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第三章 北大陸
拾われ子のCランク昇格試験 前編
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鳴き雪が静かな山中に響く。降り頻る雪の中、白い息を吐いて山を歩くスイは、モンスターの気配を感じ取っていた。
『(レイスは向こうだな)』
気配を辿ってレイスを見つける。 アイテムポーチから取り出した光の魔石を左手に持ち、魔力を流して光魔法を放った。
「―――!?」
不意打ちを受けて、レイス達は声も無く消えていく。遺った各属性の魔石を拾い集めると、スイは試験官へ走り寄り、手渡した。
ハンター昇格試験の際、討伐対象に指定されたモンスターの亡骸が討伐の証拠となるが、レイスは倒すと世界に還り、姿が消えてしまうので後に遺った魔石が討伐の証となる。
その場で試験官に渡すのは、ハンターの私物の魔石と混ざったり不正を防止する為だ。
尚、前以て用意しておいた魔石等のアイテムを使ってモンスターを倒しても何も問題は無い。
昇格試験は事前に指定モンスターを知らされる。モンスターの情報を集め、討伐に適した準備をするのはハンターとして当然の事だからだ。
「確かに三つ、数に間違い無し。手際も良い。慣れてるな」
Bランクハンターのイグナーツ。スイのCランク昇格試験の試験官を務める男だ。
『依頼で倒した事があるので』
「予習済みと言う訳か。ならば残りの指定モンスターはどうかな」
『……倒してみせます』
「良い面構えだ。Cランクへ上がるのに相応しい事を俺に示せ」
『はい……!』
《負けるな、スイ!》
「ゴ主人、アト一匹!」
『うん、頑張るよ……!』
従魔は主の昇格試験に参加出来ないので、二匹は試験官であるイグナーツの側に控えている。
スイはコハク達から離れると、雪山全体を見渡した。
シーバシュタットの町周辺に出るモンスターは出来る限り討伐依頼で倒してきたので、知らない気配があったら、それが残りの指定モンスターの可能性が高い。
『(まだ遭った事が無いからイエティの可能性もあるけど)』
イエティは危険度C+ランク。全身が白い毛皮で覆われており、二足で歩く大型モンスターだ。氷属性のブレスや怪力で獲物を仕留める。
シーバシュタットの町周辺に出るモンスターはCランク帯が多いが、その中では一番危険視されているのがこのイエティだ。
だが、今回の昇格試験で倒すべきモンスターには指定されていない。
『(……遂にBランクを相手にする所まで来た……)』
Cランクまでのモンスターなら、西大陸でも倒してきた。だが、Bランクモンスターは遭った事はあっても倒した事は一度も無い。
Bランクからはモンスターも上級《ハイランク》に分類される。未知の領域だ。
『(北大陸に来たばかりの頃はBランクモンスターを倒す自信は無かった。正直、今もあまり無い。けど)』
積雪による動きにくさ、吹雪による視界の悪さ。その中で戦い、沢山のモンスターを倒してきた。積み重ねた経験は確かにある。
『(……準備もした。大丈夫、やれる)』
自分を鼓舞した所で、スイは山頂付近に知らない気配を察知した。
『……!』
周りのモンスターの気配とは格が違うそれに、ショートソードを持つ右手が微かに震える。
『(多分これだ。他とは全然違う……!)』
木に身体を隠しながら、目的のモンスターと思われる気配に慎重に近付く。
しぃんとした無音の世界に鳴き雪は思いの外響く。これ以上近付くと音で気付かれると判断し、スイは足を止めて木の裏からそっと顔を出した。
『(……特徴が一致する。グーロだ……!)』
危険度ランクB-モンスター、グーロ。犬のような身体に猫のような顔を持つ、四足歩行の大型モンスターだ。
高い身体能力を持ち、雪の上を自在に駆けて獲物を翻弄する。
身体的特徴。鋭い爪と牙に、氷魔法と言う攻撃手段。そして北大陸と東大陸に生息地が限られている点から、似たような特徴を持つアサシンレオウルフと比較される事が多いモンスターだ。
『(出し惜しみをしたら多分殺られる。最初から全力でいく……!)』
