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第四章 南大陸
拾われ子とコカトリス討伐戦 前編
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崩落した筈の鉱山内部は、調査隊が地魔法で整えて人が通れるようになっていた。それでも応急処置と言える程度で、道幅は広くはない。
そんな道を歩きながら、討伐隊の面々は最奥の方に留まる気配を感じ取っていた。
「トロールの特殊個体とは真逆だね。隠せないのか、隠そうとしてないのかは解らないけど強烈な気配だ」
「これは骨が折れそうだ。こいつに圧されてか、他の奴等の気配はあまり感じないが……出て来た際、乱戦は避けたいな」
「この幅だと戦いづれぇな」
「スイは魔法を使うと聞いたが、属性は?」
『水属性と風属性です』
「なら範囲さえ考えれば問題無いな」
火魔法だと、鉱山や洞窟などの閉鎖空間では呼吸が出来なくなる。アレックスは火魔法を使えるが、元々不得手でアンデッド戦以外では積極的に使おうとしないので、心配はいらないだろう。
「アレックス、最終確認だ。隊形は?」
「アタシとニコラスは前衛。フェリペさんとスイは状況を見て近接と中遠距離からの魔法攻撃の使い分け、エルサは後衛で皆の回復。コハクとザクロはエルサの護衛」
「「了解」」
『了解です』
「は、はい……! よ、よろしくお願いします、コハクさん、ザクロさん……」
「ン!」
《グルッ》
「全員防呪の装備はしてるけど、もしそれでも石化を防げなかったら万能薬を使って自分や仲間の解呪をする事。その後、全員全力で離脱だ。万能薬は数に限りがある」
スイがエルフの里でトゥイラから渡された万能薬の残りは、小瓶に分けて人間全員が一本ずつ携帯している。全身が石化するには時間が掛かる。身体の一部分だけなら小瓶一本で解呪出来る見立てだ。
「スイ、それ落とさないようにね」
『はい』
スイの防呪装備は腰のベルトから下げられた水晶だ。整形され、小さな鎖が付いている。
加工したのは装飾品の職人であるドルベルトであり、スイから水晶がトゥイラから返された理由を聞いて大急ぎで取り掛かってくれたのだ。
時間が足りず、腕輪のように身につける形には出来なかった事をドルベルト本人は非常に悔いていた。
「教会の聖職者でも解呪出来ない呪いを持つ敵だ。防呪の装備が効かないとなると、正直打つ手が無くなるからそうならない事を願うしかない。エルフを引っ張って来るのは多分無理だからな」
「エルフにとっても脅威なんでしょ? 協力してくれないかなー……。スイが行けば手を貸してくれたりとかさぁ」
「それは最終手段だ」
『そう何度も頼る訳にはいきませんし』
「だよねー」
フェリペやスイの言葉を予想していたのだろう。アレックスはそう返すと、閉じていた瞼を開けた。蜂蜜色の眼には、戦意が宿っている。
「アタシ達はハンターだ。脅威を排除するなら自分達の手でやる」
「そういう事だ、解ってるじゃないか。スイ、武器の調子は大丈夫か?」
『戦うのに問題は無いそうですが、念の為直してもらったので大丈夫です』
「視たのはデルベルトか?」
『はい』
「それなら信用出来るな」
ドルベルトが水晶の加工をしている間、スイはポンメルにヒビが入ったショートソードの修理をデルベルトに頼んでいた。
「嬢ちゃん、討伐が終わったらその剣をまた持ってこい」
受取りに行った時、そう言ったドルベルトが眉を寄せて何か考えている顔だったのがスイは気になっている。
『(次行った時に訊いてみよう)』
その為にもコカトリスにやられる訳にはいかない。スイもまた、戦意を燃やす。
ハンター達の様子を尊敬の眼差しで見ていたエルサが俯いた。
