えてクライルの身体に傷が増えていく中、四方の内の二方が崩れた。
 ボルドが火球ファイヤーボールを、スイも氷槍アイスランスを放ってブラッドクロウ達の横腹を突く。
 よろめきながらブラッドクロウ達から離れたクライルを、治癒魔法の魔力が包んだ。

「すまない、助かった……!」

 相反属性の治癒魔法による傷の悪化を防ぐ為に、事前にチーム内のメンバーの属性情報は共有している。ボルドだけは火属性持ちなので、彼にはスイの治癒魔法は使えない。
 クライルの礼にスイとボルドは視線で応えた。

「一方向に追いやって魔法で纏めて叩けたら良いんだが……どうにかヘイトを集められないものか」

『ヘイト……』

 スイはブラッドクロウを見て、赤い眼と並んでその名の由来となった習性を思い出した。

『集められるかもしれません。ボクに向かってきたら、一気に魔法を撃ってもらえますか?』

「おい、大丈夫なのか?」

 ボルドはスイの身の安全について訊ねたが、スイは成否についてだと思ったらしい。

『……失敗したらすみません』

「待て、身の安全が確保出来ないなら駄目だ! スイ!」

 ボルドの制止を聞かずにスイはショートソードを左腕に走らせた。長い傷から血が滴る腕を大きく振り、血を撒き散らす。ブラッドクロウ達の赤い眼が自身に向いたのを確認して、スイはブラッドクロウ達に背を向けて走った。

「そういう事か……! エリオドア、クライル! 魔法で一網打尽にしろ!」

「「了解!」」

 スイを追うブラッドクロウ達を炎や氷が呑み込んだ。

「やったか……」

「他のチームにも手を貸さないと」

「待て! まだだ!」

 ボルドの声に二人が足を止めて何事かと顔を向けた。風が吹き抜けていき、他のチームが対応していたブラッドクロウ達が一斉にボルド達に、正確にはその先にいるスイに眼を向ける。

「スイ、早く傷を治せ!」

『!!』

 風が血の匂いを運んだ。血に惹き寄せられるブラッドクロウ達は、その匂いの元に真っ直ぐに向かっていく。

『(まずい、流石にこの数は……!)』

 スイは急いで傷を治したが、ブラッドクロウ達の勢いは止まらない。振り向き様に氷魔法を放ったが、先頭の数羽を仕留めただけで後続が我先にと飛び出してくる。
 スイの足では追い付かれ、多数のブラッドクロウに呑み込まれるのが誰の眼にも明らかとなった時、スイの隣に濃灰の影が現れた。

《スイ、乗れ!》

『コハク……! ありがとう!』

 コハクの背に跳び乗ると、強風が顔に吹き付けた。髪やマントが暴れる。あっという間に後ろに流れていく景色に、スイはほんの一瞬魅入ったが、すぐに我に返り左手の親指を噛んだ。
 少量の血を出してブラッドクロウの群れを引き付け、振り返りながら水魔法と氷魔法を放つ。

染水ソーク猛吹雪ブリザード

 対象範囲をずぶ濡れにする水魔法と、同じく対象範囲を氷漬けにする氷魔法は流れるように澱みなく連続で放たれ、避ける隙を与えずにブラッドクロウ達を凍らせた。
 氷の彫刻と化した数十羽を、威力を上げた氷礫アイスバレットで破壊する。

《スイ、魔法の連続発動が速くなったな》

『修行の成果だね』

 スイとコハクを見ていたボルド達チームリーダーが、各々のチームメンバーに指示を出す。

「スイ達が引き付けている今がチャンスだ! ふたりに当てない様に魔法を撃て!」

「火属性持ちは鳥共を焼き払え!」

「氷魔法と地魔法が使える奴は撃ち落とせ!」

「「「おおおおおおっ!!」」」

 炎が、氷が、岩が、ブラッドクロウ達を呑み込み、或いは穿ち、地に落とす。
 東街道での緊急討伐は、死亡者重傷者ともゼロで終わりを迎えた。

「スイ」

『はい?』

 王都に戻る途中、名を呼ばれてスイが振り返ると横にボルドが並んだ。

「お疲れ。魔力切れは起こしてないか?」

『はい。ボルドさんも大丈夫ですか?』

「俺も問題無い。スイに言いたい事があるんだが」

『はい、何ですか?』

 スイの額を、良い音を立ててボルドの中指が弾いた。

っっっ……!!』

 強烈なデコピンをくらい、スイが額を押さえながらボルドを見上げた。その眼には涙の他に、非難と困惑の色を浮かんでいる。

「リーダーの命令を無視して突っ込むな。コハクがいたから良かったものの、お前がやった方法はブラッドクロウ共には悪手だぞ。よく覚えておけ」

『は、はい……すみませんでした』

 スイ自身、風下に血の匂いが流れた後のブラッドクロウの眼の変わり様と勢いは予想外だった。モンスターの習性と執着を甘く見すぎていたと反省する。

「あとな、これは個人的な感情も挟むが、軽々しく自分を犠牲にするのも俺は好きじゃない。やるなら最後の手段としてやれ」

『!』

 前に西大陸で似た様な言葉を言われた事を思い出す。

「いいな? スイ」

『……はい』

「よし。ハンター同士の連携が初めてにしては、動きは悪くなかった。最後の独断行動だけは眼に余ったが」

『すみません』

 スイはもう一度謝る。

「だが、そのお陰でブラッドクロウの大群を想定よりも早く、被害も少なく壊滅出来た。その点はよくやったと思う」

『ありがとうございます』

「何度も言うが、あのやり方は危険だからな。もうやるなよ」

『ボルドさん意外としつ――』

「何か言ったか?」

『ナンデモアリマセン。次は気を付けます』

「ああ、そうしてくれ」

 スイの肩を叩くと、ボルドはスイに合わせていた歩調を早めて前へ行った。
 ボルドとは反対側にいたコハクが口を開く。

《シュウと同じ事言ってたな》

『……そうだね』

《次シュウに会ったら、今日の事話して良いか?》

『駄目。絶対に怒られる』

 額を小突かれるか、頬を抓られて静かに怒られる光景が眼に浮かぶ。スイは無意識に両方の頬を押さえた。

《自分の安全が確保出来るなら、別に今日のやり方もオレは良いと思う。だから、同じ事やるなら次はオレを呼んでくれ。急にやられるとびっくりする》

『……ごめん』

 ブラッドクロウよりも速く追い付き、隣に並んだコハクをスイは思い出す。そして、その背に乗り風の様に駆けた時間を。
 コハクに顔を寄せて、鼻と鼻を合わせる。コハクが眼を細めた。

『助けてくれてありがとう』

《うん、もっと頼ってくれ。もうスイを乗せて走れるくらい、オレはデカくなったんだから》

 産まれて半年以上が経ったコハクはまだ幼獣ではあるが、立ち上がれば体長は西大陸の成人男性よりやや低いくらいだ。それでも年齢を考えればまだ伸び代がある。

《オレ、シュウよりデカくなりたいな》

『……なれるんじゃないかな。今でレジナルドさん位あると思うし』

《スイもちょっとだけデカくなったよな》

『そう? あ、でもちょっと服小さくなったかな』

《うん、袖や裾が短くなってる》

『やった……! 牛乳の効果かな?』

《そうなのか? それならオレも飲みたい。もっとデカくなって、スイとシュウを乗せて走りたいんだ》

『そんなに大きくなったら、ハンターシュウもびっくりするだろうね』

 想像して思わず笑ったが、数年後、コハクのこの夢は実現する事となる。
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