スイはショートソードに風の魔力を付与する。その魔力を感知したのか、グーロがぴくりと反応した。幹越しにスイは視線を感じ取る。
『(気付かれた。魔力感知の範囲が広い)』
呼吸を整え、血と共に魔力が全身を巡るのをイメージする。
『(呼吸も問題無い……。大丈夫だ、いける……!!)』
山林から飛び出したスイは、グーロに向かって走った。
「ニ"ャア"ォォォォ!!」
両方の前足を広げてグーロが唸り声をあげた。声に乗せられた殺気に肌がビリビリするのを感じながら、スイは怯まずに走る。
『風刃!』
「ニャウッ!」
風魔法を避けて猛然と駆け出したグーロはそのままスイに向かっていく。
『……!』
瞬く間に詰められる距離に、スイも剣を構えながらグーロに突っ込んだ。
交差する一人と一匹。入れ替わってすぐに振り返り、相手の位置を確認する。
『(避けきれなかった……!)』
左肩がマントと防寒具ごと裂けたが、すぐに発動させた治癒魔法で傷を治す。
対してグーロは、胸元に赤く真っ直ぐな線を描いていた。
「ウゥゥゥ……フシャーー……!」
鼻の頭に皺を寄せ、牙を剥き出しにして唸るグーロはスイを完全に敵と見なしている。
「ウゥゥゥ!!」
『…………っ!!』
目や肩を狙ってくる爪、首を狙ってくる牙。合間に撃ってくる氷魔法は回避行動を阻害してくる。
『(このっ、やりづらい……!)』
攻撃と回避の繰り返しの末、遮蔽物の無い場所から山林へと戦いの場所は変わった。並ぶ木々の位置を確認しながら戦う事を余儀無くされる。
ほんの一瞬、視線を木に向けた隙にグーロはスイに飛びかかった。
『!?』
横へと飛び、スイの代わりに一本の木が牙の餌食となった。破壊音を立てて幹を噛じるグーロは、涎を垂らしながらスイに顔を向ける。
『(まずい……空腹状態か……?)』
アサシンレオウルフが「冥府の暗殺者」と呼ばれるように、グーロも「狂乱の暴食者」と言う通り名がある。
悪食の大食らいであり、空腹になると見境なく暴れ、その腹が満たされるまで喰らい続けるのだ。
「ウゥア"ッ!!」
『!? 速っ――』
空腹によりタガの外れたグーロは目にも止まらぬ速さでスイの眼前に迫り、前足を振り上げた。
『―――』
スイの右肩から左腰にかけて、鋭い爪が深く切り裂く。人と獣の足跡で乱れた雪の上に、鮮血が降り注いだ。
『(レイスは向こうだな)』
気配を辿ってレイスを見つける。 アイテムポーチから取り出した光の魔石を左手に持ち、魔力を流して光魔法を放った。
「―――!?」
不意打ちを受けて、レイス達は声も無く消えていく。遺った各属性の魔石を拾い集めると、スイは試験官へ走り寄り、手渡した。
ハンター昇格試験の際、討伐対象に指定されたモンスターの亡骸が討伐の証拠となるが、レイスは倒すと世界に還り、姿が消えてしまうので後に遺った魔石が討伐の証となる。
その場で試験官に渡すのは、ハンターの私物の魔石と混ざったり不正を防止する為だ。
尚、前以て用意しておいた魔石等のアイテムを使ってモンスターを倒しても何も問題は無い。
昇格試験は事前に指定モンスターを知らされる。モンスターの情報を集め、討伐に適した準備をするのはハンターとして当然の事だからだ。
「確かに三つ、数に間違い無し。手際も良い。慣れてるな」
Bランクハンターのイグナーツ。スイのCランク昇格試験の試験官を務める男だ。
『依頼で倒した事があるので』
「予習済みと言う訳か。ならば残りの指定モンスターはどうかな」
『……倒してみせます』
「良い面構えだ。Cランクへ上がるのに相応しい事を俺に示せ」
『はい……!』
《負けるな、スイ!》
「ゴ主人、アト一匹!」
『うん、頑張るよ……!』
従魔は主の昇格試験に参加出来ないので、二匹は試験官であるイグナーツの側に控えている。
スイはコハク達から離れると、雪山全体を見渡した。
シーバシュタットの町周辺に出るモンスターは出来る限り討伐依頼で倒してきたので、知らない気配があったら、それが残りの指定モンスターの可能性が高い。
『(まだ遭った事が無いからイエティの可能性もあるけど)』
イエティは危険度C+ランク。全身が白い毛皮で覆われており、二足で歩く大型モンスターだ。氷属性のブレスや怪力で獲物を仕留める。