「(……本当に、何で私が選ばれたんだろう……。こんな強い人達の討伐隊に私なんかが……)」
自信の無い、弱い自分が自分を貶す。強い不安に心が蝕まれていくエルサの背中を、ぽんっと誰かが叩いた。
「頼りにしてるよ、エルサ」
「え?」
「え?」
眼を丸くしたエルサと、同じ顔をしたアレックスが見つめ合う。
「聞こえてなかった? ずっと前衛で戦うアタシとニコラスは多分何度も怪我するだろうから、治癒魔法は任せたよって言ったんだけど」
「も、勿論です……治癒士として来ましたから。でも私、討伐隊に入ったのは初めてで、動きとか自信無くて……ご、ご迷惑をお掛けしたら、どうしようって……」
不安がぽろりと零れた瞬間、次々と言葉の形を成して口から出ていく。
「(違う、違うの……。こんなの、言うつもり無かったのに、何言ってるの私……! 絶対呆れられた……ハズレ引いたって思われた……)」
自分へ向けられているであろう失望の視線と、ぶつけられるであろう蔑みの言葉を思い浮かべてエルサはローブのフードを深く被る。じわじわと浮かぶ涙が零れ落ちる前に、やや高めで芯のある声がエルサの不安を止めた。
「そんなの気にする事無いよ。だって、アタシ達だってエルサに迷惑掛けるんだもん」
「……え」
フード越しに聞こえた言葉に、少しだけエルサは顔を上げる。続けて幼さが残る澄んだ声と、ふたつの低い声が聞こえた。
『私も初めて討伐隊の一人として戦った時、他のハンター達に助けてもらいました。いっぱい自己反省したけど、どうすれば一番良かったのかまだ答えが出てません。今回も……きっとご迷惑をかけてしまうと思います』
「勝手が解らないのは当然だ。討伐隊が出されるようなモンスターは大概強敵だ。一応は幾つか戦闘隊形があるが、絶対じゃない。敵の強さや状況に応じて、最終的には各々が適宜判断をして動く」
「一人では倒すのが難しいモンスターを倒す為に、戦いながら仲間の動きを見て、互いにフォローし合うんだ。迷惑掛け合うのはお互い様だから気にすんな」
『回復面でエルサさんには私達のサポートをしてもらいますが、私達も治癒魔法を使うエルサさんが狙われないようにサポートをします。私達は、仲間ですから』
「そうそう。エルサが危ない位置にいたらアタシやフェリペさんが指示出すからさ。自分がどう動けば良いとかは不安がらなくて良いんだよ」
軽蔑でも失望でもない、温かな言葉がエルサの心を包む。不安とは違う感情が生まれ、涙が頬を伝った。
「……わ、私、一生懸命頑張ります」
震える声で、エルサは決意を表す。
「皆さんがどんな怪我をしても、生きてさえいれば……いえ、どんな怪我でも絶命する前に私が治します……!」
顔を上げたエルサの頭から、フードが外れた。涙に濡れた眼には、ハンター達とは異なる強い光が宿っている。
「攻撃面ではお役に立てませんが、治癒魔法はお任せください……!!」
ハンター四人が頷く。
突如、最奥部から耳障りな声が響き渡った。
「俺達の存在が気に障ったか?」
「あっちがその気ならこっちもその気だよ。絶対倒してやろう」
「……それは討伐隊を向けられたモンスター側の言葉では……あ、す、すみません……!」
「いやいい。エルサが正しい」
「皆時々アタシに冷たくない?」
「気の所為だ。さて、待たせるのもなんだ。急ぐぞ」
「アタシが隊長だよ!? あぁもうっ! 皆、行くよ!」
『「はい!」』
フェリペが先頭を走り、それに遅れたアレックスの号令に顔を見合わせて笑ったエルサとスイ達が続く。
「崩落で大きく形が変わってなければ、奴がいる所は広くなってる筈だよ」
「狭くなってたら俺が魔法で広げてやるよ」
「頼りになるぅ! 任せたよニコラス!」
「そろそろだ。戦闘に入るぞ!」
「だから隊長はアタシ! ほら、フェリペさんは下がって!」
戦闘隊形を整え、突入した討伐隊に巨体がぎょろりと大きな目を向ける。
「グゲェェェエエッ!!」
大蛇の尾を持つ巨大な体躯の雄鶏。コカトリスが、明確な害意を込めて醜悪な鳴き声をあげた。
そんな道を歩きながら、討伐隊の面々は最奥の方に留まる気配を感じ取っていた。
「トロールの特殊個体とは真逆だね。隠せないのか、隠そうとしてないのかは解らないけど強烈な気配だ」
「これは骨が折れそうだ。こいつに圧されてか、他の奴等の気配はあまり感じないが……出て来た際、乱戦は避けたいな」
「この幅だと戦いづれぇな」
「スイは魔法を使うと聞いたが、属性は?」
『水属性と風属性です』
「なら範囲さえ考えれば問題無いな」
火魔法だと、鉱山や洞窟などの閉鎖空間では呼吸が出来なくなる。アレックスは火魔法を使えるが、元々不得手でアンデッド戦以外では積極的に使おうとしないので、心配はいらないだろう。
「アレックス、最終確認だ。隊形は?」
「アタシとニコラスは前衛。フェリペさんとスイは状況を見て近接と中遠距離からの魔法攻撃の使い分け、エルサは後衛で皆の回復。コハクとザクロはエルサの護衛」
「「了解」」
『了解です』
「は、はい……! よ、よろしくお願いします、コハクさん、ザクロさん……」
「ン!」
《グルッ》
「全員防呪の装備はしてるけど、もしそれでも石化を防げなかったら万能薬を使って自分や仲間の解呪をする事。その後、全員全力で離脱だ。万能薬は数に限りがある」
スイがエルフの里でトゥイラから渡された万能薬の残りは、小瓶に分けて人間全員が一本ずつ携帯している。全身が石化するには時間が掛かる。身体の一部分だけなら小瓶一本で解呪出来る見立てだ。
「スイ、それ落とさないようにね」
『はい』
スイの防呪装備は腰のベルトから下げられた水晶だ。整形され、小さな鎖が付いている。
加工したのは装飾品の職人であるドルベルトであり、スイから水晶がトゥイラから返された理由を聞いて大急ぎで取り掛かってくれたのだ。
時間が足りず、腕輪のように身につける形には出来なかった事をドルベルト本人は非常に悔いていた。
「教会の聖職者でも解呪出来ない呪いを持つ敵だ。防呪の装備が効かないとなると、正直打つ手が無くなるからそうならない事を願うしかない。エルフを引っ張って来るのは多分無理だからな」
「エルフにとっても脅威なんでしょ? 協力してくれないかなー……。スイが行けば手を貸してくれたりとかさぁ」
「それは最終手段だ」
『そう何度も頼る訳にはいきませんし』
「だよねー」
フェリペやスイの言葉を予想していたのだろう。アレックスはそう返すと、閉じていた瞼を開けた。蜂蜜色の眼には、戦意が宿っている。
「アタシ達はハンターだ。脅威を排除するなら自分達の手でやる」
「そういう事だ、解ってるじゃないか。スイ、武器の調子は大丈夫か?」
『戦うのに問題は無いそうですが、念の為直してもらったので大丈夫です』
「視たのはデルベルトか?」
『はい』
「それなら信用出来るな」
ドルベルトが水晶の加工をしている間、スイはポンメルにヒビが入ったショートソードの修理をデルベルトに頼んでいた。
「嬢ちゃん、討伐が終わったらその剣をまた持ってこい」
受取りに行った時、そう言ったドルベルトが眉を寄せて何か考えている顔だったのがスイは気になっている。
『(次行った時に訊いてみよう)』
その為にもコカトリスにやられる訳にはいかない。スイもまた、戦意を燃やす。
ハンター達の様子を尊敬の眼差しで見ていたエルサが俯いた。
「(……本当に、何で私が選ばれたんだろう……。こんな強い人達の討伐隊に私なんかが……)」
自信の無い、弱い自分が自分を貶す。強い不安に心が蝕まれていくエルサの背中を、ぽんっと誰かが叩いた。