シーバシュタットの町周辺に出るモンスターはCランク帯が多いが、その中では一番危険視されているのがこのイエティだ。
だが、今回の昇格試験で倒すべきモンスターには指定されていない。
『(……遂にBランクを相手にする所まで来た……)』
Cランクまでのモンスターなら、西大陸でも倒してきた。だが、Bランクモンスターは遭った事はあっても倒した事は一度も無い。
Bランクからはモンスターも上級《ハイランク》に分類される。未知の領域だ。
『(北大陸に来たばかりの頃はBランクモンスターを倒す自信は無かった。正直、今もあまり無い。けど)』
積雪による動きにくさ、吹雪による視界の悪さ。その中で戦い、沢山のモンスターを倒してきた。積み重ねた経験は確かにある。
『(……準備もした。大丈夫、やれる)』
自分を鼓舞した所で、スイは山頂付近に知らない気配を察知した。
『……!』
周りのモンスターの気配とは格が違うそれに、ショートソードを持つ右手が微かに震える。
『(多分これだ。他とは全然違う……!)』
木に身体を隠しながら、目的のモンスターと思われる気配に慎重に近付く。
しぃんとした無音の世界に鳴き雪は思いの外響く。これ以上近付くと音で気付かれると判断し、スイは足を止めて木の裏からそっと顔を出した。
『(……特徴が一致する。グーロだ……!)』
危険度ランクB-モンスター、グーロ。犬のような身体に猫のような顔を持つ、四足歩行の大型モンスターだ。
高い身体能力を持ち、雪の上を自在に駆けて獲物を翻弄する。
身体的特徴。鋭い爪と牙に、氷魔法と言う攻撃手段。そして北大陸と東大陸に生息地が限られている点から、似たような特徴を持つアサシンレオウルフと比較される事が多いモンスターだ。
『(出し惜しみをしたら多分殺られる。最初から全力でいく……!)』
スイはショートソードに風の魔力を付与する。その魔力を感知したのか、グーロがぴくりと反応した。幹越しにスイは視線を感じ取る。
『(気付かれた。魔力感知の範囲が広い)』
呼吸を整え、血と共に魔力が全身を巡るのをイメージする。
『(呼吸も問題無い……。大丈夫だ、いける……!!)』
山林から飛び出したスイは、グーロに向かって走った。
「ニ"ャア"ォォォォ!!」
両方の前足を広げてグーロが唸り声をあげた。声に乗せられた殺気に肌がビリビリするのを感じながら、スイは怯まずに走る。
『風刃!』
「ニャウッ!」
風魔法を避けて猛然と駆け出したグーロはそのままスイに向かっていく。
『……!』
瞬く間に詰められる距離に、スイも剣を構えながらグーロに突っ込んだ。
交差する一人と一匹。入れ替わってすぐに振り返り、相手の位置を確認する。
『(避けきれなかった……!)』
左肩がマントと防寒具ごと裂けたが、すぐに発動させた治癒魔法で傷を治す。
対してグーロは、胸元に赤く真っ直ぐな線を描いていた。
「ウゥゥゥ……フシャーー……!」
鼻の頭に皺を寄せ、牙を剥き出しにして唸るグーロはスイを完全に敵と見なしている。
「ウゥゥゥ!!」
『…………っ!!』
目や肩を狙ってくる爪、首を狙ってくる牙。合間に撃ってくる氷魔法は回避行動を阻害してくる。
『(このっ、やりづらい……!)』
攻撃と回避の繰り返しの末、遮蔽物の無い場所から山林へと戦いの場所は変わった。並ぶ木々の位置を確認しながら戦う事を余儀無くされる。
ほんの一瞬、視線を木に向けた隙にグーロはスイに飛びかかった。
『!?』
横へと飛び、スイの代わりに一本の木が牙の餌食となった。破壊音を立てて幹を噛じるグーロは、涎を垂らしながらスイに顔を向ける。
『(まずい……空腹状態か……?)』
アサシンレオウルフが「冥府の暗殺者」と呼ばれるように、グーロも「狂乱の暴食者」と言う通り名がある。
悪食の大食らいであり、空腹になると見境なく暴れ、その腹が満たされるまで喰らい続けるのだ。
「ウゥア"ッ!!」
『!? 速っ――』
空腹によりタガの外れたグーロは目にも止まらぬ速さでスイの眼前に迫り、前足を振り上げた。
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