「頼りにしてるよ、エルサ」
「え?」
「え?」
眼を丸くしたエルサと、同じ顔をしたアレックスが見つめ合う。
「聞こえてなかった? ずっと前衛で戦うアタシとニコラスは多分何度も怪我するだろうから、治癒魔法は任せたよって言ったんだけど」
「も、勿論です……治癒士として来ましたから。でも私、討伐隊に入ったのは初めてで、動きとか自信無くて……ご、ご迷惑をお掛けしたら、どうしようって……」
不安がぽろりと零れた瞬間、次々と言葉の形を成して口から出ていく。
「(違う、違うの……。こんなの、言うつもり無かったのに、何言ってるの私……! 絶対呆れられた……ハズレ引いたって思われた……)」
自分へ向けられているであろう失望の視線と、ぶつけられるであろう蔑みの言葉を思い浮かべてエルサはローブのフードを深く被る。じわじわと浮かぶ涙が零れ落ちる前に、やや高めで芯のある声がエルサの不安を止めた。
「そんなの気にする事無いよ。だって、アタシ達だってエルサに迷惑掛けるんだもん」
「……え」
フード越しに聞こえた言葉に、少しだけエルサは顔を上げる。続けて幼さが残る澄んだ声と、ふたつの低い声が聞こえた。
『私も初めて討伐隊の一人として戦った時、他のハンター達に助けてもらいました。いっぱい自己反省したけど、どうすれば一番良かったのかまだ答えが出てません。今回も……きっとご迷惑をかけてしまうと思います』
「勝手が解らないのは当然だ。討伐隊が出されるようなモンスターは大概強敵だ。一応は幾つか戦闘隊形があるが、絶対じゃない。敵の強さや状況に応じて、最終的には各々が適宜判断をして動く」
「一人では倒すのが難しいモンスターを倒す為に、戦いながら仲間の動きを見て、互いにフォローし合うんだ。迷惑掛け合うのはお互い様だから気にすんな」
『回復面でエルサさんには私達のサポートをしてもらいますが、私達も治癒魔法を使うエルサさんが狙われないようにサポートをします。私達は、仲間ですから』
「そうそう。エルサが危ない位置にいたらアタシやフェリペさんが指示出すからさ。自分がどう動けば良いとかは不安がらなくて良いんだよ」
軽蔑でも失望でもない、温かな言葉がエルサの心を包む。不安とは違う感情が生まれ、涙が頬を伝った。
「……わ、私、一生懸命頑張ります」
震える声で、エルサは決意を表す。
「皆さんがどんな怪我をしても、生きてさえいれば……いえ、どんな怪我でも絶命する前に私が治します……!」
顔を上げたエルサの頭から、フードが外れた。涙に濡れた眼には、ハンター達とは異なる強い光が宿っている。
「攻撃面ではお役に立てませんが、治癒魔法はお任せください……!!」
ハンター四人が頷く。
突如、最奥部から耳障りな声が響き渡った。
「俺達の存在が気に障ったか?」
「あっちがその気ならこっちもその気だよ。絶対倒してやろう」
「……それは討伐隊を向けられたモンスター側の言葉では……あ、す、すみません……!」
「いやいい。エルサが正しい」
「皆時々アタシに冷たくない?」
「気の所為だ。さて、待たせるのもなんだ。急ぐぞ」
「アタシが隊長だよ!? あぁもうっ! 皆、行くよ!」
『「はい!」』
フェリペが先頭を走り、それに遅れたアレックスの号令に顔を見合わせて笑ったエルサとスイ達が続く。
「崩落で大きく形が変わってなければ、奴がいる所は広くなってる筈だよ」
「狭くなってたら俺が魔法で広げてやるよ」
「頼りになるぅ! 任せたよニコラス!」
「そろそろだ。戦闘に入るぞ!」
「だから隊長はアタシ! ほら、フェリペさんは下がって!」
戦闘隊形を整え、突入した討伐隊に巨体がぎょろりと大きな目を向ける。
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